2016年9月1日 新生シャープの現状について

 

811日に中国での独禁法審査完了、12日に鴻海からの出資を無事受け、13日に、戴氏以下の新経営陣も就任、新生シャープが始動した。既に、報道では幾つかニュースも出ているが、先日、新生シャープを訪問、実態を議論したので報告したい。マスコミ報道では例によって、ニュアンスが異なるものも多い。

 

社員もほっと一息、戴新社長はモラルに配慮

 

 社内の反応は、やはり、ほっとしたというのが多いようだ。戴新社長もモチベーションを気にしており、買収ではなく、投資であり、シャープは独立した企業であり、鴻海との提携で、シャープの独自商品開発力などの強みを生かし、早期黒字化などを強調するなど、社員に配慮したプレゼンも良かっただろう。

 

一般社員の賃金カットをこの9月から無くし、816日以降の分も補填すうようだ。一般社員(組合員)2%であり、会社全体では年間でも10億円前後だろうが、それ以上のインパクトはあるだろう。また、もともと報道にあった「7000人削減、数千人削減」は鴻海もシャープも正式に発表したものでもないが、人員削減ありき、ではなく、人事配置の最適化のようだ。

 

組織人事体制

 

 組織役員体制では、基本的に、最近日本で流行のカンパニー制も執行役員制も廃し、事業部制、普通の取締役制度となる。執行役員では、谷口氏のみだが、品質環境担当で法務上、必要であるため。

 

ディスプレイ部門は、傘下にTVセットを擁し、規模も大きいのでカンパニーであるが、これは再三指摘しているようにSDPと統合するためだと推測する。http://www.circle-cross.com/2016/08/30/2016829-鴻海シャープが有機el-oled-jdiと協業意欲か-最後通告/

 

人事の妙

 

 取締役は、戴社長、野村副社長、高山氏の3氏が代表取締役、長谷川専務、沖津常務の他、劉氏、中川氏、中矢氏、石田氏である。ややこしいが、元専務でニチコンから復帰した中山専務、桶谷上席常務はじめ、藤本常務、森谷常務、佐々岡常務、橋本仁宏常務、伊藤常務、宮永常務、新常務、種谷氏、本道氏、伴氏、榊原氏、唯一の執行役の谷口氏は、経営幹部ではあるが、少なくとも現在は取締役ではない。

 

http://www.sharp.co.jp/corporate/info/outline/board/index.html

 

 前体制と比較すると、退任しシャープを去ったのは、水嶋会長(JEITA会長、最後まで反対だったとされる)、高橋前社長、橋本明博氏(みずほ出身)、半田氏(経産省出身 最後まで反対票を投じたとされる)、社外役員の加藤氏(伊藤忠OB)、大八木氏(帝人OB)、北田氏(検事、弁護士)、住田氏(ファンドのJIS)、斎藤(ファンドのJIS)である。反対票を投じた水嶋、半田の両氏や、JISB株取得もあり、住田・斎藤氏、など社外役員は当然だろうが、みずほOBの橋本氏が去り、三菱UFJからの橋本氏や、生え抜きではなく法務担当の伊藤氏が、社長室所属で、取締役ではないが、残っているのは、鴻海流人事なのか興味深い。

 

http://www.sharp.co.jp/corporate/news/160826-a.pdf

 

組織再編

 

 なお、新設された社長室は、200人体制で、戴社長直轄のエリート部門のような報道もあるがミスリードだろう。組織図を見ればわかることだが、本社系は、社長室(橋本室長)と管理統括本部(野村本部長)に分かれ、社長室傘下には、構造改革、人事、法務、IT、広報、渉外、管理統括本部は、財務、経理、経営管理、資材、物流、総務、内部統制という体制で、社長室に全社から選抜エリートが集まったのではなく、もともとの区分けである。憶測だが、管理統括本部はSDP時代からテリー氏の信任が厚い野村氏に委ね、社長室は自らよく見ようということではないか。

 

http://www.sharp.co.jp/corporate/info/outline/organization/index.html

 

