2015年6月11日 日立IRデー

20156119時~16時まで開催された日立IRデーに参加した。日立IRデーは、各事業毎に、そのトップが投資家アナリスト、マスコミ向けに事業戦略を説明するもので2010年から毎年6月に行われる。それまでにも、情報通信や電力など幾つかの主要事業毎に説明会は日立でもあったが、9から10に及ぶ全事業をまとめたIRデーというのは日立が最初であり、最近は、パナソニックやソニーにも広がっている。これは、日経新聞「私の履歴書」でも紹介されたように、元社長の川村氏の発案で、事業のトップにも、自分と同じ経験をさせたいという想いから始まったらしい。これは、投資家から詰められて辛いという意味と、外の目からの評価を聞いて参考にしてほしい、という両方の意味があろう。

 中村CFOの挨拶・概要紹介から始まり、以下、質疑も含め一つのセッションが、30分~50分である。例年同様、各事業のトップと幹部数名が説明質疑にも対応する。まず、スマトラについて、情報通信システム事業、電力システム・エネルギーソリューション事業、インフラシステム事業、鉄道システム事業、都市開発システム事業、オートモティブシステム事業、ヘルスケア事業と、昼を挟んで8セッションである。セッションにより、多少、参加人数は異なるが、ほぼ満員であった。なお、業績数字そのものは514日の中計の説明会で公表されており、ここでは、その中身の説明になる。

 なお、日立との付き合いは30年、学生時代のリクルート、工場見学や学会の関係等を含むと、それ以上になり、累計INPUTは通常の業績関係に加え、超伝導、半導体、液晶、コンピュータ等、技術や産業調査でもお世話になっているので、1000を超えているだろう。レポートも甘口激辛とかなり多く書き、工場見学では半導体液晶は90年代は全ての工場をほぼ毎年訪問した。また、主要工場である、日立、大甕、那珂、大森、神奈川、戸塚、小田原なども何度も見学させていただいた。研究所も中研は10回以上、日研その他も数回である。アナリストとして付き合いが始まったわけだが、既にOBとなった方とも年齢や肩書きを超えて、親交があり、日立OBの宴会にも混ぜてもらって日立放言を喋ったりする。そこが日立マンの良さであり、日立の、居心地のよさなのだろう。

 

 日立の業績は90年代の長い低迷と大きな危機を抜け、23年ぶりに営業利益でも最高益を更新、その後も更新中である。しかも、その業績の中身は、かつてのDRAM依存の不安定なものではなく、持続可能な安定感のあるものである。業績だけでなく、ガバナンス体制や経営システムもグローバルレベルとなってきた。IRも継続性と信頼性など高いレベルを維持している。今、総合電機の中だけでなく、再び、日本企業の中でもエクセレントカンパニーの代表に復帰したように思える。

しかし、株価はITバブルの1700円レベルはともかく、90年代の1000円台に戻らないのはファイナンスによる希薄化からだけだろうか。2000年以降いや90年代から見ても、良くなったように見えるが、70年代に担当アナリストであったNRIの先輩によれば、今の日立は、80年代以前に戻っただけで評価できない。80年代の期待は、重電や家電で高収益、強い財務というだけでなく、コンピュータや半導体による成長イメージがあったのだということだ。確かに、最高益は更新したが、赤字の家電や半導体などをリストラ、また以前から優良な子会社群に支えられており、コアの社会インフラは、これからであるともいえる。

中村CFOによる概要説明でも、89年度からの長期業績推移が示され、最高益は更新したが、営業利益率は90年度の6.5%は超えたが89年度の7.1%に及ばず、2015年中計の7%超は、これを意識していたのであろうし、実際、①グローバル事業の拡大、②サービス事業の拡大、③スマトラによるコスト削減とCCCによるキャッシュ創出、などを背景に今期にあわよくば、達成を狙っているのであろう。

日立の長期業績推移をセグメント別にみると、80年代は家電と半導体が貢献、89年度も、複数の事業の好調さが重なったことがわかる。多少、中身は変わっているが、重電・産業などは、ほぼ営業利益率は5%前後であり、継続的に7%維持はもう一歩に迫っている。多少景気サイクルの影響はあるが、優良子会社の旧御三家(今は統合して二社だが)からなる素材や流通、金融も510%のレンジにある。他方、長年、コアであり利益を下支えしてきた情報通信は、稼ぎ頭だったメインフレームは縮小、HDDもなく、もはや10%以上は容易ではない。加えて、後述するように、クラウド化で、ハードもソフトもプラットフォームや通信ハードが極めて厳しいだろう。また、影響は小さくなったが5%以上は難しい家電も多少はあるし、先行投資も必要である。そうすると、売上で10兆円、営業利益7000億円超えが、一つの試金石となろう。

