300mmクリーンルームツアー見学会
2015年6月9日13時~16時、会社側主催の見学会に参加した。会社側は、三重富士通セミコンダクター河野常務、出口工場長以下数名とIR数名、見学者は、投資家アナリスト5名であった。1時間弱の説明と質疑、1時間半の、ユーティリティ関連、白衣に着替えての300mm工場のクリーンルーム内ツアー、30分の質疑と、短い時間ながら充実していた。
特に、300mm工場になってからのクリーンルームツアー、白衣に着替えてのものは、久しぶりであり、興味深かった。2005年前後に、中国のSMICやGSMC等の300mmファンドリー見学以来である。200mm時代は、クリーンルームツアーは通常であったが、富士通の半導体工場においても、岩手、会津若松、など200mm時代にクリーンルームツアーに何度も参加した。しかし、300mmになってからは、国内でも、外から窓越しに見学コースができているものが中心となっていた。また、300mm工場自体も、旧NECエレクトロニクスの山形工場がルネサスとなり更にソニーのCMOSセンサー工場になってからは、日本では東芝四日市、ソニー熊本、旧エルピーダ広島等、何れも非ロジックであり、ロジックの300mmとしては、他に、ルネサス那珂、ローム浜松程度である。規模としては、現状35kであり、メモリー系の工場と比べれば、大きくないが、ロジック系ゆえの工夫等があり興味深い。特に今回は、クリーンルーム内だけでなく、地震対応など、ユーティリティや建築構造についても詳しい見学と説明会があったのは地震国日本ゆえに重要である。
三重富士通セミコンダクターは、富士通の半導体再編の中で、日本を拠点とするファンドリー専業メーカーとして2014年12月に設立されたばかりである。ファンドリー事業の本質は、オープンイノベーションであり、開かれた工場として、顧客や装置メーカーだけでなく、投資家アナリスト、地元、社員の家族、学生や中高生、小学生にもこうした見学会を工場稼働に差しさわりがない程度に、催してほしい。メーカー、特に、半導体ファンドリーであれば、工場こそが主役であり、テーマパーク施設以上にエンタテインメントにもなり、啓蒙、教育効果等も大きく、直接間接にプラスになるだろう。また、HPもクリ―ンルームの様子があり有益だが、更に充実が期待される。
会社側説明
最初に、HPにもあるがプロモーションビデオ、なお、装置にカメラをつけ、ドローンも飛ばして撮影したものであり、概況が解り易かった。
河野常務から、プレゼン資料に基づき、概況説明があった。なお、概況については、HPにほぼ掲載されており、また八木社長が講演したプレゼン資料(5/27日開催のUMCテクノロジーフォーラム)が英語でHPにあり同様の内容である。
ポイントは、富士通セミコンダクターの100%子会社であり、その後、提携先のUMCから出資をうけ、資本金75億円、出資比率は、富士通セミコン90.7%、UMC9.3%となっている。拠点は本社の他、三重工場、設計サポートは、あきる野、高蔵寺。従業員は820名。
役員体制は、富士通の人材が大半だが、社外役員にUMCジャパンの顧問である坂本氏が入っている点が注目される。株主でもあるUMCという立場だけでなく、TI、マイクロン、UMCJ、エルピーダ等の事業やIPOの経験、また、内外の生産状況にも精通、それらが生かされよう。
売上は、設立したばかりなので、2014年はなく、2015年度見込みで、800-900milドルの模様。これは2014年ファンドリーランキングで7位前後。なお、TSMCの1/30、UMCやGFの1/5、サムスンの1/3、SMICの1/2といったところであり、10位は維持するだろうが、5位以内は相当に壁がある。なお、このランキングには、ファンドリーを始めるインテル等は不明である。
売上は、ソシオネクスト(富士通とパナソニック系の半導体ファブレス)やサイプレスあとは、既存のファンドリーであるが、今後、立ち上がる40nmラインで新規の顧客をどれだけ獲得するかが重要である。超低消費電力等の差異化プロセスをどう生かすかが鍵であり、また車載向けにも注力するようだ。
敷地内には三重工場時代の1番館、2番館(6インチ 84年と88年に操業、98年にリニューアル)、3番館(8インチ 91年操業)があり、富士通セミコンの所有だが、老朽化しており、取り壊していく。
