電源3社の一角から多様に進化
新電元工業(新電元)は、サンケン電気(以下、サンケン)、オリジン電気(以下、オリジン)と並び電源3社の一角をなし、「エネルギー変換効率を極限まで追求することにより、人類と社会に貢献する」をミッションとし、会社のシンボルマークがダイオードともなっている(似た例は、抵抗器の単位と記号を社名にしているロームがある)ように、まさに電源の会社である。社名が電源でなく、電元なのは、セレン整流器や蚕糸処理機械の製造会社として、昭和19年に設立された「電元工業」の整流器部門を継承したためだろう。セレン整流器は、戦前は逓信省向け、戦後は電々公社向け局舎向けの電源向けに使われた。その意味では、電電ファミリーの一翼を担う会社であり、技術を重視する社風は電源3社に共通しており、戦後1949年に発足した後、1953年には店頭銘柄、1961年には東証二部、1968年には早くも東証一部となっている。なお、サンケン、オリジンも1961年に東証二部、オリジンは1969年に一部、サンケンは70年に一部と、ほぼ同時期であり、戦後の電電公社の発展、積滞解消と軌を一に成長していることがわかる。 雰囲気は、多くの部品やデバイスメーカーと異なり、むしろNTT基地局関連の電気興業にも似ている。
3社の業績を追跡できるのは1985年度までである。当時は、直接担当はしていないが、アナリストとして電機業界全体の動きは把握できデータもとれる。それ以前はで実感を持って業績動向がわからない。30年前、電電公社民営化前、既に3社の売上格差は今同様歴然としている。ただ、OPでは、新電元とオリジンは差がなく、ドコモの基地局投資ピークの95年以降ITバブル前ではサンケンにも拮抗している。
この頃までは、OPの動きは、3社とも似ており、NTTに代表される設備投資に依存、基地局電源など収益を支えていたのだろう。ITバブル崩壊後は、新電元とオリジンが赤字に転落する中、サンケンは買収したCCFLが好調で下支え、小幅減益にとどまる。その後、リーマンショックまでは他を圧倒する。しかし、リーマン後は、サンケンはCCFLが苦戦、2輪向けにモジュール化が成功した新電元が最高益更新、OPでサンケンを初めて抜いた。
3社のOpmを比較すると、5%±5%で推移、オリジンが、変動が激しい。サイクルは似ているが、新電元は周期が短そうである。また、Opmが落ち込む時は同時だが、回復は新電元がやや早そうだ。
そして、今や、電源3社は、全く異なる会社となった。株式コード番号は、同じ電源メーカーであるが、オリジンは重電の6500番台、サンケンは通信機の6700番台、新電元は制御系が多い6800番台と別れているが、中身もそうなった。新電元とサンケンは、売上やOP水準、時価総額も近く、まだデバイスメーカーとして比較対象となるが、新電元は、二輪向けのモジュールが主であり、サンケンは、M&A先のアレグロがOPの大半を占める。オリジンは、もはや、タッチパネル装置メーカーという位置づけだ。業績も、新電元は売上1000億円規模、OP50~100億円、サンケンも売上1500億円前後、OPも50~150億円だが、オリジンは売上300~400億円、OP30億円前後である。
電子デバイス進化論
新電元は、半導体から発展して、二輪系のモジュール、またパワコン等も成功し、環境システムへと発展、川下展開が成功。サンケンは、アレグロのM&Aは成功したが、半導体からモジュールへと川下に出て、光和電気などCCFLのバックライト企業を買収、大きく伸びたが、CCFLがLEDへと代替される中で撤退、モジュールでは、PM、PSでも苦戦が続く。オリジンは、半導体からモジュールへシフトする過程で、製造技術を転用、貼り合せで、スマホなどのタッチパネル貼り合せで、業界の雄、台湾TPKに食い込み成長を遂げたが、タッチパネルがインセル中心になると苦戦した。
多くのアナリストや学者は、優良大企業である村田などの分析に熱心でケースにも取り上げられることが多いが、むしろ、新電元をはじめとする電源3社のような中堅企業の展開が興味をひかれる。似たような起源と歴史、いずれもNTT関連のトランジスタ・ダイオードメーカーとして発展、電源モジュールをコアとしながら、異なる発展推移を辿った。ロームや新日本無線も似ているが、ロームは電子部品からディスクリート、更にLSIへ。新日本無線は早期からアナログ、LSIへ。村田や京セラは、電子部品あるいは半導体周辺部材に拘り、半導体そのものには参入しなかったが、ここ数年、無線モジュールの流れで村田はルネサスのPA買収、京セラは、INCJから日本インターを買収した。
こうした展開が必然か偶然か不明だが、厳しい競争の中で生き残りをかけ、環境やトップの判断で、多様に発展した姿は、ダーウィンの進化論を想起させる。それゆえに、「電子デバイス進化論」として、今後、経営重心の視点からも、分析検証を進めたい