11月4日 17時より本社で、いつものように、と書きたいが、今回から、出席者が少し違う。すなわち、樫尾会長、樫尾新社長、高木常務、碓井IR室長で、プレゼンは新社長が業績、会長が中計という分担であった、ただ、プレゼン資料はいつものフォーマットであり、新社長の色は出ていない。また、アナリストは、なるべく新社長に答えてもらい、性格等をチェックしようと指名して質問した例が多かったが、新社長が答えた後、殆ど、会長や常務がフォローしていた。今回は説明会がそれほど集中しておらず(私の場合は横河電機と重なった)、主要なセルサイドアナは出席しており、とりあえず必要な質問はされたので、あえて老生が質問する必要はなかった。
バイサイドアナ等には誤解があるようだが、私が説明会で質問するのは、①金融庁や東証もガバナンスコードを重視、中期からの経営議論を期待しているのに、最近のアナリスト(セル、バイ共に)のレベルが事業会社間で問題となるほど劣化し、上ブレ下ブレ位しか聞けないので、少しは啓蒙したい、②せっかく経営者が来ているのに、経営者が答えるべき質問をしないのは失礼である、③誰も質問のない空白時間があり勿体ない、④そもそも誰も質問しない、⑤直近では質問されないが、かつては必ず押さえているべき項目の質問もある、などが理由である。
もし、こうした質問をセルサイドがしてくれるなら、質問しないし、その分、メモ取りに専念できて喜ばしい。ましてや、質問をして目立つ積りはないし、そもそもNo Sideなので、目立つ必要はない。大手証券など有名な大会社がある中で唯一、無名の弊社の名が出るのは妙な感じだろうが、カシオも昔はVBだったろうし、日立やNidecも掘立小屋からスタート、HPもガレージからである。今回で起業は2社目だが、前回のヘッジファンドは共同創業ながら、国内独立系でトップ級まで大きくした自負もある。むしろ、本来は、マイナーな会社こそ優先されてもいいだろう。また、投資判断も株価コメントもせず、ガバナンスコード対話で本来必要な中長期のファンダメンタルズを中立の立場で客観評価しようというのが趣旨だが、それこそ大手外資運用会社をはじめ多くの潜在投資家も含め、その分析が期待されている。さらに、また前職で運用した株については、今、運用をしなくても、自分の判断が正しかったかどうか、プロとして行く末をフォローしないのは無責任だろう。
バイサイドは、人のことをとやかく言う前に、自分がしたい質問があるならば、どんどん質問をすればよいのだ。また、ノイズに近い上ブレ下ブレではなく、最低でも短信位は読んで企業の本源的価値について考えるべきだろう。この話については、幸い、ガバナンスコードを導入された一橋大の伊藤先生が主催する次世代CFO育成セミナー、HFLPで講演する機会があるので、そこで議論もしたい。
さて、話がそれた。決算だが、上期は売上1700→1740億円、OP200→216億円、NP154億円と上ぶれ、高機能時計が好調だった、NPなどは過去最高。通期は、売上3700億円、OP500億円、NP300億円で変わらず。今回から、電卓、楽器などが合わさって、新セグメントとなった教育では、新型電子ピアノを投入した。
中計として会長から、2017年度に売上5000億円、OP750億円にコメント。この中で時計が2000億円、OP500億円、これは今期の売上1500億円、Opm22%(300億円)から、売上500億円増、OP200億円増。教育は2017年に売上1500億円OP150億円だが、2.5Dプリンタ(1.5mmの凹凸が作成可能)が貢献。ROE20%と資本コストを超える業績を達成したいと表明。イノベーションのシステム化も強調。
質疑内容は業績の詳細、主力の時計事業に加え、特にようやく黒字化されたプロジェクタに関するもの、中計についてが、多かった。新製品の楽器については無し。
上期コンスーマ部門の内訳は、時計58%(Opm21%)、デジカメ10%(Opm11%)、教育30%(Opm11%)、システム部門では、プロジェクタ25%(黒字)、残りはプリンタが赤字。
時計は、6つのブランドモデルが74%をしめ、高価格帯で差別化、業績に貢献したが、地域別には国内、北米、欧、中国が1/4ずつ。しかし、本来は北米と中国がもっと頑張るべきだと言及された。増収の割にOpmが横ばいだが、2017年に向けグローバル投資をしているため。