 

スマトラについてby岩田CTrO

 日立は、余剰資金の使途に困るどころか、グローバルイノベーションによる成長にまだまだ資金が必要であり、そのキャッシュ創出のためのスマトラであり、コスト削減、CCC改革、事業基盤整備からなる。現在は営業利益率が7%前後、CCC75日だが、これを営業利益率10%以上、CCCも更に改善(グラフでは70日程度)を目標としている。なお、5日改善すれば、1300億円のキャッシュ創出効果がある。スマトラを始めてから累計4200億円、毎年1000億円の効果があるが、10兆円企業としては、更に抜本的に改善するようだ。

注目されたのは、①プロマネの強化であり、ITEPCでのこれまでの失敗の経験をノウハウ化、②内外の人員、特に財務、人財、調達をBPO化、BPOベンダーへ移管、③EndtoEnd視点で機能別施策を連携トータルリードタイムを短縮させる、④業態別キャッシュ管理を強化である。

中でも、業態別キャッシュ管理は、横軸にモノの売り方、縦軸にのモノの作り方をとり、B2Bの一品毎の受注設計をする、インフラ、電力、IT、交通は、プロジェクト型として契約条件、特にスタート時点の話し合いを重視、B2Bだが中量産の都市、ITハード、日立国際、建機、メディコは中量産型として在庫を重視、B2Bだが量産型の、その他の産機や日立ハイテク、白物、素材などと分けたところは、非常に正しく、経営重心の視点に近く、興味を持った。日立のような巨大コングロマリットでは、こういう視点が必要であり、本来は、CFOも複数居てもいい位だろう。

 質疑では、注目されたのは、新興国の契約が難しいところはどうのか、という問いについては、むしろ日本が曖昧であり、まずが、契約条件がきちんとする国を優先し、中東やラテンなど文化が違うところはよく考えるとした。また、キャッシュの使途に関連して、M&Aや原発案件のようにベンダーファイナンス等がある場合の質問があったが、これは、資金の扱い量が違うので、スマトラの範疇ではなく、CFOの領域だとした(CFOは退席したので回答未)

また、日立は100年個別最適をしてきたし、まだ工場単位となっているが、これを変えないといけない、上場子会社にも更に強化していきたいとの決意が表明され、まだまだ、濡れ雑巾であり、絞り出そうな印象を持った。

 

情報通信についてby齊藤氏

 日立全体の、この5年の改善度合いは素晴らしいが、その中で、コア事業の情報通信部門、通称「マル情」は、低迷ではないが未達が多かった。健闘はしているが、ほぼ、売上2兆円、営業利益1000億円前後で推移した。80年代後半にかけ、情報化投資の中で、メインフレーム中心に増収増益が続き、現在とは比較は難しいものの、1990年度は売上は2兆円を突破、営業利益も10%前後に達した。その後は、バブル崩壊や、ダウンサイジングの影響で、業績は悪化したが、1996~97年度にかけては、メインフレームでバイポーラCMOSマシンのスカイラインで再び業績は改善、売上2兆円、営業利益も1000億円台に復帰した。ITバブル崩壊後は、ソフトサービスに転換、他部門が厳しい中でほぼ売上2兆円前後、営業利益1000億円前後を安定的に維持してきた。ただ、売上も利益も、バブル期の水準を超えることは無かった。

ここ数年の業績未達の背景は、齊藤氏も率直に認めているように、プロマネの混乱と通信機などプラットフォーム甘さだったようだ。しかし、ある程度、業績を犠牲にしても、将来のために、コストをかけて、今期も通信やプラットフォーム中心に100億円のリストラなど継続的に改革を続け、小ぶりながらも、鍵となるM&Aを仕掛け、ポートフォリオを入れ替え、ITサービス強化や、研究開発のCSIと一体となっての事業モデルに転換などは評価されてもいいだろう。

