世間はGW、メーデーだが、こういう日に説明会があるのは、スケジュール調整上、逆に助かる。9時半から、ロームの説明会、13時から富士通のスモールである。
ローム 9時半から11時半まで
同社は、上期と通期のみの説明会であり、それ以外の四半期決算は個別対応になる。IR活動としては月次売上数字の公表が10日過ぎ、またホットなテーマにそった説明会(http://www.circle-cross.com/2015/04/08/2015年4月8日-ロームのlsi事業説明会/)やCEATECでのブース展示がある。説明会は、澤村社長になってからは、まず、社長の業績や戦略、株主還元についてのプレゼン、続いて、佐々山CFOによる財務経理の補足、主要なLSI部門、ディスクリート部門に関して、それぞれのトップから詳細な戦略について説明がありメモ取りが大変である。以前は、研究開発戦略についても説明があったが、最近は、部門戦略の中での説明となった。佐藤社長時代は、氏がマスコミには出ないポリシーだったのでNo2のトップが全体戦略を説明するやり方であった。同社をカバーするアナリストは、半導体系と部品系がいて、やや切口が違うが、業績の分析と商品や生産に関するもの、あと中期の収益性回復に関するものが多い。
同社とのつきあいも25年以上になる。NRI時代は当初は大阪調査部が担当したが、組織改正で東京がカバーとなって私の担当となった。この頃、丁度、会社側もIR体制を強化しつつあり、かつ、抵抗コンデンサーという部品メーカーのロームからLSI半導体のロームへの転換期であった。当時は半導体といえばDRAMが中心であった中で、希少なシステムLSIメーカーとして注目され、多くのレポートを書いてきた。
社名の由来は、創業の抵抗を表すRと、抵抗の単位であるΩを合わせたものだが1990年代に、抵抗器から、半導体へ成長ステージを移した。1990年代の10年で売上は2倍、限界利益率の向上で、利益は10倍となった。93年度までは売上2000億円前後、営業利益200億円と営業利益率は10%前後であったが、LSIへのシフトで成長性と
収益性向上を同時に成し遂げ94年度から倍々ゲームで最高益を更新し続け、97年度には売上3359億円営業利益率1166億円と大台を突破、営業利益率も35%を達成した。
さらにITバブルの2000年度には売上4093億円、営業利益1377億円と再び最高益を更新、売上5000億円、営業利益1500~2000億円が視野に入ってきた。ITバブル崩壊後も大手半導体メーカーが苦戦する中で健闘、2002年度、2003年度は営業利益1000億円弱を確保した。
しかし、2005年度以降、国内大手家電メーカーの衰退と共に、売上は頭打ち、営業利益率も悪化、さらにリーマンショック以降は更に厳しく2008年度は営業利益率は二桁も割り込んだ。主要顧客であった国内家電メーカーやデジタル家電向け特に光ディスクなどPC周辺など採算が良かったLSIが厳しく、海外顧客への転換が遅れた上、M&Aで獲得した浜松工場や宮城工場等のデジタルCMOSラインのなど内外の工場の負担も重かった。2010年に就任した澤村新社長のもとリストラを敢行、タイ洪水の影響もあり2011年度は初の赤字に転落した。2013年度からは、顧客においては国内デジタル家電から海外の顧客やクルマや産機向け、製品では、デジタルCMOSからパワーやアナログに転換、リストラ効果もあり、業績は回復途上にあり、二桁の営業利益率を回復、今期は売上も過去最高水準の4000億円に迫るが営業利益率もまずは15%を超え、できれば20%台に回復し過去最高益を視野に入れたいところだろう。
事業は、IC、ディスクリート、モジュール等であるが、収益の大半は、ICのパワーやMIXとディスクリートである。得意分野は、光ディスク関係やアナログ家電が多く、デジタル化ではややシェアを落とし、現在、構造を転換中である。
