富士通とパナソニックのシステムLSI事業が統合した「ソシオネクスト」が3月1日に事業を開始、4月7日に記者会見、また今週前半には得意先や関係者に御披露目をする模様だ。新しいビジネスモデルの大手ファブレス半導体の船出を祝したい。
今回は、アナリスト向けの説明会も取材の機会もないので、あくまでHPなど公開資料と外部資料のみの分析であり、不完全な部分も多いが、それは、今後、説明会や取材を通じて修正していきたい。
2014年7月末に発表された概要とは、出資比率、富士通40%、パナソニック20%、DBJ40%、CEO西口泰夫氏、売上1500億円(単純合算)、従業員2800名であったが、記者会見による報道やHPによると、資本金302億円、出資比率は同様、CEOは西口代表取締役会長、COOは井上あまね代表取締役社長、従業員はやや減り約2600名、売上は2014年度1300億円、営業利益はトントン、2015年度1500億円見込み、収益はトントン、5年後に売上2000億円、営業利益率10~15%を継続的に確保し、IPOを目指す模様である。統合効果で5億円コスト削減、民生・クルマ向けが75%、産業が25%から、半々にする目標。産業競争力強化法の適用を受け税など軽減されるが、経産省資料によると、5年後に新商品比率を3.6%以上、従業員一人当たりの付加価値を34%向上させるとあり、社員の数はほぼ一定である。
役員の陣容はCOOは富士通出身、CFO丑田氏はDBJ出身、CTO岡本氏はパナソニック出身、第一事業本部を統括する野崎氏は三洋からパナソニック出身、第二事業本部の三宅氏は富士通出身、従業員は2000名が富士通、600名がパナソニック
ソシオネクストは、システムLSIの会社という意味では、ルネサスと似ているが大きな違いは、製造ラインを持たないファブレス会社の大手であり、海外では今やクアリコムやメディアテックだが、日本では、ザインやメガチップスに近い。
第一事業本部は、3事業部からなるが、グラフィックスソリューションが富士通系でり、あとはパナソニック系。第二は旧富士通系であるが、旧富士通系は、カスタム系とソリューション系に分けられ、前者は、差異化要素があり伸びるものに傾注、例としてはネットワークSoC、ハイパフォーマンスSoC、カスタムSOCなど。ソリューション系では、ビジネス志向をとり、ミルビュー、コネクティッドイメージング、グラフィックソリューションと位置づけている。
この中で、旧パナソニック系のIOTシステム事業部、ビジュアルシステム事業部が、どちらかが不明であるが、カスタム系には、××SoC事業部、ソリューション系は××事業部という名称から、旧パナソニック系はソリューション系なのだろう。ミルビューがソリューション系に入っていることから、こつらがASSP、もう片方がASICということであろうか。ただ、当面は、旧富士通の製品は富士通の商流で、旧パナソニックの製品はパナソニックの商流で担当するようであり、カスタム系とソリューション系、ASSPとASIC、富士通系とパナソニック系、といったことが整理されてすっきりするのは少し先だろう。
また、ファブレスへの最適化をはかり、調達を利益の源泉と捉え、前工程は、先端テクノロジーのマルチFab化、旧富士通系工場との連携、後工程はJD社一極集中からの脱却を図るようだ。すなわち、三重工場は最低限使いながら、富士通得意の調達力で、海外のファンドリーを安く使い、特に後工程では徹底的にコストを下げる方針だろう。
さて、現在、2600人で1500億円の売上げでトントン、中期で2600人で2000億円の売上げ、営業利益率10~15%の継続的確保は可能だろうか。
まず、旧富士通の半導体部門は売上3200億円強であり、このうちメモリの販売のみが300億円を引き、富士通セミコンダクタ社の売上規模がアナログマイコンなどを分離する前は2500億円であり、アナログやマイコンを譲渡してからは、2000億円、これとパナソニックの統合されるシステムLSIが300億円あること、から富士通のシステムLSIのファブレス部分の売上は1200億円、引き算すると、三重工場の付加価値分が800億円となり、40μmのウェハー単価が25万円前後となり、常識にあう。
ファブレスのシステムLSIの事業を分析する際に重要なのは一人当たり(正確なのは技術屋一人当たり)売上げである。
単純比較をすると、最大手級となったメディアテックが、売上げ5000億円弱で社員1万人ゆえ5000万円、日本最大手のメガチップスが500億円規模で700人ゆえ、一人当たり7000万円、ザインエレクトロニクスは50億円規模で150人であり、3000万円とやや低い。ソシオネクストは6000万円レベルである。なお、営業利益率はメディアテックが15~25%、メガチップス、ザインが5~10%というレベルである。これは、日本と台湾での人件費の差でかなり説明が可能である。
ただ、注意すべきなのは、売上計上において、ファンドリウェハーの部分が入っているか、あくまで設計開発の付加価値だけの部分が入っているかである。前者であれば、売上は増えるが、収益性は落ち、後者であれば、売上は減るが、収益性は高まる。ソシオネクストの場合は、上記より、純粋に設計開発だけを売上げ計上しているようだ。ただ、製品によって、時期によって、製造部分を入れたり入れなかったりする場合も多く、横比較や時間軸の比較には注意が必要である。
ソシオネクストが売上2000億円にするには、一人当たり売上げをまさに6000万円から8000万円に上げる必要があり、それが難しい場合は、三重工場も含め値下げが重要になる。また、通常、ASSPは10%、ASICは5~10%は可能であり、いかにASSPの割合を増やせるかであろう。一人当たりでいうと、開発コスト4000万を5000万に抑制できれば、人件費1500万の中で、営業利益500を1500万にすることが可能であり、10~15%の営業利益率が可能になる。
人数を、もちろん、優秀な技術屋で増やす、あるいは同業を買収して増やせば、売上げ2000億円は可能であろう。しかし、一人当たり付加価値を8000万にするのは、メディアテックやメガチップスの例を比べてもそれほど容易ではないことがわかる。それがゆえに、経産省の産業強化法適用の資料で、その数値が入っていたことが納得できる。