2015年12月21日 東芝が通期業績見通しと新生アクションプランを発表

 

東芝が1720分過ぎから19時頃までマスコミ・投資家アナリスト合同の説明会を行った。発表者は、室町社長、綱川副社長、平田CFO。なお、綱川氏は、前ヘルスケア部門のトップで、現在は、ライフスタイル担当、ヘルスケアの説明会以外では初登場。説明が30分、質疑はマスコミ、アナリスト半々で計30問程度で当初予定を20分ほど延長された。

 

最初の開示の段階では資料にも交渉中とあった中国スカイワース社へのインドネシアTV工場売却がギリギリで1722分に合意となり、説明会開始が2分遅れて合意が発表された。このように、緊張感の中で、適時開示に努めようとする公報IRや、質疑にできるだけ丁寧に真摯に率直に答えようとする室町氏の人柄や姿勢は、じわじわとマスコミにも伝わってきただろう。

 

私が質問したのは、①ヘルスケアを売らねばならないほど厳しかったのか?②PCTV等のリストラはITバブル崩壊、リーマン後もあったのに、やってなかったのか、やったが知らないうちに贅肉がついたのか?③来期の1QあたりのCFは大丈夫か?IFRS導入や監査法人が変わった場合どうなるか、である。

 

マスコミからは、室町氏の責任問題についての質問は減り、今後の動向やリストラの内容を聞くものがほとんどであった。

 

なお、蛇足で私事ながら、愛用しているTVは東芝レグザであり、急な番組やニュースを見忘れた時に有用だし、忙しい時には倍速で見るなど重宝しているが最近調子が悪く買い換えることにした。新しく買い換えるのも、同じ東芝のレグザである。家内の愛用のPCは東芝だが、今回、小型軽量のダイナブックをXマスプレゼントで買うつもりだ。私なりのTVPC事業へのエールである。

 

 

 

思い切ったリストラだが重く辛い

 

数字自体は、既にマスコミ報道に沿っており、サプライズはない。ただ、今回の赤字額がOPNPも過去最悪。他方、懸案だった繰延税金資産もほぼ全額取崩し、聖域だった本社部門も1000人削減などは評価できよう。リストラ策の内容が思い切ったものであるが、そこまで膿を落とすと同時に財務が切羽詰まっていることに、驚きと万感迫るものはあった。

 

他の全セグメントが減収、赤字の中で、唯一、増収黒字、と健闘、安定して利益を稼いでおり、第三の成長の柱と期待されているヘルスケア部門のカーブアウトは重かった。具体的には100%子会社である東芝メディカルシステムズの50-100%売却である。なお、ヘルスケア部門の中で、重粒子線治療やウェアラブル、ゲノムはそのまま残す。

 

ある程度の売却は想定範囲だったろうが、あくまでマジョリティは維持し第三の成長の柱としていくものだと思っていた。要は、そこまで財務基盤が追い詰められていたということであり、社員のリストラと同様に重く辛い決断だったろう。実際、確かに、現況では、株主資本は1兆円から4300億円に縮小、D/Eレシオは340%に悪化している。

 

これで、東芝メディカルシステムズの売却益がなく、かつ、WHLG等の減損があれば、債務超過となる。これら資産売却により、来年度D/Eレシオ半分を目指し、中期では1兆円、D/E100%にしたいようだ。

 

 

 

B/S改善急務のために虎の子のヘルスケアを泣く泣く手放す

 

ヘルスケア部門は、原発等エネルギーや、半導体等のストレージに続く、競争力と成長性においても第三の柱となりうる期待が高い事業であり、前回の中計では、2015年度の売上6000億円、Opm10%、毎年、売上の10%R&Dに投じる健全な成長で、売却どころか、2017年度にはM&Aも含め1兆円を目指していた。足元の業績も堅調で優等生である。

 

もともと、東京電気のX線を嚆矢としており100年の歴史、世界でもGE、シーメンス、フィリップスと肩を並べ、主力のCT(売上構成4割)、X(2割弱)MRI、超音波診断装置でいずれも世界シェアほぼ3位以内。1/3がサービス、2/3がハードとバランスもいい。生産も国内の那須のほか、大連、ブラジル、マレーシアとうまく分散、地域別も、国内4割、米1割強、欧2割強とやはり分散している。

 

戦略的には、主力の画像診断から、治療、ライフサイエンス、ウェルネス、IOT、ソリューションへとドメインを広げ、他のセグメントともシナジーを出せ、テクノロジードライバーにもなりうるものであった。

 

ヘルスケア部門のM&Aのバリエーションは、高齢化の中で、人気化しており、国内での電機、精密のM&Aでも見られるように、EV/EBITDA12倍以上、20倍前後が多く、PER40倍が多い。ここ数年の業績は、安定的に、売上4000億円 OP200300億円、Dep100億円程度ゆえ、現状では、このバリエーションなら、4000-5000億円の価値。仮に、かつての中計のように、売上6000億円、OPM10%Dep100億強なら5000-7000億円となる。めざしていた売上1兆円なら1兆円も可能だろう。これなら財務は安心だ。

