前回に続いて、東芝の不正会計リスクの影響を、その後の会社の開示や報道から試算してみた。
5月15日の発表以降で会社側の正式な発表(5月22日)は以下である。
第三者委員会の調査対象は、①工事進行基準に係る会計処理、②映像事業における経費計上に係る会計処理、具体的には販促費の計上時期、③ディスクリート、システムLSIを主とする半導体の在庫評価、具体的には製造棚卸資産の一部評価の妥当性、④PCの部品取引、製造委託先の間の部品供給取引における時期と金額の妥当性、である。
また、正式発表ではないが、日経新聞報道などによれば、今回の経緯が、証券取引等調査委員会へのリークであったこと、500億円の内訳のうち、ETCとスマートメータで400億円あったようだ。
上記から考えると、半導体メモリ、ヘルスケア、白物は、対象とされない可能性が高そうだ。なお、白物など家電は一部報道で、対象となりそうだとの指摘があったが、そうではなかったようだ。また、ETCはコミソリに属すると考えられるため、コミソリの1件とは、ETC1件で140億円、ここから差し引くとスマートメータが260億円、そうすると社会の残りは3件で40億円であり、電力4件60億円同様に少ない。
事件の直後は、福島など原発中心か、東京電力の他の案件かという見方が多く、それが海外のWH等にも波及することを恐れていたが、電力が1件平均15億円、社会の残りが系統変電中心とすると13億円平均であり、これが3年間だとすると誤差の範囲とは言わないが「御土産」程度である。
むしろ、ETCにしろ、スマートメータにしろ、開発案件であり、一般的には、談合などもあることが多そうな部類に属すともいえ、トップやCFOが交替し、セグメントを変更する中で、でるべき膿が出たともいえる。
また、報道でも指摘されているが、対象となっている案件は、これまで赤字やギリギリゼロの部門に属することが多く、逆に高採算の半導体メモリーや、ヘルスケアはない。これから、事業部門がリストラを避けようと、無理をした可能性があり、これが説明会でもあった「予算達成プレッシャ」ということだろう。
以下、工事進行基準以外に問題とされた事業について考察する。
TVについては、販促費の計上タイミングが問題となっている。日本や欧米が中心である場合は、Xマスや年末商戦なので、販促費を使っても、3月末には一巡するが、アジアが増えると旧正月商戦が2月まであるので、3月の計上は微妙になり、そこでついつい頑張ってしまうということはあろう。東芝の場合は、販促費は、最盛期でも数%であり、年間の売上が2500億円程度から100億円以上はないだろうし、計上を少しずれしても、翌期には、損が計上されるので、累計では、今期分しかないので、それほど大きくないだろう。なお、IFRSでは販促費の分は売上を下げて計上しなければいけない。
PCについては、EMSなどの部品調達の時期と金額が問題とされている。これは想像すると、12月決算が多いEMSに対し、DRAM等の部品をその時点では安くして、その代償として3月決算では、東芝側が安くしてもらうというようなことだろうか。東芝だけで完結していると、財務諸表に明確に表れるが、EMSを使うなどサプライチェーンが複雑化し、かつ決算期がずれていると難しい。現在、PC部門はリストラ中であり、営業利益内で450億円、営業外でも150億円が予定されており、それとの関係が不明だが、この合計600億円以上になる可能性があるとは、あまり考えにくい。
システムLSIとディスクリートの製造棚卸の一部妥当性とあるのは、敢て、製造という言葉が入っていることから仕掛の評価であろうか。これも、前工程の話か、後工程でも変わるが、後者の場合は、ファンドリーに投げているので難しい。また、東芝の場合、かつてと異なり、システムLSIといっても、大半がCMOSセンサーであり、ハイエンドのチップは少なくなっている。一部にあるとすれば、マスク代など、開発費の計上の問題もあろう。
影響額を試算する際のアプローチは、不正会計の発生確率である。まず、数字としては、250件のうち9件、営業利益の影響500億円だが、この営業利益はほぼ売上減額分と考えてよい。この期間に相当・対応する売上は3年で約5兆円であるから、ここからみると発生確率は1%である。250件を分母とすると9件は3.6%だが、この250件は怪しいもの、だから、全体の工事進行基準の件数が不明だが、1件10~20億円として、20億円で割ると2500件、9件の平均の50億円で割ると1000件となる。
ここから、不正確率を工事進行基準では、2014年度や、海外でも同様に計算する。ただし、WH等は除外、これに、それ程多くはないだろう工事進行基準以外のものを数10~数100だとすると、合計で1000~1500億円と試算される。これは、単独債務超過の3000億円には少し余裕がないので、無配は妥当だが、連結利益剰余金が無くなる4000億円規模には、まだ余裕があり、ファイナンスが必要なレベルではないだろう。
今回の問題が起きる前から、問題懸念であったWH減損や、海外原発のリスクなどはあったし、現時点でも原発や東電関連が意外にも少なかったので、これを除外すると、工事基準では、かなり精査が進んでいるのではないか。また、今回、対象となった半導体は、特別調査委委員長であった室町氏の専門(経験が長いのはメモリだが)、またPCでは調達に絡む話なので、調達が専門の田中社長は、PCリストラの中で実情を十分に把握しているだろうし、そうでないとするとPC部門時代の責任問題となる。逆に言えば、両氏とも、内情を熟知しているが故に、怪しいと睨んだ可能性もあるかもしれない。あるいは、既にある程度、影響額は把握していて、そこも含め、狭い意味で(室町会長や田中社長の出身母体でない)第三者に精査してもらおう、ということかもしれない。
それゆえ、東芝により、かなり金額は把握され、新たに一から調査というよりは、既にかなり時間をかけて調査されたことを第三者に再精査というのが実態の状況のように思われる。ただ、さらなる内部リークや、政治圧力(その中にはセミコン社分社させたいという動きがあるかもしれない)、説明会の回答と違って、2010年以前や、WH減損や訴訟リスクについても最大限保守的にということであれば、金額は全く不明になる。
そうでなければ、現状では、WH等の減損や海外原発の問題がこれまで通りという前提では、せいぜい1000から1500億円、やや大目でも3000億円までに、確率分布の2σは収まるイメージを持っている。
ただ、今回の問題で、東芝が失った信用は無視できない。まず、過去、数年間の業績を修正することになろう。その場合、PCやTVの損失額は更に膨らもう。そうなれば、まさに、1年前に、セグメントを大きく変更する中で、かつては筆頭にあったPCやTV等を擁するライフスタイル部門のリストラは一層加速、ぎりぎりセーフだった、不採算事業もリストラの対象となるかもしれない。半導体部門もシステムLSIや、採算低下が続くディスクリートなどは事業売却の可能性もあろう。
そうなると、株価も低迷し、士気も下がる。その場合は、本来、遠心力が強いセミコン社が、売却され、上場する可能性も出てこよう。ルネサス等と比較しても、時価総額は2~3兆円前後となることから、財務を強化、イメージを一新したい東芝と、設備投資も果敢に行い独自に発展もできるセミコン社の利害が、今回は一致する可能性もあろう。
希少なツインコアモデル(二極重心モデル)の企業が無くなるのは残念な気もするが、東芝グループとしてみる場合(セミコン社を連結対象として残す)は、時価総額は増えていこう。その結果、セミコン社が一層、成長すれば、二極重心モデルは失敗であり、30年間、無為だったということになるのだろうか。