2015年5月31日 日本航空電子 スモール会議(5月18日)に参加

既に428日に決算発表はしているが、決算集中日につき参加できず、同社の場合は、後日、何回かに分けて、合同スモール会議を催してくれるので助かる。518日、13時~14時参加した。渋谷道玄坂上の本社会議室で、参加者は会社側IR中心に3名、アナリスト投資家側は5名だった。だいぶ時間がたったが報告したい。

 会社側からは、決算説明会に参加できなかった人のために、説明会の資料に沿って要旨、コネクタの用途別に状況が説明され、あと質疑であった。

 スマホ向けでは4Qは季節性通りにQ/Qで落ち込んだが通常より小さかった、中国向けが大きく落ち込んだ。しかし今期に向けては中国向けの回復が大きい。中国の比率は従来の10%程度から20%くらいに倍増近い可能性があり、またスペックでは、欧米トップと変わらない。クルマ向けでは、堅調であり今期もどの客もバランスよく伸びる。クルマのうち、情報、ボディ、インパネの比率は、4:4:3である。産機は、FAは続伸だが、鉄道が中国等一服。

4月の月次受注はm/mでプラス、スマホもクルマもプラス、5月は季節性もあり落ちる見込み。

 今期計画が保守的である背景として、価格低下を通常より大きく見ている。設備投資は信州の新工場だが航機や装置など。内訳は非開示だが、ここ数年は、金型のウェイトが小さいが、金型寿命が延びていることと、小型化で手動での組立が難しくなっており自動化機械が増えている。

有形固定資産の回転率が顕著に改善したが、やや出来すぎだが、特にMIXがよく酋長して生産できたため。在庫日数も24日に低下したが、これも同様の理由で通常は28日。なお、内作率は少しずつアップしている。

 中期計画は、売上2500億円だが、その場合、純利益200億円は慎重であることを認め、あくまで最低だとした。

 

 同社のIRは、先進的だが模索中である。上下の説明会は、決算集中日を避け、やや早めに社長以下が出席して行われる。月次受注は、以前は、説明会参加者や取材の実績がある投資家アナリストから希望者にメールで送られていたが、フェアディスクロージャの観点からHPに掲載される。http://www.jae.com/jp/ir/library.html 問い合わせをすれば、応用別等もう少し詳細も聞けるようだ。また個別取材も、フェアディスクロージャの観点から、少し前から合同スモール制になった。同社のこうした努力には敬意を表したい。他方、応用別動向は、アップル等センシティブな顧客への遠慮もあり、やや後退気味であるが、顧客別はともかく、地域別や製品別は、以前のように、もう少し詳しくてもいいように思う。また、決算説明会の動画HP掲載や工場についての継続的情報開示、個人投資家向けに解りやすい資料があれば、なおいいだろう。工場見学は比開催であり秘密が多いようだ。

 セルサイド時代は、担当ではなかったので、継続的に取材や訪問することは無かったが、先輩か同僚と数回、本社を訪れた記憶がある。当時は、売上700800億円程度、営業利益は5070億円規模であり、堅実なイメージをもっていた。しかし、より印象深いのは、当時、日米摩擦が激しい中で、米国のレポートか何かで、国防技術上、重視する日本のハイテクメーカー一覧に、日立や東芝など大手企業と一緒に、同社が掲載されたことで上げられたことである。当時は、同僚に担当アナリストが、コネクタ中心にヒヤリングしていたが、私は、ジャイロ技術に関心があった。セグメント上は、小さいが、航機部門にあるジャイロ技術が、その対象であり、コネクタメーカー大手であるが、そこが同社の起源でもあり他社との違いにもなっている。

 同社を継続的にフォローするようになったのは運用会社時代からであるが、それでも、もう10年弱になる。説明会にはほぼ参加、IRの個別訪問にもほぼ四半期毎に来て頂いていたので、累積INPUTは数10回くらいだろうか。

同社には、ジャイロ等で、もともと関心があった上、80年代はローテクと思われていたコネクタが、高成長高収益高競争力を維持している点にも興味をもったが、この10年は、アップル中心にスマホの高成長期でもあり、同社が大きく躍進した時期でもあった。2005年頃は、説明会の参加者も少なく、アナリストカバレッジも少なかったが、次第に増えて、投資家の関心も高まった。

