去る11月7日13時半からの説明会参加後、第一印象を記した。https://www.circle-cross.com/2018/11/08/東芝のnextプラン発表会の第一印象-リストラ対象事業や社員-売却されたメディカル-メモリなどの社員は泣いていないか/
その後のHP視聴による再確認、11月9日のスモールミーティングでのフォローアップを踏まえ、NEXTプランについて考えたい。
今回の中計で、説明を期待されていたことは、①新しい東芝の理念を提示するか、②これまでコアあるいは、成長期待事業だったメモリ、原子力、メディカル、PC等を外に出した後、何が新しいコアであるか、すなわち、どういう事業ポートフォリオとするのか、③このポートフォリオで、いかなる業績を達成するのか、そのため、いかなる戦略をとり、R&D投資やCAPEXはどうか、④目指すべきKPIと、リスクと、B/Sなど財務水準はどうか、であろう。
サイバー・フィジカルの融合で世界有数を目指す
東芝の役割、目指すべき姿を、世界有数のサイバー・フィジカル・システム・テクノロジー企業としたのは、正しいだろう。サイバーだけでは、既に、GAFAがおり、キャッチアップは難しい上、IT×IT、あるいは、デジタル×デジタル、では、コストは下がるが売上は増えないIT企業の二の舞だ。日本あるいは、総合電機たる東芝の強みを生かす意味で、サイバー×フィジカルだし、これが、IoTという視点でも、今後の成長市場だろう。
他方で、東芝グループの起源が、2人の創業者のベンチャースピリットを甦らせる、というのは、やや違和感がある。これが、マツダのランプ、モーターの芝浦であり、E&Eの東芝、また、それが2コアとなったが、東京電気と芝浦製作所が、なぜ、一緒になったか、を共有すべきだろう。
さらに、皮肉は、東京芝浦電気となってから生まれたイノベーションが7つあるが、その中で、白物家電、ワープロ、PC、NANDフラッシュ、320列CTスキャナー、という5つについて、その事業が、今は、売却されたか、無くなっているといういとだ。
DNA再認識という場合に、いきなり、「サイバー・フィジカル」ではなく、どうして、二社が統合したのか、革新事業が継続しなかったのか、について、現場従業員と議論し共有すべきだろう。
経営重心的にも、正しいポートフォリオ
東芝問題(不正会計、財務危機等)の真因は、ポートフォリオ問題だと「経済教室」に書いたが、それは、2000年以降のポートフォリオが、経営重心から見て、短サイクル・大ボリュームのメモリと、長サイクル・小ボリュームという、事業特性、リスク特性の全く異なる2コアに、「選択と集中」をしてしまい、最も美味しいジャパンストライク・ゾーンが手薄のなったことだ。結果的に、メモリを出し、原子力(WHと英国ニュージェン)やLNGなどエネルギーから撤収したことは正しい。特に、今回、コストはかかったが、LNG売却は勇気ある判断だ。ただ、なお、火力等のリスクはあろう。他方、メディカルや白物家電は、ジャパンストライク・ゾーンの中にあり、IoT、あるいは、サイバー・フィジカルへの展開があり、惜しい。いずれにせよ、90年代に飛躍した、PCやNAND、メディカル、等は、もうポートフォリオにはなく、80年代前半の姿に戻った。当時は、情報処理制御本部を中心に、I作戦という、おそらく、今でいえば、IoTやビッグデータ、サイバー・フィジカルだった方向性を目指していた。それゆえ、ある意味、先祖帰りであり、現状は、ほぼ、ジャパンストライク・ゾーンの中に、ポートフォリオはあり、これで、現状実態のOP1000億円は、それほど悪くはないし、これまで、メモリや原子力に偏っていたR&Dを振り向けば、成長は可能であり、国内に強力な顧客基盤を持つことから、OP1500億円程度は視野だ。
業績目標はやや甘い
このポートフォリオから、調達改革、リストラ、DX、モジュール化で、オーガニックに、成長を目指すというのは正しいだろう。M&Aによらない、のも、当面、バリエーションから高すぎるというのも、見識だ。
ただ、それで、2023年度の売上4兆円、OP8%以上で10%目指す、というのは、OP3200〜4000億円であり、かなり違和感がある。しかも、その内容が、再生エネルギー、パワーデバイス、電池というのは、これまでも、紹介されており、事業拡大が遅れており、物足りない。
なぜ、これまで期待させながら、ダメだったのかについて言及すべきだろう。また、サイバー・フィジカルも、内外で、多くの企業が手掛けており、ライバルとのベンチマーク分析が貧弱だった。