しかしながら、私の質疑に答える形で認めたように、「クラウド化により、プラットフォーム、特に通信インフラの価値は無くなる」というグローバル市場での厳しさには、やや対応が遅いように思う。それが、通信でのノキアアルカテルの再編であり、インテルの脱ノイマンアーキテクチャーを見据えたアルテラの買収であろう。国内でも、ついにNTTも音声交換機は終焉した。90年代に一世を風靡したシスコのルーター等は、唯の箱以下となり、UNIXサーバーはもちろんIAサーバーも無価値となる。

その意味では、同部門で収益源であった、ハードでは、サーバー、ストレージ、通信ネットワーク、ソフトでもミッドやOS関連の価値は消えていき、残るのは、収益性が高くないSIや拡大途上のコンサル等となり、2020年にかけ、マイナンバー投資(これも最近のウィルス攻撃で雲行きが怪しいが)や国内のIT投資が一巡すれば、売上は半減以下、利益は赤字に陥り、巨額の減損の可能性も出てこよう(おそらく、それを避けるため、先んじてリストラをし、それが業績未達の理由でもあろう)

TVにおいて、エコポイントが最後の撤退の機会であったように、マイナンバーや国内IT投資が最後の業態変換の機会だと考える。その意味では、まずまずの国内需要に応じつつ、同時に30年間に及んで日立を支えてきた、「マル情」部門の撤退戦をしないといけない。他部門が業績を改善させ前向きの話が多い中で、後ろ向きの話は大変だろうが、これも質疑に答える中で、「全く同感」というように、「2020年では遅すぎる」のである。

セグメントは、「2018年とか2020年の数値目標が無いのは大きな構造改革をするため」というように、2020年には消えている可能性があるのだ。

今であれば、日立のブランドはあり、ファーウェイやレノボに、サーバーや、通信、ストレージ等を、早く売却すべきではないか。会社側は、「M&Aの中で買うものはあるが、機器などハードは売ることもある」と同意はしたが急ぐべきだろう。

また、リストラでは、既に、小田原工場、豊川工場の件は発表され、戸塚工場も転換が進んでいるが、神奈川工場など聖域なきリストラが必要だろう。

もちろん、IoT時代、ビッグデータ時代において、ICT技術者は、もっとも必要である。それゆえ、会社側も電力部門にITや制御を移管し、「フロントが大事」と言っているように、他に部門では、IT技術者が足りない。私が言う「情報通信セグメントが無くなる」という意味は、他のリアルデータを扱う各セグメントに入り込む、ということである。それゆえ、早期に、SI部隊は、他部門に移管、研究所CSIと連携しながら、そこでリアルデータに接してIT化を進めた方がいいのではないか。

しかし、逆に会社側は、まずは、この部門にITを集中して、新しい技術も吸収し、ノウハウをため、そこから他へ展開を考えているようだが、2020年までに、そんなゆとりはないのではないだろうか。

90年代と異なり、日立の市場での売上やシェアでの存在感は極めて低くなり、どんどん、マイクロソフト、グーグル、オラクル、IBMHPに引き離されてしまった。しかし、彼らの弱みは、その事業の中にリアルデータを持つ、プラントやクルマなどの現業事業がないことである。日立は、クラウド化できない、豊富なハード系インフラがある。総合力を生かし、ICT業界の中でのポジション取りを再考し、10年後、20年後にあるべき姿を示してほしい。

目先の全社の営業利益率7%を犠牲にしても、2020年までに構造改革を進めるべきだろう。この80年代以降、日立を支えてきた半導体液晶、AV家電、HDDは既にないが、コアで優等生の「マル情」改革こそが、80年代以降、元には戻ったが、さらに長期で日立が輝けるかどうかの鍵だろう。

 

電力システムエネルギーソリューションby長沢氏、野本氏

 当部門は、「マル情」と並んで、日立のコア事業であり、数多くの社長を輩出してきた日立工場などを擁する日立の本丸である。かつての丸ビル本社時代から、巨大企業と思えないほど、質素堅実だったが、日立工場に行った方は、その巨大さに驚くだろう。他方、その時々で、情報通信であったり電力系であったり微妙だが、大甕工場を中心とする制御部門は、コンピュータ部門の「マル情」の発祥でもあり、日立を支える最重要部門である。

原発事業をメインとしてきた日立工場など発電部門は、ハード比率が多かったが、90年代は低収益で腑に落ちなかった。日立工場の稼動を優先して、不利な受注をとったり、設計トラブル等の影響などが90年代後半、2000年代も残り、火力や環境でもプロマネの失敗もあり、業績は低迷した。また、WHを買収した東芝と対照的に、原発事業に、それほど積極的でもなかった。

