東芝の歴代社長の評価

 

 元日経新聞記者の大西氏に続いて、朝日新聞記者の大鹿氏が東芝を批判する本を刊行した。「東芝の悲劇」というタイトルで、西室氏から綱川氏までの歴代社長を断罪し、人災だと決めつけているようだ。もちろん、歴代トップ、特に、90年代後半から実質的に経営を執行してきた西室氏はじめ、岡村氏、西田氏、佐々木氏は、現在の東芝の苦境についての、多大の経営責任はあろう。また、西田氏から佐々木氏、は、WH買収や不正会計も含め極めて重い責任は免れない。室町氏も、S&W買収等の責任は重い。しかし、責任や原因は、歴代トップだけではない。歴代の役員も同様だろうし、社外役員も同罪だ。

 

任命責任

 

 粉飾、不正会計や、WH買収などの経営責任というなら、西田氏、佐々木氏であり、田中氏は、西田氏の下でバイセル取引を行っていたという意味では、調達部門の役員や社員としても責任は重いが、トップとしての責任ではない。

 

また、室町氏に至っては、半導体、特にメモリでは不正会計は指摘されておらず、唯一、経営責任があるというなら、S&W買収であり、むしろ、苦境の中で尽力されたともいえよう。

 

更に、現社長の綱川氏に至っては、決断が遅いとの批判はあるが、それはかつてのカリスマ的トップダウンを避け、慎重に対応したともいえ、もちろん、不正会計もWH買収も無縁であり、むしろ厳しい中での、リストラや今期の最高益更新など功績を評価すべきだろう。

 

では、問題のある西田氏などを後継指名とし、また、奥の院から、実質的に経営を担っていたとされる西室氏はどうか。もちろん、執行責任も、任命責任などはあるが、この批判は片手落ちである。

 

指名委員会の責任

 

東芝は多くの会社に先駆けて、2003年に委員会設置会社に移行した。つまり、後継トップの任命責任は、指名委員会にもある。歴代社長を批判するのなら、同時に、社外役員を務めた有名大学教授なども断罪すべきだろう。

 

戦前、戦争を煽り、戦後は全てを軍部に押し付けたマスコミ

 

 この著者が過去において、歴代社長をどう取り上げていたかは不明だが、少なくとも、多くのマスコミは、かつては、西室氏や西田氏を絶賛したことを忘れ、業績が悪化、不正会計も出て、まさに、水に落ちた犬を叩くが如き姿勢は、かつて、戦前は軍部を絶賛し、戦争を煽ったのに、戦後は、全て戦争責任を軍部に押し付けたことから何も変わっていない。もちろん、マスコミだけでなく、そういう評価をする側としてのアナリストにも責任はあろう。

 

アナリストとしては青井社長から

 

 アナリストとしては、青井社長以降、綱川氏まで、説明会などで質問、意見交換しているが、実際に、個別に面談・対談・会食などの経験があるのは社長就任前も含め、青井氏、佐藤氏、西室氏、岡村氏、西田氏、室町氏、綱川氏である。佐々木氏と田中氏は、説明会だけであり、名刺交換もしていない。また、同時に、この二人は、機会があっても、参加する気にならなかった。

 

 社長の就任、人事については、外部に出てこない、多くの要素の結果である。これは、政治家が大臣などに内定するが、不祥事で外れるのと同様だが、会社だけに、そこは表に出てこない。しかし、書物にもなり、有名な例では、かつてのソニーの複数の例があり、まさにドラマそのものだ。それ以外にも、多くの例で、表向きの発表とは異なる機密の背景で、人事や戦略が決定されたこともある。

 

情報の4象限

 

 会社の情報には、二つの軸があり、重要情報と非重要情報、開示情報と非開示情報がある。重要かつ非開示が機密情報であり、まさに、一部のトップが「墓場まで持っていく話」だろう。われわれは、常に、得られる情報が、この4象限のどこに位置するかを見極めないといけない。

 

歴代社長

 

 青井社長との面談は、レポートにも書いたが、正直、若手のアナリストからは雲の上の存在であり、評価できるどころではなかった。佐藤氏は、あまり印象はない。

 

 西室氏は、長いお付き合いの中で、マスコミ、また、社内からも、いろいろな意見があるが、全体としては、また、相対比較の中では、それほどひどい経営者ではないと思う。

 

 岡村氏も、実績や人選において、批判はあるが、少なくとも、真面目に改革に取り組まれた。DRAM撤退などは英断だったろう。

 

また、西室氏や岡村氏の頃までは、社風がおおらかで、多様性もあり、鷹揚さがあった。この頃までは、役員にも、多くの知性ある紳士が顕在だった

 

転機は2005

 

 西田氏は、社長以前から、西田マジックと言われ、アナリストの間でも、訝る者は多かった。また、東芝のノートPCの牽引者は、むしろ、森氏、実態は、溝口氏であり、その点も、フェアではない。ただ、その珍しい経歴や、知性や西室氏と同様の米国での素晴らしい人脈から、西田氏を正しく、評価できなかったのは不明を恥じるばかりだ。

 

 今から思えば、この2005年が転機でもあり、変わらぬ電機業界に愛想を尽かし、ファンドという立場から、会社を変えようと、セルサイドからバイサイドとなった。それゆえ、2005年からは、トップと深い付き合いはしていないし、分析もできていない。

 

まさに、短期的には、ここが、過ちの分かれ道、転換点でもあり、この前後に、多くの古き良き東芝らしい紳士が去って行ったし、自分が知る東芝でもないと思った。そして、その象徴が佐々木社長だった。また、社内役員も社外役員も、変貌したように感じる。

 

遠因・真因・近因

 

 物事の理由には、直接の原因である近因のほかに、真の原因である真因、さかのぼって大きな転機の遠因があり、それを見極める必要がある。

 

社長の再定義、レジチマシー論でも、議論を加えたい。

 

 

 

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