12月16日に恒例のR&D説明会に参加、質問もした。今回は久しぶりに、三田の本社でなく、R&D拠点の玉川事業場9号館であり、臨場感が伝わってきた。さすがに研究現場の見学は無かったが、実機の展示も多く、雰囲気は伝わった。出席者は、執行役員の西原氏、データサイエンス研究所長の山田氏、15時〜15時40分が、西原氏によるR&D戦略のプレゼン、15時40分〜17時が技術展示の自由見学。
密度の濃いプレゼンと絞られたテーマ展示
プレゼンは要点にフォーカスされ、明快、質疑も多かったが簡潔な応答で密度が濃い。R&D戦略も進化していると感じた。
提案と将来の展示を期待する
展示では研究者から全般的に丁寧な解説だったが、お互いのために、所属がわかる名札があればいいだろう。
R&D戦略、組織をコア技術強化と骨太ソリューション創出系に
西原氏は、過去、研究だけでなく、開発、海外など4部門を経験、市場化や事業動向も把握する中で、R&D戦略をたてられる。また、AIやIoTでは、イノベーションがいきなり事業化に影響することがあり、ソリューション戦略にも影響する。
オープンイノベーションのための価値共創センターを創設、人材マネジメントも強化
ここで重要なのは新設の価値共創センターであり、オープンイノベーションの司令塔、技術ビジョン確立にリード役となる。 オープンイノベーションも加速、先進顧客、大学等との連携に加え、スタートアップ投資による研究エコシステム拡大。人材マネジメントでは、AI技術研究者は2015年の150名から現在220名、2018年には300名と計画前倒し、理工系だけでなく、人文、法学など多様な人材を拡充。処遇はグローバル基準であり、ピンキリで一桁の差があり、米国流の年俸制を導入しつつある。
何でもAI/IoTではない
80年代から、NECをフォローしているが、前回の、エキスパートシステムや画像認識などを中心とした第二次AIブームから、総合電機の中でも、NECのレベルは高かった。現在のディープラーニングを中心とする第三次AIブームでは、多くの企業が参入し、ナンチャッテAIの如き状況にあるが、その中で、NECが注力領域を、B2G/B2B×で実社会を対象としているフォーカスしているのは評価できる。
AI研究の志の高さ
NECのプレゼン資料では、これらの技術を、その本質の狙いよりは、社会問題解決という面に矮小化しているきらいもあるが、この4点は、AI、IOTの重要な問題点の指摘である。すなわち、①IoTやビッグデータの利用においては、デジタル化された後はいいが、多くのセンサで得た膨大なアナログデータをいかにデジタル化するのか、②いくつかの分野ではディープラーニングの成果があっても、結局は専門家が目的関数を与え、学習させている場合が多い、③ディープラーニングは大量のビッグデータを処理し、ある閾値に達すればいいが、そこまでいかない過渡的減少、スモールデータでは、どう扱うのか、④大電力を要する現在のアーキテクチャは脳からは程遠く、ある特別解であり、限界が見えている。これは、長年、広い意味でのAI、ニューロコンピュータや量子コンピュータ等も含め、この分野に関わってきたからこそ、指摘できる現在のAIの問題であり、逆にいえば、NECの取組みの志は高い。
R&D説明会の順番では、NECが一番遅く、一番早かった日立と比べ、半年の差があり、また展示・発表された範囲で判断すると、ほとんどディープラーニングだった日立、ディープラーニングの課題の収束性と解の最適性を改善した量子コンピュータ的なアプローチの富士通と比べて、阪大や東大とオープンイノベーションで脳のマクロなアーキテクチャとミクロな素子構造から学ぶという脳型コンピュータのアプローチが最も進んでいる。長い年月をかけてアーキテクチャを進化させた人間の脳もベストではないが、消費電力の少なさから判断して、遙かに学ぶべき対象だろう。まさに、日立のR&D説明会で、消化不良(https://www.circle-cross.com/2016/06/29/2016年6月28日-日立の研究開発インフォメーションミーティング-今年はiotとai/)、富士通研でも、量子コンピュータを超えるアーキテクチャについて評価しながらも(https://www.circle-cross.com/2016/10/21/2016年10月20日-富士通研究所の見学会に参加-尖がった成果に感動/)、よく聞くとやや不満だった点がここにあり、これらは、今回のNECの説明で納得できる。
以下は、NPに6月に寄稿した「徹底分析 日本の電機企業はIoTで勝てるのか?」からの抜粋(https://newspicks.com/news/1591555/body/?ref=user_848263)であり、冒頭で、前提として、現在のAIやIoTといった第4次産業革命論に若干の異論を唱えているが、下線部を引いた部分などは、NECのAIに対する問題意識に近いだろう。
