大学組織の運営は、企業と似て非なる面も多い。似ているのは、政治と行政である。大学での長(学長、研究科長/学部長、専攻長/学科長)と、他の教員、事務、学生との関係は、政治家、官僚、有権者、の関係に似ている。教員は、政治家が有権者の支持が不可欠だが、特にビジネススクールでは、学生が有権者である。有権者、支持基盤の団体や企業が鍵であるように、教員は学生の人気、学生が属する企業の支持が鍵であり、それらの声を聞き、ニーズを反映しなければならない。ディプロマポリシーやカリキュラムは、政権綱領であり、それを実施するには、官僚組織同様に、事務組織の協力が不可欠であり、それにも有権者や学生等のニーズの反映があってこそ、である。
東芝の非公開化JIP提案を会社側が受け入れたが、28日には、東京地裁が不正会計問題で、旧経営陣の5人に3億円の支払いを命じた。判決では、影響額が大きかったパソコン事業の利益のかさ上げなどは「当時はあり得た」とした。東芝不正会計、会社側の主張一部認めず 東京地裁判決 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
会計処理は、①重電のインフラ工事での損失引当金の過少計上など、②パソコン事業での利益かさ上げ、③テレビ事業での経費計上の先送り、で違法性ありは、米国の地下鉄や原子力プラントなどインフラ工事の処理のみだった。当時の自身の認識は、PCは問題だと考えていたが、多くの会社がやっていた。
東芝は会計処理につき、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)を認めたが、これと異なる判決である。証券取引等監視委員会や外部委員会と全く異なる。マスコミでも注目された、故西田社長のバイセル取引は、問題なかったことになり、この判決が当時出ていれば、西田さんだけでなく、東芝の運命も大きく変わったかもしれない。
JOLEDが3月27日に破綻した。何度か、トップとも意見交換、学会発表を聞き、展示会も見たが、一貫して、厳しい意見を述べたが、その通りとなったのは複雑な心境である。
2016年12月13日 JDIがJOLEDを統合、INCJが750億円を投入 - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
2017年1月25日 ジャパンディスプレイ(JDI)の技術説明会 - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
2017年3月18日 JOLEDは印刷ヘッド装置会社かパネルエンジニアリング会社を目指せ - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
JDIとJOLEDは生き残れるか - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
デンソーがJOLEDに出資 - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
JDIの苦しみ〜増資など - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
有機EL討論会(第26回6月21、22日)〜JOLEDのプレゼン - 若林秀樹アナリスト (circle-cross.com)
ニュースピックスでもコメントしている。
デンソー、有機ELのJOLEDに300億円出資 (newspicks.com)
Jディスプレイ、液晶と有機EL統合 JOLEDを子会社化 (newspicks.com)
苦境の「親」救えるか 国産有機EL、JOLEDが始動 (newspicks.com)
要は、印刷技術は、元々、筋が悪く、市場戦略でも、JDIとも、棲み分けどころか、競合してしまったことが真因だ。そして、パネルは、水平分業が難しい。
ムーアが亡くなって、その偉大さに驚かされる。半導体チップの発明だけはなく、半導体産業を築き上げた。正に、インベンションでなく、イノベーションである。その鍵は、ムーアの法則だ。たった3頁で数点だけで、直線を引いたが、それが、ほぼ実現されてきた。moores paper (computerhistory.org)
最近、More Moore から、More than Mooreと云われてきたが、実は、そのムーアの法則に3ページ目があり、それが、More than Mooreのチップレット等を示唆していることが注目されていた。
オンプレからクラウドへの流れは、当然のように思われていた。しかし、全世界でクラウドは、まだ、3~4割という。これまで、指摘していた、レイテンシー視点からのエッジとセンター、ローカルとグローバルというだけではなく、コンピューティングが、データと計算基盤に分かれる中で、レイテンシーやコスト、だけでなく、セキュリティ、エネルギーなどの視点も背景にある。
すなわち、これまでは、オンプレかクラウドかという二社択一的な発想から、データはオンプレ、計算基盤はクラウド、あるいは、データはクラウド、計算基盤はオンプレ等、色々な組み分けが出てくる。
チャットGPTは、ネット上の多くの文章やデータ等を参考にしている。当然、そこには、著作権の問題が存在する。また、論文はもちろん、エッセイでも、外部への寄稿等では、引用を明らかにしないといけないし、盗作になる。既に、日経新聞では、The Economistが、生成AIによる著作権論争激化について論じている。ChatGPTなど生成AI、著作権論争が激化(The Economist) - 日本経済新聞 (nikkei.com)
中には、無許可で、データベースを奪うこともあるだろう。今後、研究者や学生が、チャットGPTで論文を書くと、大問題になってくるだろう。
ちなみに、下記のような出題をしたところ、もっともらしい先行研究を取り上げ、まずまず?の「レポート」を出してきた。
コロナ感染と人流の関係について、先行研究を引用し、データに基づき、その出所を明らかにして、1000字で論ぜよ
3月23-24日は、自分にとって、重要な事件が3つ重なる運命的な日であった。第一は、仕上げ間近と思われたMOTで「大変事」である。第二は、アナリストや教授という立場を超え、他人事と思えない東芝の非公開化が発表された。第三は、ここ数年、半導体産業強化で、全身全霊を込めているが、日々、More MooreとかMore than Mooreとか、書き、言っているなかで、そのMooreが亡くなった。同時に3つのことが起きたが、これは、自身の人生の晩年に大きな影響を及ぼすだろう。MOTの「大変事」は、ストレスフルで、あとの2つを考える余裕がない程だった。
長年、半導体産業に接しているからというわけではないが、物事をサイクルで捉える癖がある。自分の人生もそうだ。そもそも、景気だけでなく、四季や干支もそうだし、バイオリズムもある。自身は、どうも10年前後のサイクルではないかと思っている。90年代のアナリストまでは、想定範囲、希望や自分の意志だが、2000年以降は、全くの想定外の運命に翻弄されている。
年末にRapidusとLSTCが誕生した。Rapidusは、ファウンドリであり、TSMCなどをベンチマークし、やるべきことは明らかだ。他方、LSTCは、先端半導体を社会実装研究するための新たな組織であり、これまでの大学や産総研などとの違いを考えなければならない。産総研が研究所であるのに対し、LSTCがセンターというのは、そういうことである。
もちろん、LSTCは、Rapidusだけのもの、先端ロジックだけを対象とするべきではないだろう。そこには、先端メモリや、先端パッケージなども含まれるべきだ。違った分野も含め、LSTCの中に、置くべきか、新たなLSTCを置くべきか議論すべきところだが、あれもこれも同時にやると混乱する。人、資金のリソースも限られる。特に、組織の運営方法は、大学や国研のやり方を踏襲するのでなく、IMEC等を参考にして、新たに、組織運営を「研究開発」すべきなのだ。
ビジネススクールについて、よくある誤解は、学生も教員も、学生が、劇場や映画館、ホテルやレストラン等と同様の「顧客」「観客」であるとの認識である。そこでは、顧客は神様であり、何でも要求できる。下手な芝居に文句をいい、ホテルマンのサービスや料理の味にケチをつける。
