2015年9月11日 エコノミスト達は統計の現場をチェックしているか?統計の危機

エコノミストあるいはマクロ経済が、社会科学と言えるのは、それが統計データ等に立脚し、その数字で経済の現実の一端を分析しているからであろう。そうでなければ、むしろ、思想であり哲学だろう。毎日のように、統計データーが出され、それに基づき、それを所与として、エコミストはコメントする。

エコノミストにモノ申す

しかし、エコノミストの皆さん、あなた方の多くは、そうした統計の現場をチェックしたことがあるだろうか、また、その統計が、少なくとも電機産業では危機に直面していることを知っているのだろか。

統計数字を支えるもの

半導体や液晶などの数字は、経産省の機械統計などに依存しており、それらは、役所から各事業所(本社や工場など)に、調査票が送られて集計、処理される。工業会がある場合は、その工業会が各分科会に分かれ、会員会社に調査票を配布し、それを各社の担当者が回答、また、必要に応じて、集まって議論したり、分析予想を行う。電機でいえば、JEITA(機械振興協会など)であり、電機業界の理解のために、統計や啓蒙的なパンフレットを発行し、また、海外の同業者との交渉窓口にもなる。さらに、半導体では、WSTSなどの国際的公的統計機関があり、90年代は、これらを我々アナリストも使い、足で稼ぐ取材や工場見学と付け合わせて、実態を分析したものだ。

業界構造変化で統計があわない

しかし、ある時期から、こうした統計が、足で稼ぐ実態や、企業の決算数字などと合わなくなってきた。機械統計では、幾つかの分野で、単価と数量に分けると非連続な分野が増えた。現地生産や、リストラ、サプライチェーンの複雑化で実態に合わなくなってきているのだ。あるDRAMの数字がおかしいとチェックしたら、工場がリストラで、製品をDRAMからロジックに替えているのに、調査票が、そのまま送付、そのまま処理され、ロジックの工場がDRAMにカウントされていた。また、戦略変更でセグメントが変わり、分類が変ったので単価が異常になったケースもあった。

液晶ではある大手が撤退で外れ、ミックスが変わったのに同様に処理したので、単価が急騰しているなどの例があった。

経産省の知人には、2度、指摘したが、どうなったかはしらない。そもそも、機械統計は、国内生産で、国内出荷、あるは輸出というモデルで調査票が処理されているので、現在のような複雑なサプライチェーンでは限界があるだろう。

国際統計も捕捉率は低下

国際統計でも、半導体の生産能力や稼働率を表すSICASというのがあったが2011年で終わった。WSTSもどんどん参加企業が減り、補足率は既に7-8割を大きく切ったという。そこは民間の調査会社が、「適切に」推定しているようだ。

グローバルでも状況は同様であり、特に2000年以降は、ファブレス・ファンドリーモデルに加え、中国の台頭、業界の再編統合で、企業名や工場などをフォローするのが追い付かない。また、担当者のリストラもあるだろうし、どんどん新しいカテゴリの新製品が登場、どこに分類するか、という問題や、過去の統計分類との接続性、継続性もあり、そこは、長年の経験者のプロがいないと、調査票も作れないし、答えられない。

それゆえ、こうした公式統計は難しくなっているので、高価な民間のデータに頼るしかないのだが、こうした調査機関も統合の波に直面している。

国内は工業会の危機

国内の統計は更に危機的だ。長年この業界をウォッチ、こうした統計の裏の裏まで精通している、ネットワークグラフサービス株式会社の三好社長によれば、リストラの波で、ついにJEITAの半導体部会は存続の危機のようだ。私が諮問委員をしたこともあるSIRIJはこの9月末で解散を決定している。

また、幾つかの工業会も再編で会員が減り、事実上1社か2社になっており、統計として成り立たないものも少なくない。こうした統計は、企業で業績に直接は貢献しないが、優秀で公正な企画調査の人間の努力や、工業会の人間の努力で維持されてきたが、もう限界だ。そういう中で、経験の浅い担当者が不適切な回答をしたり、担当者が不在で処理され、それが統計データとなっている場合も少なくないし、今後は増えてこよう。機械統計や工業会の調査に答えるのは義務なのか任意なのか、罰則規定がある義務なのか不明である。