 

なお、売却先に関しては、たまたま同日の開示でライバルの日立で、日立メディコとアロカの吸収合併の契約締結時期変更のお知らせがあり、深読みしてしまうが、まだ、未定であるようだ。相手が、電機か精密か、国内か海外か、ファンドかは不明のようだ。オークションで、独禁法や、スピード感や金額等で総合的に判断するようだ。

 

 規模感やシナジー、体力などを考えると、日立、富士フイルム、ソニー+オリンパス、キヤノンが思い浮かぶが、むしろ、GEやフィリップス、シーメンスなど外資か、あるいは一度、ファンドに売却、その後、他の会社や本来、数年前の1兆円構想で買収しようとしていた他社を買い上場を目指した方が面白いだろう。

 

東芝メディカルシステムズの価値は、単独でも高いが、今後の東芝の中にあって、よりシナジーでより価値が高まるものであっただけに、そういう意味でも惜しまれるし社員の気持ちもわかる。ただ、冷静に考えれば、東芝にいても、ここ数年は全社のリストラ、予算カットなどは避けられず、留まるよりは、打って出たほうが会社の成長にも社員にもプラスであろう。十分に自活・自力・成長できる会社でもあり、そういう体制もできている。

 

そういう意味では、外に出て、外の血もいれ、外の空気に触れ、競争力を強化し、一層、成長し、外から、東芝本体とシナジーを出せばいいかもしれない。

 

 

 

リストラは本気だがデジャブ

 

 ライフスタイルのリストラは、人員削減、海外からの撤退などであるが、PCの開発縮小、モデル数削減、TVのブランドビジネス化などは、これまでも何度か聞いた話であり、これまでがどうだったか、やや疑念はのこる。また、かなり生産量を減らすが、それで採算があるのか疑問。PCは、富士通やVAIOと統合する方向だが、まだ時間がかかるのだろう。今回のリストラは、内外で1.6万人の削減、固定費削減効果は1000億円以上である。ライフスタイルでは、800億円のリストラ費用だが、人件費は300億円であとはディストリビュータへの補償や拠点閉鎖コストの模様。

 

 これまでのリストラでは、ITバブル崩壊時には、1.7万人削減で固定費1700億円、連結従業員を20万から16万、単独6万から3万、大きなポイントはDRAMからNANDへ転換であった。リーマンショック時は、ケータイや液晶中心にリストラ、TVで海外生産見直しや国内家電の拠点の統廃合など、固定費3000億円を削減、人員は派遣など5000人削減、ワークシェアリングの実施であった。

 

現在の従業員は、単独は3万で増えていないが、連結は20万に増えており、完全に撤退しないと、景気が改善すると、不採算事業が復活してしまうような気がする。その意味でも、PCTVは早期の他社と統合で完全に決別すべきだろう。そうでないと、ヘルスケアが忍びない。

 

 ただ、今回、本社1000人削減や、相談役・顧問制度廃止は、国内7800人削減、青梅閉鎖などは、本気だと評価されよう。

 

また、OPではなく、CFを重視していることは再三再四確認された。

 

 

 

業績はリストラ費用を除けば想定線だが来期のV字回復は容易ではない

 

 業績は、リストラ費用を除けば想定線だが、HDDや、送変電が厳しく、回復も期待できない。HDDは赤字脱却も容易ではないだろう。電力も、甘くは見られないだろう。

 

メモリは、1-3月はスマホが大幅減もあり、市況は厳しい。上期はOpm20%が下期は10%、さらに来期は、年間でもOPM10%を割る可能性も高い。非メモリやライフもいきなり黒字は期待しにくい。ライフヘルスケアもカーブアウト。V字回復を期待したいが、せいぜい700億円程度。NAND市況次第では500億円以下もあり、最終利益ゼロ程度になる。なお、本社その他で1400億円の赤字だが、本社だけでなく、まだセグメントに配賦されていないリストラ・減損費用が含まれている可能性があり、テックや送変電の減損だろう。

 

財務の回復には、なお時間がかり、テックやソーラ関連送変電が減損、IFRS導入で、新監査法人がWEC等を厳しく見れば綱わたりの中で、内部体制強化など完遂させ、特設注意銘柄解除が必要である。また、新中計では、第三の柱が必要であろう。

 

 やはり前から主張しているように、半導体は、中国企業による出資も厭わず、近い将来は、IPOによる売却益で財務を立てなおしながら、業界再編をリードしてほしい。また、原子力は内外政府や業界全体で相談し、公社にすべきだろう。その中で、何か、経営重心で、ジャパンストライクゾーンにある事業で第三の柱を確立してほしい。