2015年9月14日 東芝の1Q決算は過渡期なので判断は難しい

18時半~20時の説明会。前半は室町社長による特設注意市場銘柄に指定されたことの謝罪・説明と、初登場の新CFOの平田氏から1Q決算説明、質疑、後半は、投資家アナリスト向けの質疑で、平田CFOと渡辺財務部長が対応。マスコミ参加は依然多いが、少し落ち着き、また質問の中身も、決算や今後の在り方に移ってきている。

 冒頭、室町社長から、特設注意市場銘柄になったことは上場廃止に準ずる措置であり、危機感を持って内部監査などプロジェクトチームで対処していることが強調された。違約金も支払い、また、1年後に2000頁くらいの報告書を出しさないといけないようだ。

慎重ながら踏み込んだ発言も

質疑に答える中で、自分の任期には中計は発表せず、後進に譲り、その種を仕込む程度であるとのことである。新しい三本柱、注力事業よりは、PCTV、白物の構造改革を優先すると明言。赤字転落や、課題事業の在庫の多さなど、厳しく見ているようであり、かなり踏み込んだ発言や、処理も前倒しもあり、決定事項から、順次発表、遅くとも年内までに明らかになるようだ。

平田CFO初登場

 次いで、平田CFOから説明だが、最初に謝罪と共に、1Q決算を1週間で仕上げたことに関して、新日本監査法人に感謝の意を表明されたことが印象に残った。今後の抱負としては着任1週間でまだ不明だが、CF、重視でいく方針のようだ。

 セグメント別の詳細など、以下だが、記述は質疑の回答も踏まえたものである。

全体は違和感ないが在庫が多い

 2015年度1Qは全体では、減収赤字転落だが、減収は円安のプラスがあるが、PCTVの縮小に伴う影響が大きい。営業赤字だが、半導体メモリーのNANDが黒字以外、ヘルスケアがトントンの他は殆ど赤字となった。なお前1Q100億円弱、上方修正されているがデバイスが主である。なおディスクリートやシステムLSIで新たに減損実施。リストラ費用は54億円、年間は未定である。やや在庫増が目立つ。

電力社会インフラは、107億円の赤字だが発電が半分の赤字、前年からのマイナスが大きいが、前年は、国内は震災復興案件と海外の補修が多かったためで、特段悪いわけではない。従来よりも厳格に受注の採算性などを見ているようだ。受注も国内原子力で15%増、WH28%(現地通貨で10%)と堅調。WHも減損テスト問題なし。

デバイスは、355億円の黒字だが、NAND20%前後のROSを維持、400億円程度、ディスクリート、システムLSIHDD20-30億円の赤字の模様。なお前期は修正前360億強、うちNAND400億弱、ディスクリート0、システムLSI20-30億円の赤字、HDDが同規模の黒字であったものが、計489億円に修正されているが、それがNANDによるものか、それ以外かは不明であった。昨年の説明会ではROS20-25%であったのが今回は20%後半とされ、かつNANDは一切不正なく、従って修正も無い筈なので背景は不明。NANDy/y10%弱の増収はビット成長40%弱と価格低下20%Q/Qでは10%減収はビット微増で値下げ10%と推定され、この価格低下が、利益率が30%弱から20%前後まで低下した要因だとは推定できるが、前期の修正後の数字が未確認。

NAND市況については、1QROS20%維持だが、2Qは軟調で悪化の恐れがあるが、3Q以降は回復し、年間では20%を維持できると見ているようだ。ただ、2013年度はROS30%から、2014年度25%2015年度は20%であり、増収で利益額は維持ながら収益性が低下傾向にあるのは円安の中で気がかりである。

システムLSIは前期までに全額、設備を減損済みであり、1Qも有形固定資産が発生しそうでも全額即時減損で2Q以降もその傾向ということから、ほぼリストラの目途がついているようだ。ただ、実態は、アナログやCMOSセンサーなど期待があるものと、ロジックで異なるし、工場も大分工場と岩手東芝があり不明である。いずれにせよ大きな赤字はもう出ないだろう。ディスクリートは、減損はしたがまだ300億円の設備があり、今後、将来性を見ながら減損をする模様、また、こちらは在庫もやや多いようだ。

