2016年3月18日 東芝の事業計画説明会~第三の柱は社会と横串・シナジー

 

31816時半~18時、マスコミ合同の説明会だった。出席者は室町社長以下、志賀氏(電力等)、成毛氏(セミコン等)、綱川氏(ヘルスケア、ライフスタイル等)、平田CFOと、フルメンバー、主要事業を統括するトップが一堂に会したのは珍しく、執行陣のチーム一丸の意気込みを感じた。東芝は良くも悪くも遠心力が強い社風だが、危機感で求心力が高まっている印象。さすがに今回はレベルが低い答えようの無い質問は減り、マスコミも含め、あるべき東芝の姿を見出そうとしていた。

 

 今回のポイントは、①メディカルや白物家電の売却のB/S改善など効果や、他の事業売却の可能性など、②第三の柱をどうするか、成長エンジンは何か、中期のポートフォリオ、③業績目標の考え方、④SEC調査等リスク、⑤経営陣の有り方、などだろう。

 

ロードマップ

 

 プレゼンの最初に新生東芝へのロードマップが示され、2015年度は、とにかく企業としての存続のため、虎の子のTMSC売却だったが、16年度は資本市場への復帰、最低限のB/S改善、特設注意銘柄解除が大きな課題である。2018年度は収益基盤の確立、20年度が永続的発展、と示された。

 

 なお、米SEC調査の件は、一部報道がある米原子力関連の子会社のことではなく、昨年の第三者委員会の英訳を元に調査が開始された全社に関わる話であり、まだ、最初の段階らしい。ただ、私見だが、他のアナリストの指摘にもあったが、WECは未上場であり、また東芝もSEC基準とはいえ、ADRにも上場しておらず、仮に問題があったとしても、処分の仕方が難しい。また、そもそも、WECは、アーネストヤングの指摘で減損をしている。また、富士フイルムの質問状の件は、キヤノンの提案であり、双方の弁護士が確認したものであったことが判明した。

 

チーム室町

 

室町社長の去就についての質問もあったが、これまでとややニュアンスが異なり、指名委員会が判断すべきことだ、と発言された。心労は大きい上、ご性格からすれば、危機を乗り切れば、成長戦略、新しい東芝の姿を描くことは、後進に委ねたいというところだろうが、2015年度末を乗り切っても、SEC調査や旧経営陣や株主訴訟の裁判はもちろん、特設注意銘柄解除の責務もある。また、TMSCの行く末を見据え、白物家電やPCの案件を終了させ、ジャパンセミコンダクタなど半導体の業界も含めた再編などを見届けるまでは、続投は仕方がないかもしれない。

 

東芝-キヤノンの友情と、シャープ-鴻海-INCJの三角関係横恋慕

 

後任候補の方も、そういう膿やケリがつくまでは引き受けたがらないだろうし、委ねるわけにもいかない。病気との報道もある西室氏のこともあり、今は、室町氏をはじめとする陣営でチーム一丸となるしかないだろう。むしろ、危機を共有する中で事業部門を超えた求心力がついているようにも感じた。また、東芝の再生には、過去の土光さん等、外部からの大物経営者の参画が不可欠で、理想は、GEなど外資が出資と同時に会長あたりに就任、というのが不可欠ではないか指摘してきたが、もしかしたら、キヤノンの御手洗氏がキヤノンCEO退任後なら、ありうるかもしれないし、適任かもしれない。

 

今回のTMSC買収は、シナジーを考え、キヤノンの医療多角化には当然のバリエーションだろうが、今回のスキームの提案や昨日中に全額を振り込むなどの行為には、経団連で一緒でもあり、SEDなどで連携した、東芝への長年の友情、愛着、敬意も感じられる。そこは、それぞれのレベルは違うが当初のテリゴーのシャープへの「慕情」と似ている。もし当初通り7000億円程度であれば、奇しくも額まで同じだ。フェアにオークション方式で決め、その後はお互いの信頼の元に期限に即金で払うというキヤノン-東芝のケースと、シャープ、鴻海、INCJと、それぞれがリーク合戦で不透明な駆け引きで、延期で、まだ収束していないのと、大きな違いである。そこは、御手洗氏を見直したし、東芝も良かった。

 

それゆえ、富士フイルムが質問状を出しているのは当たらないし、キヤノンが東芝の窮状を見て、そういうスキームを提案したということだろう。その意味でも、キヤノンで良かっただろう。これが2015年度決算にどう織り込まれるかは未定であるが、キャッシュはあるということであり、最大の危機は脱した。実態は1兆円には届かないが、7000億円弱の自己資本はあるだろう。

 

白物家電のマジョリティは美的集団、PCはあと一歩、今回の事業売却は取りあえず終わりか

 

家電事業に関しては、東芝ライフスタイル㈱を過半の株を美的集団に譲渡するが、最終合意は3月末でディールが終わるのは3ヶ月後のようだ。数百億円とされる売却金額はNA。一定の株式は保有し、東芝ブランドも継続する。なお、東芝ストアを含む販売網は継続、「サザエさん」も含めた全社のブランドは重視する。この他、映像は国内中心に継続のようだ。PCについては、方向性は一致だが、条件協議で2016年度1Q決算までに決めたいようだ。INCJとの絡みに関する質問は出なかったが、これは、マスコミも含め、シャープに絡んだ後付けの話だと見ているようだ。

 

