日経報道(2016年1月11日朝刊)によると、シャープは、液晶を分社化、本体は、東芝の白物も含め、INCJから2000億円を出資し再建、分社化された液晶会社には本体の1500億円の借入を移しDESにより優先株に転換、これによりINCJは90%を出資し、将来はJDIとの統合も視野に入れる模様である。
更なる赤字の中で厳しく時間切れが迫る
シャープの現状は昨年春のDESにより2250億円の優先株発行で、債務超過を回避、上期末で1800億円の純資産がある。有利子負債は7600億円弱。ただ、この3月末には、5100億円ものシンジケートローンの返済期限もくるが再度の協調融資やDES、債権放棄は難しそうである。
今期のOP計画は100億円だが、既に厳しいことはコンセンサスとなっており、OPは数百億円の赤字、最終損失は2000億円規模もあろう。
しかし、1500億円のDESをするということは、既に1500億円の債務超過となっていることを意味し、最終損失が2000億円どころではなく、3000億円を超える可能性があることになる。さらなるリストラ費用もあるが、液晶中心にOP赤字は、-500億円をこえ-1000億円近い可能性も出てきた。
昨今の大型TV向けのキャッシュコスト割れによる、K2や堺などの工場稼働率大幅低下、アップル向け大幅調整によるK1ライン調整、IGZOの歩留まり悪化、さらにこれまでは計上していなかったパネルの在庫評価損などから見れば当然だろう。
債務超過と債権放棄を避けるのはわかるが
すなわち、最終損失の大幅赤字で、B/Sは再び債務状態になる中で、5100億円の返済は不可能に近い。それゆえ、政府やINCJは倒産を避けたい、あるいは銀行が、債権放棄を避けたい中で、このようなスキームを考えるのは理解できる。
また、液晶を切り離した本社に東芝の白物も含めINCJが出資、事務機の売却(これを利用して東芝テックなどと組ませる業界再編もあるだろう)などを指導し、再生するのも仕方がない判断だろう。
鴻海の5000億円を断り、液晶分社会社のJDIへ統合は合理的説明が難しい
しかしながら、問題は、鴻海が液晶も含め全社に5000億円を出して再建すると公言しているのに、それを選択しない合理的な理由が不明だ。鴻海は2012年から姿勢は一貫、テリーゴー個人で堺に出資、人員削減もせず、見事に黒字化に成功、シャープの旧社員からも評価されていると聞く。
また、液晶分社に90%出資して、それをJDIと統合すれば、独禁法抵触リスクもあり(特に中国)、利益相反もあり、OLED化の中で共倒れリスクがある。中小型のLTPSに特化しているJDIに対し、シャープは大型のアモも多くJDIのポートフォリオが変わる。工場の数が多いJDIにとっては、OLED化の中で、工場を絞り転換が必要なのに、更に工場数を増やせば、競争力が更に低下する。
経産省や国は、技術流出を懸念するというが、競争力を云々するなら、堺から既に技術は出ているし、NECが液晶から撤退した時点で術は中国の天馬に移っている。堺にもない技術があるとすれば、IGZOとLTPSだが、IGZOは、シャープではなく、SELあるいは細野先生、サムスンである。
堺の処理はどうなる
堺をどうするかが不明である。株主構成は、1/3はシャープ、1/3はテリーゴー個人、1/3は凸版やDNPなどであり、鴻海に売るのか、買い取るのか。仮に、INCJが、シャープを、液晶も含めて買った場合、本体にはTVセットだけでなく、パネルのモジュールで、堺との取引や大型TV向けもある。K2には大型TV向けもある。JDIは、大型TV向けは不要なはずで、そこは、堺が引きとるのだろうか。また、TVのセットやモジュールもあり、いずれにせよ、鴻海と何等かの合意が必要であり、鴻海をすべて無視するのは難しいだろう。
ハイテクだけ外資を嫌うのはダブルスタンダード
鴻海の5000億円がなければまだわかるが、5000億円をけって2000億円だか(液晶は不明だがいずれにせよ少ないはず)という少ない方を選ぶ合理的な説明が、他の株主や国民にすべきではないか。国は他方では、海外のマネーや投資家を呼ぼうとしているのに、競争力がないハイテクだけ拘るのは時代錯誤であり、政府のダブルスタンダードだろう。
かつて、NECエレクトロニクスに、海外ファンドが1兆円出すといっていたのに、それを当時のトップは断り(組合も賛成だったのに)、大赤字を出してリストラ、結局はルネサスと統合した。そして、今や、旧NECエレの工場は、山形はソニー、滋賀はローム、に売却し、山口は閉鎖である。これと同じ愚を繰り返すのか。
JDIやシャープの労組や持ち株会、年金基金は、大株主として何等かのメッセージを出すべきではないか。また、これで世界の資本市場、投資家は、おかしな国だと思うだろう。