電機業界の再編やM&A、とりわけ、水平分業の代表、EMS最大手である鴻海による、いわば垂直統合の負け組シャープ買収の件を契機に、垂直統合と水平分業に関する議論が沸き起こっている。
その中で、鴻海がシャープを買収すると、鴻海が垂直統合型となって、水平分業の時代の潮流に逆行し間違った決断だという指摘もあるが(経営共創基盤CEO冨山氏)、氏の指摘は、二重の意味で間違っていると思う。まず、第一は、鴻海がシャープを買収しても垂直統合を目指すわけではない、第二は、水平分業の時代であり、垂直統合は時代遅れというのは、最近はそうでもなく垂直統合回帰もある。
鴻海はEMS事業だけではない
第一の点については、鴻海自身が、今や、単純なEMSだけでなく、液晶パネル世界3-4位のイノラックスを傘下に擁し、アップル等のEMS顧客に利害相反がない形で、通信やソフトも含め様々な事業に出資をしているが、シャープの買収も、多様な複数の目的がある。これは、短期と中長期で異なる。また、シャープ自身も液晶パネルという部品屋としての側面とブランドメーカーとしての側面がある。
短期では、鴻海の狙いは、第三者割当増資の開示資料にもあるように、OLED対応等シャープの液晶パネルであり、テリーゴー個人で出資のSDP(堺工場)やイノラックスと一緒に、EMSというより部品屋として、アップルに供給したいということである。ここでは、部材調達などシナジー効果やサプライチェーンが短くなる利点がある。EMSとしてシャープのカメラモジュール部門を傘下に収めることでアップル向けの付加価値向上のプラスもあろう。しかし、冨山氏が誤解しているように、EMSのキャパをシャープに使うわけではない。
中長期では、EMSでの多角化と、非EMSへの多角化、すなわちブランド事業強化であろう。EMS事業はアップル依存度、スマホ依存度が大きいが、これを下げることが重要で、まだ小さいOA等などでシャープの技術力が役立つかもしれな。また、現在のEMS顧客と競合しない白物家電でブランド事業が可能だろう。ここは垂直統合的かもしれないが、鴻海のごく一部に過ぎない。また、現在のEMSのキャパを使うわけではない。さらに、EMS事業や、自社ブランド事業、全てで、シャープの研究開発力や応用商品開発力が貢献することも多いだろう。
以上は、いずれにせよ、鴻海やシャープについての、冨山氏の理解不足や誤解によることだから、ことは単純だ。むしろ、議論にすべきは、第二の垂直統合は時代遅れかという点だ。
垂直統合は時代遅れか
垂直統合vs水平分業の議論は、90年代より総合電機のレポートで数多く取り上げ(「デジタル家電バブル崩壊で総合電機は体制解体へ」(日経エレクトロニクス2006年1月若林秀樹)、「日本の電機産業に未来はあるのか」(洋泉社2009年若林秀樹)の他、2007-09年に非常勤講師として受け持った東京理科大MOTの「エレクトロニクス産業論 香山晋(当時コバレントCEO)さんと共同講義」でも大きなテーマであった。
最初にこの概念を半導体業界について取り上げたのは、80年代に日経エレクトロニクスにおいて、当時日経BPの西村吉雄氏と記憶するが、その後、総合電機の衰退と共に、多くの学者やアナリスト、マスコミが関心を持ち議論となった。また、この議論を掘り下げる過程で発見したのが経営重心®である。
90年代後半から2000年前後は、ファブレス・ファンドリモデルの台頭、EMS登場、TSMCの急成長、対照的に日本の総合電機の衰退で、水平分業論が優位であり、その前提で生まれたのがエルピーダメモリであり、ルネサス、JDIでもある。当時の経産省の産業再生政策も、これを論理背景としていただろう。
他方、サムスンは垂直統合でも優位であり、日本の電機業界でも、半導体や大手総合電機以外では、自ら垂直統合を誇るメーカーも未だに多いし、総合電機でも、重電系やSI系では水平分業化は聞こえない。
また、アップルもEMSを使っているとはいえ、要素技術は維持する疑似垂直統合であろう。また、最近のM&Aや、モジュール化の流れは、むしろ垂直統合化を意識しているようでもある。それゆえ、2010年以降は、流れが変わった感もある。また、電機の中でもサブセクターで状況が異なるようだ。
垂直統合の3つの意味
そもそも、垂直統合という言葉は、よく考えてみると3つの意味があり、それが、混同、混乱して使われてきたように思う。第一は、システム、ソフトからセット、デバイスまで全部やるという意味、第二は、企画、設計、製造、販売という全ての経営機能要素をやる、という意、第三は、全ての分野でやる、という意、である。それは、3つの意味で同時に使われたり、それが総合電機の総合という意でもあったりした。総合電機を英訳するとIntegrated Electronics すなわち、統合電機となるが、この統合は垂直統合の統合でもある。