経営の特徴は、分野別の開発体制による製品提案力、設備の内製化や中古品の活用、ウェハーの内作化などである。役職者の数も少なく極めて簡素な組織を維持、従業員数も少なく、人件費が鍵となるディスクリートや電子部品は別会社化し、海外シフトで、コストを押さえている。関連業界のサプライチェーン、業界構造を熟知し、どの応用分野、どの階層が高収益を達成しやすいかを認識している。まさに、「セットメーカーだが(セットの動向をよく熟知しておりセットにも参入できる)、収益は半導体メーカー(セットよりも高い収益力を達成できる)」であった。また、タイミングのよいM&Aも特徴であり、旧ヤマハの浜松、LSIロジックのつくば工場、OKIの半導体部門を買収、の他、MEMSのカイオニクス等で実績。今回もルネサスの閉鎖予定だった滋賀工場8インチを2016年2月に10数億円で取得する。
説明会では、ほぼリストラに目途がつき、澤村社長以下の経営陣も構造転換に自信が見られた。業績は為替前提や在庫の積み方など慎重であり、500億円程度の営業利益は視野に入っていそう。すでに収益改善したディスクリートに続き、LSIも営業利益率が10%超えが安定してきている。
注目されたのは、株主還元であり、この3年間、FCFの100%を使い、配当性向30%の上、余った場合は自社株買いに使うことが表明された。もちろん、キャッシュを寝かすことはなく、これまで同様、M&Aや提携にも前向き。
また、設備投資も注目される。クルマや産機、海外向けのアナログパワーの旺盛な需要から10年ぶり高水準の750億円の設備投資、前工程では浜松や滋賀の転換や増産、後工程ではタイやマレーシアに新工場を建設する。内外の工場再編も一段落、各工場を強化、RPSというLT30%減などロームの生産革新で増強する。750億円の内訳はタイマレーシアの建屋が150億であり、前期のずれ込みが90億円から考えると、実質は500億円程度であり浮かれているわけではない。ここ数年、稼働率が低かった浜松1Fの12インチもパワー系に転換でフルになり空スペースを増強する。8インチも浜松2F、ラピス宮城、京都に加え、アポロや取得する滋賀に展開。特に需要が中期で期待されるMEMSは買収したカイオニクスも含め10k能力を超え、最大規模の能力になりそう。
また、ディスクリートでは、IoTに関連してWiSUNという日本発の国際無線通信規格向けにローム傘下のラピスのチップだけが対応できる模様である。920MHz帯であり、電波が飛びやすく、面積の広い米豪で普及が期待されそう。
富士通 スモール 13時~14時半
同社のスモールは、数字の確認という意味では、他社と同様だが、大きな違いは、IRだけでなく、各セグメント、国内IT、海外IT、サーバー系、通信系、PC、ケータイ、半導体から責任のある立場がIR対応をするということであろう。ほぼ事業部長並みの見識があり、開示可能な範囲で業界動向や背景について説明、質疑に対応してくれる。
今回は、中身不明の「戦略投資」300億円で減益予想のせいで当日の株価は大暴落の上、執行役員と、このメンバーには「中身」は伝わっていはいるが一切口外禁止のもどかしさ、その中身の重さのせいか、いつもに比しても重苦しい雰囲気であった。
業績自身については説明会や短信などに集約されており、細かい数字前提の確認だが、中身が不明の「戦略的費用」300億円を除くとほぼ営業利益は横ばいであり、どうにでも変動する範囲であり、それほど詰めた計画ではないような印象を受けた。
為替は、円安デメリットを受けるのがPC、サーバー系、メリットが通信、半導体(特に子会社の新光電気)だが差し引き200億円のマイナスの模様。
国内ITの景況感は産業、流通、社会、公共が微増、金融が横ばいだが、意外だったのは前期の着地では流通や社会が下振れしており、これまで説明会であった旺盛な引き合いで選別している、というのとニュアンスが異なった。