大学は、知識や知見を与え、教育する機関であり、サービスとしては、医療サービスに近い。病院では顧客は患者だが、そこでは、命や健康のための、診察や治療が第一で、改善は必要だが、待ち時間や待合室のソファや病院食の質や受付窓口より優先される。誰も、医者には、そう文句は言わず、偉そうな態度はとらないい。それは、大学における教員と似ている。
3月19日の修了式を前に、3月18日のゼミ(大学の学事日程的には、休なので、自主的な勉強会)では、グラデュエーションペーパーを書きあげた2年生が、これまでを振り返り、ゼミの後輩の1年生に対し、これから1年の過ごし方等について、アドバイスをし、また、1年生が現状でのテーマと概況について、発表した。また、印刷製本されたグラデュエーションペーパーの冊子を手渡す(あくまで貸与)。
先日、フィンランド大使のランチに招かれた。タンヤ大使以下、一等書記官、など4名、こちらは1名、あちらは、女性3、男性1である。12時前に受付に行き、大使館内の食堂で、2時間程度だった。話題は、半導体に関する話題での議論であり、8割は英語で会話、少し発音や真意が分かり難いところは、日本人の職員に助けて頂いた。もちろん、フィンランド大使と会うなども初めてであり、緊張はしないが、日本の名誉を傷つけてはいけないと、お行儀も含め、努力はした。
畏友の山西健司先生の「異常検知からリスク管理へ(サイエンス社2022年」の書評を同社の「数理科学」編集部から何故か依頼された。こうした専門書の書評は初めてであり、自分が(一度読んで、簡単に再読した後に)数時間かけて書いたものと、チャットGPTによるものと比べてみた。
興味深い本が2023年1月に出版されている。ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授准教授サイモンマッカーシージョーンズ (Simon McCarthy-Jones - Google Scholar)による「悪意の科学~意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?」、原著は、2020年発刊の「SPITE」。氏は、様々な心理現象についての研究者、幻覚症状研究の世界的権威であり、『ニューサイエンティスト』『ニューズウィーク』『ハフポスト』等に寄稿。ウェブサイト『The Conversation』に発表している論評は100万回以上閲覧。Simon McCarthy-Jones - アジェンダ寄稿者 | 世界経済フォーラム (weforum.org)
チップレット技術が進む中、コストや電気特性から、シリコンインターポーザが難しく、オーガニックインターポーザが注目されている。レチクルサイズが858㎟、6ダイなら850㎣などから、1700㎟以上の面積が望ましいようだ。オーガニックインターポーザでは、板ガラスの上で形成が可能であり、JOINT2プロジェクトでDNPが40mm×40mmの事例がある。
TSMCの熊本誘致の背景には、コロナ禍対応や米中対立による半導体不足から、台湾有事など国家安全保障視点も含めたサプライチェーンの変革がある。また、半導体の貿易赤字削減(先端ロジックは輸入)の視点もあろう。しかし、TSMCなどのファウンドリだけでは、前工程だけであり、後工程やEMSが無ければ、サプライチェーンは乱れたままだし、輸入になる。短TATを実現するにも、不十分である。
ファウンドリは、TSMCを中心に、台湾のシェアは60%だが、それ同様か、それ以上に、OSATやEMSでも、台湾企業に依存している。OSATでは、ASEがトップ。EMSでは、鴻海が覇者である。
最近、TSMCにも関係し、様々な分野で、台湾有事シナリオについての研究報告が成されている。最も有名なのは、CSISにより、1月に公開されたシミュレーションであり、日本でも、多くのマスコミで取り上げられた。The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan (csis.org)
米研究機関の台湾有事シミュレーションが描いた「日本にとって最悪のシナリオ」(ニッポン放送) - Yahoo!ニュース
また、その他、多くの論考も出ており、好著もあり、野村総研で少し一緒だった森本さん等による力作もある。台湾有事のシナリオ:日本の安全保障を検証する | 森本 敏, 小原凡司 |本 | 通販 | Amazon
ただ、何れも、軍事や政治面が中心の机上演習結果であり、PEST分析が当然の割には、経済や技術の視点が少ない。技術に関しては、やや狭く、ドローン活用も含めたデュアルテクノロジーの視点がない。また、5W2Hの視点では、When(具体的にいつ)やHow much(経済、GDPへの影響)が分からない。
企業経営や資金運用からは、「ドンパチ」のホットな戦争結果だけでなく、為替、GDP、不足する資源、「戦後」の姿が重要である。また、政治家目線では、ホットな戦争の前に、経済や社会の状況、あるいは、「戦争」を有利にするため、予め、経済(特に金融政策や資金繰り)や外交面といった外堀からじわじわと攻めていくものだろう。
多くのアナリストや予測機関では、2023年の世界半導体市場はマイナス成長がコンセンサスとなっている。2022年の半導体市場分析と2023年予測、ガートナー:2023年は前年比6.5%減に(1/3 ページ) - EE Times Japan (itmedia.co.jp)
議論はマイナス幅と回復時期に移っている。2022年は、当初二桁増から、ほぼ0成長となったようだ。【福田昭のセミコン業界最前線】微増に終わった2022年の世界半導体市場、暗いトンネルの出口を探る展開へ - PC Watch (impress.co.jp)
月次では秋口から既にマイナスとなっていた。特に、厳しいのは、メモリーである。DRAMもNANDも下げ止まらず、既に各社は、4Qから赤字転落もあり、この1Qでは、サムスンでさえ赤字の可能性もあるだろう。半導体、メモリー不況鮮明 データ増も価格3割急落 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
逆に、2021年秋から下げ止まらなかった液晶がTV用では、2023年に入り底打ち、キャッシュコスト割れ水準を超えてきた。TV用大型液晶2%高 2月大口、小型は横ばい - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ディスプレイと半導体メモリーでは、価格弾力性が異なる(DRAMとNANDでも異なり、NANDの方が大きい)ため、下げパターンは異なるが、概ね、先行指標は、ディスプレイ(これまでは液晶)のクリスタルサイクル、そして、シリコンサイクルのうち、メモリーが来て、最後に、アナログ等である。現在は、在庫は溜まっているが、イナーシャが効いている段階だ。車載では不足もある。DRAMが先か、NANDが先かは、意見が分かれるが、メモリーの底は3Qから4Qであり、それ次第でやや変わるが、2023年の半導体全体では、10%-15%マイナス程度ではないか。
航空宇宙は素人だが、H3ロケットの打ち上げ失敗は、専門家も一般大衆も失望が大きかった。原因は、電気信号系だという。2022年のイプシロン6号機失敗までは、配管など流体やメカ系であり、今回は新たなパターンだ。レベルは全く異なり、同一に議論すべきではないのだろうが、北朝鮮がミサイル発射で、レベルアップをしている中で、北朝鮮にも負けているのではないかとの不安がよぎる。また、既に三菱重工業が、MSJでは、撤退することを決めた。開発費は1兆円に及ぶという。
いずれにしても、部品点数が多く、メカ部分や流体などが多く、摺合せ要素も多く、本来は、かつては日本が強かった筈の分野である。戦前ならゼロ戦、戦後なら新幹線などもそうだ。しかし、複雑性が増し、摺合せやトライ&エラーでは難しい、いわば、第二モジュラー的な領域に、既に、航空宇宙も入ってきたのかもしれない。これは、露光機がEUVになり、大型化する中で起こったことを想起する。
去る2月10日に日清紡HDの通期決算説明会がオンラオインで開催された。村上社長、HD専務のJRC小洗社長、HD常務で日清紡マイクロデバイス社長の田路氏、HD取締役の馬場氏、石井氏(ブレーキ社長)、塚谷氏が参加。村上社長による決算概況の後、今回は、無線通信事業について、JRC小洗社長がプレゼン。
