シャープが家電事業復活に向け動き始めた。ここ数年は厳しい財務状況の中で、新製品の開発予算にも事欠く状況だったようだが、鴻海傘下で、先行投資もできるようになり、士気があがり、ぞくぞく新製品を出し始めた。3月30日に発表された第三者割当増資の使途でも、OLED2000億円、LCD600億円に次いで、家電部門(コンシューマーエレクトロニクスカンパニー)が、400億円となっており、重視する。
エコハウスでもコラボを強調
4月2日の堺での説明会でも、エコハウスでの展示など力が入っていたのは家電であった
テリーゴーが絶賛した家電
共同記者会見後のスモールでも強調していたのは家電であった。
アクオスTVの発表会
4月21日には、シャープは家電部門のトップの長谷川氏が記者会見で、「鴻海とTVを共同開発、アジア向け低価格帯を攻め、鴻海の生産力、コスト力を生かす」とした。モノの人工知能化 AI×IoT=AIoT を進め、「ココロプロジェクト」の一貫であり、「テレビジョンからココロビジョンへ。TVと暮らそう」というメッセージである。AIOTは、関西漫才ダジャレ的なコンセプトだが、意外と本質をついており、蚊取り清浄機、ロボホンと共に、シャープらしい新商品である。こういう発想と鴻海のコスト力の組み合わせは面白い。
TVは2016年度に黒字化は可能
今期の家電部門は、TVも中国不振や白物も悪化で、部門OPは赤字となっただろう。家電の中では、白物家電やロボホン等もあるが、TVでのシナジーが早そうで、TVでは、2016年度の黒字化を目指すようだが十分に可能であり、この家電部門で500億円規模の黒字は十分に可能だろう。
鴻海とのシナジーが出しやすいが適宜、資本関係を見直す
この家電事業は、他の事業より、シナジー効果が大きく、白物家電などは、鴻海にとっても新分野になる。TVでは、鴻海も、EMS事業はあり、ソニーの海外工場を買収もしているが、それほど大きい規模ではない
TV産業は垂直統合と水平分業が半々
実際、TV産業では、垂直統合度合は50%程度であり、パネルも内製している韓国勢中心に自社完結、経営重心®から見ると、ボリュームでは閾値の1億台を大きく超えたが、サイクルでは5年以上であり、各国で電波など規格が異なる点も、スマホやPCと異なる。今後、パネルもセットも中国勢が存在感を増す中で、TV産業が、垂直統合か水平分業となるか、EMSが成り立つのか、鴻海の戦略も含め非常に関心が高いところである。
白物家電は水平分業か垂直統合かEMSが成り立つか
白物家電は、美的集団による東芝白物、ハイアールのGE家電の買収に見られるように、世界で合従連衡・M&A合戦が相次いでいる。白物家電は、TV同様に、垂直統合vs水平分業、EMS産業の成否の意味でも関心が深い。単なる白物家電というよりも、今後はAIやIOTと結び付き、一種のロボットとして発展していこう。白物家電は、経営重心®では、サイクルは10年、ボリュームは1億台以下であり、地域性が強いので、基本的には、垂直統合性が強く、EMSも聞かない。TVの場合は、キーパーツはディスプレイだが、白物家電では、モーターやコンプレッサであり、長期での信頼性が重要である。
鴻海の選択肢は、シャープブランドの中での垂直統合だろう。
水平分業vs垂直統合を決めるもの
改めて、水平分業と垂直統合を決める要素は、経営重心®のサイクルとボリュームであるが、その要素としての技術重心すなわち駆動部分の多寡、分化風土や、扱う中身だろう。垂直統合では、EMSは一般的に難しいが、多品種少量生産などの日本型EMSであれば成り立つ部分もあろう。この鴻海シャープの件は、海外企業しかも台湾EMSによる日本の総合家電メーカー買収、稀代の辣腕経営者による再建というだけでなく、垂直水平の産業構造論、EMS論、モノ作り論でも興味深いケースであろう。