2019年とポスト平成時代を読む

 

平成は、「平らかな成長(Flat Growth))時代だった

 

平成時代は、まさに、日本経済にとっても、日本のエレクトロニクス業界にとっても、「Flat Growth」の時代であった。エレクトロニクス業界は、ゼロ成長どころか、右肩下がりだった。

 

総合電機5社は、日立は1兆円損失の後、回復、東芝は資産切り売りで、NECや富士通も、事業売却で何とか、命脈を保っているが、成長には遠い。家電では、三洋が消え、シャープは鴻海傘下で再生。財務危機のパイオニアはついにファンド傘下。パナソニックは、松下通信や九州松下、松下電工を統合したが、最高益は更新できなかった。CMOSセンサで最高益更新のソニーも10年近い苦境だった。

 

半導体では、日立、NEC、三菱電機から出たDRAMのエルピーダが破綻、他も成長を享受できていない。平成の始まりに世界ベスト10中、上位を占め、世界シェア50%近かったが、10%以下だ。日立、東芝、パナソニック、ソニー、エプソンを連合した、液晶のジャパンディスプレイも経営危機が続く。

 

平成時代の大手電機の営業利益推移はフラットに近い)。キヤノンなど精密機器は変わって、90年代半ばから躍進したが、リーマンショック後は停滞。広い意味でのエレクトロニクス業界では、健闘しているのは、村田や京セラ等の電子部品と、東京エレクトロン等の半導体製造装置くらいだ。2000年以降の精密や電子部品、半導体製造装置も含めた主要19社の営業利益合計もほぼフラットだ。

 

出所:筆者

 

出所:筆者

 

2018年を振り返る

 

このゼロ成長の平成の終わりに、カリスマ経営者ゴーン氏や、ファーウェイCFOが、それぞれ理由や次元は異なるが、逮捕された。今後の業界再編やガバナンス、国際経済への影響は大きい。

 

また、INCJの後を継ぐ、JICでは、株主である経産省と報酬を巡り、民間出身の役員全員が対立、辞任した。これも、政府ファンドのあり方も含め、今後の影響が大きいだろう。

 

ここでは、詳細や真因には触れないが、底流では、関連していると見る。昭和から平成もそうだったが、時代の変わり目に、日本も世界もきな臭い動きになってきた。

 

 昨年の特集では、「2018年の電機業界はここ数年の業界再編やM&Aは一段落し、OLED5GADASAI、電池等の新技術も出揃い、体制を整えて次の飛躍に向かうが、デバイス市況は転換、業績は踊り場となるだろう」と昨年書いたが、大きな方向性は、そうだったろう。

 

実際、2018年は、景況感や業績では、夏場から、米中摩擦や、スマホ成長一巡からのデバイス市況変化、設備投資減速、そして、業績踊り場となった。

 

また、リストラや新たな時代に向けての再編や連携、好業績企業のトップ交替、GAFA警戒感の中でのプラットフォーマーへの規制が注目される。

 

そして、日本のエレクトロニクス業界を育成してきたオーナー社長の逝去も忘れられない。

 

デバイス市況に転機〜メモリはシリコンサイクルの底

 

 2018年は、「スーパーサイクル」と言われた半導体業界はじめ、好調だったデバイス市況には、予想通り、転換点となった。NANDは春先から、弱かったが、夏場にかけ、暴落、DRAMも、スポットが下落に転じた。価格弾性効果に敏感な需要構造で、1年以上高値が続いていた中で、スマホが弱いことに加え、データセンターも金利上昇で投資一巡が効いた。ウェハーのタイト感も消えつつある。他のデバイスでは、SAWに加え、スマホ向けはMLCCも一服。FPDは大型TV向けLCD、中小型はスマホ市場鈍化で、OLEDLCD共に市況は軟化が続く、している。

 

 半導体設備投資も、需給変化を受け、夏からサムスン等で延期、ビットコイン急落で、TSMCなどファウンドリの投資もブレーキ、2Q決算では、東京エレクトロン等装置メーカーの業績下方修正が相次いだ。スマホ不振に加え、米中摩擦もあり、中国の工場投資も軟化、ファナックやオムロン等のロボット関連メーカーも下方修正。クルマ系向けは、EV化やADAS関連は堅調だが、それ以外は、米中で弱含み。

 

 