300mmは、B1館、B2館と二つの建屋からなり、キャパは、90nmが17k/月、55/65nmが18k/月、であるが、40nmが立ち上げ中であり、2017年までには5k/月までもっていく予定である。
40nmはUMCからのライセンス。UMCとは、他方で、55/65nmプロセスや、不揮発プロセスを供与し、また足りないキャパを融通し合う。
B1棟は、2005年操業であり、建屋176m×110m×高さ20m、クリーンルームは1層で1.7万㎡。90nmが中心。
B2棟は、2007年操業、建屋176m×110m×高さ31m、クリ―ルームは2層だが、現在は、2層目のみで、1.5万㎡であり、1層目を、増強中、なお半分の7500㎡が40nm用となる模様。
海外に比べ、国内の半導体工場、防災等の諸規制や地震対策もあり、遅れていたが、2005年あたりから導入が本格化された。同社でも、B1棟の実績を踏まえ、2層クリーンルームにした。耐震対策は万全であり、建屋はハイブリッド免震構造を取り入れ、震度6クラスの500ガルを1/5程度に抑えられ、3.11や先日の関東の地震でも、露光機は停止したが、他は通常稼働であった。また、NAS電池による瞬低補償に加え、二系統幹線給電、非常用発電もあり、48時間はクリーンルームを稼働できる。
工場見学(B1棟)
最初に、ユーティリテイ関連や、耐震対策、バックアップ等を見学。3.11以降は、国内はもとより、海外からも、懸念されているところであり、重要性が増しているだろう。なお、三重県では、隣の四日市では、東芝が300mmを増強しており、工事作業者が不足、遠方から回してもらっているようだ。
その後、白衣に着替え、クリーンルームに入る。今は、どこでも同様になったが、かつては、クリーン度に対する認識が異なり、工場毎で対応が異なった。三菱電機の西條工場、高知工場では、丸裸のなり、全身シャワーを浴び、所定の下着に着替えた。東芝大分では静電気に敏感であった。その後、90年代になってからは、局所クリーンの発想やスミフボックスの登場で、それほど神経質にはならなくなった。現在でも、白衣(これは中国の工場のものが一番いい)、手袋や靴下などは多少、差がある。
なお、通常、クリーンルームツアーで困るのはメモを取れないことであるが、富士通は200mm時代から、特殊な紙とペンを用意してくれるので助かる。更に、今回は、後で回収されたが、工場内配置図があり、解り易かった。それがない場合は、質問しながら、装置の台数やメーカー名を暗記するのが大変で、白衣を脱いで、直ちにノートをだいしてメモをとったものだ。また、通常通り、工場内に、歩留まりや、投入枚数、生産性等の掲示があり、参考になる。これは、むしろ、外に向けて、もっと自慢し、アッピールしてもいいと思う。
エアシャワーをあび、クリーンルームに入るのはこれまでと同様である。クリーンルームに入って印象にのこったのは、天井を行き来するスミフボックスを入れた搬送のリニアモータであり、70台以上あるようだ。ダイフク製で、ウェハーは25枚入る。かつては、地上をゆっくり行き来していたが、天井をかなり高速で走っている。B2棟では天井高をとって台湾のように2段にする計画。また、通路は比較的ゆったりとってある。会津若松ではかなり狭かった。装置も大型化し増えているので全体の群としては圧巻である。
工場の中の配置としては、大部屋のジョブショップのベイ方式であり、全体が、4区分され、真ん中の通路の左が、①拡散、イオン注入、右側が、②リソ、その奥が、③成膜、④エッチとなっており、その外側に、近くでは見られなかったが、CMPの部屋と、洗浄ルームがある。スミフボックスを使っているので、全体はクラス1000、リソは更に局所クリーンとなっている。拡散イオン注入でも、間に洗浄があり、成膜でも、ウエット、ドライ、の洗浄があり、ある程度、工程が近いものはまとめつつ、全体の動線を短くするようにとってある。一時、日本で流行った左右対称の小部屋のベイのミラー方式や、隣接する工程をまとめたジョブフローでもないが、ややジョブブローに似ているようにも感じた。これまで見た工場との対比でいえば、他では、イオン注入機がやや別のエリアにあったり、洗浄もウェットとドライが分れていたが、ここでは、むしろ隣接する工程に近い配置のようだ。また、あちこちに、SEMや、検査装置があった。天井搬送系がある分、よくあった在庫や仕掛のストッカがなく、すっきりしており、装置の稼働効率はいいのだろう。
