日立のガバナンス問題というタイトルだが、もちろん、日立は粉飾や不正とは程遠く、社風的にも、先憂後楽、さらに、ROEはじめ企業価値向上や株主還元にも熱心、そして、この10年で業績も改善、過去最高益を更新、蘇るほど素晴らしい会社になった。その日立の株価が上がらず、先日の日経ベリタス特集で「新御三家」にも時価総額で差を付けられているのはなぜだろうか。
この課題は、アナリストとしての30年に及ぶ課題であり、当初はコングロマリットディスカウントであり、事業領域が広すぎ、ポートフォリオが日立の社風・体制にあってなかったのではないか、と考え、まさに、その定量的な分析のために、経営重心®を考案した。日立についての悩みがなければ、経営重心®も生まれてこなかった。
短期ボラの事業リスクは減ったが長期の地域リスクが増えた
業績面では、過去最高を達成し、グローバル標準になりつつある日立の株価が上がらないのは、これまで幾度となく指摘しているように、地域リスクと割引率の非開示であろう。そして、割引率がリスクフリーレートとリスクプレミアムの和であり、リスクフリーレートが地域によって異なり、新興国では高いことを考えると同根である。特に、社会インフラ事業では、期間が長い故に、地域リスクは大きい。
今回の英国のEU離脱で、鉄道事業や原子力などで英国に傾注していた日立が、どの位、中期的に影響があり、戦略見直しが必要かは不明だが、必ずしもマイナス面だけではないだろう。ピンチはチャンスであり、ローカル性も大きい社会インフラ事業はやり方次第だろう。シーメンスなどのインダストリー4.0の影響も小さくなるかもしれず、チャンスだ。5Gの標準化なども変わってこよう。
日立が英国に傾注したのは、地域ポートフォリオにおける選択と集中の結果であり、満遍なく各国に投資するよりも評価している。今もそれは変わらない。もちろん、海外の拠点の見直しはあろう。しかし、むしろ、将来の余地は大きくなった可能性もある。
地域ポートフォリオ管理と専門家
ただ、問題は、そうした地域リスク、地域ポートフォリオ管理である。
ローカル化は社会インフラにはチャンス
今後、世界は、グローバル化、インターナショナル化、フラット化、から、逆回転し、ローカル化、多様化、モンロー主義化に向かうかもしれない。
庶民の声、OBの声を
大きく変わった日立だが、あまり変わっていないのが、権威や有力者、有名企業の声は取り入れるが、外部の一般大衆やOBの意見や声なき声には、鈍感であることかもしれない。それは、B2Cが減り、B2BやB2G(Gは政府)が大きくなったからこそ、注意すべきだろう。
他の株主総会でもそうだが、一般株主の声に、むしろ、専門家や社外役員以上に(アナリストや機関投資などはもちろん)傾聴すべき貴重な意見も多い。