経営重心の中で、物理の固有振動数のメタファーである固有周期は、私自身が、異なる組織を経験する中で、またアナリストとして、シリコンサイクルやクリスタルサイクルを分析する中で、生まれたものである。また、経営スピードとは何かを考える中で、その答えの一つにもなっている。
自身のキャリアでいえば、上京するまでは、のんびり1時間感覚の田舎ローカル線がクロックのベースで30分程度の遅れは誤差範囲だったが、都会では山手線など数分感覚に驚いたが、次第に馴染んできた。その後、就職してからは、じっくり野村総研、アタフタ野村証券、ゆとりの欧州外資、セコセコ米系外資、ノンビリみずほ証券、分秒刻みもあり、複数の周期が混在するヘッジファンド、そして、後述するように、複雑な大学と、本当に、業種や国籍、多種多様だ。
実際、「至急!」という意味も、組織で異なり、定量化されておらず、トレードなら数秒、外科手術は数分、カップヌードルは3分、しかし、組織次第では、1時間、あるいは1日から数日もさえあった。
経営スピードに関しては、シリコンサイクル分析がいい経験で、実際の市況を如何に速く認識して対応するかで、収益が決まり(サイクルと対応の重積分)、半周期遅れれば、利益はゼロどころか赤字、1/4周期でも半減以下となる。シリコンサイクルは2-3年であり、かつDRAM等は、リードタイムが2ヶ月程度あるから、半年の認識遅れが致命的になるのだが、日本企業は、じっくり精査かつ右倣えだから、平気で3か月程度は様子見をするのである。これが、日本の半導体メーカーの敗因の一つではあろう。
こうした企業の判断に要する時間は、景気サイクルが長かったり、重電のように、事業の周期が10年とか20年など、長ければ、半年でさえ誤差の範囲であり、むしろじっくり精査することが重要だが、サイクルが3年以下であれば、即決が重要になり、もし間違ったら、朝令暮改となる。
これを企業の固有周期とすれば、対象とする事業の周期や、景気循環の種類、顧客、社内組織、特にパワーバランスで異なる。
そこで、企業の経営スピードをよく考えてみると、下記のように、①レスポンスの速さ、②ビジネスモデルとしての速さ、③固有周期、という3つの概念があだろう。
① レスポンスの速さ(=知覚の速さ+決断の速さ+アクションの速さ)である。これは、感覚には合うが、局所的把握となりまた客観的数値化しにくい。過去には、自身の分析で、シリコンサイクル追従性、設備投資の山とシリコンサイクルの山の時間差を調べ、短い順に、東芝、NEC、日立、富士通、三菱(ITバブル時東芝と三菱電で6カ月差)となり、この順に半導体累積利益の順となった。
② ビジネスモデルとしての速さ、要するに、在庫回転、リードタイム、SCの短さ、資金回収であり、財務分析で利用されているが、実、同一企業の変化や同一業種は比較できるが、異業種は難しく、例えば、2010年頃だが、総資産回転率は、日立>村田だった。また、アップルは、CF回転率は高いが、これはGAFAとしてのビジネスモデルである。
③ 事業によって固有な周期(サイクル)であり、事業サイクルに応じて決まるものであり、これが企業固有周期と定義したものだ。実際には、企業固有周期は、個々の事業での固有のサイクル=事業固有周期(固有周期)を、売上げ加重平均したものである。また、社長にも交替サイクル(日立8年、東芝4年)があり、企業固有周期に近い。当然ながら、組織でも、事業部長は顧客や事業周期に影響され、決算対応のCFOは1年周期、CEOは任期の6-7年、CTOなら、R&Dゆえ、10-20年と長めであろう。また、事業のサイクルも、周期分布を見ると、1つの周期だけにピークを持つという単純なものではなく、景気や顧客特性など、多様な要因により、分布の幅があるだろう。R&Dも、テーマ等により、期間の分布は裾野が長いだろう。会社全体では、こうした機能毎の周期の人数や予算の加重平均にもなっていよう。
さて、これまでは、こうした固有周期が基本は一定だという前提だったが、大学では、大きく周期が変わる場合があることも経験している。ある時期は非常にゆっくりだが、ある時期急に、ドタバタと急を要し、忙しくなることがある。勤務も朝型、夜型、コロコロ変わり、リズムが取りにくい。その要因が何であるかはまだ分からない。