2015年5月17日 収益性と健全性、シャープと東芝に思う

前職のヘッジファンドの運用会社では、創業メンバー、主要株主、役員(当初は取締役社長COO2011年から代取CEO)、ファンドマネージャとして、10年働いた。アナリスト時代と違って、虚業で小さいながら(資本金は5000万円、売上は数億円は大したことは無いが、限界利益も数億円であり、営業利益は数千万、また、これとは別になるが数百億円の資金を動かし、証券会社へのコミッションも数億円あり、独立系ではトップ5といわれ、まあ、そこそこの企業レベルといえるだろう)、創業立ち上げ、マーケティング、トレーディング、運用、コンプラなどを経験、また、周囲との付き合いも、年金基金や富裕層、ファンズオブファンズ、や、証券会社も、ブローカーサイドも、プライプブローカーと両方の付き合いがあり、これらを通して、証券業務の全容が理解できた。また、役所との付き合い、弁護士、税理士や社労士などの先生方とのつきあいも含めて、大企業では経験できない会社の全貌も理解が進んだ。苦労はしたが、得難い経験だった。

2011年からは業容も拡大、人数も15人近くとなったが、2012年に同僚の体調不良や別の人材が辞め、後任が決まるまで、一時期は、実質、一人で社長をしながら、コンプラや、給料や経費の振り込み等経理処理、いろいろな雑務をしていた。日中は運用、それ以外は通常の取材をし夜の帰社、深夜に、月次のP/LB/Sや資金繰りは経理担当が作成したエクセルシートを参考に、営業担当の話と自分自身も含め運用チーム半年おきの計画を作成し、採用や賞与、利益処分をどうするか、などを考えていたが、総務担当が辞めた後は、自分で経費雑務をするようになり、月、二回の締めにあわせ、社員の領収証をチェック、自身で税理士が作成する会計ソフトの数字と、自分の整理用に作ったエクセルシートを照合し、週末に問題がないかどうか見ているうちに、自分の頭の中で、経費や収益のイメージが把握でき、実態を経理担当者任せでなく、体感できるようになった。

しかし、細かく見ていれば、分析予想できるものではなく、全体を変動費や固定費に分けて、あれこれシミュレーションするのは、アナリストと同じであった。自分の会社を、誰よりも細かい中身を知っていながら、外から分析するような妙な感覚であったが、アナリストの外部分析のノウハウは大いに役に立ったし、以前にも書いたが、社内にいて細かい数字を把握していたからといって的確な分析や予想ができるものではない。

これは、現在、アナリスト説明会で、CFOの説明を聞き、質疑で数字を確認したり、担当者が、数字の裏にある意味を知り、また本当によくコスト構造を体得しているか、ただ、知っている数字を並べているだけか、良くわかるようになった。

 また、会社の情勢が厳しくなると、最悪の状況に備え、いろいろなケースを考える中で、役員会や、株主総会、などで、どこまでどうなるのか、取締役、監査役はどうあるべきか、不祥事が起きた場合の処置や対応、また、いろいろな税務(先日のシャープの減資などもそうだが)なども含め、知らないでは済まされない。詳細の確認は、専門家に聞くにしろ、何を聞くべきか、など、こちら側がある程度、わかっていないと話にならない。から、以前、セルサイド時代に関心がなかった会社のかたちや、統制の在り方、など最近話題になっていることにも、実感を持ってとういうか、身につまされて、関心を持てるようになった。

おそらく、こうした、日々の経費処理から月次や半期の計画から、決算処理などの財務三表の作成や、利益処分や、株主総会、役員会や監査役などのあり方、監督当局や監査法人との付き合いなど、は、小なりといえども、最低10人くらいの会社の経営の経験が無いと、わからないだろうし、それ故に、今のセルサイドのアナリストには、勉強はしても、実感がわかないし、それほど関心も持てないだろう。

 今、No Sideという立場で、各社を外から見ていると、そういう経営力という意味で、前職のレベルとそんなに変わらないだろうというのもあるし、大丈夫だろうか、というのもある。規模は大きく形式は整えているが、多くは想像の範囲である。他方、そんな高度ではないが、工場などで、多くの多様な社員を使いこなしている企業には感心する。当たり前のことを当たり前にするのは、かなり難しいからだ。しかし、先日、触れた、日立などは、ちょっと想像ができないくらい、質的なレベルが違ってきているようにも思う。

そういう意味では、シャープの経営危機や、東芝の問題について、コメントしているが、正直、人ごとではないし、これに、30年間のアナリスト経験を加味すれば、内部の大変さは理解できる。また、いろいろな状況は想像できる。両社は、株価の状況やマスコミの関心においては似ているし、また、偶然だが本社が隣であり、立派な社外役員をおいている点も同様だが、その中身は、かなり違うとか思う。

