タイミングが遅くなったが、5月13日のジャパンディスプレイの説明会に出席、質疑をして、個別取材でも確認したので、報告する。
同社は上場が2014年3月であり、現在の会社の形になったのは、その1年前であるから、長期の業績推移や企業文化等も分からない。前職で、設立前の説明会や、設立時の説明会、上場前ロードショー、その後のスモール等に参加しているので、累計INPUTは20回位であろうか。
ただ、同社の前身である日立、東芝、パナソニック、ソニーであれば、液晶の調査を始めたのが88~89年だから25年以上になり、累積INPUTは1000回位になるかもしれない。工場見学も、日立は茂原のV1から東芝も姫路(DTI)、深谷、パナソニック石川等、殆ど全て、特に90年代はほぼ毎年訪問していた。調査を始めた当初は、矢野経済はあったがSTN中心であり(そもそもTFTが立ち上がっていなかったが)、90年代前半は、ディスプレイサーチ等リサーチ会社もなく、相対的には情報優位にあっただろう。89年にNRIで発表した液晶市場が95年に1兆円、2000年に2兆円という予測は注目をあびた。2005年までは、JPモルガンや、みずほ証券で、韓国や台湾の工場見学も訪問、90年代程ではないが、国内の液晶工場も見学し市況をフォローしていた。しかし、丁度、日本が液晶TVでも、パネルでも、急速に競争力を落とす変化点の2005年に運用会社を立ち上げ運用者であったので、これまでのようなフォローはしていなかった。
日本の液晶産業がここまで競争力を失った原因は、既に多くの学者やアナリストが研究分析しているが、その多くは、2000年以降のデータや事実に基づくものであり、80年代後半からこの産業をフォローし当時の各社の事業のトップと付き合ってきた中では、腑に落ちないものもあり、再度、分析が必要だと考え、当時のトップに面談しながら検証しているところである。ただ、私も、2005年以降の急速な変化にようやく追随しているところであり、また、能見工場も見学できていない中で、ジャパンディプレイの競争力が、どうなのか、は十分に理解できていない。ましてや、同社の決算資料は、継続性のあるものは1年しかなく、財務から分析するのも容易ではない。それゆえ、どうしても、セルサイドアナリストと同様の分析切り口にならざるを得ない。
白状すると、2014年度のジャパンディスプレイの下方修正は、これ程とは思わなかった。ロードショー時の会社側の環境認識や、アナリストの予想の営業利益の800億円とか900億円は甘いとは思ったが、上場直後ゆえに、通常の常識から言って、かなりリスクを見た保守的な予想だろうと、たかをくくっていた。多少厳しくても、400~500億円くらいはあるかと考えていた。それが、最終的には、50億円だったのである。自分では、業績モデルを組んで予測分析をしていたが、過去の歴史もなく、いわば、環境変化に対する企業の対応力が認識できていなかったのだ。
当社のIR体制も、四半期の説明会でトップが参加、あとはスモールや個別というのも常識的な線だろう。しかし、同社は、日本では珍しい液晶単独メーカーであり、スマホ市況に振れ易い。今回、1Qだけの業績予想を開示したのは、十分に理解できるが、その是非も含め、今後の検討課題である。四半期単位で、振れるので、この開示で短期投資家には、十分だろうが、長期投資家へのメッセージは難しい。中期のビジョンやROEが不明で、そもそも、この企業の平常時の利益水準がどうなのか、市況が良ければどこまで利益を狙えるのかは、新しく登場した企業ゆえに、全く不明だからだ。これまでの下方修正やその対応を経て、徐々に改善されていくだろう。
去る5月13日の決算説明会では、西CFOによる業績説明、新社長就任予定の有賀氏から今期予想と経営環境が説明された。適宜、大塚社長が補足した。これまでの説明会は、下方修正が相次ぎ、かつ上場当初の甘い見通しも含め、厳しい雰囲気だったが、シャープの酷さで、同社が、経営、コスト、技術力なども含め、再認識されたせいか、むしろ、穏やかな雰囲気だった。
なお、設立来、3社統合に尽力し、上場来、辛酸を舐めてこられた大塚社長は、今回が最後の説明会であったが、最後は業績計画を維持、また、白山工場建設も含め、将来への道筋をつけ、安堵感があったように思えた。これまで、茨の道かもしれないが、花道を飾ったといえよう。エルピーダ以来、休む間もない大変な状況であり、そうした経緯も含め、統合および上場でリーダシップを発揮したのは、同氏のTIやソニーも含め長年の立ち上げ屋としての経験と人柄であり、シャープが経営危機に瀕する厳しい環境で、何とか道筋をつけたことは、将来、評価されるであろう。
