2015年4月8日 ロームのLSI事業説明会
2015年4月8日15時~17時半にローム主催の半導体技術の最新動向セミナー(初級編)~IoTや自動車の省エネ・小型化・安全・快適に貢献する半導体技術の最新動向に参加した。ロームはアナリスト(ファンドマネージャ兼アナリストも含む)として25年近くカバーしてきたが、改めて勉強になった。この他にもIR主催で個人投資家向けにセミナーも開くなど情報開示や半導体の知識の啓蒙に積極的であり、これらの資料は参考になる。
内容は、①LSI商品開発本部長 飯田氏より、LSI事業の特徴と戦略、②パワーマネジメントLSI商品開発部 山本氏より、付加価値創造のキーデバイス、融合が進む電源の今とこれから、③ローム傘下のラピスセミコンダクタ㈱LSI商品開発本部長 藤田氏より、同社LSI事業の特徴と戦略、④同社無線通信LSI開発ユニットの奥秋、野田氏より、アクティブエコを実現するワイヤレスセンサネットワークに最適な無線、⑤新製品発表として、小型フィットネスヘルスケア機器に最適なブルーツース対応モジュール、と質疑、その後、懇親会であった。なお所用があり懇親会は不参加である。
まず最初の①のポイントは、組織図でLSIは商品戦略本部でマーケを、開発本部で開発設計を、生産本部で生産技術というマトリクスになっており、その中で、商品開発4部門、先行開発2部門、アプリ開発1部門という組織である。買収したラピスやカイオニクスとのシナジー、インテル等とのリファレンス化・プラットフォーム化を進める戦略である。アナログパワーを中心としてBiCDMOSでは微細化でもTSMCより先行、またモータや電源で強みを持つことが確認された。
次に②では、電源ICの仕組みから解説、世界では6億個の市場だが同社は世界ではTI、マキシム、リニアに次いで4位、車載や、産機、ITプラットフォームへの展開が説明された。また、新しいトレンドとして、ワイヤレス給電やUSBパワーデリバリへの取り組みが示された。
また③では、沖電気の半導体事業からの54年の歴史を持つが、新たにラピスとして展開、2ファブ、4商品、1サービスで、ロームやカイオとのシナジーを追及発展していくとアッピールされた。沖電気時代に担当していた時は宮城も宮崎も数回ずつ工場見学もしたが、かつてのDRAM、ちょっと前はアミューズメントが中心であったが、かなりポートフォリオも変わり、ロームグループとしての最適化が進んでいると感じた。
最後に④では、沖電気時代からの強みである通信、低消費電力を生かした、ワイヤレスセンサ、特に2016年頃には1億台となるスマートメータ向けに製品を提供していくこと、またウェアラブルの先にあるインプラント型チップも開発していくことが示された。また新商品として1個からネットで注文できるチップが紹介された。一般には意義がわかりにくいが、半導体は、秋葉原で買う場合は別にすると、通常は専門商社を通して契約し1000個とかの単位でないと売ってくれないので、これはビジネスや採算性は不明だが、ユーザーという視点では、大変画期的ではある。
質疑では、私はまず、ラピスに関して、沖電気時代からの違いを聞いたが、8インチの宮城工場ではDRAMは5%以下でレガシーに特化、マイコンやドライバーが中心、また6インチの宮崎工場ではラピス商品は減っており、高耐圧のファンドリー、IGBTディスクリートなどが多いようだ、WLCSPは八王子で展開していたが、宮崎に移管、高品質スマホ向け組立ファンドリとなっているようだ。
次に聞いたのが、講演②に関連してだが、昔から、家庭向けの直流化の議論があり、もし将来、再生可能エネルギーの割合が増え、蓄電池を多く使い売買電自由化が促進されれば、直流も増え、その場合は、交流から直流に変換する電源ICを使わなくなるのではないか、とう点を聞いた。これについては政治的な背景や安全性もあり交流がやはり主流であり、かりに直流になっても家電機器の電圧は個々に違うので、やはり有用だろうと納得できる回答であった。
最後に聞いたのが、IoT時代への展開であるが、ロームは、センサとしては、圧電、近接光センサ、MEMSセンサーとほぼ全て開発可能であり、無線ネットワークも強いと説明された。ただ、キャリアやセットメーカーが加入している欧米の標準化委員会などには参加していないようであった。
他のアナリストからはFeRAMの容量拡大や、売上の6区分の比率、SiCのフォロー等についてであった。売上についてはほぼ均等だが電源とモーターが成長が大きいこととのこと。
FeRAMについては、少なくとも株式市場に最初に紹介したのは私であり、NRI時代90年半ばに、過去に何度か詳細なレポートを書いたが、残念ながら、それほど市場が拡大していない。当初はDRAM代替あるいは後にNANDフラッシュ代替が期待されていたが、DRAM代替のためには1兆回という書き換え回数では不十分であり、あと二桁必要であることが普及のネックであることが後にわかった。NAND置き換えという意味ではNANDの100万回に比べれば優位であるが、ここではチップ面積が小さく大容量化がしやすい1Tr1Capaではなく、2Tr2Capaである。NANDが1Tr1Capa以下であり、コストで追い付かない。いずれにしても帯に短し襷に長し、であり、ここからは、キャッシュメモリなのかメインメモリなのか外部かなど応用に特化した開発戦略が必要であろう。その中では、小容量のFeRAM搭載マイコンは少し市場が広がりつつある。
半導体市場は、ムーアの法則50年であり、この25年間は水平分業が進み、ファブレスファンドリー化が進んだ。しかし、次の25年はいわば水平統合ともいうべき動きが出てくるかもしれない。特にIoT時代になると、センサーやマイコン、電源などなど周辺回路との融合が必要になってくる。また単体からモジュール化が進み、自動車では、セットメーカーと、Tier1のデンソーなど、その下の半導体という位置づけが、階層を超えて連携が起こり、Tier0も出てくる時代になるかもしれない。NXPによるフリースケール買収や、絶好調のクアリコムの身売り噂なども、そうした大きな潮流の中の動きではないか、と考えている。村田のルネサスのPA部門買収や、半導体と部品の融合も同様であろう。今は、好調なNANDフラッシュの東芝、CMOSセンサーのソニー、なども、周辺のチップを統合しよりモジュール化が進む時が来るかもしれない。そういうとい、ついつい日本人は工場ベースの統合を意識するが、それもあるが、むしろIPや小規模なデザインハウスのM&Aが鍵となろう。今は、城攻めにおける本丸を遠巻きにとり囲んで支城をせめ、付け城を築いたりしているところであろうか。しかし、支城が落ちた時は勝負はついており、本城の本丸攻めはセレモニーに過ぎない。その意味では、やや離れた階層での、標準化の動きを注視する必要があり、チップメーカーだからと遠慮せず、例えば通信では、キャリアと直接の会話も必要であろう。