2016年11月19日 成長率、ROE、R&D比率、割引率の関係

 

成長率、ROE(収益率)R&D比率、割引率の4つのパラメータについて、マイナス金利や消費税に関連して、過去、取り上げた。通常は、5%前後、せいぜい10%までであり、また、ガバナンスコードで期待されているROE8%が、たまたま消費税率8%に近く、自身の運用経験や、電機アナリストの経験から、この8%をコンスタントに維持することは容易ではないことから、8%の意味を考えた。

 

http://www.circle-cross.com/2016/06/19/2016618-消費税8-マイナス金利-割引率5-10-roe8-r-d比率5-10-成長率0-5/

 

究極では4つともゼロになる

 

DCFV分析では、永久成長性ゼロは常識だが、同時に、そこでは、R&Dも、将来はないのだから、本当の意味でのR&Dコストはゼロ、本来は製造原価に入れるべきだが各事業部に配賦不可能なコストだけが残る。つまり、究極の状態においては、成長率ゼロ、金利ゼロ、ROEゼロ、R&Dゼロ、割引率ゼロ、である(銀行証券保険も含め金融機関は存在価値ゼロ)

 

4つのパラメータのそもそもの意味

 

 その後、そもそも、IFRSも導入する中で、売上R&D比率の意味や、そもそも、どの程度の%が妥当なのかも論考した。http://www.circle-cross.com/2016/06/11/2016610-研究開発費を考える/

 

 さらに、割引率についても、各社で減損時に開示される実際の例をCAPMに基づき、そのリスクプレミアムの意味も含め考察した。http://www.circle-cross.com/2016/07/08/201677-割引率とwaccを考える/

 

 実際、IFRS導入では割引率に応じて経営、特に事業部サイドで事業への認識が大きく変わってくるが、その影響を論じてみた。http://www.circle-cross.com/2016/05/20/2016519-ifrsと割引率で変わる経営/

 

 総合電機の過去の収益性を、経営重心®分析から、収益の取り方、リスクプレミアムに、短期の市場のボラのリスク(メモリ等)、長期での不確実性リスク(原発事業)の二種類があることを示した。http://www.circle-cross.com/2016/04/14/2016413-大手総合電機の中期業績8-の壁と二つの経営重心-リスクの取り方/

 

 以上のように、成長率、ROE(収益率)R&D比率、割引率という、似たような関係が深いようなキーワードについて、成長率以外は、何度も論考したが、ここで、これら4つのパラメータの関係性について考察したい。

 

稼ぐ手段としては成長率アップと収益率アップがある

 

 そもそも、企業にとって、成長率、収益率(ROEはその象徴)は、稼ぐ手段である。新製品や新市場で、売上を伸ばすか、同時にコストを下げ資産効率を上げるなどの収益性を如何に高めるか、に大別される。

 

電電ファミリーと東電ファミリーでの電機メーカーのリスクとリターン

 

 少し具体例で示すと、かつての電電公社向けの通信機器や、電力会社向けに重電機器は、5%程度の収益性であった。

 

新興国へ

 

 これが、同じ製品・事業でも、新興国に行く場合は、リスクプレミアムが5%で同一だとしても、国債利回りが高く、10%以上ある。

 

B2C

 

 また、電電公社で鍛えた通信機器を、B2C、民需応用する場合(これは、かつての電電自由化、自動車電話からケータイ・スマホへの転換やメインフレームからPCへの例が想起される)、同じ日本でも、市場特性が異なり、ボラが高くなる。

 

4つのパラメータのバランス

 

いずれの場合も、常に、成長率、収益率、R&D比率、割引率(これも、リスクフリーレートと、リスクプレミアム、また、そのリスクも、リターンに応じて、経営重心®では二種類あるが)4つのパラメータのバランスから、経営しなければならず、本来は、成長率あるいは収益率 > R&D比率、割引率 であるべきだが、意識されていないのではないか。

 

あるべきR&D水準をゼロベースで再考すべきだ

 

この4つのパラメータの中で、成長率は所与であり、また、割引率も同様に定められる。しかし、高収益である方がいいことは間違いないが、収益性、ROE水準の妥当性は、議論が多い。

 

中期成長率・ROE目標だけでは片手落ち、そのリスク前提である割引率や覚悟表明のR&Dも開示を

 

企業の決算説明会や中計説明会で経営側に、また機会ある度に、ROE8%を掲げているガバナンスコードを研究しているアカデミズムや日本取引所など政策側に、割引率の開示を求めているが、これは、ROEと表裏一体であり、いわば、ROE達成のための、リスクの前提を意味するからである。さらにいえば、R&Dは、ROE達成のため、イノベーションのための、覚悟の表明でもあり、同時に開示すべき数字であろう。この4つのパラメータの議論があってこそ、投資家は企業と中長期の経営議論が可能になる。