なお、2014年度の有報によれば、四日市工場は1848億円(機械535億円、5510)、大分工場239億円(機械72億円、2577)、加賀は300億円(機械130億円、1511)、岩手113億円(機械65億円、810)NAND以外の機械装置合計は260億円強ある。

なお、6φの工場はSAW向けは不足しており、今なら、アナログ半導体や部品メーカーに譲渡の可能性があろう。

ライフスタイルは、207億円の赤字であり、PC-80億円前後、TV-80億円前後、白物家電-50億円前後の模様。地域絞り込みの中で、円安で海外現地生産のマイナスが大きい。前期は修正前ベースで赤字33億円のうち、PCは黒字、白物も黒字、TV等が30億円の赤字であったが、修正後は赤字51億円ゆえ、おそらくPCの悪化が大きい。また、在庫もPC中心に過剰のようで2Q以降にマイナスであろう。なお、白物家電はパートナーリングや海外オペレーション見直し、品揃えや、絞り込みも必要だろう。不祥事の影響はないが国内撤退もありうるとした。

コミュニティソリューション65億円の赤字、テックが厳しく、業務用エアコンが厳しく、ライテックも赤字であった。ここは、まだ寄せ集めの印象が強く、テックをコアとして、かつてのI作戦のように、第3の柱になりうるかどうかだろう。

ヘルスケアはトントン。ここは、田中前社長がM&Aもしながら第3の柱の候補であったが、現在は見直し中である。人事面では、ここの出身の綱川氏が副社長となるなど、今回の不祥事では無傷であり、注目される。

ここ数年の黒字はチャレンジゆえか

全体感では、1QP/Lとしては、かつてのレベルに戻った感じがあり、違和感もないか、逆に、ここ数年の頑張りは「チャンレンジ」だったのだろうか、と複雑な思いである。電力社会では、国内はいいとして、サービスメンテ中心のWH等海外が1Qで悪いことはないので、少し物足りない。コミュソリ、ヘルスケアも1Qはこんなものだろう。デバイスは相変わらずNANDが強く、あとがトントンというパターンだが、かつては、ディスクリートは5-10%ROSはあり、最近はローム等も回復している中では寂しいし、数年前の加賀の設備投資が問われる。HDDもこれから厳しさが増すだろう。ライフスタイルは限界利益率が低い分だけ難しさが増している。CF的にも難しい。

在庫は5カ月以上?

なお、気になる在庫だが、売上を、課題事業(ライフスタイルとディスクリート、システムLSI)とそれ以外に分け、前期の在庫水準が通常だとして計算すると、全体では前期は2.9カ月、今期は3.4カ月である。今期も課題事業以外は通常だとして、課題事業の在庫を計算すると、11500億円の中で3800億円となり、5.3カ月、適正より800億円、2ヶ月分強は多い計算となり、これが評価減か、その分、稼働損が出る可能性があろう。この推定が的外れでないなら、社長が心配でCFOCF重視という筈である。

上期は大幅減益か

会社側は、不祥事の影響を見極めるため、上期、通期の予想を控え、上期の発表で通期見通しを出す可能性を示唆した。その上期を予想すると、1Qから2Qにかけ、メモリは減益で300億円程度、デバイス全体ではHDDの悪化もあり250億円、また電力社会、コミュソリ、ヘルスケアは昨年並みで、それぞれ、180億、120億、50億とし、ライフが赤字縮小だが前年並みに100億円の赤字とすると、500億円程度、これに全社消去や在庫リスクを加味すると、2Q0400億円、上期は赤字のリスクもある上、課題事業の在庫リスクを最大限カウントすれば、減益はおろか、上期で数百億円の赤字転落も否定できないだろう。

