8月18日19時45分より22時まで、マスコミ、投資家アナリスト向けに、東芝主催の説明会があり参加した。出席者は、室町新社長、伊丹経営刷新委員長、渡辺財務部長、1時間は会社側より、伊丹氏より経営刷新委員会の報告、室町氏より、業績について、渡辺氏より業績詳細の説明とマスコミの質疑。残る1時間弱は投資家アナリストの質疑。マスコミの質問は人事や責任所在、アナリストの質問は、繰税関係、原発など。なお、私が9問、GSが3問、UBSが2問であった。
8月末発表を前に、最終利益やB/Sが確定していないなど中途半端なところはあるが、連日、人事や業績について報道が錯綜する中、出せるものは出そうというIRの姿勢は評価したい。特に、懸念の原発について開示が前進しクリアになった。
最悪の事態は回避との天の声?
怖れていたのは、①監査法人がメンツをかけ必要以上に厳しくして原発関連が全額減損償却や、②逮捕者は出ないのか等という厳しい見方さえある一部の海外投資家の意見もある中で見せしめに上場廃止、あるいは解体されること、③第三者委員会調査では不十分と感じている可能性がある当局が精査していたら更に巨額の損が出た、④その結果、最悪のケースとして既に債務超過寸前という可能性であった。
しかし、原発関連の開示や追加の減損計上などの状況から、そうした心配は無用であろう。また、西室氏が社長を務める郵政上場もあり、アベノミクスの重要な時期に政治判断もあったかもしれない。
消化不良
マスコミの質疑までは室町、伊丹、両氏が回答、アナリストの質疑では退席、経営刷新については確認できず、宿題としていただいたが、最も重大な点は、伊丹氏の指名委員長としての田中前社長指名の責任とアニュアルレポートでの「東芝のガバナンスは先進的云々」との発言である。いずれも、伊丹氏の不明か、そうでなければ、極めて巧妙に騙されていたし権限も無く言わされていた、ということだろうが、いずれにしても、経営刷新委員長あるいは議長の可能性もある中で、同じことが起こらないか、を説明してほしかった。
あるいは、本来は「本音では、辞したいところだが、批判を承知で続投する」というのは、確かに室町氏同様、混乱の中で当然だとは思うが、そこで伊丹氏が守ろうとする東芝の「国体」が何かである。その大切なものために、批判を覚悟で引き受けるというなら大変立派だろう。ただ、社外役員とはいえ役員であり、その当事者意識が薄いように感じた参加者も多かったようだ。室町氏、伊丹氏の発言は状況が異なるとはいえ、日立改革時の川村氏の発言と異なるように感じた。そもそも、「社外」とは何だろうか。常勤非常勤とは何だろうか、ガバナンス体制が大きく変わる中では、再度、きちんと考えなおすべきではないか。
以下、印象を示す。
経営刷新委員会は時間不足の印象
経営刷新委員会については、短い時間の中で、2時間で5回の会合は、あまりに少ないとは思ったが、その前に社内チームで検討し、その集約という意味では妥当か。本来なら、刷新委員が1週間合宿してやる必要があろう。それゆえに、最低限のポイントは入っているが、踏み込んでない点も多い。どうせなら、戦後の日本国憲法のような理想主義でやって欲しかった。NHKスペシャルで比較されたオムロンはかなり理想主義のところもあり、オムロンの例を超えるような試みも、あるいは別な方向性での挑戦も、あってもよかったのではないか。
第一に、監査法人の問題が不明だ。これは第三者委員会でも同様で、マスコミや多くの識者が指摘したのに残念だ。もちろん今、当局など、適切な機関が調査、渦中でもあることはわかるが、口頭でも、一言、説明や補足があるべきだったろう。
第二に、カンパニーCFOの人事権をコーポレートCFO指揮下にするというのは、その通りでもあるが、これは元に戻すということであり、他社同様の、監査型CFOということであるが、一方で、他社が進めている経営CFOも考慮すべきだろう。おそらく、これは監査役や監査法人との関連で、どちらに、監査権限をおくか、のバランスであろう。監査役や監査法人が頼りなければ、CFOは監査型CFOになる。監査法人の問題と本来はセットで議論すべき問題である。
また第三者委員会で酷評された会計知識欠落については方策が無かった。事務系だけではなく、技術系にも財務知識の徹底が必要であると同時に、監査法人も含め事務系に技術の知識が必要だろう。
第三に、取締役会のミッションを、「監視監督と基本戦略の決定」というのは常識的であるが、基本戦略がどこまでか、執行と切り離せるがが曖昧。ゆえに、社長の立場が微妙になる。
