マスコミが、東芝の不適切会計を、何故、粉飾と書かないか、について巷で批判が多いようだ。もちろん、影響力のある大企業故の政治的な背景はあろうし、言葉のあやでもあろうが、企業風土まで酷評した第三者委員会ですら、粉飾と断定しなかった理由を再確認したい。また、併せて、私が週刊エコノミスト誌への寄稿の中で「オリンパスの損失隠し事件のような組織ぐるみ粉飾はなさそうだが」と書いた部分について、甘い分析だとの意見もあるようだが、誤解なので、オリンパス事件と何が違うかコメントすることで明らかにしたい。
なお、東芝に甘いのは自覚しており批判は甘んじて受ける。佐々木、田中両氏は説明会で見た程度で何の義理も無いが西田氏以前の歴代トップを始め多くの方には世話になった上、水に落ちた犬を打つようなことはしたくないからである。水に落ちる前は会社の500億円に対し1000-1500億円と甘くは無いつもりだ。また、これまでの説明会では、マスコミの皆さんに甘いと思われたくないので、厳しい質問もした。
第三者委員会報告は不十分だということは何度も書いているが、その上で、報告にもあるように、PCやTVは意図的粉飾、工事進行基準案件は様々、半導体は過誤や無知によるもの(責任は適切な指導をしない監査法人)、これを営業利益ベースの1500億円強の内訳で配分すると、粉飾50%弱、あとは不明か過誤無知である。あるいは、あまり追求すると政治的にもまずい話になる闇の部分である(この点は、文芸春秋やFACTAの通りかもしれない、としておく)。それゆえ、四捨五入すると全体としては、「粉飾とはできない」というのが第三者委員会の質疑での回答でもあった(言質を取られないようにこのように明らかには発言してないが)。
次にオリンパス事件との違いだが、私の文章を、もう少し、丁寧に、くどく書くと、「組織ぐるみ粉飾かどうかは不明だが、少なくともオリンパスがやったような組織ぐるみの粉飾ではない」ということだ。では、オリンパスと何が違うかというと、オリンパスはトップらが粉飾を強く自覚し巧妙に隠そうとしていたのに対し、東芝は、巧妙に隠すどころか、これも東芝の融通無碍な風土だが、バレバレであったということだ。犯罪事件で、捜査に協力しあっさり認めた場合と、非協力的で誤魔化し隠した場合と、当局の心証が違うが、そういうことだ。
オリンパスでは、粉飾が、歴代トップの申し送り事項であり、コンサルも使い別法人などを使い組織ぐるみで巧妙に隠そうとしたのに対し、東芝は、半導体はもちろん工事進行基準案件でもそういう意識さえなかったか、あっても隠すほどのものとは考えていなかっただろう。また、PCの件は、まさにバレバレで、説明会で質問が何度もあったように、アナリストが真面目に分析していれば、おかしいと気がつくようなもので、全く隠そうとしていない。田中氏も2014年度には、さすがにまずいとは思ったようで、PC関連で特損も含めリストラ費用600億円を計上予定であったが、まさに、これがそのまま粉飾相当額である(これも既に影響額の根拠として記載した)。
もし、本当に、こういう危機的状況になるほど、まずい粉飾だと自覚していれば、何度か粉飾の仕方の紹介で書いたように、年金負債の割引率などをゼロコンマ数%いじったり(これは、たまたま、年金や政府見通しの生産性向上などの長期前提で見られるが)、オリンパスのように、ファンドを介したり、M&Aを使って、簿外に移すだろう。これを分析するには、相当のプロがかなり時間をかけて調べないといけないが、東芝の場合は、有報を見ればわかる類のものである。もしろ、PCの例のように、そんな簡単な「粉飾」を何故、監査法人が見逃したのかが不思議である。
もし、万が一「オリンパスのような組織ぐるみ」粉飾があるとすると、対象外とされた部門や07年度以前にはあるかもしれず、ようやく少しそこに踏み込むかの記事も出てきたが、そこにはもう触れないし触れても仕方がない。