国内SIはロスコンは半減、今期はマイナンバーのハードも増え業績寄与する一方で、データセンターがハードサポートの小口化で収益性が落ち気味であるようだ。
海外ITの景況感はUKは好調だが値下げリスク、北欧の不調、大陸の期待と不安、アジアの不調など斑模様。既に黒字化はしたが、営業利益は2%程度で、欧州依存が大きいため、為替や金融情勢など不安が残り、再び更なる抜本的な改善も必要だろう。
サーバー系は、採算のよいMFが長期で低落しており、IAやUNIXで補えない状況が続いている。右肩下がりが続くMFに依存する構造が不変であり、ハード・ソフト共にMFを除くと、トントンに近く、期待されたストレージ系も低水準のままである。この構造では、為替やMFが端境期では赤字転落となるリスクを内包している。
通信は、国内は堅調だが、NTT相手では大きく儲けさせてもらえない。海外は、キャリアの設備がピークアウトであり、円安でフォトニクスの改善に救われた形。
海外では通信機大手の再編や、ラジオクラウドの流れもあり、ここ数年以内に大きな変化の波に翻弄される可能性があろう。かつては本家本元のコアだが、大きな収益貢献は蜃気楼にように遠ざかっており、山本社長時代にも明確な中期の方向性が示されないままであった。
ケータイは横ばいで増益だが、コスト削減などが背景であり、実態は厳しそう。PCも、ウィインドウズ買換えの反動やユーロ安もあり赤字転落であり、厳しそうである。同社のPCは、他社と異なりBtoBモデルとはいえこの規模で円安では厳しいだろう。
当然、戦略投資の中身は、ガードが固いが、既に田中次期社長、塚野CFO、山本前社長で決められ、青写真はあるが、機関決定ではなく、株主総会以降になる、また、日経報道にあった教育や人材投資というのは日経の憶測で、また、塚野CFOは構造改革ではと強調していたが、この意味は、いわゆる人切りではない、ということのようだ。
大半のアナリストや投資家は、「1年で完了、コストも300億円で済み、それも構造改革でない」という説明を信じず、おそらく、いわゆるリストラで、1年で終わるわけがなく、最終的には、累計で、他社同様に数千億円規模になると、疑心暗鬼のようだ。肯定も否定もなく、私の「脱ハードの商社化か、他社との部分か全体統合」というレポートについては、「肯定も否定もないが、ああいう説明だと、そうしかないね」という表現であった。ただ、「では、説明を聞くと、納得、信じるにたるような内容か?」と聞くと、かなりスッキリ納得感があると説明された。
もし通常のリストラなら、スッキリ感はないだろうし、いちおう会社の説明を言葉通り受け止めて信じ、また株主総会決議がいるとなると、やはり私の「妄想」シナリオの可能性が高まったように思えた。ハード部門、いちおうユビキのケータイやPCは、リストラ一段落で、残るのは、通信部門やサーバー等である。これらの部門を、工場等中心に、例えばファーウェイなどに売却、一部のNTT向けにSIと一緒にできる部門は残す、など、商社化と経営統合の合わせ技ではないか。
長期で見ると、付加価値は、端末からインフラに移ってきたことは疑わないだろう。端末で重視すべきはプロセッシングやメモリではなく、インターフェイスとネットワークへの接続性である。ルーターやサーバーなど設備投資の主体は、キャリアであり、データセンターであった。しかし、今後、クラウド化が進むと、付加価値は更にキャリアやデータセンターのから、クラウドへいく。
そこでは、サーバーやルーター、基地局すらいらず、アンテナや接続点や中継器があれば、よくなる。基地局では、いわゆるラジオクラウドである。設備投資の主体も変わる。ネットワーク全体で持つべきメモリやプロセッシング能力も、クラウド側に移り集約される。それゆえ、個々にSIやサーバーを提供する必要もなくなる。富士通の焦りはそれを見越した動きかもしれない。