プロピッカーをしているNewsPikcsで、100年後に残る会社の記事で盛り上がっていて、100年後のことなどわからない等のコメントが多かった。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46080
それは確かにそうだろうが、過去のいろいろな予測が当たったのか外れたかの検証が必要だろう。どういう予測、技術予測、市場予測、業績予測が、当り易いか外れ易いか、時間のターム、分野、などでどういう傾向があるか、は、NRI技術調査部からのテーマである。80年代でいえば、エレクトロニクスは確率が高く、エネルギーなどは低い。一番当たりにくいのは50年後あたりで、1960年の科学技術予測はAIや原子力など散々である(楽観的だっただけでなく、慎重すぎたのもある)。そこで驚くのが100年以上前、1901年の予測である。ここの読者は知性豊かなシニアが多いので十分に御存知のことだろうが、あえて掲載する。報知新聞1901年1月2日、3日「21世紀の預言」である。
1901年頃とは
当時は、ようやくマルコニーによる無線電信、エジソンによる白熱電球、ブラウンによるブラウン管が発明され、掃除機、電気オーブン、電気暖房機が発売された程度であり、半導体、もコンピュータはもちろん、TV、ラジオ、真空管や電話も発明されていない。自動車はあったが、ライト兄弟の飛行機はまだ飛んでおらず、ノーベル賞の制定もまだである。
企業では、GE、フィリップスが発足して10年足らず、もちろん、IBMもインテルもない。日本でも、電機メーカーで存在していたのは東芝、NEC、アンリツの前身の安中電機くらいであり、日立もパナソニックもない。東京では、東京電灯(現 東京電力)が直流の家庭用配電を開始して10年余、白熱舎(現 東芝)が白熱電球を点灯して10年、そんな時代である。
にも、かかわらず、明治人の想像力には驚かされる。あるいは、当時の人々の、人と離れていても会いたい話したい見たい、そんな、願望がいかに強かったのかがわかる。たしかに、タイミングも良かった、まさに、エレクトロニクス離陸前夜でもあった。そして、20世紀は、まさにエレクトロニクスの時代であった。
しかし、これらの預言が現実になったのは、そうした強い願望と、多くの研究者や技術者、無名の多くのエレクトロニクス産業の人々の熱意と努力、そして、明るく元気な、愚直な馬鹿みたいな、透きぬける青空みたいな明るさ、ではなかろうか。そして、それは、おそらく、今日の、われわれに欠けているものではなかろうか。
二十世紀の豫言
十九世紀は既に去り人も世も共に二十世紀の新舞台に現はるゝことゝなりぬ、十九世紀に於ける世界の進歩は頗る驚くべきものあり、形而下に於ては「蒸汽力時代」「電氣力時代」の称ありまた形而上に於ては「人道時代」「婦人時代」の名あることなるが更に歩を進めて二十世紀の社會は如何なる現象をか呈出するべき、既に比三四十年間には仏國の小説家ジュール、ベハスの輩が二十世紀の豫言めきたる小説をものして讀者の喝采を博したることなるが若し十九世紀間進歩の勢力にして年と共にいよいよ増加せんか、今日なほ不思議の惑問中に在るもの漸漸思議の領内に入り来ることなるべし、今や其大時期の冒頭に立ちて遙かに未来を豫望するも亦た快ならずとせず、世界列強形勢の変動は先ずさし措きて暫く物質上の進歩に就きて想像するに
▲無線電信及電話 マルコニー氏發明の無線電信は一層進歩して只だに電信のみならず無線電話は世界諸國に聯絡して東京に在るものが倫敦紐育(ロンドン、ニューヨーク)にある友人と自由に對話することを得べし
▲遠距離の写眞 数十年の後欧洲の天に戦雲暗澹たることあらん時東京の新聞記者は編輯局にゐながら電氣力によりて其状況を早取写眞となすことを得べく而して其写眞は天然色を現象すべし
▲野獣の減亡 阿弗利加(アフリカ)の原野に到るも獅子虎鰐魚等の野獣を見ること能わず彼等は僅に大都會の博物館に余命を継ぐべし