 組織では、唯一、カンパニーとして残ったディスプレイ部門が、「ディスプレイデバイスカンパニー」として、TVセットなど情報家電を傘下に入れ、パネルは中小型が中心の第一事業本部、TV等の大型が中心の亀山第二や一部モジュールも含めた第二事業本部などのようだ。TV工場の矢板も傘下となる。

 

 事業本部としては、横グシ的なブランドや品質環境以外のライン系では、IOT通信(スマホ等)、健康環境、ビジネスソリューション、エネルギーソリューション、そして電子デバイスは、電子デバイスとカメラモジュールに分けられた。研究開発部門は、より事業に直結するという意味で、研究開発事業本部という名称になったが、ディスプレイ関係は、ディスプレイデバイスカンパニーの開発本部となる。

 

B/Sの現状

 

 鴻海の3800億円の出資を受け、デポジットの1000億円は資本勘定、B300億円解消その他もあり、現状の純資産は2800億円程度と計算される。ただ、9月末に向けては、2Qの決算や包括利益動向で動くことになるが、なお自己資本比率は10%程度と低く、3000億円の新規融資枠を設定。なお、偶発債務は、社員借り入れ112億円、ソーラーポリシリコン110億円、電気関係367億円と600億円弱であり、これは当然、鴻海と共通認識。また、SDPの出資比率もシャープ40%、テリー関係40%など不変であり、まだ資本関係はねじれたままである。

 

鴻海とのシナジーと今後

 

 まだ新体制が始まったばかりなので今後の日程などは未定だが、とりあえず人事や組織が固まったので、上期決算くらいには、通期の予想や鴻海とのシナジーなど方向性は見えてこよう。シナジーでは、以前から指摘し、報道もされ、効果も出始めている、調達力、コスト量産面、販路などは大きいだろう。TVや白物家電では、シャープが手薄で鴻海が強く期待できよう。

 

 その中で、既に、報道もされているが、売却した欧米のTV事業の買い戻し、や、提携による、ソーラーの強化なども、そういう方向性だろう。現時点では、撤退事業や切り売りは無いようだ。

 

 戴社長のプレゼンでも、人に寄り添うIOTを目指し、スマートホーム・スマートオフィス、また、キーワードで「多くの企業を巻き込んだエコシステム構築」などにキーワードが注目され、家電を強化だろう。また、経営戦略では、商品企画開発はシャープ、調達・生産は鴻海グループが全面サポートでサプライチェーン改革、ビジネスユニット単位の分社化経営、コーポレート部門のプロフィットセンター化、コスト意識改革、信賞必罰人事などが注目されよう。

 

業績は、全社黒字化

 

 1Q決算は既に報告した通りだが、液晶は足元、パネル価格も戻り稼働も回復している。1Qから大幅な赤字縮小、ゼロ近傍も可能であり、9月あたりは単月黒字も可能だろう。全社でも、OPでは赤字は、液晶が大半であり、大幅増益だろう。特に1Qは、風評被害や混乱もあったが、2Qからは鴻海とのシナジーが本格化、リソース投入もあり、全部門で回復を期待できよう。

 

http://www.circle-cross.com/2016/08/26/2016826-lcd-oled市況とスマホ-tv動向/

 

http://www.circle-cross.com/2016/07/30/2016729-シャープの1qは健闘-fcfも黒字化-野村副社長デビュー/

 

http://www.circle-cross.com/2016/04/25/2016425-シャープの再生シナリオ-鴻海傘下での第一歩/

 

 なお、日刊工業新聞622日号でシャープ株主総会にあわせた特集では、OLEDがどうなるか不透明な液晶や分離の可能性もあったソーラー以外では、全社OP500-1000億円とコメントしている。現状では、OLEDは、まだシャープでは取り組まず黒字化を優先だろうし、足元の液晶市況からすれば、年間での液晶黒字化、全社OP1000億円以上も可能だろう。

 

http://newswitch.jp/p/5095

 

 まず、サプライズな黒字化でモラルをあげ、戴氏の求心力をつけ、その上で、SDPの再編やOLED本格化という二段戦略だろう。