ここ5年では、川村改革や、その後3.11の影響もあり、様変わりとなった。火力は三菱重工にシフト、それ以外の幾つかの部門も他へ移管されたりで、継続性をもって業績を分析することは難しい。そもそも、世界の原発規制や政治次第では、原発部門の撤退なども可能性としてはある中で、このセグメントが、どうなるのかは、流動的であったが、ようやく形が整ってきたという印象を受けた。

その中で、注目されるのが4月に発足したエネルギーソリューション社であり、電力自由化や分散化、自然エネルギー、IoTなどに対応した部門であり、また、日立の強みである制御技術が重要であり、期待できる。ただ、ソーラーなど政策依存も大きく不安定要素もある。質疑でも出たが東芝が苦戦しているスマートメータでも将来のIoTという位置づけの中で「マル情」との連携で、ガスや水道への展開も期待できよう。

2020年に向けて、売上は現在の4600億円から8000億円、EBITマージンも2014年度のゼロ前後(US会計とIFRSで数十億円異なるが年金関連)から今期の5%強から、15%1200億円に成長する計画である。一見、強気に見えるが、海外の原発関連や、洋上風力、EPCなどが増え、ほぼ見えている上、スマトラの効果も大きいようだ。基本的にはサービス比率を上げていく方針だが、2020年前後に採算がよいハードの案件が見えているため一時的に下がるようだ。もちろん、不安要因はあり、これまでにもあった長期でのプロマネの問題や、エネルギーは政治情勢でも変化するだろう。

インフラシステムby酒井氏、青木氏

当部門は情報・電力・交通分野へのシステムコンポ―ト提供が783億円、社会産業システムセグメントとしてのインフラ事業が7126億円、合計で、売上7909億円、営業利益率3%である。7909億円の内訳として、水環境が15%、産業が47%、インダストリアルプロダクツが38%とあるので、インダストリアルプロダクツ部門は、日立産機も含め、売上は約3000億円、社内向けが30%弱、社外が70%ということになる。

このハードの事業と、水環境向けソリューション、産業向けソリューション・プラントとは、かなり特性が異なる。2014年度では、ハードが利益の大半をしめ、営業利益率7%弱、ソリューションは2%程度である。事業構造も異なり、CCCもが平均では90日前後だが、ソリューション系は100日をこえ、ハード系は40日程度であることが質疑では確認できたが、インフラシステムとしてはベストな、ソリューションとハードの両輪体制が、All日立では、全体最適かについては、質疑では不明朗であった。

プロダクツ部門は、グローバルでもトップ級の機械系が45%、モータやインバータのドライブオートメーションが30%、その他受変電が20%を占めるが、現在の売上3000億円(なお、質疑で、ここには電力からの移管分300億円が未計上であり、実態は3300億円とのこと)営業利益率6%強から2018年度には、売上5000億円、営業利益率10%に持っていく方針。競争力もあり、経営重心的にも、日本が強いストライクゾーンであり、同業の三菱電機やオムロンなどと比べても、十分可能であろう。セグメント全体では海外比率を29%から40%にするが、多くは、当部門であり、円安もプラスだろう。

ソリューション部門は、現在の5000億円弱から、2018年に5000億円強に拡大、営業利益率も2%から、6%に持っていく方針だが、売上が増えない中で限界利益率も低そうで、かつ開発費も増えそうな共創が必要な事業での利益率改善には疑問が残った。

このセグメントは、日立らしい社会イノベーション分野ではあるが、異なるビジネスモデルの二つを一緒にした感がぬぐえない。それが2018年度の計画の不明確さにもなっている。むしろ、インダストリ4.0関連を、中国製造2025もあるのだから、2020年は強化して注力する意味で、プロダクツ部門を主とし、他のセグメントにあるFA系をこちらに持ってきて、情報や制御のIoT部隊を入れ強化すべきだと感じた。また、ソリューションでは、鉱山系は建機、水環境や大モノのプラント系は、エネルギーソリューションの方がくくりもしやしぃく、スマトラ管理もしやすいように感じた。

鉄道システムbyドーマー氏

 外国人トップであるドーマー氏によるプレゼンは、英語であったが、さすが、資料もビジュアル、世界のスタンダードだった。社会インフラ事業でもっとも成功しているだけに、事業規模では、売上2000億円、営業利益率8%だが、そういう数字よりも、これを、他の事業にもどう応用していくか、また、鉄道も、英国から、他の国や地域にどう展開するか、外国人のトップが日立でどう活躍できるか、が注目される。