▲サハラ砂漠 サハラの大砂漠は漸次沃野に化し東半球の文明は漸々支那日本及び阿弗利加(アフリカ)に於て發達すべし
▲七日間世界一週 十九世紀の末年に於て少くとも八十日間を要したりし世界一週は二十世紀末には七日を要すれば足ることなるべくまた世界文明國の人民は男女を問はず必ず一回以上世界漫遊をなすに至らむ
▲空中軍艦空中砲台 チエツペリン式の空中船は大に發達して空中に軍艦漂ひ空中に修羅場を出現すべく従って空中に砲台浮ぶの奇観を呈するに至らん
▲蚊及蚤の滅亡 衛生事業進歩する結果蚊及蚤の類は漸次滅亡すべし
▲暑寒知らず 新器機發明せられ暑寒を調和する為に適宜の空氣を送り出すことを得べし阿弗利加(アフリカ)の進歩も此為なるべし
▲植物と電氣 電氣力を以て野菜を成長することを得べく而して空豆は橙大となり菊牡丹薔薇は緑黒等の花を開くものあるべく北寒帯のグリーンランドに熱帯の植物成長するに至らん
▲人声十里に達す 傳声器の改良ありて十里の遠きを隔てたる男女互いに婉々たる情話をなすことを得べし
▲写眞電話 電話口には對話者の肖像現出するの装置あるべし
▲買物便法 写眞電話によりて遠距離にある品物を鑑定し且つ賣買の契約を整へ其品物は地中鐵管の装置によりて瞬時に落手することを得ん
▲電氣の世界 薪炭石炭共に渇き電氣之に代りて燃料となるべし
▲鐵道の速力 十九世紀末に發明せられし葉巻煙草形の機関車は大成せられ列車は小家屋大にてあらゆる便利を備へ乗客をして旅中にあるの感無からしむべくただに冬期室内を暖むるのみならず暑中には之に冷氣を催すの装置あるべく而して速力は通常一分時に二哩(マイル)急行ならば一時間百五十哩(マイル)以上を進行し東京神戸間は二時間半を要しまた今日四日半を要する紐育桑港(ニューヨーク、サンフランシスコ)間は一昼夜にて通ずべしまた動力は勿論石炭を使用せざるを以て煤煙の汚水無くまた給水の為に停車すること無かるべし
▲市街鐵道 馬車鐵道及鋼索鐵道の存在せしことは老人の昔話にのみ残り電氣車及び圧搾空氣車も大改良を加へられて車輪はゴム製となり且つ文明國の大都會にては街路上を去りて空中及び地中を走る
▲鐵道の聯絡 航海の便利至らざる無きと共に鐵道は五大洲を貫通して自由に通行するを得べし
▲暴風を防ぐ 氣象上の観測術進歩して天災来らんとすることは一ケ月以前に豫測するを得べく天災中の最も恐るべき暴風起らんとすれば大砲を空中に放ちて変じて雨となすを得べしされば二十世紀の後半期に至りては難船海哨等の変無かるべしまた地震の動揺は免れざるも家屋道路の建築は能く其害を免るゝに適當なるべし
▲人の身幹 運動術及び外科手術の効によりて人の身体は六尺以上に達す
▲医術の進歩 薬剤の飲用は止み電氣針を以て苦痛無く局部に薬液を注射しまた顕微鏡とエッキス光線の發達によりて病源を摘發して之に応急の治療を施すこと自由なるべしまた内科術の領分は十中八九まで外科術に移りて後には肺結核の如きも肺臓を摘出して腐敗を防ぎバチルスを殺すことを得べし而して切開術は電氣によるを以て毫も苦痛を輿ふること無し
▲自動車の世 馬車は廃せられ之に代ふるに自動車は廉価に購ふことを得べくまた軍用にも自転車及び自動車を以て馬に代ふることとなるべし従て馬なるものは僅かに好奇者によりて飼養せらるゝに至るべし
▲人と獣との會話自在 獣語の研究進歩して小學校に獣語科あり人と犬猫猿とは自由に對話することを得るに至り従て下女下男の地位は多く犬によりて占められ犬が人の使に歩く世となるべし
▲幼稚園の廃止 人智は遺傳によりて大に發達し且つ家庭に無教育の人無きを以て幼稚園の用無く男女共に大學を卒業せざれば一人前と見倣されざるにいたらむ
▲電氣の輸送 日本は琵琶湖の水を用ひ米國はナイヤガラの瀑布によりて水力電氣を起して各々其全國内に輸送することとなる
以上の如くに算へ来らば到底俄に尽し難きを以て先づ我豫言も之に止め余は読者の想像に任す兎に角二十世紀は奇異(うわんだー)の時代なるべし (了)