2016年3月17日 エプソンの中計説明会に参加

 

セイコーエプソン(以下、エプソン)の中計説明会に参加した。1715-16時、説明者は碓井社長、質疑は、濱専務、井上常務、IR花岡氏。やや質疑の時間が短く、もう少しジックリ聞きたかった。もっと注目されるかと思ったが、参加者もそれほど多くなかった。日頃、IRは充実しており、決算説明会の他、事業説明会、スモールなどかなりイベントは多く、碓井社長の登場回数も多く熱心である。あえていえば、工場見学会、R&Dの説明会がなく、期待したい。

 

 大学が精密機械専攻だったこともあり、前身の一部、信州精機の頃からリクルートで訪問したことがある。NRI時代、80年代後半からは、液晶や半導体の調査で各拠点を訪問した。2003年が上場だが、みずほ証券が副幹事だったこともあり、直接の担当ではなかったが、チームでフォローした。2005年以降は、ファンドの立場として、引き続きウォッチした。累計訪問は、上場前の液晶産業調査も含め、INPUT200以上と、精密業界では、ニコンに次ぐだろう。過去1年も説明会には参加したが、若様ブログでは、なかなか取り上げられず、今回が初めてである。

 

遅すぎた上場、エプソンこそ液晶技術でトップだったが

 

 現在の事業領域は、事務機が中心となり、デバイスもかなり縮小されたが、かつては、エプソンこそ、「液晶技術のエプソン」であり、産業への貢献は極めて大きいだろう。また、半導体では、MPUもコンパチ戦略であったが実績があり、デバイスからセットまで広範な事業領域を誇り、総合電機と肩を並べ、総合家電以上の技術力があっただろう。それゆえ、2003年の上場は、「遅すぎた上場」と言われ、もし、セイコーのグループ戦略が違って、80年代に上場したら、液晶ではトップを維持できただろうし、半導体でも成長できただろう。株式市場でも、ソニー以上に、外国人投資家も含め評価された存在になったのではないか。液晶では、アクティブマトリックス化で、TFTでななく、MIMを選択して苦戦したが、もし上場して豊富な資金があれば、また異なった戦略、選択をとっていたかもしれないだろう。

 

逆にいえば、現在の事業領域より遙かに広範な技術力はあり、経営面も、京都に有力企業が多いのと同様、長野県らしい独特の風土、モノ作りへの拘りがあり、潜在力は大きいだろう。それゆえ、リストラで現在の事業領域に絞り込んだことはいいが、デバイスの現状は、かつてを知っている者としては寂しく、いずれ違う形で花咲くことを期待したい。現在は、事務機、せいぜい、プロジェクタ位しか、株式市場や投資家アナリストの関心はないようだが、そんなものではないはずだ。

 

ビッグタンクの成功はケーススタディの好例

 

 そういうデバイス事業への想いが強かったがゆえに、事務機へのフォーカスが残念だったことに加え。上場直後こそITバブル後の回復過程で、増収増益が続き、2004年度は過去最高の売上1.48兆円、OP910億円、NP557億円を達成したが、その後は、減収減益、リストラもあり2期連続の最終赤字だったため、肯定的に見られなかった。また、多くの精密メーカーが円安もあり最高益を更新した2007年度も、売上1.3兆円、OP576億円、NP191億円にとどまり、リーマンショックの2008年度はOP赤字、最終赤字1113億円と厳しいものだった。その後も、2009年度、2012年度は最終赤字、OP200-300億円台で低迷したため、いい印象がなかった。それゆえ、碓井社長が、ビッグタンクモデルと共に登場して、2012年のSE15後期中計や、スモールミーティングで説明を聞いても、東大工学部卒の技術屋で尖がった経営者であることは分かったが、それが当時評判を落としたシャープ片山氏と印象がだぶり、肯定的な見方ができなかった。それは、当時の株式市場でのコンセンサスでもあっただろう。

 

しかし、その後は、ビッグタンクでの快進撃、上方修正が続き、2013年度は純利益は最高、OPはピーク更新にやや及ばなかったものの、2014年度はOP1314億円、NP1126億円と大きく更新した。後講釈だが、ビッグタンクは、この自社の技術の強みを生かし、市場動向を見据えた経営戦略の成功例として、ケーススタディとなるほどのものであった。自分の眼力の無さ、過去数年の業績で判断してしまう偏見を反省し、熱心にビッグタンク戦略を説明頂いた碓井社長やIRにも失礼であったと思う。今や、碓井氏は、最も注目される名経営者の一人であろう。

 

注目すべき中計

 

 そういう意味でも、これまでの自身の反省も踏まえ、碓井氏の現在の名声や、ここ数年の成功にも囚われず虚心坦懐に、No Sideで、中計を考察したい。

 

 まず、前回2012年の策定のSE(SEIKO EPSON)15は、2014年度に売上1兆円、OP700億円だったが、はるかに上回る業績であり、垂直統合型のバリューチェーンを築いた。ただ、やりきれなかった新事業もあった。今回のEpson252025年までの中計では、中長期の世の中のトレンドを見据え、同社の「省・小・精」「驚きと感動」というミッションの中で重視すべき価値は「スマート化」「環境」だとして、リアル空間に価値をおき、サイバー空間、IT業界から注目・連携される会社を目指すようだ。今回、中計がSE25とか、ではなくEpson25となった点について資本構成の変化があるのではという鋭い質問があったが、そうではなく、セイコーグループに属し、社名も不変だが、エプソンのブランド価値向上に重きを置いているためだとした。

 

業績目標は、2018年度の売上1.2兆円、事業利益960億円、ROE10%2025年度は、売上1.7兆円、事業利益2000億円、ROE15%とした。Epson251期中計の2018年まではSE15でやり残された課題をやり切り、成長基盤を創り上げる。配当性向は中期で40%、機動的な自社株買いなど株主重視へ。