ファーウェイCFOで創業者の娘である孟氏が、イランへの不正輸出の疑いで、12月1日、「米中摩擦休戦」報道でほっとした日に、米の要請で、カナダで逮捕されたことが世界に激震を起している。
日経新聞によると、同氏は、2016年頃からHSBC口座を介し、米が制裁対象のイランに不正輸出をしていたという。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38657460X01C18A2000000/
NDAA2019とNDAA2020
また、日経は、8月に成立したNDAA2019を使い、米政府が取引禁止など制裁に踏み切る可能性を示唆している。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38651580W8A201C1MM8000/?n_cid=SPTMG022 これは、超党派の賛成で上下両院可決の「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」、ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン(監視カメラ大手)、ダーファ・テクノロジー、ハイテラの5社を対象に、安全保障上リスクありと警戒を強め、5社への締め付けを大幅に強化する条項。
第一段階は、2019年8月13日以降、政府機関や米軍、政府所有企業は、サーバーなど5社の製品や部品を組み込んだ他社製品を調達することを禁ずる。
さらに、20年8月13日以降に導入する第2段階の規制(NDAA2020)では、5社の製品や部品を使っているだけで、アウトというもの。まさに、ウィルスに汚染されたら、一切ダメという感じだ。
広がる忖度
これに呼応して、ファーウェイとは特定していないが、日本政府も、通信機器などITインフラ調達に関し、コストだけでなく、安全保障を優先と発表、英でも、BTがファーウェイを排除の模様。
なお、既に、NDAA2019成立直後の8月末には、オーストラリア政府が、5Gネットワークに関し、ファーウェイとZTEを排除と発表、欧州や東南アジア諸国にまで広がる可能性があろう。
なお、ファーウェイとZTEは、中国ハイテクといっても、前者はオーナー系、後者は国家系で異なる。また、ファーウェイは、チップをハイシリコンで内製「キリンチップ」)している。ファーウェイが中国に軍事企業かどうかは、不明だ。オーナーや内部に詳しい方は、違うといい、米関係者や、関連企業は、そういう認識だが、もとは、シスコが焚き付けたという話もある。
今回の件で、メリットが大きいのは、エリクソン、アルカテル等(日本のNEC、富士通、OKI、日立国際など)だ。
ただ、意図は別にして、ファーウェイの基地局などインフラを導入し、端末も買えば、当然、国家の機密も個人の秘密も、見ようとすれば、見えるし、攪乱も可能です。それが、4Gまでなら、通信だけ、スマホだけだが、5Gになれば、クルマや、IoTで社会インフラ全部になり、一層脅威は高い。
台湾の報道では、ファーウェイがコアサプライチェーンとして公表した米国系33社、中国系27社、日系と台湾系それぞれ11社に影響があると報道、TSMCなど台湾メーカーも痛手としている。鴻海のテリーゴー会長は、5-10年の影響だとしている。
米中ハイテク新冷戦
これまでの米中貿易戦争は、トランプ政権の人気取りなどの論点が主だったが、ここにきて、その背景にある真因は、ハイテク覇権であることが明らかになった。
そのハイテク覇権を守るため、米の必殺技は、①米「危険」国家への不正輸出(かつての東芝ココム事件、今回はこれ)、②知財(かつてのIBMスパイ事件、最近では、中国のJHICC)、③為替操作(プラザ合意)、④関税(過去の繊維など)やダンピング、⑤不正金融や資金洗浄、などの戦術があり、特に、80年代は、①から③の3点セットで日本がやられたから、中国も同じように、やれると思ったのだろう。
さらに、当時はなかったが、⑥投資規制のCFIUSや今回の⑦NDAA2019もあり、非常に強力である。内容は異なるが、かつてのスーパー301を思い出す。
日本では、特捜の、有報虚偽記載(ゴーン)や、外為法(田中角栄)などがあるが、それ以上だ。目的は同様で、米から危険視されている企業は、余計、気をつける必要があり、形式犯でやられる。また、孟氏も迂闊だったのだろうか。日本企業が標的にされるリスクもある。
こうした米の警戒感は、5G本格化離陸を前に、中国2025に象徴されるChina Challengeが、刺激になっている(習近平も「中国製造2025」とか言わずに、静かにやっていればと思うが)。
当然、中国も、こうした米の政策について、かつての日本の衰退も含め、研究はしており、より、強かだろう。やはり、かえって、内製しかない、自国経済で閉じるしかない等と思って、中期で内製力を高めるだろう。
これは、法とサイバーと金融を武器にした、新たな冷戦の始まりかもしれない。世界が二極化するかもしれない。
なお、10月4日、米国のシンクタンク、ハドソン研究所にてペンス副大統領が50分にわたり対中国政策についての演説を行っているが、これは、いわば、太平洋戦争のハルノートに相当、逮捕日が、12月7日(米時間、日本は12月8日の少し前というのは微妙だ。https://www.newshonyaku.com/usa/20181009
また、この数年、米政府は、「The China Challenge」を警戒している。https://www.nitrd.gov/pcast/index.aspx