29日17時45分〜19時、東芝は、WHのチャプター11申し立てに関する説明会を開催したので、参加し、質問もした。綱川社長、平田CFO、原子力担当の畠澤氏が出席、質疑も対応。アナリスト、マスコミ合同で、多数の参加者だったが、前回の説明会の経営方針に沿った内容であり、ここ数日、マスコミのリークも相次いでいたせいか、少し落ち着いてきていた。ただ、後述するように、綱川社長への責任問題の質問には違和感を感じた方も多かっただろう。
東芝のためはもちろん、WHのためにも、勇気ある英断
今回のWH(正確にはWHグループであるWHとWHのUK)のチャプター11申請の意味は、WHにとっては、ズルズルと損失が膨らむより、裁判所の指導の下で、経営再建に向けての出発点であり、東芝にとっては、財務基盤の余裕がない中で、海外原発リスクを遮断、という意味で、双方にプラスであろう。
前回の説明会の方向性の中で、綱川氏以下の経営陣の大きな英断であり、峠を超えたといえよう。金額も4000億円強の追加のマイナスではあるが、工事がズルズル遅れ、コストが無間地獄で広がり継続、毎年、数千億円ずつ、特損を計上するよりは、この程度で、はっきりと明日が見えたことはプラスだろう。
連結対象から外れ、B/S悪化は最大で追加4000億円損失
チャプター11申請により、WHは連結対象から外れるが、①ノレン減損悪化影響除外とWHへの投資勘定全額減損の悪化影響を併せ、2000億円以上の当期利益ベースでプラス、②親会社保証(前回の7900億円から17年2月末は6500億円に減少)の全額引当と債権全額(2月末1756億円)の貸倒引当金の合計8200億円程度のマイナスで、差引6200億円のマイナス、当期損失は赤字3900億円から赤字10100億円となる可能性がある。
B/Sでは、P/Lでの6200億円の悪化は、WHが連結から外れることでの包括利益の改善(赤からゼロ)により4700億円の悪化となり、株主資本では債務超過1500億円が6200億円となる可能性がある。また、純資産ベースでは、非支配持ち分改善で4500億円となるため、プラスの1100億円が3400億円の債務超過となる可能性がある。
あと、IHIの保有分ロス350億円は既に織り込み、カザトムプロム社のプットオプションが2017年10月に行使されれば、2017年度にあと1000億円弱の財務へのマイナスはあるようだ。
これでWHリスクは最後?
実際の親会社保証引当や貸倒引当金がどうなるかは、裁判所の判断次第であり、そこでコストが確定する。しかし、「本当にこれで最後か」と、追加のコスト負担や損害賠償請求リスクなどについて、何度も多くの質問があったが、契約上も、この金額を上回ることはないようだ。米政府の政治介入もあろうが、もはやWHの話、あるいはWHと電力会社の話であり、もし、そこで、問題があっても、そこから、東芝に更なる追加のコスト負担がくることは、無いだろう。ただ、ある程度は、同時進行で、状況は共有しているだろうが、監査法人のチェックはこれからの模様。
いずれにせよ、損失は、最悪を織り込み、リスクを遮断した。むしろ、裁判所のリーダーシップで、損失額が減る可能性もあろうし、工事が順調に進めば、プラスの評価も出てこよう。さらに、東芝のWH保有株を新しい株主に売れば、売却益も想定され、これもプラスだろう。その意味では、1000億円か2000億円程度は改善する可能性もあろう。
また、米でのWH以外の案件は全額減損済であり、また、サウステキサスは開始可能だが、現状では、東芝の役員会で実行するのは難しいとのコメントであった。さらに、米以外の、インドなどのWH関連の案件はもう影響はないとコメントされた。
ただ、あくまで、炉やタービンなどハードを供給する一メーカーとしての貢献は継続、工事継続のためのステイクホルダーで全体8億$のファイナンスのうち、2億$は負担。また、もちろん、国内の廃炉や燃料などは責任上、収益も含め、継続である。
B/Sはメモリ会社の売却益に加え100%売却でなければ包括利益反映が鍵
年度末のB/Sは、為替その他で多少変わるが、110円で想定しており、そう大きくは変わらないようだ。質疑でやや噛み合わなかったが、ポイントはメモリ社の売却だ。30日の臨時株主総会で子会社化が決定だが、29日締め切りの入札の後、いくらの金額、どの程度の比率で、決まるかだ。
タイミング次第
遅くとも、メモリ売却のキャッシュインがある時点では反映されるが、WHの処理が、税務上、相殺される可能性もあるだろう。銀行の理解もあるが、短期でのキャッシュフローは問題ないようだ。そうした実体のプラスを考慮して、タイミングが決まるだろう。
なお、いろいろ報道があるメモリの入札だが、社数など状況は非開示だったが、最大6200億円の債務超過を十分クリヤできる応札があるとコメント。入札条件は、メモリ社の先行投資が可能な会社、東芝の財務基盤になるだけの金額、技術流出とタイミング、などとコメントされた。
経営責任
綱川氏が、ヘルスケアから東芝全体の経営陣の中で、改革を担ったのは2015年4月以降であり、ヘルスケア一筋に実績をあげてきた同氏は、2006年のWH買収経緯や是非を聞かれても、詮方ないだろう。また、東芝のトップ就任も、2016年4月だ。S&W買収は室町氏が社長時代であり、一役員の立場の責任に過ぎず、そこは、社外役員と同等である。さらに、原子力については、志賀会長が仕切っていたわけであり、そこを聞かれても、酷だろう。むしろ、問題が発覚した12月以降の対処はスピーディーであり、立派だろう。さらに、WHの件が無ければ、営業利益では過去最高益だったことも忘れてはならない。
あまり、トラブルがあった会社のトップに火中の栗を拾って就任したのに、過去の責任問題などを問われても筋違いだし、そういうマスコミの姿勢では、問題会社のトップの成り手がなくなる(名経営者とされる日立の川村氏が、まさに火中の栗を拾って、東電会長に就任だが、これも同様だ)。
WHはいつ方向転換
社長に変わって、マスコミが質問していた「いつ方針転換できたか」は、太平洋戦争での同じ愚問(そんなに簡単に転換できないし、日本人なら尚更)だが、あえて答えると、フクシマの直後に、特別な処置をしておけば、ズルズルと損失が膨らむことも不正会計も、無駄なM&Aも無かっただろう。
あと不幸だったのは、SEC基準であり、経産省も煽った原発ルネッサンス政策の中で、ノレンの期待が膨らんだが、日本式にノレンを一定償却しておけば、良かっただろう。これは、今後、東芝のケースで、IFRSの過度な時価主義(要はその空気や期待感で時価が決まる)方向性が変わるかもしれないし、それを期待したい。
ある意味で、不正会計問題を、東芝は感謝すべきであり、これが、発覚しなければ、まだ、WHのまさに制御不能な原子炉を、政府も、協力して、隠していたかもしれない。その末路は、まさにメルトダウンであり、メモリ売却でも難しく、東芝は破綻しかなかっただろう。そういう視点では、綱川社長のWHチャプター11申請は、WH買収の愚と真逆の、他の経営者では難しかった英断でもある。