日経報道によると、21日の取締役で、「東芝メモリ」の売却に関し、INCJ、米ベインキャピタル、ハイニックスの連合と優先的に交渉する方向で協議、検討に入ったようだ。買収金額は2兆円を超え、ハイニックスも融資の形で資金を出すようだ。2兆円という条件に加え、NAND市況変調の可能性の中で、独禁法を早期にクリアし、売却へのスピード感からは理解できる選択肢である。また、ハイニックスは、これまで提携関係もあり、元トップの小林清志氏の評価も高そうだ。ただ、リーク元が、以前、東芝の一部、経産省その他であり、WDも強硬姿勢を変えず、未だ不明な点も多い。
4陣営の整理
現状、候補として名が挙がっている4陣営について整理すると下記である。2兆円以上が条件とされる今回の出資・融資金額だけでなく、毎年3000億円以上の継続投資に加え、文化面など、東芝の独自性、スピード感、独禁法、安全保障、メモリ階層から考察している。これまでと変わったのは、鴻海の継続投資と安全保障面であり、SBファンドやテリー氏個人資産を考慮、また、シャープを通じた投融資であれば、外為規制は難しいだろう。ブロードコムは目的が不明な上、ファブレスであり、文化面、また継続投資が疑問だ。経産省や業界でも、これらを懸念する声が大きい。
時間との闘い
こうして考えると、WD問題を抜きにすれば妥当に見える。しかし、当初から中国はともかく、台湾も排除しており、独禁法では中国が難しく、こことWDが連携すれば、時間を武器にしてくるだろう。
しかし、NAND市況はリスクが高まり、一旦、債務超過回避を最優先すべきだろう。株価は、現在よりも先行きを反映するため、各陣営が、2兆円以上を提示しなくなる化膿性もあり、また、米国株式市場動向次第では、ファンド勢の資金が懸念される。それゆえ、キャッシュで1兆円くらいは、早期に支払うことを新たに条件に入れるべきだろう。
NAND市況がこのまま下落するとすれば、時間が経過すればするほど、WDはもちろん、候補先は安値を要求し、優位となる。ただ、債務超過が決定し、上場廃止になれば、現経営陣は責任をとって、総退陣だろうから、メモリ社売却という基本戦略も見直しになる可能性が高く、そうなれば、各社にとってマイナスである。また、東芝本体を時価1.4兆円で、メモリ社も含め割安で買えることから、既に、ファンド勢が株主になっている可能性(実際、エフィッシモ、キャピタルリサーチ、ブラックロックは夫々10%近く保有)もあり、彼らが、メモリ社の件について口を出す可能性もある。つまり、WDはじめ、各陣営は、ギリギリ上場廃止にならない程度に、焦らしてくるだろう。もちろん、独禁法審査時間も重要だ。
入札にすべきではなかった
そもそも、今回は、東芝メディカルシステムズの売却時と異なり、入札云々も含め、会社側から明確な条件が公表されず、マスコミ報道主導の中で、入札や2兆円が既定の事実のようになってしまった。東芝メディカル社は、既に子会社であり、複雑な出資関係も無く、独禁法や安全保障でも大きいハードルは無かったが、今回は、米中半導体摩擦に中で、これらに加え、WDとのJVや長年の関係もあった。それゆえ、入札でなく、個別に整理しつつ、東芝が主導して、交渉すべきだった。
そこが、WDとのボタンの掛け違いの元にもなっている。他陣営と異なり、WDはあまりに失うものが大きい。15年以上の提携関係や、投資した技術資産も失う恐れすらあり、NAND戦略の再見直となる。そもそも、サンディスクの買収が失敗だったということになる。
最大のリスクは、自分も失うものが大きいから、東芝の債務超過もやむなしと、焦らせて、あるいは、台湾、中国などと連携して、独禁法の手段に訴え、時間切れアウトを狙ってくることだ。そして、東芝本体に出資しているファンド勢と連携すれば、現在の経営陣を引かせ、東芝「巨大マグロ解体ショー」の中で、メモリ全体を手中にするかもしれない。
東芝上場廃止、民事再生リスク
上場廃止、民事再生は、確かに、いろいろな問題がクリアになり、借金もなくなることから、それを良し、とする識者も多いが、ファンド勢による「マグロの解体ショー」の中で、金融機関やコンサル、M&A業者は事業機会が多いが、最も不利益となるのは、一般株主と従業員だろう。