シャープの再建策が、2月25日の取締役会で鴻海案を採用、そのまま収束と思われたが、その後、2月24日朝にシャープ側から最大3500億円の偶発債務の可能性が示唆され、鴻海は決議を延期、その後、やはり鴻海が決断したとの報道もあったが、諸条件を巡って、延び延びになり、条件引き下げ要求や、決裂説、さらにはINCJ案でよかった、などの意見まで出ている。そこで、少し整理したい。なお、偶発債務その他についてシャープ側から一切開示はなく、妥結に向け努力しているとだけだ。
2月24日 シャープ側から鴻海(及びINCJ?)に最大3500億円偶発債務通告
2月24日 鴻海は精査のため締結延期
2月25日 シャープの取締役会で鴻海案を選択、第三者割当増資の計画など開示
2月26日 シャープ高橋社長、鴻海へ、偶発債務の説明
2月26日 報道によると、1-2週間延期
2月27日 INCJ撤退表明
2月27日 報道によると、3月7日締結目指す
2月29日 シャープ側の交渉責任者が藤本氏
3月3日 報道によると、偶発債務は300億円以下、or 500億円以下
3月3-5日鴻海100人がシャープ訪問で追加DD、テリーゴー氏も八尾へ
3月5日 報道によると、高橋社長辞意
3月6日 報道によると、精査終わり近く合意
3月8日 台湾報道によると、シャープ派遣の人事の噂
3月8日 報道によると、鴻海は銀行に追加支援要求
3月9日 報道によると、3月7日目標が、来週ずれこみ
3月14日 報道によると、明日にも正式契約
3月15日 報道によると、主力二行と協議、減額や金利下げ、偶発債務が顕在化した場合の融資
3月16日 報道によると、買収延期、業績見極め
3月16日 台湾報道によると、高橋社長が鴻海訪問、詰め一段落、テリーゴーが見送り
3月16日 台湾報道によると、テリーゴー個人でシャープ株を買うため融資260億円
3月16日 JDIリストラ発表
3月19日 報道によると、鴻海が減額要求
3月21日 報道によると、月内決着を目指す
3月22日 報道によると1000億円、最大2000億円減額の要求、週内役員会で可否
3月22日 台湾報道によると4月末の可能性
上記で、下線部は事実に基づく報道だが、あとは、リークや憶測が多い。言えることは、シャープ側と鴻海側が、協議を続け、合意に向け努力はしており、テリーゴー氏あるいは鴻海側の意欲もあるようだ。しかし、期限や話し合いがどこまでついたかは不明である。また、明らかに偶発債務事件以降、こじれており、長引いている。台湾側の報道は、鴻海傘下の前提だが、日本は、楽観論と悲観論が交錯、後者では、鴻海撤退、INCJ期待あるいは破綻説まである。偶発債務は大きな話ではないのに、鴻海は、それを交渉に利用しているとの見方もあるが、テリーゴー氏が実際に激怒したとの伝聞や報道映像の表情から芝居ではないと思う。
鍵は偶発債務の中身と金額
現時点では、3500億円の中身が不明であり、300億円、500億円との説もあるがよくわからない。そもそも、有報での開示は約1000億円であり、大半は堺のユーテリティと、ポリシリコンの残りの評価損であり、それ以外にも2500億円という巨額な金額が残る。政府補助金との説もあり、検証したが、大きなものは亀山などの補助金であり、累計でも、2-300億円程度。マイナス金利によるPBO悪化や株安であれば、最大1500億円は考えられ、あとは、以前から指摘している販売チャネル先の補償金であれば数百億円から1000億円の可能性はあろう。特許も十分可能性はあるが判断は難しい。一番嫌な可能性は粉飾であり、これは推定のしようがない。東芝も最初、社内調査での500億円規模がOPで2000億円以上、B/Sへのインパクトは結局5000億円規模となった。粉飾と言えないので、偶発債務という表現の可能性もあろう。そうであれば、時間をかけ詰めているのも理解できる。
条件交渉は銀行が鍵
現在、出ている話は以下であり、偶発債務の内容や顕在化リスクについての議論である。
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出資額を引き下げ(1000億円が最大2000億円 4890億円が3890億円か2890億円へ)、鴻海が6割強持つスキームは不変ゆえ買取価格118円が引き下げ→週内役員会で決議
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銀行に債権放棄(全額から1000億円更に500億円?)→合意?
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偶発債務が顕在化した時の融資等→不明
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3月末期限の5100億円借り換えあるいは猶予延期→合意
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5100億円返済後の金利引き下げ→難航?
鴻海側としては、できれば決算を絞めて、それを見て、安心したいところだろう。3月末に5100億円の返済期限がくるが、これは、鴻海案をのむ以上は融資や延期なので、問題がないが、鴻海案を蹴る場合は、破綻しかない。最も難航しているのが金利のようだ。
鴻海は、そもそもシャープに本気でなかったのか
また、一部に、そもそも鴻海は、それほどシャープを買う気もなく、INCJ案を潰したいだけだったとか提示した金額も見せかけだけとの説もあるが、以下から、そうではないだろう。
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2012年の時から一貫している、もともと、筆頭株主を希望したが、周囲、銀行などから止められた。当時も事実関係からすればシャープが悪い面も多い(「シャープ崩壊」(日経)、「日本のM&A」(服部))。また、実際、堺には出資している。
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今回も忙しいのに何度もシャープ本社訪問、シャープ側も鴻海へ訪問。また経産省にも行っている(少し前の東洋経済の特集)。コストをかけ、DDもし、シャープの増資の中OLED等資料も鴻海の日本が作ったという。
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最初の会見では、取材陣に合意?文書を笑顔で見せた。しかし、偶発債務が発覚した後は、本当に激怒したというし、映像の表情も全く異なっていた。
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台湾でも、既に鴻海支援の方向でニュースが出たりしている。
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偶発債務が出た後も、八尾の工場に大挙してきて会合している。人事も進んでいる。
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今回の7000億円という金額も中身でいえば、2000億円は、OLED対応など半分以上は、シャープ買収がなくともイノラックスで必要な投資だ。ムダといえるのが、3500億円債権の買取の分だけである。
合意直前の2月25日に、「はじめて聞く」という最大3500億円のかなりの項目の偶発債務の可能性を聞けば、最初からやる気がなければ、すぐ降りるか、目的がINCJ案潰し(JDIのシャープ統合を阻止がイノラックスのためになるという)であれば、INCJ撤退表明の後で、同様に降りれば済むことだ。それを銀行とも交渉、100人のチームでシャープ工場を訪問しDDするなどは、そういうマイナスやリスクを考慮しても、シャープを欲しいのであろう。それは、短期でのOLED対応やアップル向けシナジーだけでなく、中長期の鴻海のEMSでの多角化、ブランド事業への展開を考えてのことであろう。
偶発債務が明らかになった以上、内容にもよるが、偶発債務の期待値(∑各偶発債務要素×確率)の分だけ、鴻海が金額を下げるのは当然だ。その個々の要素の確率を巡り、議論がなされているのだろう。収集が付かない場合は、決算を見てから、となるのは当然だ。それを解決する仕方として、金額の引き下げなのか、金利なのかを、詰めているのだろう。あまり金額を下げると、買取価格が下がりすぎて、有利発行となる可能性があるし、それも含め3月末のB/Sや株価を見極めたい、ということだろう。このままでは、債務超過となっている可能性が高く、倒産はしないにしろ、いろいろ企業活動には支障が出るだろう。銀行もメインバンクとしての責任から、妥協すべきところは妥協すべきだろう。