2015年5月13日~カシオ計算機~次期社長紹介と中計

カシオ計算機は、アナリスト駆け出しの頃は、同僚と一緒に本社も訪問もしたが、むしろ、液晶市場調査の対象で、羽村や高知などの工場を訪問した方が多かった。70年代の電卓戦争に勝利して勢いがあり、軽薄短小の液晶や半導体実装技術とユニークな商品開発力はあるが、コンピュータなどやるのは無茶だという印象だった。30年弱の付き合いはあるが、セルサイド時代、特に2000年までは液晶中心にしか見ておらず、企業として全体をきちんと分析したのは、この10年強に過ぎない。

ただ、10年前に投資家という立場として久しぶりに見ると、2005年頃は、ポートフォリオを絞り込み、キャッシュフローを稼げそうな魅力的な会社に思えた。実際、業績も好調で、2006年度は売上6200億円超え、営業利益も480億円と500億円に迫った。しかし、多くの投資家やアナリストが拡大に反対していたケータイやデジカメに拘り、リーマンショックの直撃もあり、業績は低迷した。そしてようやく、これらをリストラ、2014年度は当期利益では最高益更新、2015年度は営業利益以下でも最高益更新を狙えるところまで回復した。

もともと、同社は、樫尾4兄弟によって、形ずくられた会社であり、長男が財務、次男が開発、三男が営業、四男が生産とすみわけて発展した。新製品開発の気風が強く、特に、半導体をうまく使うことで、小型化、軽量化、低価格のヒット商品を提供してきた。なかでも、ハンディ電卓のカシオミニ、初のデジカメQV10、時計のGショックシリーズなどは特筆されよう。また、大激戦の上、多くの大手企業が撤退した電卓戦争の勝者である点も記憶に残る。こうした製品のキーとなる液晶や実装などデバイス技術も得意である。かつては、上述したように、現在のWintel方式ではない新しいコンセプトのコンピュータにも挑戦などの進取の気風もある。デジタル家電、民生エレクトロニクス分野ではあるが、TVDVDなどの据置き型ではなく、ポータブル機器が中心。また、新しい商品は出すが、大手企業が参入してブームになる時よりは、成熟した頃に参入して残存者メリットを狙うのも特徴である。ただ、コスト力はありボリュームは得意だが、電卓や時計と異なり、サイクルが短いスマホのような製品は不得意である。また、ファブライトの生産戦略をもつ。

同社のIRあるいは説明会は、洗練されてはいないが、味わいがある。何といってもカシオを創業した樫尾4兄弟の一人である86歳の樫尾社長が上期、通期は説明会に登場、直接、説明がなされることであろう。歴史的な経営者の話を直に聞け、質問を直にできる貴重な機会である。その意味では、信越化学の金川社長と双璧であろう。特に、新製品の紹介では手振りを交えながら熱心であり、興味深い。また、自ら、カシオの経営を解ってもらおうという意欲や熱意、誠意には頭が下がる。ただ、剛速球をインハイに投げこんだつもりの質問をしても、老獪なのか天才肌ゆえか解らないが、哲学的な回答になる。かつて説明会の冒頭に円高で下方修正とのことだったので、為替に中立な方策を突っ込んでも一言「いい製品を作ること」と返され、困惑したこともあったが、10年近く説明会で質疑を直にやっているとだんだん味わい方、いや、カシオの経営の真髄がわかってきたような気もする。

もちろん、それだけでは分析のしようがないので、そこは高木専務やIR室長がフォローしてくれるし、個別取材でも数字などクリアである。また、最近は、時計など、幾つかの重要事業の説明会もある。

今回、最高益更新を花道に、社長を長男に譲り、会長に就任かと寂しかったが、まだ1年は会長社長で人の2倍働き、業績推進に専念ということで安心した。自らの業績や経営戦略について説明後、次期社長を紹介する際に、「社長になる息子を紹介します、人は良いが未熟です、共に業績をあげることで一人前にする」という説明であった。おそらく、オーナー系であっても、普通は、そういう説明ではなく、「社長になる樫尾和宏を紹介します」というあえて客観的な説明をするだろう。そういう実直で素直な紹介の仕方をする人柄、また、それを周囲のスタッフがあれこれ言わないところも印象的であった。また、「新」社長の最初の一言は重要だが、「カシオの社是は、創造と貢献です、カシオファンのために頑張ります」というのも好感を持てた。

