2015年4月23日 決算説明会今昔

いよいよ決算説明会シーズン本番である。電機大手では先陣を切って日本電産の説明会が明日行われる。季節労働者ともいえるアナリストには最も忙しいシーズンの到来であり、まさに、四季の到来を「四半期説明会で知る」わけだ。

 私が最初にNRIでアナリスト業務を始めた頃は、アナリストも研究員といわれ、のんびりしていた。開示も単独中心であり、説明会も、上期と通期の年回で、社長ではなく、CFOが中心、資料も決算短信のみ。その決算短信も、味気なく、説明会も、せいぜい、設備投資や減価償却費を聞く程度。投資家ものんびりしていたし、国内勢は投資判断もなく、朝会もなく、決算結果のコメントも不要であった。そもそも、バブル期であり、株価も、業績で動くというより、テーマや、証券会社の全店をあげた推奨などで動くような感じもあり、株価は株価で証券、営業任せ、我々はじっくり企業研究というスタンスであった。業績予想は作成したが、当時のNRI400という統計データの締切までに作ればよく、1週間、2週間かけて、のんびり、じっくり、経営部長や財務部長に数字を確認していた。当時は、IR担当もなく、殆ど、決算短信のP/LB/Sの数字の背景の確認であった。

売上のざっくりとした内訳はあったが、セグメント損益の開示もなかったので、大きく限界利益率が異なるであろう各セグメントの利益を推定するのが重要な仕事で、それがアナリストの付加価値であった。ただ、製造原価明細書はあったので、それを頼りに、変動費と固定費を分析、苦労して推定した先輩のメモを頼りに、修正を加えながら数字を作ったものである。連結がある場合も、まず単独の数字を作ってから、子会社を詰めていくようなアプローチであった。

90年代に、入って大きく環境が変わった。

第一に、アナリストキングの導入であり、最初は全てのセクターが一緒になった「大選挙区制」だったが、次第にセクター別に「小選挙区制」になった。

第二に、バブル崩壊以降のHFなどや海外勢の台頭もあり、決算後に業績により大きく株価が動くようになった。

第三に、それゆえ、国内アナリストも投資判断を求められるようになり、「即日開票」で翌日朝の朝会までに徹夜で業績予想を固め、必要に応じて投資判断を決めなければならなくなったのである。

第四に、それゆえ、決算説明会である程度聞くべきことを聞かなければならず、説明会が質疑中心になった。もちろん、説明会で聞くと、ノウハウの流出にもなるから、大事な点は聞かず、あとで個別に聞くべきだという先輩の声もあったが、そんな余裕はなかった。この頃から、会社側でも、われわれが業績予想に必要な数字については準備をしてくれるようになったのである。いま、IR側でプレゼン資料や参考資料で用意いただく、数字は、我々の質問に答える形でできたものである(その意味では、時代時代で聞くべき内容は異なり、本来は今聞いても意味のない数字を伝統墨守で確認している場合も多い)。

第五に、その頃から、セグメント開示になり徐々に連結が中心になったが、一方で製造原価明細書が無くなった。セグメント開示は助かったが、これにより、これまでの強みを失ってしまう、という危機感や、製造原価明細書がなくなりきちんとした分析ができなくなるのではという焦りもあった。

こうして、90年代後半には、ほぼ現在のような決算説明会となってきて、説明会資料の充実や、IR体制が完備してきた。ただ、IRもまだ手探りであり、インターネットも普及していなかったので、紙ベースの情報が多く、会社側の情報は、まずIRを通して、セルサイドのアナリストにいき、そこから、バイサイドにいくという「リニアモデル」であり、セルサイドアナリストに、もっとも情報が集中した時期であった。また、セルサイドアナリストが、IB案件獲得に重要で、ウォールが不十分という問題点も外資等ではあったようである。

これが2000年以降になると、インターネットの普及や、フェアディスクロージャ、エンロン事件の問題もあり、IRから直接、機関投資家、あるいはネットで一般に情報が公開されるような時代になり、セルサイドが情報を独占する時代は終わり、アナリストの付加価値は産業や企業の知識や業績予想や分析力などから、サービスに移っていった。特に四半期決算が導入さえ、スピード合戦となっていたのである。また、主要セクターで大物アナリストの引退もあり、担当変更の激しいセルサイド側よりは、長年みているバイサイドの方が知識が充実するようなケースも増えてきた。

特に、ここ数年は、四半期決算での上ブレ下ブレ、や、速報性が重視され、本来のアナリストの分析力が発揮しにくい環境となっているようだ。サービス競争に拍車がかかり、実態はセミナー企画、見学会企画が重要になり、さらに、コンプラ強化、その一方でIB部門との関係もあり、狭い範囲、中庸なことしかレポートに書けなくなってきた。その中で、実際には、ロボットがレポートを書いているという話もある。

今後の中長期投資、スチュワードシップ、など、また時代は変わりつつある。再び、アナリストがその名の通り分析力で評価される時代になることを期待したい。また、決算説明会の場が、単なる足元の数字の確認、上ブレ下ブレの確認ではなく、株主総会と同様、あるいは社外監査役的な役割をになうような、経営陣と投資家・アナリストが中長期で、成長や収益性向上のための、オープンな経営議論の場になることを望みたい。


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