2015年5月29日 トポス会議に参加

2015529日 トポス会議に参加

 トポス(topos、ギリシャ語で場という意味)会議は、野中郁次郎一橋大名誉教授、紺野登多摩大学教授を発起人として設立され、富士通や富士通総研が支援している、知的共有財産を創出する非営利研究組織「World Wise Web Initiative」(略称w3i)による定期的な議論の場であり、ワールドクラス人材のソーシャルネットワークの構築を目標としている。http://w3i-topos.org/

 全10回で今回は8回目で、招待されたので参加したが、今回のテーマは、トポス1「IoT産業革命が描く新しい現実」(SAP svpブラサッド氏、日本GE熊谷氏、経産省審議官 松永氏)、トポス2100年後の地球、そのランドスケープを構想する」(青学女子短期大 橋本氏、M2ラボ 加藤氏)、トポス3「企業が変革する産業システム、社会システム」(富士通研 佐相氏、ハリー氏、田川氏)、総括(野中教授)、ネットワークイングセッション(富士通 山本社長)であった。

トポス12のみ参加した。1320分~1830分までが講演や議論、1830分から2030分が懇親会だろう。

会場は、六本木ヒルズアカデミーで、100名位、ほぼ満員だったが、単なる専門家に話を聞くというのではなく、賢人達が議論する双方向の場という意識からか、6人掛けのテーブルが、あちこちに置いてあり、そこで話を聞くというスタイルだった。いずれのトポスでも、紺野教授とキャスターの都筑氏が司会、パネルディスカッション方式で、3人が資料(非配布)を使い10分位ずつ話をし、その後、更に議論を深めたり、聴衆に赤色と緑色のカードで賛否を問う、参加者からの質問を受けることはなかった。

トポス1

 トポス1は、今話題のテーマであり、興味深かったし、SAPはインダストリ4.0でドイツともかかわり、そこでも有名なブラサット氏、日本GEのトップ、という人選も素晴らしかったし、プレゼンもビジュアル、具体例もあり、内容も参考になった。

 SAPブラサット氏の要旨

90年代はコンテンツのインターネット、2000年は人々のインターネット、これからはモノも含め全てのインターネットだ。これによって、ビジネスプロセスも、顧客体験も、人々の振る舞いも再構成される。効果も大きく、環境ではCO270%削減、産業では500億ドルのコスト削減、農業では収量が67%アップ、値段も下がる。

 IoTとインダストリ4.0は似ており、少し重なっているが、IoTはずっと広く、あらゆるエッジとクラウド、ありとあらゆるものが分析され再構成される。インダストリ4.0はあくまで製造プロセスの話である。

これまでITと縁が薄かったところに広がるのも特徴で、スマート鉱業、スマート農業、スマート知水など役立つし、新たな設備投資や雇用も生まれる。予見的メンテナンスもでき干ばつも防げる。選手の怪我の予防やメンテにも使える。

日本GE熊谷氏の要旨

 インダストリアルインターネット、アドバンストマニュファクチュアリング、グローバルブレイン(要はオープンイノベーション)の三つが重要だ。

 インダストリアルインターネットでは、①ソフトで定義されたスマートデバイスを擁するハード、②センサーや、サービスロボット、コネクティングなどの技術、③データ解析をカスタマに提供できる。例として、ドイツでは風力発電のタービンの位置やブレードの向きをビッグデータを使い一個一個変えることで、発電量+5%、タービン効率+20%となった。

 アドバンストマニュファクチャリングでは、①グローバルのサプライチェーンがシンプルになり、②モノの再設計再定義がおき、③工場の運営の変化がおこる。例として、3Dプリンタで、燃料ノズルを作ったが、蝋付けが不要となり、耐久性5倍、複雑なバルブ部品のLT3ヶ月から2週間になった。

 グローバルブレインは要はオープンイノベーションだが、VBのネットでのコミニュテイの場があり、そこで家電のアイデアを応募したり、設計のネットでコンテストをしたら、インドネシアの学生が一番となった。

 これからは、働き方も変わり、生き方も変わる、枠組みやパートナーシップも変わる、そこでのコアは、知の場であり、これこそがオープンイノベーションである。

経産省 松永審議官の要旨

 ビッグデータとAIで産業が変わり、規格型大量生産ではなくテーラーメードになる。リアルの世界(GE、シーメンス)とネットの世界(グーグル、AMAZON)が双方向となる。その中で、従来の産業区分が意味がなくなる。

ダイアログ(紺野氏の質問に対しSAPGEの答え)

 システムアプローチは日本が遅れている、一方で日本の中小企業は、系列化され、サプライヤ的であるのに対し、ドイツはグローバルに発信し、IoTでつながる。この10年の変化の鍵は、オープンである。ここで重要なのは、分散していることである。多くの中小企業が分散して、いろいろなニッチにいてセンサとクラウドでデータを集めているからこそ、それがネットでつながり、戦略的パートナーになれる。