2022年業績は売上5161億円、OP206億円、NP242億円、デバイスが大きく貢献。無線・通信は、減収減益、部材不足もあり、マリンは増収増益。デバイスは、半導体がスマホとPCは減速だが、車載や産機が好調で、円安効果も大きい。マイクロ波も好調。
2023年は売上5570億円、OP240億円、NP180億円、為替130円/$で、1円円安でOP3億円のプラス。デバイスは減益だが、他は全て増益の見立て。無線・通信は、防災などが牽引、モビリティも期待。デバイスは、車載向け堅調、電源ICとオペアンプ、また、ソリューションプロバイダとして新たな成長摸索。ブレーキ黒字化。精密機器も増益。
無線・通信事業では、ビジョンと方向性が示された。
2023年3月6日14-16時、恒例のキヤノン投資家アナリスト向け経営説明会が開催された。ここ数年は、オンラオインであり、御手洗CEOがメインだが、今回は、御手洗氏の「優良グループ構想PhaseⅥ」についての全体に加えて、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの4グループのトップから、10分程度のプレゼンがあった。その後、質疑だが、全体とM&Aが多く、次いで、メディカル、イメージング、インダストリアルが多い印象。顔出しがなかったのが残念。また、グループは15分程度でも良かったのではないか。他のIRデーに比べると、コンパクトなのは良い傾向。
オープン/クローズ戦略は、「製品やシステムあるいはサービスを、『他社に公開するオープン領域』と『秘匿して利益の源泉にするクローズ領域』とにわけ、2つがエコシステムとして共存する仕組みを作る戦略」であり、小川紘一先生が第一人者として有名であり多くの研究があるが、一般的には、知財の観点が強いようだ。また、この概念が普及する中で、解釈により、特許出願をするかしない(ブラックボックス化)か、特許出願をするが実施許諾をするかしないかという、二つの階層があり、立場で異なる場合もあるようだ。いずれにせよ、真髄は、インテルやアップルが得意だが、技術を、利益最大化のため、オープンにして、スケールすることころと、クローズにして市場を支配し、利益を維持するところを分ける、そういう業界構造の設計をすることが重要であろう。
その意味で、狭義の「オープン/クローズ」戦略とは、異なるかも知れないが、技術であれ、ノウハウであれ、アルゴリズムとデータに分けるパターンも増えているのではないか。通常は、アルゴリズムを隠して(これをオープン/クローズの対象にする)、データはオープンというか、囲わない(囲えない)。しかし、AI、機械学習の登場により、データの重要性が増してきた。
Rapidusが、大方のマスコミや、一部の業界関係者の思惑や予想と異なり、北海道の千歳に決まった。産業集積が乏しく、電力コストは安くはないが、用地の広さ、水資源、交通の便に加え、地方自治体の関係者によれば、優遇策で勝てないとの声もあった。既に、熊本は水資源が微妙だという。さらに、将来は、EUVに備え、原発その他の関係で地域対応等もあるかもしれない。
実は、ヒントは1月24日の日経新聞の日経デジタルフォーラムの広告記事にあった。この記事を見たとき、もしかしたら、北海道の可能性も気候変動その他を考えるとあるかもしれないと感じた。実は全くの偶然だが、最近、一見、関係ない分野で北海道に縁も出てきている。
3月は人事異動の季節である。各社の新トップや役員、部長級の昇格が日経新聞の人事欄に掲載される。流石に、最近は、もはや同年代から、後輩の世代になってきた。知った名前も少なくなったが、むしろ、理科大MOTの教え子の昇進や栄転を嬉しく思う。社長人事も、指名委員会によるケースが増えているが、多くは妥当なものだろう。ただ、役員以上は、実力以上に巡り合わせ、天命による場合も多く、それが、個人的に幸福か、あるいは、苦難の道になるかは、分らない。トップになるよりは、むしろ、No2か3で、実力を発揮できる地位の方がいい場合もあるかもしれない。
さて、その中で、意外なトップ人事は、トヨタとカシオ計算機であった。
既に、一昨年から始まり、4回目まで、開催された、経産省と総務省によるデジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合でも紹介され、拙著「デジタル列島進化論」でも取り上げたが、データセンタの重要性が増している。総務省|デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合(第4回)配布資料 (soumu.go.jp)
データセンタは、これからの日本がデジタルを活用して変わるための最も重要なインフラである。現状は、東京大阪に集中、地震や富士山噴火、地政学リスクもある中で、レジリエンスが問題であり、全国への分散が急がれる。他方で、エネルギー消費の問題への対処が必要であり、ディスアグリゲーション等のアーキテクチャ改善やエネルギーを食うサーバーの半導体の微細化やパワー半導体の活用が必要であり、NEDOでも複数のプロジェクトが走っている。
データセンタは日本だけの問題ではない。東アジア有事の中では、もはや、西側諸国にとって、中国や台湾、朝鮮半島でも、データセンタを設置することはリスクがあるため、地理的に日本が注目されることになる。さらに、円安やインフレもあり、GAFAM等からも注目されている。
ネットワーク時代には、ネットワーク効果を上手く使って、急成長するのが鍵だが、その閾値が鍵であり、いつまでたってもスケールしないばかりか、離陸せずに終わってしまう。この閾値の議論は、分析をする上で、Nの議論にも似ている。数人や数例では仕方がないが、最低、Nは幾つなのか。
TSMCが熊本菊陽町のJASMに続き、熊本に、20年代後半に、総額1兆円を投じ、5nm級の最先端の工場を建設するようである。立地が決まれば、その一体に集中させるTSMCのこれまでの工場立地戦略からは想定できる話である。ただ、前工程だけであり、OSATがどうなるかは不明だ。
Rapidusも、複数の報道によれば、千歳に工場を建設する模様だ。年末から年明けから、話題になっており、多くのマスコミの憶測では、東北、関西圏、三重、茨城、東海、北陸など、噂があったが、いずれも外れた。Rapidus社長の小池さんが出身の日立、ルネサスには、かつて北海セミコンという半導体生産子会社があり、90年代に工場見学をしたことがある。周辺には後工程や関連サプライチェーンがある他、千歳先端科学技術大もある。空港から至近で、敷地も広い。千歳空港からシリコンバレーやAlbanyなどへ直行便ができれば最高だろう。
北海セミコンは、ミネビアミツミによる買収により、同社のファウンダリ拠点となっている(他に野洲もある)が、このほか、ミネビアミツミは、売上400億円規模のセイコーインスツルからABLIC(エイブリック)もグループになり、アナログ半導体等では存在感が増している。
かつての北海セミコンの経緯やミネビアミツミの実績、何よりも、北海道や千歳地元の積極的誘致などが背景だろうが、電力代はやや高めであり、人材面確保などは、発表を待つことになろう。何よりも課題は、TSMCも同様だが、EUV設置に関わり、原発一基もいるという電力や高圧ガス法なども鍵になるだろう。さらに、OSATも含め、後工程やサプライチェーンがどうなるかだ。
その上で、重要なことは、TSMCが熊本第二で、先にEUVを入れ、5nmだけでなく、2025年以降に、2nmも手掛けた場合のRapidusとの棲み分けだ。
イノベーティブな会社は、ESG面でも優れているエクセレントカンパニーだというのは。本当だろか。日経新聞や日経ビジネス、伊藤レポートや、政府、アカデミアも、それを信じて、アンケート調査をしたりするが、相関関係があると、大々的に報じられる。しかし、業績がいい会社、イノベーションを生んできた会社が、必ずしも、聖人君子的ではないようであり、各種のハラスメント、不正会計、脱税、談合、不正検査、等々の「不祥事」、枚挙に暇がない。しかし、それでも、相関性はあるのかもしれない。
他方で、イノベーターや天才と聖人君子度合、偉人度合は、相関性は厳しいようだ。もちろん、人柄もよいがイノベーターであり、天才的な人もいるが、先行研究によると、芸術家等は、逆相関だろうか。昔、少年少女の偉人伝を読んで、天才やイノベーターは立派な人だと、勉学だけでなく、心の修練にも励んだ者は多いが、どうもそうでもないようだ。