 シリコンサイクルは、民需IT市場では、PC向けの3-4年から、スマホ向けの1-2年に短期化、1年単位では打ち消され、加えて、より長期サイクルの産業向けである、クルマや産機、データセンター向けが大きく離陸した。この産業向けが、そろそろ、サイクルの終わりが近く、これが10年単位の金融危機と連動すれば、大きなサイクルの落ち込みとなり、警戒が必要だ。メモリは少なくとも、2019年前半は厳しいだろうし、これまで堅調だった受動部品も転換点だろう。

 

東芝問題にメド、シャープも含め、これからが正念場

 

2015年以降、不正会計から、WH減損など財務危機に瀕した東芝は、何とか上場廃止を免れ、独禁法その他で課題のあったメモリ部門もカーブアウトできた。売る必要はないとの意見も多かったが、経営重心が異なるため、本体にとっても、メモリ側にとっても、当然だ。

 

不正会計や、財務危機が無くても、そういう方向性であった。ちょうど、売却してから(まだ持ち分は40%あるが)、NAND市況悪化は運命的だ。今回11月に発表されたNEXTプランは株主還元やコーポレートガバナンスは評価するが、業績数値は厳しく、これからが、本体も来年IPOというメモリ社も正念場だろう。

 

シャープも、予想通り、鴻海傘下で見事に回復、OP1000億円近くはなったが、問題はこれからだ。頼みの鴻海も厳しく、コストカットでなく、成長であり、イノベーションだ。

 

前向きの上場廃止

 

再編では、これまでは、上場廃止というと、後ろ向きの場合が多かったが、成長に向けた経営重心的視点でのポートフォリオ見直し、前向きの上場廃止も目立った。

 

日立国際は、最高益更新の中で、半導体製造装置部門とインフラ部門を切り分け、前者はおそらく、装置会社と統合、後者も、連携を目指すだろう。 

 

日清紡HD傘下の日本無線と新日本無線も、上場廃止、多少、事情は異なるが、前者は、業績不振の中で、HDが目指すADASの成長を取り込み、後者は、HDが買収したリコー電子デバイスとのシナジー効果による成長を目指す。

 

アルプス電気によるアルパイン完全統合もついに実行だが、同様のトレンドだろう。

 

CASEトレンドで、キャリア化するクルマ産業、これからのクルマはスマホ端末

 

クルマでは、CASEが大きなトレンドだが、トヨタがソフトバンクと提携、先手を打った。また、トヨタ系のTIER1でも連携、ケーレツ再編に動いている。今後、クルマ産業は、キャリア化するだろう。これは、必然的にリカーリング型になる。企業が巨大化すれば、キャリア化は必然である。

 

出所:筆者

 

これは、NTTドコモなど、通信キャリアをイメージすれば分かり易い。徐々に、ユーザーは、通信端末同様、クルマ(モビリティ端末)を、キャリアの影響で、買換えさせ、あるいはレンタルするようになる。 

 

コネクテッド化や自動運転になれば、データや損害保険もより重要になる。そこでは、ハードの車種はどこであっても、どのキャリアに加入しているかが重要であり、ハードの魅力に加え、5Gを使ったアプリ、総合的な自動運転の使いやすさや安全性、電池などエネルギーの充電インフラ、データセンター等が整っているなどの使い勝手が鍵になる。そういう全体を理解し、クルマを提供するだけでなく、NWや電池補充等インフラを整備できるのは巨大なキャリアだ。

 

トヨタは、まさに、そうした技術力も、資金力も備えている。トヨタ自身のクルマも提供するが、連携先の国内クルマメーカーや、中国のEVメーカーのOEMもありえよう。ハードの品質の不安も、インフラ側で補完できる。場合によっては、トヨタ・キャリア会社の傘下に、クルマメーカーや、パナソニック等も入る場合もあるだろう。

 

こうしたキャリアには、グーグルやアマゾン、ソフトバンク、電力会社なども可能性はあろう。この場合は、クルマハードは、他から仕入れることになる。トヨタは既に、レンタル業もあり、既に、実態はキャリア的だろうが、その色を強めることになろう。その中で、ソフトバンクとの提携や、ケーレツの再編が注目されるが、ルノー、日産、三菱自のグループや、ホンダなどは焦っていることだろう。

 

今回は、最も巨大で成長市場のクルマだが、同様の業界超再編は、ヘルスケアや、工場に自動化やサプライチェーンなどでも加速化するだろう。

 

出所:筆者

 

トップ交替とカリスマオーナー達の旅立ち

 