年間で横ばい圏

下期業績はNANDの回復や通常は下期中心の電力などを普通に織り込み、かつライフスタイルがトントンと見ると15002000億円、これに上期の-100+400、在庫リスク織り込みで-4000も含めて考慮すると、年間では10001500億円程度であり、在庫動向やリストラ次第だが、前期比横ばい圏、実態減益もありうる。会社側はこの試算に対しノ―コメントだが、在庫処理やリストラについては粛々と、進める模様である。

罪深いPC

今回、改めて、問題が大きかったのは粉飾と言えるPCである。90年代は確かにノートでシェアトップであり、数百億円の実力の営業利益はあり、半導体が厳しい時には稼ぎ頭であったろう。しかし、ITバブル崩壊後は、厳しかった筈であり、たまに数百億円の利益が出たが、それは「チャレンジ」であり、また、コスト削減のため、OEMEMSを使ったことがサプライチェーンの複雑化を生み、それが粉飾の温床ともなり、在庫を膨らまし、市場の実態に対する認識を遅らせた可能性がある。時代は、既に、ノートから、ミニ、タブレットなどにシフトしたが、東芝は、軽薄短小化技術があるのに、タブレットにも展開できなかった。一部、海外ではタブレットを出したが中途半端であり、むしろ、新製品を出すでもなく、リストラをするでもなく無策に見えた。もちろん、富士通とケータイとHDDを事業交換した背景もあるだろうが、なら何故、まだ競争力があったPCも一緒に出さなかったのか、疑問に思われる。そこは、ノートPCの育ての親でもある西田元社長への遠慮があり、あるいは、ノートPC撤退を避けるため粉飾があったとすると、二重三重の意味で罪深い。

TVも累計赤字が大きいが白物はまだいけるかも

他方、TVに関しては、2000年以降、既に縮小均衡、リストラモードであり、地域や製品を絞り込んで、家電大手が大きな赤字を出す中で、比較的小規模な赤字であり、それを評価したこともあった。ただ、ズルズルと、100億円弱の赤字が続き、黒字化は蜃気楼のように遠のいた。90年代からCRTTVもリストラしており、累積の赤字は2000億円近いのではないか。

白物は、それほど大きな赤字でもなく、粉飾も無く、また1Qは天候を考えると、微妙なところではある。経営重心的には、ライフは長く、地域性があるゆえ、PCTVとは異なる。

人事刷新は100点満点ではないが苦渋の選択

今回、新しく執行役員クラスの人事が刷新された。ヘルスケアトップだった綱川氏が副社長として、ヘルスケアを管掌、ライフスタイルも管掌、経営企画担当であり、手腕が期待できる。なお、ヘルスケアのトップは瀧口氏が昇格する。今回の人事は、エース級の副社長7人が退任など、厳しいものであったが、それを補うべく大きな刷新であり、また、担当の入れ替えもある。室町社長によれば、かなり刷新委員会とも議論し、苦渋の選択の中で、100点満点ではないが、工夫したようだ。

選択と集中の基本戦略は、執行側か監査監督側か

10月から新体制スタートで気になるのは、新しい集中と選択の中でのポートフォリオ構築や、第三の柱の選択と、ガバナンスの関係である。その場合に、執行サイドで出した案に対し、社外役員中心に、取締役会は拒否できる。逆に、万が一、社外役員が、突拍子もないアイデアを出した場合、執行サイドは拒否できないようだ。もちろん、両方、擦り合わせて、そういうことにはならないだろう。

とはいえ、ポートフォリオの基本を決めるのが、電機業界に詳しくない社外役員が中心の取締役会では不安もあり、今後は、基本戦略の定義と、そこでの監査監督と、執行の線引きは、業界を超えた再編、ドメインの再定義もある時代であり、ギリギリのところでは問題が出てくる可能性もあろう。そこは暫定政権ではなく、次の本格政権に期待すべきことかもしれない。