シャープにおいては、この数年は、「期末が近付くと、計画達成のため、液晶パネル、特に亀山第二工場の稼働を無理に上げて、利益は上がるが、在庫もたまり、そして、その翌年は、その反動で業績が悪化、リストラ、また、その次は、新たな目標をたて、その達成のため、期末に向け在庫を積んで利益を上げる」の繰り返しである。そして、無駄な在庫を積んだ分、一時的に、利益は上がり、工場の減損は避けられるが、キャッシュはどんどん減っていくわけである。http://www.circle-cross.com/2015/05/09/201558-シャープにおける在庫の教訓/

つまり、無理な営業利益目標をあげ、それを達成しようとしたことが却って逆効果であり、優先すべきは、FCFあるいは財務の健全化だけでも良かったのであり、中計での営業利益目標は無かった方が良かっただろう。特に、日本の営業利益は、リストラ費用などが曖昧であり、特に、シャープにおいては営業コストであるべきコストが特損で処理され、それも当該年度だけでなく、後に纏めて処理されてきた。それゆえ、累積当期利益はある程度正しく経営成績を反映していても、営業利益は実態ではなく、これまでの実績数値も、実力以上に過大評価されていると見ざるをえない。そういう無理して(財務基盤の劣化を犠牲にして)、作られた過去の営業利益を参考に、中計を作ることが、どだい実態と離れているわけである。幸い、IFRSでは、そういう趣意性がないから、IFRSベースで過去の実態の営業利益を検証し、そこから中計の数字を、できれば営業利益よりFCFがいいだろうが、目標とすべきであろう。そうした指導なり助言をメインバンクや社外役員、監査法人、投資銀行がしないことに、大いに違和感を覚える。あるいは、彼らはもはや実質的に真の再生は諦めており、今回のファンナンスのように、他のスキームで資金回収を考えているのかもしれない。

 

東芝においては、シャープと全く異なると思うが、ある意味、経営重心でも、長期でボリュームの小さい(単価は大きい)ビジネスの本質であり悩ましい。

重電の長期ビジネスの状況は、長年の事業の経験者でないと、腑に落ちて理解できないだろうし、長期ゆえに、将来の社長やCFO候補が、キャリアパスの中で、数年、経験するという位では難しいだろう。それは、シャープにおいてOA機器出身の高橋社長がデバイスは違う難しいと吐露されたのと同様で、PCや半導体を経験したエースが見ようとしても容易ではない。

これまで、東芝は、二つのコアをお互い尊重して、うまくコントロールしてきたが、それゆえに、相互不可侵的であった面もあるかもしれず、特に、二つを繋ぐ部門が縮小する中では、余計に、結果が出ていればよしとする、という傾向があったのかもしれない。

過去の経営者を思い出すと、国際畑でもある西室氏以外は、伝統的に重電が多い。その中で、西田氏はPC出身であり、PCはもちろん、短期サイクル、ボリューム、グローバルという点では半導体も同様であり、その怖さも機会も肌感覚で解っていたと想像するが、PCや半導体と、重電は眞逆であり、2009年の思い切ったWHを買収決定は、ポジティブな意味でサプライズであった。その際に、後任の社長となる佐々木氏の提案や推奨があり、十分に精査、研究されたと思うが、肌感覚では簡単ではなかっただろう。

私自身がそうだったが、前職で経費やP/Lが体感できるようになると、日々の運用の中で、頑張らないといけないとか、このままでは儲かりすぎるなあ、というのが、肌感覚で解ってしまう。知ることは重要だが、肌感覚でリアルタイムでわかりすぎるのもよくない。運用会社では、それゆえに、経営と運用は分けるのが常識的だが、あまり現場を知らない人間が経営するのも怖い。アナリストが調査部長を兼任するのも同様である。これが、レベルを上げて議論すると、経営の監督と執行という話であるが、あまり経営重心が違いすぎると、そのバランスが難しい。

そこで、東芝の例では、これまでも代取は二人であることが多いが、CFOも二人にして、半導体などのコアに熟知した代取、と重電系のCFO、重電系の代取と、半導体系のCFOというように、たすき掛けで、組織で工夫するのも一考であろう。また、B/Sも種類の異なる二つに分けて表示されれば、解りやすいだろう。短期のスマホや半導体も大変だが、長期の事業は、影響度が大きく世界のインフラであるがゆえに、同じ会社とはいえ、同様の尺度、会計、人事評価で、計測するのも大変だろう。今回の問題は、ガバナンスや収益へのプレッシャーなどの他に、いや根本的なところに、そういう経営重心から見た違いも大きいように感じたし。それをどう今後、制御していくかを注目も期待もしている。

http://www.circle-cross.com/2015/05/14/2015514-総合電機の経営重心とポートフォリオ-短期も怖いが長期も不安新/

http://www.circle-cross.com/2015/04/20/2015420-双極型経営重心の東芝の重心外れディスカウントの悩み/