目標としては、2019年度の売上3.4兆円、OP1400億円はいけるが、2021年度の売上3.7兆円、OP2400億円は、そうとうマクロ景気が良くなければ、困難だろう。
現状のポートフォリオで、いくならば、シーメンスのように、バリューチェーンに沿った強化を、それこそ、M&Aもあえて否定せず、行うべきだろう。
企業価値拡大=TSR拡大を適度なB/Sとリスクを考慮
今回、最も注目すべき点は、目指すべきKPIに、よくあるROEなどでなく、TSR(Total Shareholder Return)としたことだろう。ある意味、直截的だが、明快である。
ROEは、普通の株主から見て、意義がわかりにくく、従業員から見ても、馴染みがない上、株主資本比率や自己資本比率をどうするかという議論もある。よくある8%以上などの議論も、統計的に、ROE8%を境にPBRが急上昇するということが背景にあり、多くの経営者が資本コストを意識していない。企業の成長も、収益性やCF改善も、要は株主にとっては、TSR向上のための手段でしかない。
メモリ社の売却で、9月末の現預金1.9兆円(純現金1.44兆円)、株主資本は1.9兆円強(40%)、純資産2.1兆円強、ここから、算出される分配可能額を1.17兆円強とし、諸費用を鑑み、株主還元のための自己株式の取得規模を7000億円と算定、2018年11月9日〜1年かけ、自社株買い。また、20円配当を実施、5年間の平均配当性向30%とする。
この結果、2018年度末の株主資本は1.03兆円(27%)、純現金は4300億円に低下する。これは、これまでの一般的な実業界の常識である「自己資本比率は安全性や保守性から高いほどよい」等と全く異なる。
また、つい最近まで債務超過の危機にあった企業とは思えないようにも思われるだろう。あるいは、そんな株主還元に使うカネがあれば、R&DやCAPEX、M&Aに使うというのが一般的だろう。
画期的な判断
しかし、東芝は、無駄に株主資本比率を高くせず、現在の国内中心の社会インフラ向けが多い事業中心のポートフォリオでは、株主資本比率が30%前後で十分と判断、また、バリエーションからM&Aは割高、必要以上にR&DやCAPEXに使っても、固定費が増えるだけで、費用対効果が薄く、それなら、株主に報いるべきだと判断したのだろう。これは、極めて画期的な判断である。
すなわち、多くの企業がROE目標は示しても、あるべき株主資本比率、自己資本比率、D/Eレシオなど、B/Sの姿に対して、ビジョンが無かったが、東芝はそれを示したのだ。もちろん、かつての師匠であり、現在は落日のGEのように、M&Aのやり過ぎでノレン合計6兆円に対し、株主資本3兆円は論外だが、闇雲に、株主資本比率が上がるのも問題なのである。
もちろん、NAND価格暴落で、TMC社の持分4000億円強は、減損や評価損もあり、中長期のリスクがある火力や鉄道もあり、そこは十分な財務基盤が必要だ。ただ、主として国内であり、さらに、交通システム全体をやろうという日立とは異なる。さらに、IFRS対応もあろう。
関連して、執行役報酬制度の明確化、様々な評価基準を入れ、概ね、業績連動分を50%強にしたのも、正しいだろう。また、内部統制も、2線、3線と強化した。ただ、あまり、ガチガチにすると、却ってイノベーションを阻害する。正しいポートフォリオと、適切でシンプルな評価基準があれば、不正会計も減る筈だ。
残された問題
今回、開示が足りなかったのは、中期の割引率のイメージやレンジだ。これまで、6〜10%前後と説明はあったが、10%近いのは、メモリや原子力であり、大きく、数値は変わった筈だ。当然、割引率が低下すれば、B/Sのあるべき姿も異なってくる。さらに、セグメント別のB/Sのあるべきイメージや、割引率の開示も欲しい。
こうした割引率の開示が無ければ、中長期のリスクを会社側と、投資家側が共有できない。こうしたリスク度合いの共有があって、初めて、長期投資が可能になるからだ。
東芝問題は、近因は不正会計を許したガバナンス、真因はポートフォリオ、遠因は企業文化だと、日経新聞経済教室にも書いた。今回、ガバナンスは十二分、ポートフォリオも改善、あとは企業文化だ。これについては、総括されず、まだ闇も残っている。ただ、企業文化は是非の問題でなく、常に、光と影の両面がある。無理に企業文化を変えても、却って良さも無くす。あまり、業績目標で無理をせず、かつてのイノベーティブな会社に戻ってほしいというのが願いだ。