東陽テクニカをアナリストとして、ほぼ上場来、30年近く見てきているが、これほど、いい意味で変わらない、ブレない会社も珍しい。創業来、「はかる」をコアとして、欧米先端技術を導入、という経営姿勢は不変である。また、技術の目利力でにより世界中から将来性ある技術を発掘してくるVC的能力、その欧米製品あるいは技術をカスタマイズし最適システムを構築する能力、販売商品を保守メンテナンスも含めた長期サポート・サービス能力、という3つの能力が業績の源泉でもあり、これを別な側面から眺めれば、一つの技術のライフサイクルで、3度美味しいという、「三毛作」が、ビジネスモデルとなる。
経営姿勢は、いたずらに売上拡大を追うのではなく、収益性重視であり、はかる、技術重視を維持することに拘っている。キャッシュリッチであり、M&Aによる規模拡大も可能である。
しかし、経営重心の視点では、500億円くらいの規模までは、同社らしさを維持できるが、1000億円を超えれば業態が変わる可能性もあろう、その場合にどうするのか、という問いには、あくまで売上拡大ありきのM&Aはしないし、500億円以下の規模で、同社らしさを追及するというのがトップの答えであった。
その意味では、経営重心は、サイクルでは、短期の計測ニーズの3年から、大学などの基礎研究向けの10年くらいに、広いバンド幅で、固有周期があり、固有桁数は、量産モノではないので、2桁位から4桁くらいの領域に、ずっとあるのであろう。この領域は、韓国台湾などは難しく、欧米が強いが、そこは輸入が中心であり、また、三毛作という意味では、VCとしての長期サイクル、カスタマイズの最適システムを構築する短中期サイクル、メンテとしての中長期サイクルと、うまくバランスがとれている。同じ計測でも、アドバンテストの半導体テスターや、アンリツの工場向けワイヤレステスターなどは、量は出ても、サイクルが短く、またスマホ向けにやや偏っているので、バンド幅は狭く、経営重心と事業領域は、違うだろう。
規模を追わない、という意味では、同時に、中立性、いつまでも創業の独立ベンチャー魂を維持するため、大手と持ち合いをすることもないだろう。事実、従業員持ち株会が株主トップとなっている。
投資家からの目線では、円高メリットのある技術専門商社という切口だが、それはあまりに短絡的な見方であろう。また時代と共に、メーカーであっても、ファブレス企業が増え、オープンイノベーションという時代になってきて、当社がむしろ普通になってきたともいえる。それゆえ、官公庁や大学、大手企業の研究開発部門に、最先端の計測技術ソリューションを提供する企業という方が正しいだろう。実際、欧米企業の輸入品はアジアで作る場合も多いが、東陽テクニカ側で、モノ作りを指示したり、日本独自で調達することも増え、輸入販売は70%、30%は独自のソリューションとなっている。
足元は、円安でもあるが、以前ほど、影響せず、またクルマの研究開発の増加や、景気回復の中で電機メーカーなども、予算が増え、中期では、追い風であり、会社としては2020年度400億円を目標として取り組んでいる。
東陽テクニカの説明会は、投資家アナリストにとっても、2つのメリットがある。第一に、9月決算でもあり、説明会の日程が早く、他とダブらない。第二に、前半は社長による業績説明、後半は最先端の取り組み、という構成になっており、特に後半は最新の技術動向を学べる。
前回は、自動車計測の話であり、ADAS、EV、FCVなど、変わりつつあるクルマの研究開発動向についても勉強になった。
今回は、ICT分野の試験サービスの話であったが、非常に注目される。2020年に70億円が目標だが、もっと拡大する可能性もあろう。企業にとっては、突発的な、あるいはたまにしかない試験を自社でやるのはコスト負担も大きく、専門の要員を維持するのも大変である。計測器の負担もある。
東陽テクニカがそういう試験サービスをすれば、ユーザーとのプロフィットシェアリングが鍵だが、どんどんアウトソーシングが増えよう。いわば、SIerがやっているデータセンターの動向と似ているといえる。
NRIなどSIerがやってきたのは、ユーザーのIT部門を買収し、それをデーターセンターに集約することで、ボリュームメリットを享受し、ユーザーが蓄積していたアプリケーションの細部のノウハウも吸収できることにあった。これは、ユーザーにとっても高価なIT部門を常時温存する必要がなくなり、メリットが大きい。
IT部門と同じではないが、試験部門も同様であろう。現時点では、会社側も、そこまで想定していないが、半導体などハード系・大量生産系のテストサービスは日本では大きく育たなかったが、よりカスタム志向がある先端技術の試験サービスは、水平分業、アウトソーシングが大きな流れであろう。資金力もある同社が、これまでは、ユーザー側にあった試験機を保持し、さらに、試験部門の人員などチームを統合してボリュームメリットとユーザーノウハウを獲得もする。現在は、ICT部門の試験サービスだが、他の分野に広がる可能性もあろう。こうした新しいビジネスモデルに成功すれば、規模は増えるが経営重心は同じままで、新たな飛躍段階に入るかもしれない。