第四に、ゆえに取締役会議長が社外でもなれる、というのは当然だが、執行のトップである社長がなれる、というのは微妙である。
第五に、指名委員会、報酬委員会、監査委員会は、社外のみ、というのは標準的だが、上記とも絡むが社長がオブザーバー出席というのは中途半端だろう。
第六に、社長指名プロセスを明かにし、また信任投票制をいれ、執行役員以下幹部の120人無記名投票で途中でクビもある、という仕組みは評価できるだろう。また、新社長の候補者の範疇に、退職者も入れてほしい。指摘があった会長についても当然だし、会長社長以外の代取も同様だろう。
第七に、新経営体制だが、質疑でも指摘されたように、外国人がいない。経営者も、IT系やネット系の若手はおらずシニアの産業のシニアだけ。三菱ケミカルの小林氏以外は、国内系しかも食品や化粧と、電機・機械やIT関係は全くおらず、原子力や半導体事業とあまりにかけ離れている。
業績はB/Sが不明で安心できず
業績については、追加で減損等568億円の営業外損があり、累積では2130億円の下方修正となった。ただ、そもそも、東芝側は問題ないと考えている繰延税金資産の問題も含め、税金計算が途中であり、最終利益は非開示、かつB/Sも非開示であった。
P/Lそのものは、既に第三者委員会から減損リスクを指摘されていたので、500億円強の追加だが、それほどサプライズはない。むしろ、少なすぎる印象もある。これは、トータル的なバランスもあろうが、第三者委員会で指摘された分くらいは、保守的に全部落しても良かったのではないか。ただ、サザン電力については一部減損。
07年度以前については有報の修正の対象外(いわば「時効」)ゆえ、修正しなかったと説明されたが、そこの部分が、第三者委員会で外された半導体メモリーや白物、以前に粉飾があったヘルスケア、譲渡済みの液晶やケータイ等も含め、B/S精査では影響してくる可能性がある。
JDIセントラル社(旧TMD)の2011年度の東芝向け債務免除特別利益1000億円弱が有報で連単とも東芝側にない点について確認したが、NAであった。
また2008年度が、かなりの修正金額であるので一瞬、債務超過になっていう可能性については、まだ精査中なので不明だが、明確に否定された。
ポジティブだったのは原発関連の開示で、WHやLG減損の必要がないことが明かになったこと。もちろん、東芝との貸借や、2014年度からの減損テスト方針変化、すなわち、2013年度まで内外で分けていたのを原発事業一体となってCFを見るようにした、などやや気になる点はあるが、全体はクリアだろう。
ともかく、これは監査法人や当局等も含め共通認識だということは大いに安心できるだろう。また、少なくとも、東芝を解体しようとか潰れてもいいとか、上場廃止になっても、いいとは当局や関係各者は全く考えていないということも確かである。
また、2014年度のFCFの大幅改善もプラスだろう。背景は、アセットライト化やCF改善努力のたまもの。これにはコネ社の売却益は含まれず。また、そもそもコネ社売却は、時価評価ゆえ包括利益から当期利益に、振り替えなので自己資本は不変。
繰税関連で、重要なのは課税利益の見通しである。2013年度末で、連結ベースの「税務上欠損金の繰越額が法人税4641億円、地方税6791億円で大半が2014年度から2022年度に控除可能期間が終了する」ため、9年間で平均すると、最低でも平均1100億円の課税所得は必要になる。
単純比較はできないが、今回修正された2008年度から2014年度の平均税前利益は500億円強で遥かに及ばない。
改善はしているが
ただ、リーマン後だけを見ると、2010年度からは1500億円程度はあることにもなる。ただ、これらの数字も有報は過去分も修正されるので、よい方向か悪い方向かは見えない。足元は単独では1000億円改善しているようだが不明だ。
2015年度の予想は8月末には非開示のようだが、半導体や社会インフラは好調、PCや家電は厳しいようだ。これまでのリストラで、継続的安定的に、税前利益で1000~1500億円が出れば、問題ないということになろう。
ただ、これまでの数字がいったん信用できない、となるので、ここ数年は、変わったガバナンス、経営陣と同様、業績数字も慎重に見る必要があろう。なお、IR開示上は修正前の有報も残しおくべきだろう。
戦後70年日本と140年の東芝を比較
