桜が散り始める4月中旬からは3月期決算発表のシーズンだ。今来週くらいから、日経新聞に観測記事や、会社側の業績修正発表が出てくる。業績予想を外した時に、よく2流のアナリストが口にするのが「IRに騙された」という文句である。もちろん、IRが騙すことはない、過去の事実を可能な範囲で伝えているだけである。こういう文句が出るのは、そのアナリストが「今期の業績は上ぶれそうですか、下ぶれそうですが、まさか下方修正はないですね」などと聞いて、当然ながら会社側は「いろいろなプラスマイナスの要素はあるが全体としては公表通り」というのが通例である。売上10%、利益30%という基準など程度にもよるが、大きく数字が変わる場合に、それを聞いたらインサイダーとなってしまう。
そんなアナリストは論外にしても、外部者であるアナリストが業績を外すのは仕方がない。外部環境の分析不足、業績予想モデルが不十分、取材はしているが、思い込みが強すぎる、など様々である。おそらく、短期業績と中長期業績で理由は異なるが、この問題については、科学技術予測や、調査会社の市場予測が外れる理由も含め、別の機会に取り上げたい。キーワードは、大数の法則、不確定性原理だろうか。
しかし、なぜ、内部者である会社側が、中期計画ならともかく、半年1年単位の業績予想を外すのであろうか?この点について、社長やCFO、IRに取材をして、解ってきたことを述べてみたい。
まず、会社側、経営者には当然だが、業績予想、特に営業利益などは、アートの世界であり、つくれるものである。売上1兆円の企業くらいになると、1%の100億円くらいは、経費の見直しや保守的にコストを見積もるかで、どうにでもなる。これは実際、私自身がファンド会社を経営した経験などから、売上とキャッシュフローは難しいが、利益は、ステイクホルダーとのバランスである。もちろん、上場企業の場合は株主へのコミットメントもあり、その上で、ということではあるが。その位のアロウワンスはあり、出過ぎた場合は、来期に温存し、厳しい場合は、やりくりするので、来期は少し余裕がなくなる。これはアナリストもある程度は常識であろう。そういう意味では、年間予想についてはある程度の上方修正はあっても、下方修正は起きにくい。
当然、アナリストはそういう事情や、これまでの会社側の癖、もともと強気で出しやすいのか慎重なのか、あっさり早急に諦めて開示するのか、なかなか旗を降ろさず、コストを切り詰めて頑張り結果的には公表を守る傾向か、社長やCFOの顔を思い浮かべながら、考慮にいれて予測するのである。それゆえ、年間の予想については、会社側もアナリストも当たりやすく予定調和的にコンセンサスも形成されていく。
それでは、四半期についてはどうだろうか。これは、そもそも、多くの会社が四半期では計画がない上、日本特有の季節性もあり非常に難しい。あまりそういう影響がないのは、グローバル展開している部品メーカーくらいだろうが、またそれはそれで市況変動も激しい。幾つかの会社側、社長も経営者も、事前に四半期を当てるのは無理だと、吐露している。逆に、四半期が当るのは、つまり、①結果的に四半期が当るとすると、2カ月が過ぎて固まってきた場合、②四半期は監査も比較的ゆるく、数字を作りやすい、ということもあるかもしれない。そういう中で、四半期のコンセンサスがあり、上ブレ下ブレを競い、それで株価が乱高下するのは、全くナンセンスである。まさに、丁半博打に近く、胴元はそれで儲かるのかもしれないが。とはいえ、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故直後に関連銘柄が下落し、誰も知らないはずなのに株式市場が事故調査委員会の結果と同様に正しく、より早くというかリアルタイムに当てていたのはなお不思議ではあり、四半期決算も意味はあるのかもしれない。
数年の予想ではどうだろうか。ここでは前提となる外部環境の数字、市場成長やマクロ動向がカギとなるが、リサーチハウスの予想も、これまた当たらない、政府の見通しも当たらない。予想期間が景気サイクルの区間中にあれば、まだいいが、景気サイクルの外となり、期間にリーマンショック、ITバブル崩壊、などが入ると不可能である。高度成長期の電電公社や国鉄、電力会社の計画経済の中、粛々と設備投資がなされ、固定為替相場制では中計は当たって当然であったが、今は、自由な市場主義経済、在庫循環となると極めて難しい。