2018年は、創業50周年、60周年、100周年などが多いこともあり、トップ交替が集中、業績好調な中で、三菱電機、ソニー、TDK、ローム、日本電産、新トップが誕生した。

 

今後、ゴーン問題も含め、指名委員会や報酬委員会は一層厳しくなろうが、彼らの目利き力が重要になるが、その際、社外役員の資質も含め、日本の人材の質と量が課題だろう。

 

 また、悲しいことだが、実際にお会いして、話を伺い、親交もあった多くのカリスマ経営者が逝った。戦後のエレクトロニクス業界だけでなく、高度成長を牽引した方々だ。

 

ロケットササキで有名な電卓のシャープの佐々木正さん、同様の電卓戦争を戦ったカシオに樫尾和雄前会長、ソフトバンクの孫さん等の先輩格でもあり、PC周辺業界でメルコ創業者の牧誠前会長、ノーベル賞に貢献した浜松ホトニクスの昼馬輝夫前会長、業種は異なるがハイテク産業に理解があったユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏、この他、オーナー系ではないが、三菱電機の北岡元社長にもお世話になった。これ以外にも、多くの戦後のエレクトロニクス業界を支えた方達が、去っていく。心より、ご冥福を祈りたい。

 

 こうした戦後を牽引し、最強時代のエレクトロニクス業界を知る成功体験のあるトップが去り、ゼロ成長ばかりの時代を生きてきたトップが、指名委員会で選ばれていく。

 

コーポレートガバナンスは、簡単にいえば、正しくカネを儲け、儲けたカネを正しく配分することだ。後者については、ガバナンス的には正しくなっていくだろうが、問題は前者だろう。

 

2019年を読む

 

 ポスト平成時代を読む前に、2019年について、記したい。これは、ある程度、現在の延長線上にあり、決まっているイベントもあるからだ。

 

まず、市況は、メモリはじめ、低迷、底打ちを模索するだろう。半導体設備投資も前半は期待できない。東京オリパラや、消費税前の駆け込みが、プラスだが、激しさを増し、長期化しそうな米中摩擦、欧州不安や、金利上昇で、金融は、新興国中心に不安定だ。企業では、原子力に関する日立の決断や、鴻海シャープ関係だろう。

 

このため、2019年度業績は減益、そして、2020年度は、オリパラ反動や、消費税上げ、そして、新政権で、金融政策が大きく変化があれな、昭和から平成への動き同様に、大きく調整しよう。まさに、アベノミクスバブル崩壊が起こる可能性がある。この中で、世界的にも空前のM&Aブームの反動で、ノレンの減損などが相次ぐ可能性もある。

 

ポスト平成時代を読む

 

 ポスト平成時代を読む前に、まず、平成時代を振り返る。そこで、参考になるのは、1991年に当時、経済企画庁による技術予測である。慎重すぎて、下に外したものもあれば、楽観的だったり、国策に忖度して大きく外したものもある。

 

 慎重過ぎたのは、移動通信や一部のデバイスだ。平成時代に、テクノロジー面で、大きく経済成長に貢献したのは、移動通信、ナビゲーション、電池、NAND、液晶だろう。ウィンテル関係のハードであるCPUとソフトではウィンドウズのOSだ。まさに、ウィンテルがプラットフォーマーであり、それを可能にしたルールが、ノイマン型コンピューターと、ムーアの法則だった。また、光ファイバーやインターネットの発展も大きかった。 この中で、業界構造や経営学的には、ハード、ソフトの分離、垂直統合から水平分業、それを支えたのは、ムーアの法則通りのデバイスの発達で、量産効果で価格弾性が効いた。ソフト分野では、標準化でスケール、外部ネットワーク効果が大きかった。

 

 大きく外したには、過去もそうだが、エネルギー関係で、原発、核融合、燃料電池など発電分野だ。機械分野は、クルマも飛行機もそれほど大きい飛躍はない。国家プロジェクトや国策があるものは、要注意だ。

 

 

ポスト平成時代は2050年まで

 

 新しい時代は、とりあえず、2050年まで考慮すれば、十分だろう。筆者は皇太子と同学年だが、2050年には、90近く、平成天皇の年齢に近くなる。

 

