GSユアサは、旧日本電池(ブランド名がGS)、旧ユアサ電池が、2004年に経営統合して誕生してできた会社であり、自動車用バッテリーで最大手である。なお、GSというのは創業者の島津源蔵(二代目)のイニシアルで、初代の島津源蔵は、島津製作所の創業者である。出身の福知山に長田野工業団地があり、そこに工場があったので、名前は知っていたし、小学校時代に見学会か何かがあったかもしれない。その後、90年代初頭にNRIで二次電池中心に電池のレポートを書いたが、その際に、取材したのが最初であったと思う。この電池のレポートは、他に、東芝電池、松下電池、ソニー、東芝と旭化成のJV会社、など訪問、貴重な工場見学もして、当時は注目された。その後は、日本電池も、ユアサ電池も業績は低迷、直接担当ではなかったので、接触はなかった。GSユアサとして発足した後に、IRもでき、同僚と一緒に数回訪問した。むしろ、定期的に取材するようになったのは前職のヘッジファンド時代の10年であり、説明会にはほぼ出席し、スモールや、IR訪問、京都での個別取材、工場見学会など年間数回程度、累計で20~30回程度のINPUTであろうか。
長年、特に90年代は、自動車用バッテリー業界は厳しく、それゆえ2004年に業界トップ2社が合併、リストラをし、業績が安定してきたのが2007年度くらいからである。伝統ある鉛のバッテリーだけでは成長性がないので、リチウムイオン電池に参入、2007年に三菱商事や三菱自動車とJVで、EV用のリチウムエナジージャパン(LEJ)、2009年にホンダとJVでハイブリッド用にブルーエナジー(BE)を設立した。
GSユアサは、4セグメントからなり、国内自動車用電池、国内産業用電池、海外、リチウムイオン電池であり、国内自動車電池は損はしないが大きくは儲からない、儲かるのは国内産業と海外であり、ここの儲けを、リチウムイオン部門に投し、巨額な設備投資をして将来の成長に資する、というのが基本戦略である。リチウムイオン電池は、クルマ用が中心であるが、ボリュームがあるクルマ用で開発や償却を進め、ここではそれほど儲からないが、技術を確立して、将来は産業用にも、どんどん展開しそこで大きく儲けるというものであり、これはかつて鉛バッテリをクルマ用から産業用に展開したのと同様である。
国内自動車用は、原材料である鉛の価格の影響が大きかったが、鉛価格とバッテリー価格をスライドして決める方式になり、多少のタイムラグはあるが収益は安定する。最近の営業利益率は数%である。この部門の売上げの1/3程度が新車用であり収益への影響は小さく、半分弱が補修用でここの価格ネゴや数量が収益に影響し、クルマの走行距離や天候などで変わる。残り1/3弱はカーナビであるが販売だけであり売上げ減少傾向だが損益影響は無視できる。
国内産業用は、単なる電池だけでなく、UPS電源などもあり、フォークリフト用、基地局向け、ソーラー環境用バックアップ、など幅広く、のびる新分野で収益を確保する一方でメンテ工事で安定収益を維持できる。営業利益率は10%強を維持している。
海外は、売上規模が大きく、新興国向けの四輪、二輪向けの、新車、補修のバッテリーであり、急成長している部分もあるが、拠点も大きく、国内と違って、旧GS、旧ユアサ系と重複も多く、まだ再編過程だろう。昨年より、タイの会社の統合、インドネシアの持分法会社を連結化などあるが、連結対象も持分法も混在しており、為替もいろいろ、人件費などもいろいろ、本来は、もっと収益性が高いのだろうが、数%である。再編リストラと成長ポテンシャルをいかに顕在化させれるか、のバランスが難しいだろう。
リチウムイオンは、これまで1000億円近い設備投資をしてきたが、先行投資が回収されつつあり、赤字が縮小、ようやく今期はゼロが視野に入ってきた。BEは既に黒字化した模様だが、LEJが水面下である。この部門の計画遅れが収益の変動要因であり引き続き注視する必要があろう。
同社のIRは、統合直後の第一期というべき時代から、第二期を迎えてかなり確立されてきたが、発展途上だろうと思う。工場見学会に加え、証券会社主催のセミナーなどはあるが、その度合いなどにやや波があることもあり、会社主催を増やし安定的に広く開示を進め、HPの更なる充実や開示など期待したい。特に、今後は、2006年に就任、実質的に統合後の同社初代社長ともいえ、統合とリチウムイオンの事業化をリードしてきた依田社長が退任、新社長に交替だが、その中で、大いに期待したい。
説明会は、決算発表後、上期と通期、少しタイムラグをおいて、あとは中計など発表時に、社長自らのプレゼンがあり、参加者も多いが、やや質疑の時間が少ない。決算直後なら仕方がないが、少しタイムラグを置くなら、十分に中期の話も聞きたいし、事業の説明もあってもいいように思う。
今回の決算発表では、40分くらいの説明と、質疑があった。アナリストカバレッジは、まだ数社であり、部品系、ハイテク系、その他と混在している。また今回は、統合後10年弱、リーマンショック、震災、さらにはバッテリーの事故などもある中で、統合とリチウム事業立ち上げをリードしてきた依田社長が、最高益を達成、リチウムも黒字化の目処がつき、花道を飾り、後任の村尾氏にバトンをわたす。2015年度の計画の売上4000億円、営業利益240億円は、中計の数字の売上げ4500億円、営業利益360億円には、届かないが、具体的に何かあるわけではなかったが予定もあったM&Aもないなどの事情もあり、まあ合格点であろう。
ただ、今後については、不安も多い。質疑では、確認できず消化不良だった。
国内自動車はISS車導入により補修用の買換えなどプラスがあり粗利率の数%の改善効果はあるが、先行きはピークアウトであろう。また、産業用も、ここ数年のびてきた環境関連が落ちてくる。
海外は、成長のチャンスとリスクが半ばする。現在、旧GSと旧ユアサ系の拠点の整理が進むが、やや拠点が多すぎ、コントロールも把握も、しきれていない印象があった。説明会では、質疑の時間がなく確認できなかったが、これら拠点の再編には少なからずリストラ費用も出るだろう。また、それぞれの系列の長年の膿などが出る怖れもある。一般的な新興国リスクは当然あるが、あまりに庶民のインフラになっているので、全く無くすわけにはいかず、賃金や為替、慣習も多様だ。決算では、海外は10-12月の分が、1-3月に反映されるが、その過程で調整項目が多くリスクがある。持分法の整理もこれから増えよう。これも質疑で確認できなかったが、短信にもあるセグメント開示で持分法への投資が200億円規模と大きく腑に落ちない。説明会では、中期では営業利益率を7%まで引き上げたいというが、先行するリストラ費用と裏腹だろう。
また、リチウムイオンは短期では黒字化目前だが、中期の成長では、EVでは、巨額の投資をするテスラや、国内ではトヨタ中心に燃料電池への流れがある。大顧客でもありJV相手である三菱自動車は調子がいいとは言えないし、BE社の相手のホンダも苦戦している。さらに、産業用やスマートグリッドに、リチウムではなく、水素系が増える可能性も高い。同社自身の規模、JV先の競争力を考えると、体力的に、世界の強豪とクルマでも、インフラ系でも戦うのは不安があり、これまでのリチウムの累損を回収するのは容易ではないかもしれない。