現社長による説明を、新社長がどういうふうに見ているかも、観察もしていたのだが、自然なものであり、オーナー創業者でもあり親でもある社長に対し敬愛の情が感じられた。ガバナンスだ、コンプライアンスだ、といっても所詮は人間所帯であり、最近は大塚家具のようなこともある中で、いろいろ知らないところではあるだろうが、親子が仲良く信頼し合っていないと経営陣も社員もまとまらないだろう。

さて、説明会では、現社長により今期と来期の業績の説明、中期計画として2017年度の業績について数字が示された。2015年度は、売上3700億円、営業利益500億円、当期利益330億円、2017年度は売上5000億円、営業利益750億円とされた。以前の売上を追う中計に比べ、収益重視であり、かつ本業の時計などに絞られており、全体感としては評価できよう。また2015年度はROE15%以上、配当50円も視野に入っていよう。

その中では、主力の時計は売上げも収益性も慎重だが、デジカメ、辞書や電卓、楽器は収益性は慎重だが売上げは少しリスクも感じた。また、システム事業は、リスクはあるだろう。辞書と電卓、楽器を2015年度から一括にして教育とするのは、経営重心の視点からも、学生など相手で、ボリュームも同様、周期もやや長めであり、納得がいく。また、融合商品も生まれシナジー効果もあるだろう。その背景には、国内辞書の市場が飽和縮小する懸念がある。また、2017年度には新分野のリスト端末が含まれるようで、その開発負担や立ち上がりコストを見ているせいか、収益性はリスクを見ているようだ。

新分野として2017年度に期待しているのが、①人材開発システム、②サイネージ、③リスト端末である。これらの売上や利益の貢献は不明である。

この人材開発システムは、例として新人を短期で業界水準以上に育成するものや、3年間で業績を倍増させるポリシーイノベーションのシステムの外販だと説明されたが、イメージが湧かず、そういう教育事業をするのか、ソフトを売るのか、あるいは教育機器(電卓、辞書、楽器)に、そういうソフトを入れて、計算も英語も音楽もでき仕事や経営も上手くなるような端末にするかと思ったが、理解できなかった。しかし、サイネージが、それ自体を外に売るというより社内の製品の宣伝に使うということからすれば、そういう社内教育にも使うというイメージだろうか。

この中で一番、カシオらしい製品として期待できそうなのはリスト端末であり、アップルウォッチの感想を質すると、カシオは時計としての価値にこだわり、特に電池寿命が重要だという回答だった。来年のCESには出展される模様だが、その頃には、アップルウォッチの評価も定まり、ウェララブル市場も見てくるだろう。

2015年度については、システムは下ぶれするが、時計中心にカバー、会長が花道を飾り、新社長に初年度に泥をつけたくないということからも、全体数字は十分に達成できよう。景気が少し腰折れした場合、あまり無理をすると、反動は心配ではある。

2017年度も、コンシューマ部門である、時計、デジカメ、教育は、会社側の売上4000億円営業利益650億円は、時計が売上げ2000億円、営業利益450億円(2014年度売上1530億円、営業利益300億円、2015年度計画 売上1700億円 営業利益350億円)、その他の売上げ2000億円、営業利益200億円(2014年度、売上1400億円弱、営業利益170億円、2015年度共に横ばい)から難しくはないだろう。しかし、やはり課題は売上げ1000億円営業利益100億円を必要とするシステム部門であり、そこはリスクを見ておくべきだろう。むしろ、そこで中計の全体数字に拘り、かつてのケータイ等の愚を繰り返さないことが重要だろう。新社長体制では、あまりシステム部門に拘らず、2017年度にも期待はするが、その後の、2020年に向けたカシオらしい新商品作り、継続成長のための磐石な経営基盤つくりに期待したい。