見学したB1棟は、ほぼ、90nm17k、とのことだが、フル稼働であり、スぺース的には、やや余裕があるが、だいたい満杯に見えた。多少、詰めたり、スループットの向上があっても、20kくらいだろうか。
マスク枚数は、20~60前後であり。平均すると、40~50とのこと。リソは、90nmニコンとキヤノン、i線、KrF、ArFが中心、工場全体では、数10台程度、でArF液浸は2台程度の模様。
ロジックなのでCuやAl等のメタル配線が多く、成膜、エッチ関連の装置が占めるスペースが多いように感じた。DRAM工場の2倍はあるだろうか。拡散では、日立国際、TEL、AMAT、イオン注入では、中電流が、日新電機、高電流がAMAT、洗浄は大日本スクリーン、成膜はAMAT、エッチはLam、と代表的な装置メーカーの他、KLAの検査が並ぶ。カウントの仕方にもよるが、全体では200台くらいの装置があったろうか。
製造リードタイムは、かなり多品種であり、モノによって異なるが、1~2ヶ月となる。そこはあまり気にしていないようで、むしろ全体の効率性を重視しているのだろう。
質疑
質疑は、一部、見学途中にもなされ、上記に記しているものもあるが、いくつか、ポイントを示す。
売上については、800~900億円ということになるが、どの位をUMCファンドリで使っているのかは不明だが、まだあまり無い模様。UMCからの委託もまだないが、クルマ関連で、日本の工場を使いたい客がいるようだ。顧客内訳は、ソシオネクストとサイプレスが30%ということしか開示されなかった。ファブレスが大半かと思いきやIDMも多いようで、ASIC、ASSPなどの内訳も、不明、この辺りはもう少し開示されてもいいだろう。今後、期待される分野としては、クルマ関係の他、IoT関連、40nmでコンシューマ関連の予定があるようだ。顧客との値決めは、同社のマーケ部隊が行うが、プロセスや技術で、どういうレンジにあるか不明である。
最近、ニーズが高い、IGBTやBiCMOS等アナログパワー系は、会津若松の「兄弟」会社の6インチラインに委ね、そこでは競合しない方針。一方、これも関係が深いソシオネクストは、お互い独立であり、使い続ける義理はないが、既に開発したものなどの経緯はあり、当面は、依存し会うことになろう。
設備投資は、メンテ分が100億円程度、昨年200億円を投じて、40nmのクリーンルームがつくられた。償却費は100億円強。累積設備投資は不明だが、1000億円程度だろうか。一部、中古機もあるようだが、3番館などからの転用はなく、8インチの装置などは全て売却したようだ。現在、ロジックでは5k投入には、350億円程度更に必要である。かりに、2015年度にこの投資をすると、4年償却なので、2017年では、償却費は150~200億円程度になろうか。
ファンドリーのどこまでをやるかだが、同社は、ウェハーレベルで、プローブテスト無しの状態で渡すようだ。これについては、TSMCは、プローブを持っており、自社の歩留まりを把握して値決めをして売っている。おそらく、これまでは、富士通内だったので、そういう必要もなかったのだろうが、今後は、必要となろう。またマスクも自社にはないが、これは最近一般的である。
ウェハー等の材料の調達は、技術的な選定は同社が行い、値段交渉は本社。なお、ウェハーでは、ノンエピが60%。また、ウェハーレベルで顧客に渡すため、後工程は、ユーザー次第である。
分析
ファンドリー業界は、2000年頃は、TSMC、UMCが二大トップであったが、その後、GFが参入、IDM系のサムスンやインテルまで参入しており、需要が強い。メモリーやCMOSセンサー、アナログ系以外は、すべて、ファブレスファンドリーモデルが中心となってきている。その中で、ファンドリー価格も市況の影響を受けるが、40nmも、55/65nmも比較的、タイトな模様である。仮に55/65nmを市況並み、単純にウェハー当たり30万円で計算すると、稼働率90%、歩留まり90%で計算して、55/65nm17k分が、年間600億円、90nm18k分が300億円程度と推定され、会社の計画800~900億円で計算はあう。また、これは、ソシオネクストのブログで計算した結果と同様である。ソシオの付加価値1200億円と、同社の800~900億円との比較感では妥当だろう。http://www.circle-cross.com/2015/04/21/2015年4月21日-ソシオネクスト始動/