「AI、ビッグデータ、IoT、ロボットなどの新技術をドライバーとした産業全体の構造変化を第4次産業革命だというが、第3次産業革命を、コンピュータ、半導体、IT技術をコアとした構造変化とするなら、現在は、また3.5次、第3次と第4次の間だと思う。もちろん、第4次の萌芽が見られるのは事実だ。それは、これまでが物理学や化学、機械工学、電子工学など理工学をベースとしたイノベーションであったのに対し、生物学、医学、バイオテクノロジーをベースとするものであり、脳科学、生物模倣や、ビッグデータを使ったDNA解析、遺伝子操作など、理工学と医学生物学の融合になるだろう。コンピュータや半導体では、ノイマン型アーキテクチャ、微細化ではムーアの法則の限界が近づきつつあり、ディープラーニングのような新しい発想が必要になる。
今のディープラーニングは、非ノイマンだが、完全ではない。ディープラーニングは、今回の第3次AIブームに貢献した有望なアプローチだが、学習する初期条件によって状態が変わるだろう。いわば微分方程式の一般解と特解のように初期条件が異なれば同一の関数形に収束しないのと同様だ。ディープラーニングが、任意の初期条件に対する一様収束性が不明であり、フラクタルと同様に初期条件で多様に変わる。
いわば、人間の脳や、多くの生物の脳が、進化の過程の中で偶然により多様に発達してきたように、ディープラーニングも多様な解がありえるだろう。それは最適解ではない。いわば極大値だが最大値でない。それゆえに、試行錯誤の末に最適化していくディープラーニングの収束性を早め、極大値ではなく、最大値であることを目指すには、人間の脳を進化の過程も含めて理解することが必要ではないだろうか。また、多様なセンサを置いてIoTにより、多量多様多流のデータを集めて活用するわけだが、リアルタイム性が高まるほど、より多くの物理量が集まり、それを組み合わせて、より多くのデータが集まるわけだから、蓄積されるデータ量はいわば幾何級数的無限大的に増える。検索・処理するコンピュータは、より高速高周波になり、無線で送るバンド幅もどんどん広くなるが、チップの熱効率(消費電力密度)は脳に比べ悪すぎる(1万倍違う)ため、いずれ、こういうアプローチは破綻する。
情報量は無限だが実際の物理量やエネルギーは有限であるからだ。どこかで、ビッグデータではなく、スマートデーターというアプローチに変える必要がある。実際の地球上の生態系はもっとスマートであり、AIがシンギュラリティを迎えても、熱効率も含めれば、現実の生物を超すことはないのではないか。その反省に立ち、技術だけでなく、経済学や金融も、生物(個体も群も)に謙虚に学び直す時こそ、真の第四次産業革命だろう。」
R&Dから直接的な事業成果も出ている
過去のクラインのリニアモデルとは異なり、今日のAIやIoTのR&Dでは、基礎研究がいきなり、現実の問題を解決してくれるのも面白い特徴であり、R&D戦略特に、組織運営でも留意する必要がある。開示された2016年の事業成果も現実的な事例が多く、しかも、顧客まで開示されているところが驚かされる。
スーパー研究者の人件費とR&D
そこで問題となるのが、最近のAI研究者の年棒の高騰、更には、そういう人材の処遇と、適切なコスト織り込みである。
興味深い展示
今回、展示があったのは、動画顔認証・遠隔視線推定、群衆行動解析、音状況認識、警備救護防災を支える映像配信技術、予測分析自動化、脳型コンピューティング、秘密計算の7つであり、最初の4つは、社会ソリューションを支えるコア技術、後半の3つは社会にブレークスルーをもたらすコア技術という位置付け。大手電機らしい技術が多いが、他方で、ニーズに沿った、いいアイデア・応用を思いついたというのも出てきている。7つの尖がった技術に絞り込んだのは、他社のR&D説明会で、数十点かつ幅広い分野の展示があったのに比べ、真逆の発想で、賛否はあろうが、フォーカスして、一つ一つを深く説明したいという表れではあろう。
動画顔認証は、以前からNECが取組み、得意とする分野であり、年々、実績が増えているが、今回、ユニークかつ応用が広がりそうなのが、遠隔視線推定である。
群衆行動解析も、セキュリティに役立つ技術である。群衆の流量や、リアルタイムで人流を予測でき、これと、交通信号や、警察官の警備配置などと連携できる。
音状況認識は、新聞で報道された時から注目していた。IEEEのコンテストで世界1位となった。
警備救護防災を支える映像配信技術も、セキュリティに関連するが、カメラとスマホを装備した人間が、モバイル網を利用して、監視の死角を解消するもの。必要な要素技術で地味だが、話を聞くと面白く、NECならではの技術であった、
予測分析自動化も、報道があってから関心を持って楽しみにしていた。
脳型コンピューティングは、既に述べたが、今回、最も尖がったレベルの高い技術である。脳のマクロな模倣は阪大と、ミクロな模倣は東大というように、複数の相手とのオープンイノベーションの成果としても面白いし、アーキテクチャレベルだけでなく、ナノブリッジなどデバイスレベルでも、興味深い。
ナノブリッジは、ポストFPGAとしては最有力か
なお、このデバイスでは、ナノブリッジという、2種類の金属で挟まれた固体電解質(硫化銅)から構成されたスイッチ回路を使っているが、画期的に思う。展示会ではあまりアッピールしなかったが不思議だ。
秘密計算も、非常に重要であり、過去、NECが暗号技術に強いことから可能になった。
電波の利用状況をリアルタイムで可視化
今回は、展示は無かったが、発表来、もっとも関心があったのが、この技術である。