我々は、イノベーションを、イノベーターを求めているのか、清く正しい人格者を求めているのか。
藤本隆宏は、業界をオープンとクローズ、製品をモジュラーとインテグラルに分けた。
しかし、実際には、乗用車や工作機械は、オープン/クローズ的な側面もある。また、モジュラーも、当初、水平分業等で、背景にあった、スピード対応やスケールメリットだけでなく、複雑化対応や摺合せ不可のための「第二モジュラー」もあるだろう。また、藤本の分類では、オープンでインテグラルは無いが、実際には、官公需IT等は、ここに入るのではないか。更に、複雑で高度なシステムでは、オープンかつモジュラーといっても、PC等とは異なる、EUV露光機もこちらであろう。
どうも、国とか都とか、大学とか、上から目線の組織は、自分だけが忙しく、相手は暇だと思っているようだ。そして、厄介なことに、そういう公的機関そのものでなく、そこが外注するシンクタンクとか広告宣伝コンサルなどが、そのようだ。日程調整を打診しながら、数週間ほったらかし、事前に参考資料を送るといいながら、当日オンライン会議の直線に資料を送るのは日常茶飯事だ。
メールの反応でもわかる。仕事柄、過去40年、多くの方々にアポイントその他、メールを送ってきた。その数は数万以上のデータだ。残念ながら定量的な検証はしていない(やろうと思えばできるが)が、企業規模の大小や地位と、メールのレスポンスは関係がない。偉い人ほど、遅い印象があるだろうが、逆だ。意外と中堅企業のサラリーマン社長や役員の反応が遅かったりする。半導体関連は全て早い。迅速をモットーとする会社や役所等も含め、早い時は早い。固有周期は、規模やオーナー系か否かでは関係がない。むしろ業種による影響が大きい。GAFA等、巨大企業の方が早い場合もある。日本は、時間コストに対する意識が薄く、逆に、残業代が欲しいのか、人・月コストでしか、価値を計算できないからか。
論文や研究なども、「時間をじっくりかければ、良いものができると」いう思い込み偏見が、日本では、文系アカデミア中心に根強い。しかし、実際、分野によらず、素晴らしい業績は短期間に集中することも多い。
ますます、技術経営戦略が重要になってきたことを実感する。技術経営戦略とは、技術の特性を考慮し、生かして経営戦略を実施することだと言える。
ミラー氏の「CHIP WAR」では、半導体の進歩で、定番だった勝利の方程式の戦略が使えなくなり、新たな戦略を打ち立てる歴史を紹介している。かつて、ソ連や中国の定番だったCopy it戦略は、半導体が複雑になり、Copyできても、再現する時間がかかって意味がなくなった。ASMLは、IMECを使ってオープンイノベーションの中で、数十万の部品を、多くの国や地域にサプライチェーンを構築することで、追随を不可能とした。ハイテクでは長年、有益となれる先行者利潤を狙うChip faster戦略も、微細化の限界やコストアップで難しくなった。同時に、最大量産によるコストダウンも、中国という存在が、最大の顧客であり最大のライバルとなって、ダメになった。
失われた30年と云われ、日本の大企業への批判が多い中、2023年1月に、「日本の大企業 成長10の法則 失われなかった30年の経営」という興味深いタイトルの本が出た。しかも、著者は野村證券OBでもある。日本の大企業 成長10の法則 失われなかった30年の経営 | 綱島邦夫 |本 | 通販 | Amazon
同著によると、「日本は、GAFAMやカリスマ経営者が率いる若い企業ではなく、半世紀を超えて成長を止めず増収増益を続けるJ&Jや3M、200年近い歴史を生き残り今も繁栄するP&Gのような会社から学ぶべき点が多いのではないか。2000年以降に大きな成長を遂げた企業、あるいは大きな質的転換を成し遂げた企業は存在するのでしょうか?失われた30年に成長を実現し、少なくとも70年以上の歴史を持つという条件を満たす以下の15社に共通している成功の法則を解明する」という。
去る1月30日にソシオネクストの3Q決算説明会オンライン開催、視聴した。肥塚CEOがプレゼン、質疑も対応。プレゼンは動画公開、質疑は要旨のみ公開。株式会社ソシオネクスト 第3四半期決算説明会 (daiwair.jp)
肥塚さんの肉声は、数年ぶりだが、30年前初めてお会いした頃から変らない。投資家アナリスト向けにどう対峙されるか関心があったが、いつも通りの自然体だった。説明会では、ユニークなビジネスモデルについて、分かりやすく説明、質疑についても、丁寧に対応されていた。
業績上方修正、売上1700→1900億円、OP170→190億円、NP130→162億円、売上増による効果が大きい。質疑では、中国リスク等があったが、少ないようだ。
興味深いのは独自のソリューションSoCビジネスモデル、そのKPIとして、商談獲得金額、商談獲得残高を開示している点だ。現在、前者2000億円、後者が概ね5年先まであり、8800億円だが、中期的な方向性を把握できる。
イェール大学人気講義「天才」のクレイグ・ライト教授著の「天才~『その隠れた習慣』を解き明かす」によれば、当たり前だが、天才と神童は異なる。本著では、天才を「天才とは、精神力が並外れていて、その人独自の業績や見解が、文化や時代を超えて、良くも悪くも社会を大きく変革する人を指す」としており、いわば、イノベーションの定義だ。歴史上、現在のイノベーターも含め、多くの天才は、IQではなく、学校の成績も必ずしも良くは無いようだ。性格は悪く、精神異常者も多いという。共通する特徴は、仕事への姿勢(Lesson1)、立ち直る力(Lesson2)、独創性(Lesson3)、子どものような想像力(Lesson4)、飽くなき好奇心(Lesson5)、情熱(Lesson6)、クリエイティブな不適応(Lesson7)、反逆精神(Lesson8)、越境思考(Lesson9)、通常とは正反対の行動(Lesson10)、準備(Lesson11)、執念(Lesson12)、気晴らし(Lesson13)、集中(Lesson14)という。
日経新聞の1面では、マグロの解体ショーの危機に瀕している東芝の憶測記事が躍っているが、26面では、ミュージシャン村井邦彦氏による私の履歴書だが、ここ数日、ユーミン始め多くのアーティストを排出したアルファ社や東芝EMIが登場する。アクテビティト達も、今のアナリストの多くも、かつて、東芝に音楽事業があったことを意識することは少ないかもしれない。
重電と半導体、いわば、E(エネルギー)&E(エレクトロニクス)の東芝だが、90年代後半は、ソニー同様にインターネットやデジタルをコアにしようと摸索していた。
産学連携の共同研究で、企業は大学と組み、「実用化」を目指し、目的を設定し、数年のプロジェクトになる。しかし、科研費で良くある数百万や数千万円程度の少ない金額や3年程度では、企業が期待する実用化は到底できず、また、そうした実用化には、大学側も、実は関心がなく、それゆえ、足して二で割ったような中途半端なテーマものになる。アリバイ工作のような、学会発表や論文のような成果を纏めて、研究しているのか、研究成果報告の仕事ゴッコか分からないことで謀殺される。真に実用化なら、5年か10年、大学から起業するか、企業に異動して、2-3桁多い金額で、やるべきだし、大学からすれば、本来やりたい研究(大学では応用研究、企業から見れば基礎研究)で、アカデミアで評価される画期的な成果のために、好きに使える金額があればいい。つまり、企業は、少額で、多くの大学に、ばらまき、その代り、ちょっとした時に、技術の中身について、お願いできる、聞ける、頼める、位の方のサンクコスト的、投げ銭的が、いい。逆に、大学側も、いざ、本格プロジェクトの時に、頼めるためのネットワーク形成のため、という位がいい。それ位のつかず離れずの関係が、お互い気が楽だし、実効的ではないか。
DX大流行り、書店やセミナーで、「データを分析して分かった勝ちパターン」などのタイトルが躍る。ビジネススクールでも、多くの事例から、結果としての共通パターンを探し、それはそれでいいのだが、一般解「勝利の方程式」を出すことに拘る。そして、困ったことに、読者や学生は、それを丸暗記して、プロセスには関心がない。MBAや受験勉強などは、このパターンだ。よって一夜漬けが終われば忘れる。大学の勉学は役にたたないという。プロセスエコノミーと言いながら、その出版社が理解していない。
