日頃よく使っている戦略という言葉は、もともとは、軍事用語であり、関連して使っている、橋頭保、調達、なども語源は同様であり、多くの概念が転用されている。書籍等でも、孫子を始め武将の戦略を参考とする例も多いし、経営トップも実際に自身が戦国武将を意識して、戦略立案や組織運営、M&Aをする場合も多いだろう。
合戦と経営戦略は類似点が多い
企業の新事業参入や既存事業で大きくシェアを伸ばす行動は、戦国大名が領地を拡張すべく、新しい市場である隣国に攻め入るようなものだ。軍勢を組織し、兵站に注意しながら動かし、必要な場合には周辺の小大名を調略、出城を落とすのは、ヘッドハントやM&Aに近い。新製品を投入し強固な営業部隊で年末商戦にフォーカスしてシェアを奪う場合もあるし、時間をかけて兵糧攻めで、シェアを伸ばす場合もあろう。何気ない飛び地に兵を動かし橋頭保に布石を打つことも実際の合戦ではよくあることである。また、合戦での決戦は短期でも、その前後の前哨戦が重要である。戦場では、マクロ景気に相当するだろうか天候気候に注意し、地勢(これは競争環境や産業構造、さらには消費者や顧客、サプライチェーンの関連業者などの情勢だろうか)で相手のリソースを考慮して布陣をしないといけない。大きな軍勢の場合は、旗下の部将の配置の陣形がポートフォリオとも言えるだろう。
陣立、戦略立案には事業マップが必要
合戦の場合は、実際の3次元空間で、地図により状況を確認できるが、経営戦略では何次元かもわからない複雑な空間であり、がその中でポジション取りとリソースの配分、配置が重要になる。その「地図」に相当するものが、事業ドメインであり、事業マップであるが、大半が、「相対位置はわかるが、距離もなく軸もないマップ」である。経営重心®では、軸と距離を導入し、事業特性に応じて、業種を超えてポジションを可視化・位置付け可能にした。いわば、戦略を立案するのに必要なマップでもある。
実際の合戦と経営は、時間軸が異なる。に一気に決着する場合も多い合戦と異なり、じわじわゆっくり時間が流れているような感じだろうか。実際のビジネスでは、それが、年末商戦に向けての半年~1年、決算の1年、アップルの2年サイクルの新製品発売、一つの景気サイクルや中計期間、社長任期の3-5年となる。
ケーススタディと図上演習
このように、経営戦略は多くの知見を軍略から転用している。実際の合戦で、机上の兵法だけでは通用せず、場数を踏み、あるいは図上演習や兵棋演習が必要なのは、ビジネススクールでケーススタディが重視されるのと同様だろう。そこで、大きく異なるのが、図上演習では、まさに、マップがあり、陣立てがわかるのに、ケースステディは文章による記述が多く、マップと企業位置づけ、リソース配分が可視化されていないが、これは、経営戦略を考える上で、共通の土台となる「マップ」が無かったからであろう。数年単位でマップと各社の布陣がどう変わっていって、その結果として勝敗の決着や、その要因が可視化できれば、より実践的なケーススタディ分析が可能になろう。
ドメイン、ドメインの切り口と組織、そして技術マップ
企業は経営戦略を立てる場合に経営理念・ビジョンからドメイン(事業領域)を設定するが、経営理念やビジョンは抽象的で各社似たような場合は多いが、ドメインは具体的であり、各社の個性が出てくる。また、そこで競合相手や市場が明確になる。ここでのドメインはせいぜい中計くらいまでの5年後くらいまでの事業だが、これが研究開発部門になると、その研究領域やテーマとなる。各社の事業がどういう内容かも面白いが、その事業領域をどう位置付けているか、研究開発部門でも、研究テーマをどう分類し、どう位置付けているかに、各社の戦略や思想が反映される。また、こうしたドメインと組織がマッチしている場合もあれば、そうでない場合もあり、また、ピラミッド型もあれば、マトリックス型もあり、組織構造とドメインの分類や位置づけの仕方も重要である。
パナソニックは、事業5×地域3の15のマトリックスでドメインを設定、Sジョブスはデスクトップとポータブル、プロとアマという2×2のマトリックス、日東電工は既存技術か新規技術、既存市場と新規市場といった具合である。このような各社のドメインを数多く、収集、横比較、時系列比較、組織図との比較をして分析をしてきた。ただ、これらは、独自性はあり常識的であるが、軸がなく定量化されておらず、異なる会社を横比較しにくい。それゆえ、ドメインが広いのか狭いのかを判断できない。経営重心では、この広さや各事業間に距離が計測できるようにした。
技術マップは、各社の研究開発部門で、もう少し整理され、汎用化、共通性がある。また、技術テーマが時系列に示され、樹木図で表現されていることも多い。これを、再整理して、同じ技術マップの上で、各社のドメインの位置づけを考察したことも多い。技術マップは、階層毎に技術を位置づけ、要素毎に関連づけ、各階層で扱う単位系が異なるが、最終ユーザーに近付く場合に、経済的単位となる。例えば、超電導で臨界温度が液体ヘリウムから液体窒素温度になると市場規模は10倍になる可能性があり、半導体では電子移動度が10くらい上がれば、実用範囲が広がり想定市場規模も増える。価値創造は単位系の変換プロセスでもある。
MBAとMOT、経営学と技術経営学
このブログでも、時々話題にしているのが、MBAやMOTだ。MOTは技術戦略というが、MBAや経営学と何が同じで何が異なるのだろうか。MOTとは、技術屋向けMBAだとか、技術もわかるMBAだとか、技術やイノベーションに特化した経営学だとか、定義や見方は様々なようだ。
おそらく、MOTはMBAの先端的な領域であり、並列・対立するものではないが、イノベーションの中でリスクを、是か非か、どう認識するかの価値観は、それぞれで異なるようである。