今回の東芝の件は、もって他山の石とすべき点も多いと思った経営者も多いだろう。多くの問題点があるが、これを、戦後70年、先の大戦の反省も含め、比較すると、あまりに共通点が多いことに驚く。ある意味、日本の共通の問題かもしれない。
(以下、参考、関連ブログ)
http://www.circle-cross.com/2015/04/06/2015年4月6日-東芝-水素インフラ事業説明会-消化不足/
http://www.circle-cross.com/2015/04/20/2015年4月20日-双極型経営重心の東芝の重心外れディスカウントの悩み/
http://www.circle-cross.com/2015/05/14/2015年5月14日-総合電機の経営重心とポートフォリオ-短期も怖いが長期も不安新/
http://www.circle-cross.com/2015/05/16/2015年5月15日-東芝の不正会計リスク/
http://www.circle-cross.com/2015/05/18/2015年5月17日-収益性と健全性-シャープと東芝に思う/
http://www.circle-cross.com/2015/05/25/2015年5月24日-短期利益を操作できる在庫-シャープ/
http://www.circle-cross.com/2015/05/26/2015年5月25日-東芝の不正リスクの影響-その2/
http://www.circle-cross.com/2015/06/01/2015年5月29日-東芝の不適切会計問題その3/
http://www.circle-cross.com/2015/06/16/2015年6月15日-東芝-不適正会計事件の教訓/
http://www.circle-cross.com/2015/06/27/2015年6月26日-東芝株主総会で説明された不適切会計-手口-への印象/
http://www.circle-cross.com/2015/06/30/2015年7月1日-今月からはブログの詳細は会員様関係者様は専用ページ/
http://www.circle-cross.com/2015/07/04/2015年7月4日-東芝の不適切会計影響額は1500億円の模様-日経報道/
http://www.circle-cross.com/2015/07/05/2015年7月5日-東芝不適切会計問題-影響額の試算は当ったが気になること/
http://www.circle-cross.com/2015/07/09/2015年7月9日-東芝の不適切会計問題-最悪に備え-トップ就任を待つ/
http://www.circle-cross.com/2015/07/15/2015年7月15日-東芝-第三者委員会正式発表を待つ/
http://www.circle-cross.com/2015/07/17/2015年7月17日-中計と繰税と企業文化-そしてアベノミクスの本当の意味/
http://www.circle-cross.com/2015/07/21/2015年7月20日-第三者委員会報告書要約を読んだ印象雑感/
http://www.circle-cross.com/2015/07/22/2015年7月21日-東芝および第三者委員会の記者会見説明会に出席して雑感/
http://www.circle-cross.com/2015/07/26/2015年7月25日-東芝-不適切会計-処理の第三者委員会の-不適切-報告/
http://www.circle-cross.com/2015/07/26/2015年7月26日-ガバナンス形態やcfo経歴と不祥事の関係/
http://www.circle-cross.com/2015/07/29/2015年7月29日-基本に戻るには単独決算の有報/
http://www.circle-cross.com/2015/07/30/2015年7月29日-東芝とシャープの行方-中国ハイテク覇権の中で/
http://www.circle-cross.com/2015/07/31/2015年7月30日-東芝-シャープの-国体/
http://www.circle-cross.com/2015/08/05/2015年8月4日-東芝テックの下方修正-悪化を食い止められるか/
http://www.circle-cross.com/2015/08/06/2015年8月5日-中国と半導体を巡る水面下の動きと再編/