しかし、多くの場合、特に、ビジネスでは、条件が異なり、特別解しかない。一般解も重要だが、条件を知ることが大事である。そして、結果より、そのプロセスを共有すれば、自らの経験次第で、それぞれが特別解を出せるようになる。理系で、実験が多いのは、まさにそうではないか。
今、話題のチャットGPTで遊んでみた。簡単にメルアドなどをサイトで入れると、利用できる。HPに飛び、チャットで、日本語でも英語でも入れると答えを出してくれる。論文調にもなる。絵を書いてくれるものもあるようだ。凄い時代になったものだ。
コロナが5類の感染症に分類される見通しであるが、ZOOMなどのオンラインはすっかり定着、日本でも、一気にデジタルが進んだ。多くの学校でも通常の対面授業に戻すことが検討されているようであるが、MOTでは、対面授業でも、ZOOMを継続して使う。録画やチャット機能が有用であるためだ。もちろん、やむを得ない事情や病気でオンライン参加もある。
そこで、改めて、生産性がどうなったのか、学校や職場で、オンラインかリアルか、どちらがいいのか考えてみたい。
まず、米では、労働者の生産性が特に米で低下していることが議論になっているようだ。その原因の一つが「シャドーワーク(影の仕事)」増加の可能性であることを、FT誌のラナ・フォルーハー氏が指摘している。デジタル化の中で暗号パスワード等の時間がかかる余計な作業の影響を計測する必要があるとしている。[FT]「影の仕事」労働者の生産性低下も 自動化・アプリの効果は - 日本経済新聞 (nikkei.com)
今後の半導体市場の応用分野に必ずあがるのが、クルマとVRやメタバース等である。クルマは、EV向けのパワー半導体等と自動運転の先端ロジックがある。
更に、クルマの端末側でなく。インフラ側のデータセンタや基地局には、大量の先端ロジックとメモリ、GAN等のアンテナもある。これは、VRでも同様である。データセンタでは、今後、エッジ側のデータセンタというよりは、データステーションとも言うべき市場が大きい。基地局も小型にはなるが、国内だけでも、4Gまでは、60万局だったものが、5G以降は、600万局に必要となる。これまで10年サイクルだったので、年間6万台程度の市場が、60万台+増加分が数百万台となり、巨大市場となる。世界でも、10倍以上となろう。特に、アンテナや光電接合デバイス、電源供給、RFやコンバータ等は大きそうだ。
デジタル列島改造論など今後の日本を考える場合、製造業や半導体に否定的悲観的な論者に欠けているのは、雇用問題である。
マクロ統計では、コロナ禍でも失業率は2.6%であり、リーマン時の5.5%や、米は二桁近かったのに対し、良好だ。労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約、概要、統計表等 (stat.go.jp)
さらに、IT企業では人出不足も続いている。インフレもあり、賃上げもある。他方で、野口悠紀雄氏によれば、200万人以上の雇用調整助成金による休業者もあり、実態は悪いとの指摘もある。働けるはずの200万人が働いていない…日本経済の人手不足を悪化させる「雇用調整助成金」という大問題 企業と労働者が補助金にしがみついている | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
実際には非正規雇用も増え、引き籠り問題もある。海外に職を求めて、教師やサラリーマンが出かせぎをしているとの報道もある。賃金では、既に韓国や台湾以下だ。少子高齢化と国内企業競争力低下もあり、将来への不安も大きい。おそらくは、現在、日本は、人手不足と失業あるいは、需給のミスマッチが混在している。
実務に長けた経営者や技術者には、常識だろうが、新規事業/起業であれ、プロジェクトであれ、最初に目指すべきは、明らかな顧客がいる商品向けの特別解であろう。スペックや技術の方向性も、具体的な顧客を意識して、決めるべきである。
それが、NEDO等の国家プロジェクトでは、市場動向の最初に、Society 5.0が出てきて、あれやこれやと技術の応用分野を広く掲げ、市場規模が大きいことを強調、そこの数%のシェアを取り、事業規模の予測があり、それに向けてロードマップが示されるのが通例だ。
これは、市場規模が大きく応用分野が広い方が、テーマが採択され易く、社内でも認められ易いからだろうか。そのせいか、MOTでの新規事業などの科目の演習でも、そうした傾向が多い。しかし、実際に、どういう顧客を想定しているか、市場規模を単価と数量に分けると、しどろもどろになる場合が多い。
実際は、何でも使えそうな技術は、何でも使えない場合が多い。つまり、一般解は実は存在しないのだ。論文や教科書では、まず、一般解があり、特別解が示されるが、そうではなく、まず特別解であり、そこで、一般解を意識して、別の特別解へ展開するのだろう。そうした多数の特別解が登場して、それらが、ある普及段階で標準化され、一般解らしくなるか、元々、特別解だった市場が、広く普及して一般解化する、どちらかだろう。汎用AIがなかなか難しいのも、汎用経営学が成り立たない場合が多いのも同様だろう。先端ロジックも、同様であり、一般論で議論してもしようがない。
これまで、電機や半導体だけでなく、長年、多くの経営者と付き合ってきたが、半導体を担当してきたトップは、サラリーマン経営者であっても他と異なる。VUCAのシリコンサイクルに揉まれ、グローバルで戦ってきたこともあり、だいたい、元気であり、打たれ強く、国際センスはあり、オープンマインドである。経営理論でいえば、バーニー流のリソース派であり、リスクテイクをする傾向がある。
国際的でサイクルの影響が大きいという意味では、電子部品も似たところがあるが、こちらは、関西企業や、オーナー経営者も多く、ややリスク回避的である。
これに対し、国内が中心のシステム系や重電系の経営者は、ポーター流か、きちんと計画を立てていく方が多く、哲学が異なる。
もちろん、個人差が大きいが、同じ会社でも、これだけ異なるのかと驚いたことが多く、これは、経営重心論を考えるベースとなった。
かつてと異なり、VUCA要素、グローバル要素が増えてくると、どうしても、半導体流の経営者が必要になるのか、複数の事業を持つ会社では、装置や材料も含め、半導体系のトップが多くなってしまう傾向になるようだ。
新MOTの企業派遣も、早いところは、2017年だから、かれこれ8年間、毎年数名のエースを送って頂いている。殆どの企業が5-6年になり、各社5名以上となる。
そういう企業、人事も含めた、お付き合い、ゼミで主査として、相当な時間を割いて論文指導をさせて頂いていると、これまでは見えてこなかった各社の文化風土や、基礎学力も含めた知見のレベル差などの問題点も見えてくる。長年、IRやCFO、経営企画だけでなく、多くのトップ、部門のトップ、工場長、技術者と親交してきたが、そことまた異なる点もあり、面白い。
ここで、紹介したいのは、企業における社員の繋がりの力である。
日本と米での政策決定プロセスの差は、日本が、業界団体を通して、関係官庁、政治にあげるのに対し、米は、シンクタンクとロビイストの力が大きいことだろう。
半導体は、JEITAの中に半導体部会があり、それが「正式な」業界団体であり、そこで、政策を詰めて、経産省などともコミュニケーションをして、さらに、JEITA全体が、提言を纏める。それを政府が参考に政策に反映する。
デジタル列島進化論でも主張しているが、米中摩擦や感染症やカーボンニュートラル対応に加え、円安もあり、サプライチェーン再構築の中で、自給率をあげるべく、ハイテク分野や要となる製品は、中国などから、生産拠点をある程度、日本に戻すべきだと考える。もちろん、100%国内生産などナンセンスだが、西側陣営の自覚のもと、中国や地政学リスクがある地域の依存度は減らすべきだ。
日経新聞でも、ここのところ、特集しており、各社の対応や、さらに、経済教室でも、この話題について取り上げており、興味深い。
中山編集委員は、Deep insightで、アップルが既に、中国からインドやベトナムへ転換を指摘している。
Apple生産拠点大移動の先に 供給網、大分散時代の足音: 日本経済新聞 (nikkei.com)
各社の事例では、トップがサプライチェーンについて、紹介している。エレクトロニクス関係中心に、B2Bや部品が多いが、それでも、ポリシーが異なる。市場がどこか、目的や対応で分かれる。