これまた会社側ですら当たりにくい数年の業績予想をアナリストが予測する意義については、会社側は、やはり参考にしたい、ということであるようだ。会社側も、アナリストの特徴個性を理解している。彼は強気、彼は弱気、彼は外れる、とかがわかっており、そういうフィルターの中で、自身の計画をチェックする。その数字そのものよりも、その背景にある景況感やシナリオを知りたいわけで、その中に会社側が想定していない事象や、競合状況がわかって、経営のヒントになればいいのである。
予想数字はいわば、そのきっかけに過ぎない。その意味では、ファンドマネージャのアナリストの使い方に似ているかもしれない。当たり外れではなく、切り口であり、見落とししていたケースがあるかどうか、であろう。
今度は、会社側について考えたい。そこでは、IRが「騙したくない」のに何故外れてしまったかである。IR側(ここでは開示責任を負うCFOも含む)は、事業部サイドに計画数字を出させ、それを定期的にフォローしている。IR側も事業部の癖を知っているので、安全率を考え、リスクヘッジをして、セグメントの中に入れたり、共通費や消去にバッファ分の数字を入れる。いつも強気で外すあるいは市況変動の大きい事業は、その分、引いておくし、慎重でいつも上ブレするところは、そのままにする、と言った按配だ。期中は、その他のセグメントや共通費などで、調整し、それでどうしようも無くなったら、業績修正となる。
その途中経過において、IR側がどれだけ、事業部の詳細を把握し相互会話ができるかが鍵である、対立関係になれば、いけないし情報を出さなくなるし、IR側が教えてもらったり、IR活動で、工場見学など協力してもらはないければいけないことも多い。もちろん、短期長期で粉飾をしている、という場合もある。もちろん、IRだけでなく、経理部門がチェックするし、人事交流で事業部に経理などの人間が送り込まれ把握はされている。しかし、あまり長くなると経理など本社側だったのが事業側にマインドが変わるのも人情である。それゆえ、景気変動と、人事が重なると、そこで思わぬマイナスが露呈することもあり、特損になったりする。それゆえ、ある程度のチェック的権限と、人間的コミニュケーションといったバランスが重要であり、そこに会社の組織や、文化、本社が強いか事業部が強いか、その時々の経営環境やトップの個性で、求心力が強い時か、遠心力が強い時がでも異なる。
電機メーカーの場合、IRは広報所属(日立、東芝、富士通)、財務所属(三菱電)、経営企画(NEC)、などがあり、IRが独立している場合もある。広報といっても、だいたいCFO連携型であり、ソニーはより広報的、パナソニックは財務系だろうか。いずれの場合も、コングロマリットで大企業であるため、IRあるいはPRの中に、事業毎の専門などを配し、また事業部の中にも広報IR担当者がいる場合が多い。この担当者の立場が強かったり、IRがCSRを兼ねている場合は、監査的権限があるため、十分にチェックできる。また、社長に求心力があり、IRが経営企画の場合も同様だろう。しかし、そうでない場合は、遠慮があったり、十分に情報が把握できないことも多いだろう。
会社が厳しく、強いリーダーが社長となった場合は、求心力があり、CFOも強くなるため、情報が集約されやすい。しかし、やがて会社が好調になり、リストラモードが一巡すると、事業部がそれぞれに発展して強くなっていく場合もある。
どういう組織がいいかは、正解はなく、その時の経営環境、トップの個性、人事の運用の仕方(人事異動など)、IR担当の個性、事業部の特徴(顧客が役所か、強い客か、BtoBかBtoCか)などで、様々なやり方があろう。ただ、最近は、やや短命が多いトップよりもIRが長い場合も多く、首相はコロコロ変わるが官僚はしっかりしているというのに部分的に似ているかもしれない。その中で、IRが経営者の立場で客観的に内を見て、外の意見や情報を集め、内に伝え、また、内の情報を精査して外に伝えるというようになっていることは喜ばしいことである(その意味では、IR担当者こそ本当の「社外」役員、監査役に適しており、あるいは、そこをうまく生かすかが社外役員制度や監査役制度を生かせるかどうかの鍵である)。
アナリストも、そういう状況を理解して、会社に接し、業績予想をし、できれば、その背景にある切り口でも、会社に参考になるようにしたいものである。それで、まもなく始まる決算で短期的な予想精度が向上するかどうか、は不明であるが。