不正会計事件があったので、今から思うと、はるか昔のような気がするが、去る3月12日に東芝のヘルスケア事業説明会と、那須工場見学会があった。何度か書こうとしたが、タイミングを逸した。同部門については、不祥事はなかったが、東芝の財務危機の中で泣く泣く外部への事業売却が決まった。この機を逃すと書く機会がなく、また同事業が3ヶ月くらいで状況が変わっている訳でもないし、事業売却で参考になるだろうように、併せて独自の分析も含め、報告する。
ヘルスケア部門の説明会は過去、位置づけが微妙に違った
東芝のIRは、これまで通常、毎年、半導体、重電、等の主要な事業で工場見学会や事業説明会がある。ヘルスケアは2年に一度くらいの頻度である。過去に説明会は、数度あり、だいぶ以前は、コアとうより、ノンコアとして、身売りや上場を意識しているのではないかという説明会も2度ほどあったが、田中前社長の中では最重要コア事業の一つとなり、IRも力が入っていた。
なお、那須工場の見学会は2度目、私自身は初の参加だが、90年代に日立メディコやアロカなど何社か医療機器の工場見学は経験がある。また、最近は日本光電の事業所見学会があった。また個人的には知人の病院の建設現場などを見学した。
ヘルスケア部門は、原発等エネルギーや、半導体等のストレージに続く、競争力と成長性においても第三の柱となりうる期待が高い事業であり、前回の中計では、2015年度の売上6000億円、Opm10%、毎年、売上の10%はR&Dに投じる健全な成長で、売却どころか、2017年度にはM&Aも含め1兆円を目指していた。足元の業績も堅調で優等生である。
事業説明会では、現在は代表取締役副社長(当時 上席常務ヘルスケア社 社長)の綱川氏による事業の「ヘルスケアVISION」、事業領域の拡大、ついで、東芝メディカルシステムズ㈱社長の瀧口氏より、コア事業の戦略と診断機器でのイノベーションについて、それぞれ説明があった。質疑の後、見学会、また見学会の後、質疑という流れであった。他のメディカルエレクトロニクスの説明会もそうだが、今回も電機のアナリストと、ヘルスケアのアナリストが混合で参加していた。
綱川氏および瀧口氏の説明要旨とヘルスケア部門の概要
創業は1875年、その後、旧東京電気のX線管を嚆矢としており100年の歴史、世界初の新製品を数多く出しし、多くの賞を受けている。東芝メディカルシステムズ(以下、TMSC)は、2003年に東芝メディカルと東芝医用システム社が統合、「Made for Life」を経営スローガンとし、さらに、2014年にはヘルスケア社ができた。
東芝グループの中で、サービスやシステムも含め医療関係の各社を統合、那須に集結させている。直近では、米バイタルイメージス社、英バルコ社の3D画像部門などM&Aも積極的で必要なリソースを得ているほか、80年代より日本光電とは提携関係にある他、内外の大学研究機関と連携、オープンイノベーションにも積極的である。
世界での競争力も高く、も、画像診断機器では、GE、シーメンス、フィリップスと肩を並べ、主力のCT(売上構成38%)、X線(同17%)、超音波診断装置(14%)、MRI(8%)でいずれも世界シェアほぼ3位以内。
この中で、主力のCTでは、07年に320列同時取集可能なエリアディテクタCT投入以降シェアを伸ばし、バルコ社の部門買収もあり、2014年は25%で2位とフィリップス、GEを抜き、1位のシーメンスに迫るようだ。
なお、こうした例は、最近では、研究開発型のハイテク機器で、GE等の欧米強豪に対抗してトップシェアは例がなく画期的である。
売上構成では、1/3がサービス、2/3がハードとバランスもいい。生産も国内の那須のほか、大連、ブラジル、マレーシアとうまく分散、地域別も、国内4割、米1割強、欧2割強とやはり分散している。
ヘルスケア部門の業績は、2009年度以降、R&Dで10%程度をかけながら、安定的にOPM6%前後を維持している。2015年度は減益だが、2014年度400億円だったR&Dを2016年度に500億円、研究開発者も3000人から3800人に増やす中でのコスト増である。
戦略的には、主力の画像診断から、治療、ライフサイエンス、ウェルネス、IOT,ソリューションへとドメインを広げ、他のセグメントともシナジーを出せ、テクノロジードライバーにもなりうるものである。治療系では、重粒子線治療、さらに、ゲノム解析、米ジョンホプキンス大との提携によるビッグデータ解析、病院向けに実績ある生体センサーを使ったウェアラブルなどに注力する。
売却先で、鍵となるのは、動機や、独禁法、国策、5000億円儀保の資金、時間、経営重心などの相性、特に、何よりも重要なのは、①「命第一」という理念、②10%以上かかる研究開発の持続性とオープンイノベーション志向の有無、である。
規模感やシナジー、体力などを考えると、日立、富士フイルム、ソニー+オリンパス、キヤノンが思い浮かぶが、日立は余りに似ており独禁法のリスクもある。
GEやフィリップス、シーメンスなど外資は面白いが、国家的な観点から見れば、診断系で外資に席捲され円安の中では問題だろう。外資の治療系や国内の治療系は、ありうる話だが、同じ医療といってもやや文化が異なる。
富士フイルムやソニー、キヤノンは経営重心がかなり異なる。医療機器、特に診断装置は、固有周期は5年前後、3年から8年くらいに広がり、固有桁数は数千から数万であり、カメラはもちろん、コピーやプリンタとは大きく異なる。さらに開発においては医師や医療機関と長期の信頼感を維持しオープンイノベーションが重要であり、電力や半導体装置、キャリアNWに近いかもしれない。
一度、ファンドや成長市場故にINCJ等出資で「新TMSC」主導で国内再編を
それゆえ、一度、ファンドに売却、あるいは、INCJ出資を受け、その後、他の会社や本来、数年前の1兆円構想で買収しようとしていた他社の買収で、将来、上場を目指した方が面白いだろう。
今後、円安の中では、世界のトップ10の医療機器メーカーに日本が皆無であり、治療系中心に輸入依存が多いというのは問題である。かりに、東芝や日立など診断系が弱まれば、ここもGE、シーメンス、フィリップス依存になる。もちろん、国内と外資の健全な競争は重要だが、国民の命に係わる医療機器で国内勢が消えるのは問題である。それゆえ今回の件がなくても、業界再編統合は急務であった。そこをリードできるのは、本来は東芝、あとは日立やテルモ等であろう。しかし、考えようによっては、東芝から離れ、より中立な立場、国際競争維持、国内医療再編を主導できるかもしれない。
TMSCの価値は、単独でも高いが、本来であれば、東芝の中にあって、よりシナジーでより価値が高まるものであっただけに、そういう意味でも惜しまれるし、社員の気持ちもわかる。ただ、冷静に考えれば、東芝全体の経営重心とも異なり、東芝にいても、ここ数年は全社のリストラ、予算カットなどは避けられず、留まるよりは、打って出たほうが会社の成長にも社員にもプラスであろう。十分に自活・自力・成長できる会社でもあり、そういう体制もできている。そういう意味では、外に出て、外の血もいれ、外の空気に触れ、競争力を強化し、一層、成長し、外から、東芝本体とシナジーを出せばいいかもしれない