日本の半導体のデバイスは、最後で最大の機会と言っているが、これまで競争力を維持してきた、日本の製造装置や材料は最大の危機の可能性があるのではないか。
振り返れば、日本の半導体の凋落は、日米半導体摩擦の対応であり、自動車業界の他、製造装置や材料は、うまく凌いできた。デバイスの競争力が低下しても、逆にシェアをあげてきた。
それが、米中摩擦の中で、対中輸出規制もあり、この対応を誤ると、米から厳しい指摘を受ける可能性がある。特に製造装置は米も強く、注意が必要であり、米の製造装置が中国輸出をやっているから、日本も同様だというわけにはいかないだろう。
日経新聞経済教室では、防衛省の前田氏とバージニア大のデール教授は、対中半導体に関して、日米でズレがあることを指摘している。日米共同声明では、半導体新戦略に言及せず、日本企業には、輸出規制に抵抗する動機もあり、中国封じ込めにはアメとムチが必要としている。これは、誠に重要で痛い指摘だ。
人文社会科学では、様々なリーダーシップが定義、分類されてる。
社会科学者である三隅のPM理論に基づくリーダーシップは、4種に分類され、PM型:P(目標達成機能)もM(集団維持機能)も強い、理想的なリーダーシップ。Pm型:P(目標達成機能)は強いが、M(集団維持機能)は弱いリーダーシップ、pM型:P(目標達成機能)は弱いが、M(集団維持機能)は強いリーダーシップ、pm型:P(目標達成機能)もM(集団維持機能)も弱い(リーダーシップが機能していない)としている。
ダニエル・ゴールマンによる6種類のリーダーシップスタイルは、ビジョン型リーダーシップ、コーチ型リーダーシップ、関係重視型リーダーシップ、民主型リーダーシップ、実力型リーダーシップ、強制型リーダーシップ、である。
クルト・レヴィンの3種類のリーダーシップは、専制型リーダーシップ、民主型リーダーシップ、放任型リーダーシップ。
この他、多くのリーダーシップが定義されている。何となくは、わかるが、実際には、そんな単純なものではないだろうし、1人の人間でも、多様な側面を持ち、時間と共に変化するだろう。
リーダーシップとは異なるが、組織における中心とは何かに関連して、中心性の知見が、ネットワーク科学には存在する。 次数中心性、近接中心性、 媒介中心性、固有ベクトル中心性、ページランク中心性である。これらの中心性と、リーダーシップの種類は関連している。誰が、組織や人間関係での中心か、というのはリーダーシップの累計に関係がありそうであり、より客観的な示唆を与えるのではないか。
関連する先行研究はあるが、上記のリーダーシップとの紐づけはされていないようである。
経営重心論では、ビジネスや製品の固有周期と固有桁数の2軸でマッピングするが、これを、多数のn軸から、重要な2軸を選んだ。これに限らず、2軸でマッピングすることは多い、見やすい。価値創造の講義でも、以前から、単位系に注目して、科学技術価値の単位系の軸と、金銭価値が入った単位系の軸による2軸で考えることを、説明している。最近、NEDOでも、二軸マップを、目標管理とベンチマークに使うことを、プロジェクト参加企業に要請している。
これらは、3軸に表現する場合もあるが、見にくくなる。4軸となると、見にくくなり、極端に分かり難くなる。しかし、これまでは、2軸で表現、評価する意味を、単純に、見やすさだけで考えていた。
しかし、最近、二軸が本質的であることが分かってきた。
今年も1月28~29日にかけ、理科大MOT最大の行事であるグラデュエーションペーパー発表審査会があった。朝から夕方まで、1人20分、プレゼン8分、質疑や討論12分、上席特任教授や有識者、教育制度連携協議会委員、OBで優秀ペーパー受賞者等の多数の助言委員にも貴重な時間を割いて頂き、半数はリアル、半数はZOOMで参加、有益な質疑、アドバイスやコメントを頂いた。
MOT専攻長として、これまで多くの教授の採用人事に関わってきた。大学の教授の採用人事は、一般公募や学内・専攻内公募、公募によらない方式、等がある。これまで、一般公募もしたが、なかなか、いい人材はおらず、MOTの特殊性(社会人が学生であり、レベルが高い上、講義が双方向の実践的内容が中心で、グラデュエーションペーパー指導や、管理運営もあり、学生集めもある)も含めて難しい。そこで、自身が探す他、紹介や、有力な組織からの推薦が多くなる。将来はOBからもあるだろう。もちろん、何れの場合も、厳正な書類審査や面接、模擬授業等もあり、数多くの委員会を経ることになる。
MOTも含め大学での成績評価には、大きく、授業への貢献とレポートに分かれ、その比率が半々である場合が多い。授業への貢献とは積極的な討論の参加や質問などが主である。他方、演習は、結果が主であり、テストやレポートが主である。
MOTでもっとも重視しているグラデュエーションペーパーは、演習科目であり、本来は纏めて8単位にして、最終審査の結果だけで、判断し、過程の討論などは無いのが通常だ。
Rapidusに関して、批判的な多くは、GAA開発はLSTCでできるが、工場の立上げや事業化は無理であろう、という意見である。やはり、多くのエンジニアと半導体業界を熟知した経営者でないと、というものだ。装置や材料メーカーが協力したくらいではダメだ、と、短TATは無理であり、やはりボリュームの量産だと。
もし、ダメだった場合、あるいは、様々な梯子外しリスクもあり、その場合は、どうするかも考えておかなければならない。
MOTの教員として、相手は平均年齢43歳のオッサンが多いが、それでも2年間のうちに成長してくれる社会人学生も多く、本人も俯瞰力や深く考える力がついたとか自覚し、企業側からも、そういう指摘があると、嬉しく、教員冥利につきる。特に、ゼミ指導では、お互い人間力のぶつかり合いであり、こちらも勉強しなくてはいけないが、ボケ防止にも最適だ。
ゼミの場合は、企業派遣が多くなるが、一般でも優秀な方は多く、1年次で、授業やレポートを通し、ゼミに来てほしいという学生も多い。若ゼミは、どうしても人気が多いこともあり、教える学生数に限界もあり、積極的に誘わない。そのため、優秀で来てほしい学生が、一般でも企業派遣でも他のゼミに行く場合もある。それが、立派に成長し、素晴らしいグラデュエーションペーパーを完成すれば、良かったと思うが、成長どころか、おかしくなり、ペーパーも不十分である場合は、残念この上ない。
意外がどうか分からないが、日本も捨てたものでないと感心したが、Rapidusに転職しようという若者(といっても、30代社会人学生)が複数いる。技術者として、新しい挑戦、日本の半導体復活にかけたいという志から来ているようで、素晴らしいことだ。
そこで、彼らの、というより、先輩や同僚、家族からの心配や懸念は、世間やマスコミ等の「どうせ、ダメだろう、エルピーダのように倒産する、リストラされる」論調であり、それが現実にリスクであろう。心配や躊躇は当然だ。
しかし、現実は、エルピーダは倒産したが、技術者は、ほぼリストラもなく、マイクロンに移って活躍している。他方で、業績好調のGAFAでも、社員の10%がリストラされる。会社は倒産しても、腕に覚えがある優秀な技術者は生きる道、活躍する道はいくらでもある。日本では、就職でなく、就社だから、倒産リスクを恐れるが、就職なら、半導体技術者が無くなることは無い。
アカデミアだけでなく、企業、産業、役所、全て、日本の共通問題が、スピードの遅さ、換言すれば、ラピッドでない、そして、リスクテイク度合(リスクを取らない、リスクということの認識がない)、縦割りサイロ構造、グローバル性の欠如にあることは、多くの心ある型の共通認識だろう。しかも、これらは相互に関係し合っているだろう。グローバルは、もちろん国際性や英語ということではあるが、もっと言えば、多様性と標準との認識もあるだろう。
さらに、昔から指摘されている、言語や文化も含めた、曖昧(Fuzzy、etc)もある。その根底は、縦割りサイロに閉じこもるという相互不可侵性の心理から来ているかもしれないし、リスペクトが無いというのは、もっといえば、他者への関心の無さでもある。それが、コミュニケーションの遅さ、フィードバックループの遅さ、になり、スピード感にも繋がる。また、他者へのリスペクトの無さは、関心の無さは、横比較や評価を嫌う、曖昧にしておく、差をつけるのは、上下関係だけということにもなり、それがオリジナリティを考えない、オリジナリティに鈍感、目利き力の無さにも関係するのではないか。