 同社の業績は、景気サイクルの影響を受けるが、減収減益となっても、5年程度で最高益を更新するダイナミズムが特徴的である。ITバブル時に、売上1200億円、営業利益100億円を突破、その後ITバブル崩壊後、低迷したが、2005年度には売上1263億円、営業利益110億円と、ITバブル時を更新、リーマンショック前の2007年度には売上1561億円、営業利益144億円とピークを記録、リーマンショック後の2008年度は赤字に転落したが、立ち直りは早く、2009年度からは連続増収増益で、2013年度に売上1598億円、営業利益165億円と、早くも最高益を更新、かつ2008年の中計での2011年度目標を達成したことになる。

2014年度は売上1921億円、営業利益259億円と、2008年中計での2013年目標に迫った。2015年度は売上2030億円、営業利益270億円と最高益更新を狙うが保守的であろう。また、中期では、売上2500億円、純利益200億円以上が示されたが、これも、現在のスマホ景気が大きく落ち込まなければ、売上2500億円は十分に達成可能であり、そうであれば、営業利益は400450億円が妥当なところであり、純利益は300億円規模になろう。

成長の牽引役はコネクタであり、2004年からみても売上規模は2倍、特にスマホを擁する通信は5倍、クルマも4倍強となった。通信の中では基地局もあるが9割はスマホであり、また海外が9割、米国が半分、残りが欧州、中国だが中国向けも全体の2割弱にはなってきたと推察する。中国もハイエンドが多く逆に採算がよいだろう。スマホは月次でも年間でも振れが大きいが、よく対応している。クルマは、国内大手2社が中心だが、堅調に増えている。

全体としてのコスト構造は、コネクタ部門と、それ以外で異なるが、コネクタでは、材料費が銅等を中心に1020%、外注が10~20%で、30%程度を占め、限界利益率が3050%と高い。固定費は、人件費15%、償却費と開発費で20%などと推定される。コネクタの営業利益率は15%で比較的安定しているが、通常年間5~10%の値下げ率の振れ幅や生産品目のMIXや生産性で変わる。

内作比率は10年前は50%程度であったが、徐々に上昇し60%強となっている。スマホ系は、加工が難しい背景もあり、ほぼ100%、民生は外注が増え、クルマや産機は、大モノは外注が多いようだ。

設備投資は、通常は金型と機械装置が半々だが、数年毎に拡大、プレスやモールドを増強する。2005年から2010年くらいのレンジでは、工場の生産面積は、1.6倍、モールドは2倍、プレスは3倍に増加されてるが、既にフルとなり、2012年度に再び設備投資を敢行した。工場は、子会社生産方式を取っており、国内では山形、弘前、信州、中国の呉江、無錫、フィリピンがあるが、2013年に増強した弘前、山形、フィリピンの新工場が順調に稼働しているようだ。多くの電子部品メーカーは2015年度の設備投資が目立つが、同社はややタイミングがずれている。設備投資は加工スピードの向上(2)や自動化であり、生産効率が上がっており、2014年度の有形固定資産回転率はそれまでの2.5倍強から3.2倍、在庫も32日から24日になったことは驚異的である。また金型の寿命も長くなっているようだ。中期での売上2500億円までは現在のラインでほぼ対応できると考えられる。

コネクタ業界は、同社だけでなく、ヒロセ電機、SMKなども含め、競争力と収益性を維持しているが、他の部品とは異なり、日本勢が上位ではない。トップはタイコやモレックスであり、トップ10の企業が全体のシェアの半分を占めるが、日本企業でランクインは、日本圧着端子、矢崎総業、ヒロセ電機、日本航空電子の4社である。さらに、興味深いことに、日本圧着端子、矢崎総業は未上場である。このあたりが、今後の調査課題であろう。

コネクタは、エレクトロニクス性能とメカ形状のバランスが重要で、日本が強い金型技術、まだ独特の業界構造や、各社で内製か外注か等の生産戦略も異なり、あまり抜け駆けをせず、お互いがお互いのシマを守って収益重視だったことが、業界全体の需給を狂わさず、それが安定化に重要だったのだろう。

矢崎は売上1.5兆円のワイヤハーネスの雄だが、コネクタでもトップでクルマ向けが多く、日本圧着端子は、売上1000億円弱、営業利益も50100億円の模様であり、より応用分野では、バランスが取れ、日本航空電子やヒロセと異なる。

スマホが一巡すれば、次はクルマや、IoTであり、棲み分けてきた市場構造が変わる可能性もある。また、コネクタも、高さやピッチが技術の限界に徐々に迫り、格差が開く可能性もあろう。各社の戦略、個性が微妙に多様であり、関心が尽きない。