開示はされなかったが、もちろん、当部門の成長性は大きく、M&Aも含め、2020年頃には1兆円をゆうに超え、日立の中で、利益貢献も含め、最大最強のセグメントになっている可能性もあろう。業界では総合プロバイダーとコンポーネントメーカーに二極化する傾向のようだが、市場は、鉄道にの総合ソリューションプロバイダを求め、その中で日立は、ビッグデータとIoTによる真の鉄道インテグレータを目指すようである。

 説明の内容は、鉄道交通事業の市場性と、業績動向が半分だが、あと半分は、アンサルド(アンサルドSTSと、アンサルドブレダ)とのM&Aについてであった。両方とも、日立が目指す総合プロバイダーに必要であり、STSはシステムとして、ブレダは車両として大きな貢献をし、また、顧客の地域特性や、工場のロケーション、その他でも補完的であるようだ。また質疑でも確認されたが、過去の不採算的受注リスクのうち大きなものは、はかなり払拭されていることが強調された。モノ作りでは、笠戸でトレーニングするなど、日立の強みを生かす。またUK政府との契約においても最初は雇用確保で甘いが後に厳しくなるという懸念に対しては否定した。

 日立においては、最も挑戦的な事業であり、当然、リスクもあろうが、成功すれば、鉄道だけではなく、鉄道をきっかけに、各国において、町づくり等の社会インフラに結びつけていけよう。それは、ちょっと喩えはいいかどうか別にして、日本において、西武や東武鉄道などが、鉄道から町づくり、デパートまで広げていったのと同様だが、それ以上の広がりと深さを持って可能である。情報通信、電力、都市開発など、ほぼ全ての事業に展開できよう。M&Aのノウハウも蓄積され、外国人によるグローバル経営も浸透しよう。ベストシナリオでは、2020年以降だろうが、他部門へのシナジー、M&Aも含め、現在の全社売上10兆円営業利益7000億円の規模を15兆円営業利益2兆円くらいにはもっていく潜在性を感じた。それが社内で見えてきた時には、ドーマー氏が日立初の外国人CEOとなる日も近いかもしれない。

都市開発システムby佐藤氏

 当部門は、増収増益が続き、2015計画は既に達成、営業利益率も2015年度は二桁にのせる計画であり、好調だと言っていいだろう。中国リスクは、喧伝されるが、堅調である。ただ、これは、日立だけでなく、東芝や三菱電機も同様に好調であり、収益性も同様だ。

戦略も循環型バリューチェーン、グループシナジーなど確立されている。中国でのトップシェアを活かし、さらに、インドなど日立ブランドが強い国に展開する計画である。質疑ではインド工場は検討中で未定だが、シェアを増やし5倍にする。

中期での鍵は、メンテやサービス対応のIT化やビッグデータ活用だが、累積45万台のうち、国内は大半が24時間リアルタイムでつながっているが、海外などはまだ半分程度の模様。

日本では、震災対応が重要で、多くの高層マンションが震度3で停止する。私のマンションは32階で日立だが、3.112日くらい停止したが、先日の地震では20分くらいで復帰、かなり改善を感じた。いろいろ規制面はあるが、自治体などにも働きかけ、社員を郊外から都内に転勤させてまで、早期の駆けつけに努力しているようであり、感謝するが、より一層の改善を期待したい。さらに、管理組合などと密接に協創、マンション全体の防災や防犯、監視、省エネなどにも発展できよう。十分に、業績は好調だが、まだまだ改善余地は大きいだろう。

他社製エレベータのメンテは難しいようだが、そこも努力して最低、過去問題が多かった海外製は対応し、それを海外でのシェア向上にもつなげて欲しい。

 

オートモティブby大沼氏

 当部門は、ここ数年で最も改善が大きい。2008年度、2009年度の赤字から、リストラ効果と、クルマ化に波にのり、増収が続き、2015年度計画では、売上1兆円、営業利益率は7%、さらに2018年度では、1.2兆円、営業利益率7.5%と1000億円に迫る勢いである。他社の動きや、ADAS、クルマの電子化などを見ても、またクルマ事業の将来の確実性からみても、十分に達成できる内容だろう。明示はされないがM&Aなども視野にあるようだ。