去る2022年12月5日、日立の研究開発戦略および知財戦略のマスコミ&投資家アナリスト向け説明会が、ハイブリッドで開催され、HPで公開のYouTubeを視聴した。鈴木CTO、グローバルロジック社のシングCTO、日立エナジー(買収したABB)のゼルゲCTO、知財はスティーブンCIPO併せて、1時間弱スピーチ、多様性豊富であり、資料の雰囲気も含め、印象もかなり変わった。現在、日立はCEOもCTO出身の小島氏であり、これからはR&D強化宣言という中で、やり易いのか、やり難いのか、想像してしまう。知財も、これまでは日本人の知財屋という感じだが、これもイメチェンだ。質疑が1時間弱だが、質疑はアナリスト、マスコミ併せて数名でそれほど多くなく、やや散漫な印象。
2021年から複数のNEDOプロジェクト審査委員を経験させて頂いている。意外といっては、失礼だが、感心したことは、多くの委員の先生、NEDOや経産省のメンバーも含め、真面目に議論し、シビアに審査していることだ。質疑や討論も、かなり活発で、時間切れになる程であり、ダメなものはダメで、落とされることもあり、「ナアナア」ではない。自分のことは棚に上げていると、必ずしも、専門でなく、産業界や実用動向について、見識が無いというよりは、関心がない方もいる。目利き力も、社会実装からの判断が重要だが、そこが問題だ。
もちろん、問題点もある。それは、プロジェクトの分割の仕方とステージゲートではないか。
年末年始、多くの経営者や半導体産業関係者と懇談も含め、半導体政策やRapidusについて意見交換を行った。また、YouTubeも含め、メディアに出ている様々な論考もチェックした。これらを考察したい。
半導体政策全体に関しては、ごく少数、そもそも、否定的な見方もあるが、概ね好意的である。少なくとも、半導体に関して、政治家や国民の関心が高まったことの意義は大きいとする意見が多い。
TSMC誘致に関しては、そもそも無理だとか、海外企業なのに、等の批判はあったが、今は、現実的に効果も大きく批判はほぼ無く絶賛が多い印象だ。
これに対し、Rapidusに関しては、厳しく、成功するという意見は小数だ。その背景には、資金が700億円しかない、経産省ではダメ、日の丸連合否定など、そもそも誤解も多く、これは広報の問題だろう。LSTCとRapidusの関係ももっと周知が必要だ。人集めやビジネスモデル等は、その通りだが、むしろ。一緒に議論してほしいという意見もある。
数年前から、NEDOなど審査委員をさせて頂いている。半導体やエレクトロニクスの技術権威である錚々たるメンバーに交じって、光栄なことだ。自身は、産業や企業動向も含め、実社会に近い視点から俯瞰できる点で貢献しているつもりだ。評価に際しては、質問票を提出、ヒヤリングをして、質問や確認をし、採点に関し、コメントも必要であり、各社の膨大なマル秘資料も含め、予習復習も含め、相当な勉強が必要である。また、質疑や議論も勉強になる。
今年の若ゼミ2年生もグラデュエーションペーパーを無事、仮提出、まもなく、新OBとなる。これで、2017年以来、ゼミ生は総計45名である。そこで、このネットワークを分析してみた。
まず、ゼミ生は全員、私に直接繋がっている。当然、全ての中心性が高いのは当然である。また、同期同士、同じ企業同士は相互に繋がっている。加えて、研究テーマやアプローチに関して、引用等から近いと思うものも繋げているとした。
グラデュエーションペーパーも含め、論文には、必ず、本でも、章立てで、「先行研究」、「参考文献」、「謝辞」が、必ずある。これは、先人やお世話になった方のクレジットを認め、感謝を形にするもので、研究者としてだけでなく、人間として当然のことだ。音楽会では、指揮者が必ず、演奏者を紹介し、スポンサーに謝意を示すし、映画でも、全ての貢献者が表示される。これは、リーダーシップでもあり、貢献者や参加者を紹介し、リスペクトし、謝意を示してこそ、やる気も出るし、エコシステムが広がる。
それゆえ、自身も、授業の中で、過去のゼミ生や他の教員の成果について謝意を込めて紹介するし、MOTにVIPや大学幹部が見学に来た場合は、必ず、仲間の教員や事務メンバーを紹介し、彼らの縁の下の貢献に言及する。言わないとわからないし認識もできない。
これは、換言すれば、フェアネスとも言えるだろう。その発展形としては、場に対し、エコシステムの中で、ただ乗りではなく、GIVE&TAKE、あるいは、何が貢献できるかを自覚しなければならない。これは、大学でもゼミでも、評価には、授業への貢献、というのが必ずあるが、これが重要である。また、授業でも、水面下で、準備や後処理などが多い。
ビジネスでも、政策でも、アカデミックでも、今年、日本人にとって、重要なキーワードは、「フェアネス」ではないかと思う。グローバリゼーションは止まらない 連載「Next World」: 日本経済新聞 (nikkei.com)
「CHIP WAR」での日米半導体摩擦に関する記述で、はっと気が付かされたのが、「フェアネス」であり、それで長年のモヤモヤが腑に落ちたのである。
Rapidusの注目度が高い。電子デバイス新聞では、2022年度ニュースランキングで、Rapidus誕生が1位。熊本TSMC誘致は6位。2位が米CHIPS法、3位が対中規制、4位が半導体市況下降だった。また、年末の日経新聞社長100人アンケート調査では、半導体国産化について社長の8割が支持だった。半導体の国産化「支持」8割 社長100人アンケート: 日本経済新聞 (nikkei.com)
さらに、日経の村山氏が、Rapidus会長の東さんについて、経緯にふれ、73歳のアントレプレナーで取り上げられている。ただ、東さんは、大きく貢献はされているが、中立的位置づけなので、アントレプレナーなら小池さんであろう。半導体再起へバトンつなげ 73歳のアントレプレナー: 日本経済新聞 (nikkei.com)
TSMC誘致も当初は、「ありえない、来るわけない」から、「外資系に国費を使うのか」「経済効果は見込まれず無駄」など、マスコミでも、批判が多かったが、決定し、動きだし、九州が活気づくと、2兆円効果から4兆円まで、空気は一変した。
Rapidusは、それ以上に、ボロクソだったが、国やRapidusの東/小池コンビの人徳もあり雰囲気は変わりつつある。ただ、厳しい意見も多く、TSMCやサムスンからの誤解を恐れる業界関係者も多い。マスコミは日の丸復活、TSMCに勝つか、という勇ましい論調になりがちだが、経産省、Rapidus関係者も含め、真逆の認識であり、懸念しているが、全く同感である。
実際、RapidusはTSMC等と全く競合しない。ビジネスモデルも大きく異なるだろう。もちろん、TSMCを技術や戦略ではお手本にすべきだが、TSMCは水平分業の中、B2Cの端末市場中心、本来、米も中国も含め世界の大量かつ標準の市場だ。これに対し、Rapidusは、中量生産のインフラ市場であり、GAFAMのカスタマイズされたチップのファウンドリ向けだろう。
そこは、R&D段階から各社各社と同時に独自のVC(バリューチェーン)とSC(サプライチェーン)を築く必要がある。カスタマイズという意味では、パッケージも含め完全に標準ではないだろう。
「CHIP WAR」でも指摘されたが、米にとって、中国は最大の市場だが最大のライバルゆえ、また、微細化困難から、「CHIP Faster」戦略が難しく、これまで、インテル中心に、半導体で常識の「先行して量産」というビジネスモデルから脱する必要がある。また、そこに、Rapidusの機会と存在意義がある。日本は米や台湾とも連携して、補完し合うし、エコシステムを築く必要があるといえる。そして、その鍵の一つが、日本版NTSC、LSTCの存在と活用だろう。
習近平政権の中国が、2025年±2年で侵攻するという地政学リスクに直面する台湾という「国」について考察してみる。90年代前半に半導体やディスプレイのリサーチやコンサルで、台湾を訪問して以来、この国の魅力には取りつかれている。人や文化も含め、最も大好きな場所だ。Acerからはじまり、TSMC、UMCはもちろん、AUO、鴻海、PSC等々、アナリスト時代、ヘッジファンド時代、毎年、毎月近く訪問し、多様でユニークなビジネスモデルを持つ企業をリサーチするのが楽しみだった。国としての、大きなイノベーションは、水平分業であり、世界のサプライチェーンやビジネスモデルをも変貌させた。このイノベーティブな国は、日本と米国そして中国の良いところ取りをしており、国とは、産業政策、エコシステム、ビジネスモデルをとは等の思考の機会を与えてくれる。