 これまでは、メディカル、白物家電だけでなく、半導体の非メモリ、HDDTV・映像、東芝テック等の子会社も、売却検討の可能性があるような印象だったが、喫緊の事業売却は一段落か。質疑には同意はしてなかったが、TMSCが高く売れたこともあり、もともと売却金額は大きくないとは言え、もはや、これらの事業を焦って安売りする必要がなくなったのだろう。もし、あるとしても、今後は成長への連携や、資本増強など、それぞれの事業のため、あるいは全社成長のためのポートフォリオ入替であり目的が違う。なお、コアのNAND事業の分社上場の検討については、継続との発言はあった。

 

リストラは1.4万人

 

 リストラは1.4万人で、3000人はグループ内で再配置、また、TMSC1万人は別枠。このため、連結人員は2014年度末の21.7万人から2016年度末には16万人まで減る。

 

これについては、むしろ過去を検証したい。ITバブル直後のリストラで、似たような数字であるが。1.7万人をリストラ、20万人を16万人まで減らすとしていた。ちょうど、当時は、売上も6兆円から4.7兆円であり、半導体やPCTVなどで固定費を減らしたが、その後、知らない間に、なぜ人員も固定費も、また膨らんでしまったのか、現場が自然に増えるのか、その検証をしないと、「減量・ドカ喰い」ではないが、同じ悲劇の繰り返しであろう。また、今回のリストラ案で、新卒採用中止の件は褒められない。少しでも入りたい学生は採用すべきで、そこに光る人材もいるだろう。

 

2016年度OP1200億円、18年度2700億円は第3者のチェックを反映

 

 今回の説明会では、2016年度、2018年度の業績目標も示された。本来なら、3か年中計だが、いつものように派手なものではなく、冷静で、かつ、第三者の意見も反映した慎重なもののようだ。

 

 2016年度は、計画として、売上4.9兆円、OP1200億円、NP400億円、FCF400億円、なお、設備投資3700億円、研究開発3100億円は、メモリと原子力に集中。2018年度は暫定目標として、売上5.5兆円、OP2700億円、NP1000億円。業績改善はNAND中心に売価ダウン等は大きいが固定費改善2400億円などが大きく寄与。

 

B/Sでは、2016年度末にTMSC売却、NP400億円を含め株主資本6860億円、ネット有利子負債が7650億円と現状から半減するとした。現在の自己資本1500億円、売却益6000億円弱、から見て、PBO悪化などは織り込んでいるようだ。

 

 なお、暖簾は、原子力では前回38523513億円、LG17131563億円は、為替変更によるもの、減損テストは、3Qでは問題なかったが、4Qで年次のテストを実施中。

 

今回、セグメントは変更され、TMSCや白物家電の売却、PCも切り出しで、カンパニーは7社から4社となり、主としてエネルギー(従来の電力と送変電)、社会インフラ(従来の電力社会の一部とコミソリ)、ストレージ(従来のセミコン&ストレージ)となる。新セグメント別には、エネルギーが売上1.71兆円、OP520億円、うち原子力の売上8700億円、OP400億円、社会インフラは売上1.33兆円、OP510億円、ストレージは売上1.43兆円、OP320億円、とされた。

 

原発は、前回から売上、OPも上方修正されたが、12月末に買収したCB&Iストーンアンドウェブスター社(現、WECテック)買収を反映したものであり、基本は見通し不変である。なお、減損テストの前提は厳しめに原発受注は64基ではなく45基。

 

 セミコン市況はかなり厳しめに見ており、4-6月はトントン位ではないか。ただ、非メモリはリストラで赤字にはならないようだ。夏以降に需給バランスで改善、下期回復の前提。またSSDHDDのビットクロスは2025年だが、一部ハイエンドの1.5rpmでは既に始まっているようだ。

 

なお、非メモリは、DBJ主導で再編など売却報道もあったが、今回、SOCでは、ジャパンセミコン社を設立、アナログファンダリとして成長させる。当初は東芝100%だが、再編の中で他の資本も受け入れる可能性を示唆した。ディスクリートは、白色LED撤退、加賀でパワー、クルマ向け中心。

 

第三の柱はI作戦の再来

 

今回、最も注目したのが、セグメント変更であり、第三の柱として社会インフラを掲げ、横串の組織として、インダストリアルICTソリューション社を位置付けたことだ。あたかも、80年代に戻って、「I作戦」の再来、「情制本」復活を再起させる。当時の東芝はメモリも弱く、重電中心の会社だが、高度情報化社会の到来の中で、制御コンピュータで強化し成長エンジンとしようとしたものだった。結果的には、ビッグデータもAIもまだであり、本来の狙いは開花せず、むしろ派生的に、ノートPCや、DRAMが大成功、90年代は、その貢献が大きく、逆に、その後は、これらの事業の不振に苦しんだ。

 

組織の狙いは明確で、日立と同様にIT部門を横串で、応用市場に向けITとの掛け算でシナジーも出していこうとするものだろう。日立では「マル情」が、物流、金融と共に横串にもなり、縦にもあるが、東芝では、インダストリアルICTソリューション社、セミコン&ストレージも、そういう位置づけになろう。日立では、プロダクツ系が子会社で残っているが、東芝ではここはカーブアウトされた。

 

比較すると、社会インフラの応用市場は、日立の方が幅広く、海外展開も進み、横串も強い。東芝の課題は、応用市場が狭く、社会インフラは国内中心であり、横串に金融や物流がないこと、そもそも、カンパニー制ゆえに遠心力が強く、各事業がお互いに干渉はしないが、無関心であり、業績は競い合うという傾向があったのをどう連携させるか、である。