高級音響ブランドメーカーの顔と、鴻海も顔負けのODM・OEMメーカーの顔
フォスター電機は、不思議な会社である。「フォステクス」ブランドで知る人ぞ知る高級音響メーカーであるが、株式市場や産業界からは、アップルはじめスマホメーカー向けにヘッドホン・ヘッドセットを供給するODM・OEMメーカーであり、ある意味で、鴻海ともライバルである。生産拠点は、中国やベトナムが多いが、これまではFA工場というより、5万人以上の人海戦術であった。有報によれば、全社のアップル向け売上依存度は2014年度30%超、2015年度は40%に迫り、かつ、アップル向けシェアは70%を超えているようだ。
アップル向けのサプライチェーンの中でのカテゴリー別でのシェアは、流石の鴻海も及ばず、部品や材料はおろか製品に近いハードで、ここまでシェアがあるメーカーは珍しい。同社は、オーナー系でもない普通の常識的な会社なのに、カリスマ・モーレツ経営の鴻海に負けず劣らず、アップルのボリューム感やスピード感について行っているのである。
中計では質の経営で構造転換中もあり慎重な業績見通し
スマホ依存度、特にアップル向けが大きいことは課題でもあり、為替動向や部材の大きなコストを占める磁石向けレアアースの価格変動と、共に、これまで、業績の変動要因となってきた。
昨年5月の吉澤新社長による初の説明会では、「質の経営」というキーワードの中で、単純な成長ではなく体質変化に取組むことが大きなメッセージであった。それは十分に理解できるが、その中で、今期の売上1900億円、OP100億円、NP50億円という数字は、慎重なのか、そういう体質変化に向けて先行投資をするのかは見えてこなかった。
秋以降、マクロ景気も悪化、特にスマホ市場が厳しさを増すなかで上期決算では上ブレながら、通期計画は不変(ただ、為替前提は117円/$、130円/€、から、120円/$、135円/€に修正)であったが、12月以降、iPhoneは大きく調整、関連部品メーカーも下方修正が相次ぎ、同社も3Q決算が懸念されるところであった。しかし、3Q決算も堅調、累計では売上1496億円、OP99億円、NP75億円であり、差引4Qは、売上400億円、OP1億円、NP赤字25億円(前年は売上500億円、OP16億円)であり、他社と違って下ブレどころか上ブレの気配すらある。
ただ、普通に考えれば、スマホ不振の中で、2016年度は2割程度の減益は避けられないだろう。
スマホ不振を期初に予見
少なくとも今期は、アップル依存度が高いのに、期初計画を維持しそうだということは、驚きである。つまり、同社は、長年のアップルとの経験を通じて、期初から、2015年度のスマホ市場については、次世代品も含めて慎重に見ていた、ということになる。
アップルとの付き合い方
注目されるのはアップルとのやり取りである。これは、多くの日本メーカーも参考になるはずだ。
2020年に向けてのビジネスチャンス
スマホ市場の鈍化や、スマホ向けのヘッドホン・ヘッドセットの変化の中で、同社は大きく構造が替わろう。現状では、売上の50%の約1000億円がヘッドホン・ヘッドセット中心のITであり、その80%近くがアップル、売上の30%の600億円強がクルマ、売上の10%強がAVだ。
しかし、2020年以降は、ITはほぼ横ばい、アップル依存度は全社の1/3以下、コード付きからワイヤレスタイプのイヤホンが中心になり、スピーカー技術の延長で薄くて軽いハプティック関連も出てくる可能性があり、顧客構成や製品構成が大きく変わろう。伸びるのはクルマであり、現在は音響用スピーカーが中心だが、自動運転が主流になると、警報アラームのスピーカーや、音声入力マイク等も増えてこよう。
売上2500億円、OP200億円が視野、自己事本比率は80%でROE10%
生産ポートフォリオも地域と自動化比率で変わるが人海戦術も残すべき