西CFOの説明は、茂原G6は50k/月、能美G5.5もフル、独自インセルタッチのピクセルアイズ(Pixel Eyes、以下、PE)比率も前期末で60%となり今期は90%超えること、白山工場の建設発表だが、6Gで70k、これも含め、5年で3000億円の予定。
有賀氏は、今期1Qが4Qの売上2326億円営業利益107億円から、売上横ばいの2400億円にも関わらず20億円と大きく落ち込むことについて詳細に説明された。売上自体は、ローシーズンながら堅調、FHD比率も上がり限界利益率がよくなるように見えるが、実際は、ミックスの悪化と、昨年の苦しい時に受注したものが、低価格の上、円建てであり、コストが逆ザヤになること、在庫洗い替えの評価損、茂原などの固定費増加が要因であるとした。2Q以降は、こうした特殊要因が一巡して増益基調。
中期では、LTPSの日本の強みを生かし、またモジュールコストを合理化、5年後はクルマなど非モバイル比率を30%にし、営業利益率10%、ROE10%を目指すとした。
質疑は、殆どが1Qの利益の落ち込む点について突っ込まれた。私の質問も、その確認と、白山工場の使用条件、後工程会社の再編がありうるか、である。なお、聞いてもしょうがないせいか、シャープとの話については話題に出なかった。
1Qについては、結論的には、会社側の説明通りであり、固定費増と、円安、一部の特殊な採算悪化による。また、2Q以降は、増収基調が続き、営業利益は100億円水準を超えると考えられる。特に、アップル向けの引き合いが強いと推定され、その反動で中国スマホが不安だが、数量増とASPアップもあり、増収、売上2600億で、OP100-150億円の目線だろう。ただ、後工程のコストアップなどマイナス要素もあり注意が必要だ。
驚いたのは、中国スマホが、スペックもかなり高く、ほぼ全てがPE搭載しているため、限界利益がよく、欧米系以上だろう。また、顧客バランスもよく、すでに、上位5社に、ファーウェイや小米、ソニー、LGが入ている。限界利益率でいえば、いい順に、アジア向けPE/QHD、ついで中国のHWや小米等のPE/FHD、同PE720、欧米系は低い。また、ソニーは意外にも、PE採用未でOnセルのようだ。
車載は年間で1000億円、欧州系向けTier1が多い。コンチ、ボッシュ、デンソーで異形も、シャープは米国向け強かったが、フォードがJDIとったようである。車載その他のうち、その他が25%くらいで、デジカメ、ゲーム、医療。
設備投資では、今期2100億のうち、白山1300億(建屋500億、土地不明、装置は600くらい、全部JDI保有である。ただ、一部、資金手当は顧客よりあるが、オープンファブであり、優先は同顧客としても他へも展開できる。
また、残りの800億円のうち、PE対応(茂原一部と他工場)、IPS光配向、CMOS化キャパ減対応。後工程100億円の模様である。また後工程のコスト対応では、台湾や中国の生産体制を大きく見直す可能性もあろう。
なお、白山工場は、数、価格なども含め、顧客との条件は良いらしい。なお、同工場は、クリーンルームの配置などは茂原などと同じだが、クリーン効率などがよいようだ。
この2年は厳しかったが、中期、今後の3-5年は、かなりライバルに差をつけたように感じた。アップル向けは、白山工場稼動もあり、シャープが脱落する分は、当社がシェアをとり、LGよりも、格差がつこう。また、PEインセルも業績に貢献しよう。さらに、同業と比べても、バランスのよい顧客構成も強みだろう。その中で、まずは、四半期50~100億円の営業利益を維持してくことが投資家の信頼回復には必要だろう。
ただ、中期では、スマホの減速もあり、白山工場稼動後の償却負担、韓国勢がフレキOLEDで攻めてくる可能性もある。継続的に新規投資を維持し、技術を先行しないといけない。そういう絶え間ない先行投資が無ければ、年間1000億円の営業利益も不可能ではないが、それは、その数年後の死を意味する。その意味では、種まき期と回収期が同時であり、四半期で100億円という水準が、どういうバランスなのかがまだ不明である。他社では、利益配分、あるいはキャッシュの使途だが、同社の場合は、利益を出すのか、値下げで追い落とすのか、先行投資をするのか、のバランスである。
そうすると、やはり上場時の営業利益の目線は、ややバランスが、投資家より、あるいは利益創出のよりに、傾いていたといわざるを得ないかもしれない。同社の投資家、特に長期投資家には、そういう状況を理解し肝に命じないといけないだろう。場合によっては、継続的に財務基盤強化のためのファイナンスも必要であり、米国的なCFOのセンスが一層必要になろう。
大塚体制から有賀体制の中で、マネジメントの課題は、IRでは、投資家にそういう理解をしてもらうことが鍵であり、それ以外では、INCJやシャープとの関係、さらに中期でのOLED開発の是非、後工程の再編などが重要であろう。