経営重心分析のきっかけの一つは、事業ドメインに関する研究であり、アナリストとして、電機だけでなく、多くの企業の多角化戦略や事業ポートフォリオを考察する中で、どのように、本業や新規事業はじめ、各事業をマッピングするかであった。アンゾフの書籍の多くの事例や、企業の樹形図などに見られる事業発展のケースを眺め、自分なりにも、マッピングし、それによって多角化戦略が上手く説明できた時は嬉しいものであった。
多角化マトリックス
アンゾフの多角化マトリックスは、製品(技術)、と市場を、既存と新規に分けて、2×2のマトリックスで示すというシンプルなものだが、なお、経営戦略のバイブルであり、MOTペーパーなども、これをベースにしたものが多い。既存と新規だけでは、単純すぎるので、その間に、やや新規、といったものを入れた改良版も多い。
新規の定義と程度
しかし、製品であれ、市場であれ、どこまでを既存とするか、どこからが新規とするかが、その定義と程度が難しい。そもそも、多くの製品で改良版があり、たとえば、iPhoneでXを既存とした場合、XRやMAXなどは新規なのか、「11」はどうなのか、ならば、iPadはどうなのか、など難しい面も多い。露光機でも、i線、g線、液浸の他、EUVも同じかどうか、半導体向けから液晶向けは新規なのかどうかなど、区切りが難しい。
事業の構成要素
アンゾフは、事業を、製品(技術)と市場の二つに単純化した。すなわち、
事業=事業(製品、市場)あるいは、事業(技術、市場)
この単純化が、広く普及した理由でもあろうが、実際には、事業は多くの構成要素からなる。
事業=事業(製品、技術、営業、工場、・・・取引先)
というように、多くの関係者や関係組織と、その保有する経営要素から成り立ち、その結果が、事業の業績、売上や利益等となる。また、これらの要素を軸にすると、それが事業ドメインの切り口にもなる。
どの要素が最も本質的か
事業であれ、その構成要素となる製品であれ、その中で、どれが最も本質的で、独立的か、という視点で、多くの要素を、見極めなければならない。これは、事業ドメインの切り口にもなる。本来は、これらの要素を、全微分、あるいは、多変量解析をしなければならないのだろう。しかし、それぞれの要素が、定量的なものも、定性的なものもあり、難しい。
ちなみに、経営重心は、こうした多くの要素から、サイクルとボリューム(桁数)を取り上げたが、この2つの要素=2つの切り口=2軸が、製品の特質や事業の特性業績結果において、過去のケースについて、最も本質的に、かつ綺麗に説明できたのである。もちろん、考えられるN個の要素から、いくつの軸を選ぶのが最適なのか(2軸がマップ図示的には、見やすいが、3軸、4軸、あるいは、SI単位系のように、6-7かもしれない)、また、この2軸が、本当にベストな2軸かは、演繹的には証明はしていない。しかし、多くのケースから、帰納的には、この2軸あるいは、この2軸を、一般化・抽象化(サイクル流動性、数量の流動性)することで、説明できる。
経営重心に至る試行錯誤〜技術マップ分類から
この経営重心のサイクルとボリュームに至るまでには、多くの試行錯誤があり、ここでは、それについて少し説明したい。
まず、最初は、技術マップであり、多くの研究所で、行われている。もともと、NRI技術調査部時代に、プロジェクトを立ち上げ、研究を行っていた。
次に考えたのが、技術と技術の類似度であり。これには、特許の分類があるが、この分類は階層化されていないことが不満であった。それゆえ、距離が遠くに見えても近い場合がある。
機械統計から分かるか
そこで、技術マップと業界マップの関係性も分析したくなる。業界マップに関しては、機械統計も産業連関分析もある。そこで、機械統計の分類で、業界や事業の距離を算出できると考えるのは当然であり、過去には、1970年代頃に、多角化に関連して、こうしたアプローチは盛んであった。
これが、大分類の中での多角化ならいいが、例えば、エレクトロニクスでも、電子計算機での中央処理から、通信機の交換機と、電子応用装置に行く場合、どっちが遠いかは、判断しにくい。さらに、制御用コンピュータは、エレクトロニクス外の重電機の中に分類されている(日立が、大みか工場で事業を営んでいた関係だろうか)。これでは、カウントでは、遠い多角化になる。また、機械や電線ケーブル等といった場合には、大分類での遠近は、定量化できなくなる。
さらに、80年代以降は、ハイテクの影響で、多くの新製品や新産業が生まれた上、産業構造が階層化され、パソコンやワープロが登場、機械統計分類では、対処ができなくなった。さらに、垂直統合から水平分業へ変化する中で、垂直統合を前提とした統計では難しくなってきたのである。
隣地は隣地か