デジカメは、黒字化定着たが、①中国で価格安定のKRシリーズ、②スマホと連携できるZRシリーズ、③カメラと液晶モニタが分離できるFRシリーズが、それぞれ好調。
プロジェクタは、数年前に2万時間稼働の水銀レスモデルを出したが高価で流通も含め受け入れられなかった。ようやく浸透、値下げでシェアを取る戦略が奏功した。ただ、今後の値下げ戦略については500ドル、その後で700ドルでそんなに値下げではない、との会長のコメントもあり、やや意見に食い違いがあるのかという印象をもった。
会長と新社長に絶好の聞くべきチャンスを逸した
時間があれば、聞くべきポイントは以下であっただろう。あらためて、本決算時、新社長就任時、新中計の発表時との継続性、比較を聞くべきで、本決算に出ないアナリストが多かったので、様子が分らないせいか、単なる足元のチェックに終わったのは残念であった。このタイミングでこそ聞くべき点は多かったのに、相変わらず安物のAIでも聞けるフォーマット化された、予想エクセルシートの穴埋めの質問が多く、あるいは、後でIRに電話で確認できる点が多かった。会長社長がいない場合は、それでもいいが、両人揃っての説明会は、IRフォローで聞けないことを聞くべきだ。
まず、新社長として半年たった抱負だろう。おそらく、新社長自身が、いろいろ語るだろうし、会長がコメントするだろうから、そのやりとりで、半年の評価や評判が把握できる。後になれば受け答えも慣れて見破れないが、今なら、それが分る絶好のチャンスだったが残念(会社にとっては幸?)。あとはガバナンス体制なども聞くべきだろう。本決算での会長が強調していたイノベーションのシステム化、その進捗を聞くべきであった。やや今回は、トーンが変わった印象を持った。
さらに、発表されるまでは、質問が多かったアップルウォッチとの、その後のフォロー。アップルウォッチへの評価も定まり、チェックすべきだろうし、カシオとして、離陸したウェアラブル市場への認識を聞くべきだったろう。
また、せっかく、新社長からの発言もあり、初台の駅の広告でも、これまでは、時計だったのが電子ピアノになって、驚いたが、電子ピアノの戦略は聞くべきだったろう。また、一緒になったが、教育の内訳として、電卓、辞書の割合や、収益性がどうなっているのか、また、シナジー効果が出ているのかも聞くべきだったろう。
さらに、サイネージ等や、システム部門のプリンタ赤字、POSなど、テックなどとも関連するので、チェックはしておくべきだったろう。
そして、TPPや為替が変わる中での生産体制なども聞くべきだったろう。先日の週刊ポストに漫画工場見学記があるが、山形カシオの特集であり、女性のマイスター制度があってムーブメント等、細かい時計部品の生産の様子がわかりやすく書いてあったが、生産拡大余地なども聞くべきだったろう。なお、週刊ポストに工場見学させる位なら、投資家アナリストにも見学を企画してほしい。これは前職、カシオ株をけっこう保有した時も伝えたが実現されなかった。
経営重心分析
経営重心の視点から、カシオのポートフォリオを見ると、中サイクル、大ボリュームが多いのが特徴である。多くが、ジャパンストライクゾーンに入っている。
形見にもなる時計、学生時代だけでなく社会に出ても使い続ける電卓、家族が長い間使う電子ピアノなど、そこそこ数量が出るものから、少量生産のものまであるが、いずれも、景気サイクルを超えて5年、10年というものが多い。軽薄短小の端末で、ボリュームも出るという意味では、電卓や時計は、スマホと似ている。しかし、サイクルが全く異なるという点では違うカテゴリーのものである。
アップルウォッチが、時計なのか、ウェアラブルなのか、議論があるところだが、もし時計であれば、アップルの得意な買換え戦略は効かないし、故にカシオの時計が打撃を受けることはない。ウェアラブルなら、別の商品である。ボリュームの差より、サイクルの差の方が、商品企画、流通など戦略が違ってくる。カシオはボリュームが大きくサイクルが長いものは得意だが、サイクルが短いものは不得手であり、これが、スマホの失敗の本質だろう。デジカメもこれに近い。
これまでは、課題事業であった、プロジェクタやプリンタなどシステム部門はボリュームが小さく、かつ意外とサイクルが短い。コンシューマ部門は景気サイクルを超える製品が多いが、システム部門では、景気サイクルに近い。これはカシオの苦手なゾーンであり苦戦の原因でもあろう。