2015年5月13日 船井電機~底固めから反転攻勢

船井電機の名を初めて聞いたのはNRI入社数年目くらいだったろうか、大阪調査部の家電担当者が注目しており、海外生産でOEM等というビジネスモデルがあるのかと感心した。セルサイド時代は、直接担当だったことはなく、液晶の調査の関連くらいで、せいぜい累積で10回くらいだろう。むしろ、ヘッジファンドの運用という立場では、改めて関心を持ち、ほぼ毎四半期、説明会やスモール、中国の工場見学会にも参加しており、毎年、10回弱、10年で数10回はINPUTの機会があっただろう。ある意味、運用先でもあったので真剣だった面もあり、より多面的複眼的に分析していた。

会長の船井氏によって設立、生産は海外、市場は米中心、OEMビジネスという特色を持つ。国内では、ブランド認知は高くはないが、東南アジアでは有名。米国の量販店などでの認知度も高い。TVDVDなど向けOEMの映像機器と、プリンタなど情報機器が事業の中心。エレクトロニクス製品の市場が、飽和した頃に参入、TVとビデオを併せた「テレビデオ」などの融合商品と量産技術力で、残存者メリットを享受する戦略がユニークである。FPS(フナイプロダクションシステム)という生産方式で、中国工場等で展開してきた。DVDTVなど据置き型クラスの機器の量産に強く、メカトロ技術に強みを持つが、逆に、半導体や高密度実装技術が必要な小型機器には弱そうだ。

2005年頃、ブラウン管TVから液晶TVへの切り替わりに遅れ、DVD関連機器市場の縮小で業績が低下傾向にあり、またプリンタ市場も激化、ここ数年は苦戦が続いた。しかし、リストラで、欧州を立て直し、米国もチャネルを整理、国内TVメーカーが縮小する中でチャンスを見出し、米量販店でもシェアは上昇している。また、プリンタでは、OEM先だったレックスマークを買収、技術も生産も身に付け、今後に期待がかかる。中期的にまだまだ安心できないが、底は脱しつつある。

同社のIRは、ちょうど2005年頃は、元大蔵省官僚だった中島氏が、船井社長のもとで、経営トップとしてIRを担い、説明会、工場見学会にも参加、投資家サイドと実のある意見交換をされ、氏の丁寧で細やかな人柄には敬意を覚えた。脱線するが、中島氏は、現在、セーラー万年筆のトップとして業績立て直しに奮闘されているようだ。財務省OBで金融関係の会社の幹部となるのはよくあるが、関係の無い業界で挑戦された例では、中島氏とIIJの勝氏だろう。そういう、実業で活躍する例が増えることを期待したい。

またIRメンバーも非常に丁寧な対応に特徴があった。説明会では四半期毎にトップが参加、毎年の中国の数日の工場見学会も有意義であった。また、最近は工場見学会は無いようだが、事業説明会が適宜あり参考になる。

今回もそうだが、説明会の話題は、まずCFOが決算について、CEOの林氏が見通しや戦略について語るというパターンである。液晶TV事業の損益状況、在庫、情報機器の状況などが話の中心だが、米国依存度が高いため、米国景気、特にクリスマス商戦に向けての大手量販店の在庫とりなどの状況も参考になる。最近では、レックスマークの部門買収やフィリップスとの係争に関する説明もある。以下、質疑で私自身が確認した項目(在庫、販売や倉庫の整理の効果、4k化、新製品の中でサウンドバー)も含め記す。

2014年度の業績はアメリカ販社中心に改善、為替差益もあり、上ぶれた。売上2170億円、営業利益5億円、経常利益19億円、当期利益13億円。ポーランド工場の減損もあり、課題だった欧州のリストラは一巡しつつある。

2015年度は売上2200億円、営業利益16億円、経常利益は為替益を見込まず12億円、当期利益は4億円。

TV事業は、実績は、売上1421億円だが実績では20億円程度の営業利益は確保され、健闘している方だろう。今期は1649億円と増収、営業利益も30億台に増益の模様。米国市場は大型TVが好調、6月より55インチの4kTVの生産も開始。9月までには60インチを投入、ただ本格化は来年度、また2018年度は50インチ以上は全部4k化される見通し。米国でも量販店で日本ブランドへの人気があるが、東芝やシャープなどが縮小しているため、それを当社が三洋やフィリップスブランドでカバー、ウォルマートのSKU2倍へ。販売チャネルや倉庫などもブランド別に一元化をはじめ、コスト面も販売面でもプラス。今期の計画には織り込んでいないが、10億円程度の効果がある可能性はあろう。

完成品在庫は健全だが仕掛材料がやや増加しているが4kTVの仕込みではなく、1-2月の西海岸の港湾ストによるサプライチェーンの影響で商品不足があったため。4-5月はスローだが6月から季節性の上昇、パネル価格が高いとか不足はない。またシャープの経営危機の影響もないようだ。

プリンタは、2014年度は売上126億円、2015年度は100億円、減収だが、ようやく反転攻勢へ。今期は、レックスマークの部門買収効果による自社インクジェット製品が立ちあがる。このため開発コストも増え、部門損益は2014年度は10億円以上の赤字だったが、2015年度は赤字縮小、来期に黒字化を目指すようだ。レックスマークの特許や工場を2013年に100億円で買収したが、MEMSなど技術の横展開をはかり、医療生体、3Dプリンタなどで新規事業を模索。このため、全体の研究開発費も増加、レックスマークの持っていたレキシントンのR&D部門を活用。

なお、TVの薄型化でスピーカの音質劣化もあり人気が出ているサウンドバーはまだ1モデルであるが、今後2モデルへ。もう少し期待したい。

気になる米国景気については、当面は大丈夫だが、さ来年あたりは不安感があるようで、それまでに新商品など立ちあげ基盤固めをしたいようだ。フィリップスとの係争はあるが、TVでは同社やマグナボックスとのライセンス契約を2018年まで延長、かなり料率など改善した模様。その意味では、まさに底固めと反転攻勢の時期、あまり新事業にのめらずに現行製品、特にプリンタなどで成果を注視したい。