 予測をする際に、ある程度の計画が決まっていたり、ロードマップや技術開発目標がある場合も多い2025年までと、中期予想も多い2035年まで、そして、全く予想がつかない、いわばSFの世界の2050年までの三段階で示す。ただ、「大数の法則」にも似て、近未来は、ノイズも大きく、むしろ外れ、長期のSF的な予測の方が、トレンドが正しい場合も多い(報知新聞の19011月の20世紀の予測)

 

 中期の予測で、比較的当たるのは人口予測、それに基づく各国のGDPなどだ。これをベースに、中長期で、決まっている計画や、比較的蓋然性が高そうな予測を割振りし、現在のトレンドを延長して、整合性をとる。この際に、参考にするのが、過去の各種予想であり、その当否を分析して、今の予想の背景にある構造を分析していく。その上で、起こりうる構造変化を予想する。

 

 そうして作成したのが、この長期カレンダーだ。類似のものも多いが、重要なのは、分野が異なっていても、それらは、同じタイミングであれば、相互に関係し、影響しあうことを忘れてはならない。また、業界構造変化などは、オリジナルなものであり、この30年以上の予測分析ノウハウが背景にある。

 

 

2050年までの6つのトレンド

 

 この中で、重要な長期トレンドを上げたい。

 

第一は、少子高齢化だけは必ず来る。その中で、老人の生産性向上(ボケ防止も含め)を、ロボットやAIがどう貢献するかが鍵だ。幸い、記憶が抜群でコジカルなAIは、最適だ。これが、人生100年時代も含め、新市場になる。需要面だけでなく、労働という供給面でも、彼らの活躍は大きい。これに、大学、専門職大学院や専門職大学など、学校教育改革も関連してくる。ここで、日本が政府の規制改革も含め、新しいあり方を確立すれば、日本に次ぐ少子高齢化国家である中国市場も期待できよう。

 

 第二は、少子高齢化にも絡むが、ヘルスケアが成長市場であることは既に疑いがない。これに、多様な五感や、それを超えたセンサとデータにより価値を如何に提供するかだろう。この30年間は、エレクトロニクスは、1960年からの30年の半導体やコンピュータのイノベーションを活用はしたが、全く異なる、サイエンス的な意味においても、大きなイノベーションは少なかったかもしれない。しかし、バイオやヘルスケアの分野は、サイエンスレベルでの発展が大きかった。日本では、1970年代までは、理工系ブームで、最優秀層が、多かったが、その後は、医学部ブームであった。この貢献を期待したい。

 

 第三は、エレクトロニクスを牽引してきたノイマンアーキテクチャーとムーア則の限界である。その中で、バイオ系などとの融合が期待できよう。これは、シンギュラリティや熱限界にも関係する。

 

 第四は、既に起こっているが、業界を超えた融合である。今は、ADASIoTなどだが、ヘルスケアや、工場自動化、サプライチェーンにも広がろう。その中で、企業は、一層、業界の差が消え、また、ファンドとの差異もなくなろう。いわば、財閥化であり、ソフトバンクは、その典型だ。

 

 第五は、そこでは、当然ながら、イノベーションのあり方も、オープンイノベーションが進み、コーポレートラボは、M&Aやベンチャー投資の目利き力が最重要課題となろう。これは、今のアップル等では、当然だ。

 

そこでは、新めて。R&D費用の正確な認識と業界での統一、投資家との共有が不可欠だ。筆者は、20184月に、ROE、成長率g、R&D費、割引率rの関係について、恒等式命題を考案、提案した。

 

(1+R&D(1+割引率)=λ(1+成長率)(1+ROE)・・・若林のR&Dと割引率に関する恒等式案

 

ここで、左辺はイノベーションに対するリスクテイクの度合、右辺は、利益拡大の目標を示し、λは通常は1、リスクテイクと目指すイノベーションの成果のバランス、効率性により1前後で変わる。

 

この4つの変数の関係に戻ると、ROEと成長率は、利益の源泉であり、他方、R&Dや割引率は、イノベーションを起すための、必要なリソース配分やリスクの取り方に関係する。いわば、R&Dは、イノベーションのためのリスク費用、割引率は、その最低水準のリスクともいえよう。

 

第六は、こうした。業界構造の変化、イノベーションの認識の変化の中で、経営学や経営の常識も根本的に変わるだろう。過去のP/Lから、一層、B/SCF重視になろう。その中では、ROEでもいいし、アマゾンのように、CCC改善でもいいだろう。要は、何であれ、キャッシュを生みだせばいいし、それが先行投資や、ステークホルダー還元等に使えればよいのである。