 製品の作り方も変わってきて、故障をどのように予見するか、を多くの中小メーカーとオンタイムで仕事をしている。サプライヤーとカスタマーではなく、リアルタイムのパートナーとしてである。

 欧米が強いのは全体の構想力であり、無いものはM&Aで得る。日本が弱いのは構想力とスピードである、擦り合わせなどしている場合ではない。ケイレツを超えて、スピーディに中小企業から提案しないといけない。

 日本は人のインターネットでは、ソーシャルネットなどでは負けたが、IoTではチャンスであり、既に日本の機器はFA化されており、チャンスがある。その鍵は、オープン、知財共有、協創、新しいモデルを試す、スタートアップ企業の支援(クラウドファンディングなど)だろう。

ここで、会場に、質問1「新しい産業革命は現在のモノ作りの延長線にあるか」質問2「あなたは、新しい産業革命をイメージしているか」をYESNOで聞かれた。質問1は多くがNo、質問2は半々だった。ちなみに私は、No、と Yesである。

私の印象

 最近どこでも、IoTやインダストリ4.0だが、SAPGEの話は大変参考になり、特に、機器やハードなどの話ではなく、むしろ、我々のマインドの問題、マインドも含めた産業構造の問題を重視しているのが驚きである。

 SAPの話では、①これまでIT化されていないところが効果が大きいとか、そういう産業こそ、構造が大きく変わる、②中小業が主役であり、分散化していることが重要でそれらがネットでつながると大きな力をもつ、③日本の弱さは大きな構想力とスピード(ケイレツや擦り合わせが逆効果)と、率直に指摘した。

 GEでは、インダストリアルネット、アドバンストマニュファクチュアリングと並んで、それ以上に、グローバルブレインをあげ、それがオープンイノベーションの本質だとした。

 つまり、彼らは、全体像を構想して、スピーディに、世界中に発信して、知恵を集める、協創し、利用し、提携、場合によっては、M&Aする。日本は、ゆっくり擦り合わせして、自分が中心にやろうとするし、大企業が中心であり、中小企業はサプライヤとしか見ていない。そういう発想の転換こそが、それに伴う仕事の仕方を変えることが、IoTの本質だろう。

 もっといえば、個人商店の時代、あるいは昭和30年代、戦前の魚屋、八百屋、木工所、などなどが、お互いの信頼関係の中で、お互いの個々のニーズを把握し、それぞれの状況に応じて貸し借りをしていた。それが高度成長で大量生産大量消費、お互い顔が見えなくなったので、金利、コンプラ、在庫管理、が必要となった。それが、再び、昔に戻るが、それがネットで繋がり、小さな商店街小さな近所から、世界に広がるということだろう。そこでは、ニッチがニッチでなくなる。日本人はグローバルニッチトップという言葉が好きだが、ネットでつながれば、それが巨大化する。ちょうど巨大な恐竜から、小動物かの哺乳類の時代への転換を感じた。そこでは、巨大企業の役割は、VC的なものになっていくのではないだろうか。あるいは、それこそ、より大きなオープンなトポスを提供者であろうか。その意味では、恐竜から哺乳動物の比喩より、巨大な森に、一杯、昆虫が出てきて、昆虫を生かしつつ利用するという植物のモデルだろうか。大企業であるほど、コンプラが厳しく、外部との個人での情報交換が難しくなっているが、これが、オープンイノベーションと逆行しており、かつ、中国や台湾にも負けている大きな敗因である。欧米でも、水面下で、仲間作りがあり、その信頼関係には情報交換が欠かせない。また、個人が、情報を出すかどうか、またビジネスの進め方についても、いちいちコンプラも含め本社に判断を委ねているのでは、スピード感も含めて話にならない。そして、結局、本社は、決められず、形式的会議を繰り返し、アリバイ作りをするだけである。それなら、現場に任せた方がいい。いずれにせよ、センスの問題ではあるが、海外では、本社的なコンプラの厳しさと、そういう個人裁量、自由度にバランスがとれている。もともと、トップダウン、本社御意見仰ぎタイプの日本では、海外から見ると、ますます付き合いにくいだろう。そのくせ、本社中心の不祥事や本社ぐるみの問題は多いのだが。

そうなってくると、個々の事業は、中小企業やVBに任せ、より個人が自由に活動できるようにし、それを本社あるいは大企業が、支援し、うまく遊ばせ、生かすというスタイルがいいように思う。

トポス2

 ここでは、ビデオによる、ハーバードにポールサフォー氏の映像とスピーチの後、

「エコエチカ」を提唱する橋本典子教授の話であった。

 その後は、農業シンクタンクであるM2ラボの加藤百合子氏の話だったが、ビジュアルで面白かった。農学部出身でロボットも開発して、ママ目線で、農業関連をしている方だが、農業は、雇用、健康、教育などの社会基盤である、シェフと生産者をつなげる、という主張は同感である。また、ここでも共創、を強調されていた。特に、個人の力が大事になるが、その信頼関係を継続するには、気が合う50%と、お互いの情報交換が50%というのは大変参考になった。