なお、現在は、ファンドリー市況はややタイトであり、同社の値段は安いようだが、プローブテストをして、ウェハー価格をより適性に決める必要があるだろう。また、同社のHPは発展途上であるが、TSMCはもちろん、国内の他のアナログやMEMSファンドリーの例と比べても、不十分である。
通常は、プロセス技術に応じて詳細な説明や強み等がある。TSMCでは、サービスオファーとして、デザインサービス、マスクサービス、ウェハーファブサービス、アセンブリ&テストサービスがあり、サイバーシャトル、フェイリュアーアナリシス、など多様である。同社が、この中で、どこまでできて、どこはしないのかを開示しておく必要があろう。これまでなら、日本メーカーとしての知名度や日本での知名度はあるが、世界中の、日本ではあまり有名ではないファブレスや、VBからの事業があるかもしれず、その場合のきっかけはHPである。確かに、「定価」はあってないようなものではあるが、数量、期間、技術により、ある程度の目安、他のファンドリーとの比較をする上で、商談の前にHPで確認したいところだろう。
また、説明でも感じたが、同社の製造での強み、あるいは、工場のコンセプト、生産での哲学が不明であった。もちろん、プロセスでは低消費電力、不揮発、耐震などの強いのはわかったが、通常のアプリケーションで、どの位、生産性が高いのかアッピールしてもいいのではないか。エルピーダでは、歩留まりやLTを開示して強調していた。
おそらく、そうすると、コスト構造がばれて困るというのだが、TSMCも含め、そうした点はクリヤであり、高収益でも、技術優位にあるから大丈夫だという考え方である。もはやファンドリーで生きていく以上、顧客は世界であり、ファブレスである、そうした点も開示して、持続可能な適性利益を追求すべく、価格を呈示すべきだろう。
かつてと異なり、同社も含め、キャパにおいても、微細化レベルにおいても、日本は劣位にある。通常で考えれば、ファンドリーで日本が生きていくのは大変であろう。90年代後半に、日本の半導体は、特にシステムLSIにおいて、ファブレス・ファンドリーの潮流に遅れて苦戦した。皆がダメだろうという中で、それゆえに、意外と、日本発のファンドリーには期待できるかもしれない。実際に、アナログやパワーでは、小さいながら成功している新日本無線などの例もある。そこに絞り込めば、TSMCもそれほど絶対的ではなく十分に勝算はあろう。しかし、同社は通常のデジタルCMOSであり、他のファンドリメーカーとのコスト面、技術面での定量評価で横比較した資料でアッピールすべきだろう。日本においては、ファンドリーはもちろん、ロジックのラインではトップ級である。ただ、ルネサス大津を買収したロームが300mm換算では全部の工場を合計すれば、5万以上10万枚に迫るだろう。日本トップをとる意味でも、固定費を吸収する意味でも、10万枚までの計画は必要だ。B2棟が満杯なら、50k程度、あと一棟建築すれば、10万に達する。
2017年には40nm5k/月がフルに貢献すれば、市況が今のままだとして、売上1000億円を突破、100億円程度の黒字化が期待される。あと30k程度の40nmラインがあると、売上げ1000億円程度増えるかもしれないが、その設備投資には、2000億円程度が必要(償却費も500億円増える)だが、現在の資金では、容易ではなく、IPOなどのほか、かつて考えられたファブレス顧客からの出資、さらにはアップルが液晶などで行っているユーザーが設備を投資して保有、償却負担を軽減する(ソニーのプレステでもあった)というモデルも面白いだろう。
売上2000億円、営業利益200億円、EBTDA500億円以上が持続性をもって維持できるシナリオが呈示されれば、時価総額2000億円も可能であり、富士通にとっては有難いことになろう。実際に、IPOするかどうかは別にしても、そうしたことを計画(既に計画しているかもしれないが)して自社の在り様を再認識することが必要だろう。