素形材、ECU、モータなどを内作、リチウム電池を持ち、それを電動パワステなど高精度高信頼メカにくみ上げ、統合制御システムにできるという垂直統合が強みであり、更に、クルマだけでなく、社会インフラとつなげる強みは、他のTier1にもない。まさに日本電産が目指す姿が、技術においても、業績においても、既にある。

他方、やや不明で質疑でも確認できなかったのが、FCへの考え方である。国内では、トヨタ、ホンダが強化しており、どこかで、FCVへの対応も明らかにしてほしいところだ。また、電池の採算もそれほど改善はしていないだろうが、EVに拘るのかどうかも注目点だろう。かつて中西会長が「失言」した、日立はクルマを作れる技術は十分にある、という点も含め、2020年以降は、テスラやグーグルカーなど、家電的量産的なクルマへの対応も気になるところである。

 

ヘルスケアby渡部氏

 当部門は、ここ数年で、日立グループを再編する中で集められた新たしい部門である。電機精密各社では成長領域として期待が大きい。日立メディコ、アロカを機能統合したヘルスケア社、日立ハイテクなども含め、2014年度売上3379億円、営業利益率7.2%、売上構成は、診断臨床43%、検査試薬37%、インフォマティクス20%となってるが、採算がいいのが検査試薬であり10%の利益率である。強みは粒子線治療、国内トップの超音波、日立ハイテクの生化学分析、IT活用、研究開発部門との連携力だろう。

2018年度では、海外やサービス中心に、売上倍増近い6000億円、営業利益率10%を目指すとしたが、その中身や、M&Aの内容が不明であり、一番採算の良い検体検査の10%を、他の分野で、どう稼ぐのか、研究開発などの先行投資をしながらどう達成するのかが不明であった。

ドメインに関しては、質疑ではヘルスケアといっても血圧計や体温計などBtoCに近い領域には関心がないようだが、補聴器、血糖計やネブライザなど、オムロン等が手はけるところとか距離を置くのかどうかが不明である。印象としては、他社も同様だが、成長分野のヘルスケアに、いろいろ社内のあちこちから寄せ集めた感があり、ビジネスモデルの異なる診断、検査、治療をどうやっていくか、また自律分散という地域戦略などの統一感が欲しいところである。

全体の印象と感想

 先の全体中計では2018年度あるいは2020年度の業績目標は不明であるが、幾つかの事業では、電力、社会インフラ、クルマ、都市、などでは十分に達成、一方、不透明はヘルスケア、情報通信、大きな期待は鉄道である。数字が挙げられたものだけを足して、不明であった部門が現状維持だとしても、売上は1兆円、営業利益は1000億円程度増えようし、鉄道など次第では、営業利益1兆円の大台も見えてこよう。

 そのためにも、情報通信のリストラを期待したい。また、今回IRデーでは紹介されなかったが、日立国際や日立ハイテクのヘルスケア以外、建機、新素材、流通、金融も成長が期待される。日立国際では、防災防犯監視、製造装置のサービス化、日立ハイテクでは、科学や商社部門の改善もあろう。

IRデーでは、こうした優良子会社群も少し取り上げて欲しい。特に、流通や金融は、全体のキャッシュ化効率やサプライチェーン改善にも貢献している。情報通信と組めば、アマゾンや、グーグルなどが目指している方向性の経営資源が既にあることになる。

金融では、現状の事業をこえて、保険や銀行部門にも参入すると面白いだろう。GEは金融を売却だが、流通やITとは親和性がある。日立らしい金融事業を考えて欲しい。

いわば、スマトラの話以外は、各セグメント別の縦割りの話が中心であったが、横串あるいは事業間シナジーなどもないのは日立の総合力、強みの一端しか紹介しておらず、もったいないだろう。

あと、このIRデーは、幹部にとっては、将来、日立全体のトップになるための、社長として外部とコミニュケーションする練習の場あるいは試金石ともいえる。外部からの勝手な意見であるが、将来の期待、トップ候補の最右翼は、ドーマー氏と、齊藤氏という印象を持った。ドーマー氏は、初の外国人トップとして、大きな挑戦で真のグローバルへの布石、齊藤氏は、かつて川村中西改革での幾つかの事業のリストラと同様に、本丸コア事業のリストラ立て直しが試されている。同時に、この二部門の成否が2020年以降の日立を決めるともいえよう。


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日立連結営業利益85-2015年度主要セグメントグラフ.pdf
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マル情の行方 図表.pdf
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