経営重心の視点で、スマホ等の短サイクルで大ボリュームのゾーンは、日本は苦手だから、韓国台湾に任せて、より長いサイクルで小さいボリュームを狙うべきだと主張してきた。実際、日立や三菱電機、NECは、そのようにして業績が回復した。半導体や端末系から撤退、社会インフラ系に特化している。
重心の推移を見ても、日立、三菱電、NECは回帰型だが、2010年までは、東芝、富士通が一直線型である。
では、長ければ長いほどよいか、ボリュームが小さければいいか、というとそうでもない。そもそも、日本人の発想はそれほど、長期視野でもないし、アポロ計画やマンハッタン計画など、宇宙開発やエネルギー開発など欧米がリードしてきたビッグプロジェクトマネジメントの経験も少ない。前例がない一つの巨大なシステムを設計する場合には、モノづくり的な量産効果も発揮できない。
日立は、鉄道をかわきりに英国の社会インフラを手掛けているが、長い間には政変や天変地異もある中で、長期で国家予算規模を扱って大丈夫だろうか、という心配はある。実際、これまで日立だけではないが、巨大ITシステムやプラント関係ではロスコンが出ている。だいぶ、経験をつみマネージ可能になってきてはいるが、より長期でより複雑化巨大化すると大変になる。特に会計処理は大変であり、先憂後楽・保守会計主義の日立ならではこそ、凌いできた面もあろう。例えば、10年で1000億円のプロジェクトがあり、コストが800億円だとする。工事進行基準で一番単純には1年目は売上げ100億円コスト80億円で営業利益20億円となるが、最初は工事が進まず、売上げ50億円だが、コストが80億円だと赤字なので、コストを50億円とする誘惑はある。ある意味、それぞれの年に売上げをどう配分するべきかコストをどう配分すべきか、は主観的であり、保守的過ぎてもいけないが楽観的すぎてもいけない。他の事業が苦しいときに利益を出すのもダメだが、保守的だとして費用を積みすぎ赤字が3年も続くと減損だといわれるかもしれない。さらに困るのが、途中で人件費や土地や鋼材などが高騰したり、金利や為替が大きく変わったり、安全性などの追加コストが発生したときには難しい。
会計学では「売却による正味の回収額と使用による回収額の割引現在価値のいずれか高い額を回収可能額とし、実際には一定の兆しがある場合に将来のCFを見積もりその割引前の総額を資産の簿価と比較、それを下回る時に減損を認識する」(企業会計入門 斎藤静樹)だが、割引率なんてどうにでも誤魔化せるし主性観が強い。「バックミラーを見て将来を予想するな」といわれるが、バックツーザフューチャではないが、将来への楽観や悲観といった気分で過去を判断しろ、というようなものである。
暖簾代も日本基準では一定の年数で少しづつ落とすが、IFRSでは上記のように、ある時、一気に全部落とすわけである。つまり、そうした会計的なマインドを持ちながら慎重にロスを出さないようにマネージしなければならず、多くの失敗経験が必要だが、長期で大規模ゆえに、何度も失敗もできない。
また、こういうシステムでは、人件費が中心であり、よく、人・月で計られるが、PCなどと違い、これまた配分が難しく主観的になる。PCなら、ある部品は、それが実装されているPCのコストに決まっており、一個の部品が同時に複数のPCに使われている幽霊みたいな話はない。
しかし、システムでは、一人の人間が複数のプロジェクトに跨ったりしている上、生産性が人によっても、その人の健康状態でも異なる。コンサルなどでもよくあるが、実際の仕事より、そうした時間管理を就けるほうが手間だったりする。そこでよくあるのが名義貸しであり、ある人間があり得ないほどのプロジェクトに跨り、同一時間に複数の場所で複数のプロジェクトに関わったりしていて、かつて防衛庁案件で問題になったのはこれである。コストを多く見積もれない場合はサービス残業になる。これが長期で巨大になればなるほど、より実態をつかみにくい。
これほどまでに、長期の巨大システムはやりにくいし、現場の管理が欧米向きであり、少なくとも、昭和の日本の会社のカルチャーではない。また、短サイクルでボリュームが多く時価で一意に決まり、コストも明確な半導体やスマホの事業とは全く異なる。
その意味では、サイクルも中程度、ボリュームも中程度のゾーンが一番、日本に向くように思う。実際このゾーン、5年から10年のサイクル、1000台から1億以下に、現在、日本が得意な、ロボット、プリンタやコピー、クルマなどが集中しているし、かつてPCやケータイ、液晶TVやデジカメなど日本のシェアが高かった時はみなこのゾーンであった。企業でも、三菱電機、オムロン、ファナックなどもここにいる。
日本が長サイクルで小ボリュームに強くなるには、なお多くの失敗と経験がいるのだろうか。