この国の本質と地政学リスクを考えるため、台湾得意の水平分業思考で分析を試みる。国は、もちろん、地理的条件の上で、他国との関係や気候条件で、国土や人々が影響を受け、そこに歴史や文化さらには、産業が形成される。これは、本来は、垂直統合であり、切っても切れないものだ。そこを敢えて、レイヤに分けて、関係諸国は何が欲しいのか考察した。
今や、有名人になりつつあるが、製造業YouTuberトップ、フォロワー20万の、ものづくり太郎氏にMOTに来てもらい対談した。彼の存在は、半年ほど前に認識、特に、元ミスミのトップ営業でもあることから、機械には、相当詳しいが、どんどん、半導体も含め、分野を広げている。サングラスをかけ、ちょっと、ふざけたような印象があるが、内容は極めて真面目であり、本人も真面目で厳しく素晴らしい方であることは解った。それゆえ、会って、MOTにも来てもらいたいと考えていたところ、SEMIパーティーで会い、その場で御願いし、実現した。もちろん、ものづくり太郎は、ニックネームであり、製造業盛り上げ隊という会社の社長である。彼が素晴らしいのは下記である。
年末年始というより、10月末から年始になるが、一般書で、既に紹介したものも含め、読んだものを紹介したい(順不動)。熟読といういうより、斜め読みに近いものもある。これは、既に知っている話は熟読不要、難しい話は、そもそも理解不能(必要があれば、原典や初心者向けを熟読)であり、その間の知識の理解が重要だからだ。実は、これらよりも、社会人学生のグラデュエーションペーパー主査分が8本(約5-10万字、100ページ)と副査分が5本、1年生が15本は熟読し査読しており、また、それに関連して、50本以上かなりの数の先行研究となる論文等は読んでいる。買ったが読んでない本も多いが省く。
自分のやり方として、同じジャンルでなければ、複数を同時進行で読む。同じジャンルであれば、連続して読む、としている。
やはり、外国人はユニークである。最近のノウハウ本は、斜め読みで、中身がなければ、時間の無駄であり、読まない勇気も必要だ。
ユーラシアグループが1月3日に今年の10大リスクを発表した。Eurasia Group | Home
10大リスクは、①ならず者ロシア、②習近平の権力最大化、③大量破壊兵器としてのAI、④インフレの衝撃波、⑤追い詰められたイラン、⑥エネルギー危機、⑦阻害される国際開発、⑧米の分断、⑨TikTokブーム(Z世代)、⑩水ストレス、だが、この10に加え、おまけ(赤い鰊)で、ウクライナ支援亀裂、EUの政治機能不全、台湾危機、である。この③と⑨は関係あり、⑩は新な視点だ。Z世代は、かつての団塊の世代と似ていて、本来は一括りにされたくないが、マーケティング戦略上、一括りにされ、利用されている。同時に意外と群れたがる。その意味で、ネットワークが鍵になる。
高校時代かに微分方程式か漸化式か忘れたが、初期条件で特別解、その式やグラフの形が大きく変わることに、衝撃と感動を覚えたことを、いまだに覚えている。これは、まさに人生も、同様ではないか。
多くの才能ある知人友人も、人生の初期、20歳まで、まさに、方程式が成り立つまででの生い立ち、恩師や友人との出会いといった初期条件で大きく変わるのではないか。
年末、入院をして、多くの方に心配をかけた。もう若くはないのだし、それほど、もう仕事をする必要はなく、年齢相応に、ゆっくりすれば、いいとのお言葉もありがたく頂いた。自分には、いわゆる趣味というものがあるわけでもなく、むしろ、好きな本を読み、自分なりに研究して、妄想を膨らませ、論考し、あちこちに書き、意見交換、議論することが、何よりのストレス発散であり、「趣味」である。
そして、半導体や電機に関しては、本当に、最後で最大のチャンスが来ており、これは自分も多少は貢献でき、自分にとっても最後で最大のチャンスであるからだ。その好機が来ているのに、あとで、もう少し頑張ればよかった、などと、悔いを残したくないのである。
MOTで、30歳から50歳代の社会人学生に、ネットワーク科学のイントロを紹介したが、その関係で、年末年始に、以前、読みかけだった「ネットワーク科学」を読了した。もちろん、難解な数式もあり、全て理解しているわけではないが、最後まで目は遠した。
ネットワーク科学で読むべき本、読んだ本は下記であるが、授業でも使ったPythonで学ぶネットワーク分析がコンパクトにまとまっている。「複雑系ネットワーク理論から応用まで」は、バラバシの「ネットワーク科学」と同様に、ネットワーク科学の基礎から応用まで扱っているが、高価だが、具体例やビジュアルな図表、厳密で丁寧な数式導出、さらに演習まであり、その価値は十分あるだろう。さすが、海外の教科書は違う。ダンカンワッツの「スモールワールドネットワーク」は読み物的な面もあり、学者の戦いもあり、面白いが、読了に時間はかかる。
MOTで、30歳から50歳代の社会人学生に、ネットワーク科学のイントロを紹介、簡単なPythonプログラミングとエクセルでの実践的演習を行ったが、技術者も含め、多くがネットワーク科学を学んだことが無く、Pythonプログラミングも未経験であることに驚いた。部下が行っており、認識はしているが、手触り感が無いわけだ。
これは、ネットワーク科学の離陸が2005年頃であり、2010年頃までは、理系の大学でもカリキュラムに入ってなかっただろうことが背景にありそうだ。それゆえ、30歳以上は、会社に入ってから、であり、専門でなければ、勉強する機会が無かっただろう。理系のこうした基礎は20代でないと大変ではあろう。
他方、衝撃を受けたのは、ビジョナリー妄想の授業で、ゲストスピーカーの東大の伊東先生から、高校数学で、2012年から2020年まで行列を教えていなかったということだ。これは、認識不足を恥じるが、確かに、当時、話題になったことは思い出したし、心ある方からは、指摘されていた。
行列すら教えない高校数学に日本の技術軽視の一端を見た(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
ネットワーク科学と「行列」は極めて密接で、AIやDXには不可欠である。しかし、日本では、世界で、自然科学(電子、情報、材料、など広い)だけでなく、人文社会にも、ネットワーク科学が普及する2010年頃に、また、この時期は、これを応用したグーグル検索も広がり、GAFAMが巨大化しているタイミングである。その重要な時期に、AIの基盤となり、GAFAMの経営戦略を理解する上でも重要な、ネットワーク科学の基礎である、行列を高校数学のカリキュラムから外したのである。2020年に高校生だった人間、すなわち20歳は、ネットワーク科学に馴染むだろうが、それ以上の人間は、大学で大変だろう。
つまり、2010年頃前後、ギリギリ高校生で行列を学び、かつ大学でネットワーク科学を少しでも齧った人間以外は、日本では、今の20歳前後が育つまでは、殆ど、ネットワーク科学の教養をもった人材はいないということになるというのは大げさだろうか。
ロシアのウクライナ戦争も終わらず、コロナも再拡大、新年早々、北朝鮮はミサイル発射だ。かつて、withコロナを新常態と言ったが、加えて、戦争も新常態、さらにモノ不足も新常態となりつつある。昨年は、列島改造論、沖縄返還、日中国交正常化が50年、そこもヒントかと思ったが、それを超え、「戦前」が未来を予想するヒントになりつつある。過去に学んでも仕方ないと言う人もいる。もちろん、未来志向は必須であり、SF的な妄想力も必要だ。しかし、人間が人間である限り、歴史に学ぶことは重要だ。
さて、2023年は、日本の産業にとって「機会」と「危機」の両方に直面する転機、分水嶺の年となる。ピンチをチャンスとするか、巡ってきた最後で最大ともいうべきチャンスを捉え生かせるか、それは同時に、日本が二流国から三流国に転落するかどうかも決めるだろう。
2022年は、2021年頃より提言してきた、ファーウェイ対抗の米と連携した半官半民の研究プラットフォーマ、交通網ではなく、情報通信網で日本列島をデジタルで改造するといった「デジタル列島進化論」の具体的な政策が政府でも動き出した。政府はデータセンター投資を進め、半導体では、LSTCとRapidusを設立したが、まさに米と連携した半官半民の研究開発プラットフォーマである。