オンライン工場見学とAI・DX研修の罠

ハイテクを使った工場見学や社内教育が注目されている。大学でもそうだが、オンライン教育は、知識の習得などには有効であり、どんどんハイテク利用で、教育の質向上は不可欠だろう。

 総合商社では、文系社員向けにAIDXを行うようだ。プログラミングの経験がなくても、AIを学べ、体感できるようだ。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65089790W0A011C2TJ1000/

 ここでの注意点は、二つあるだろう。第一に、プログラミングあるいは計算を伴うような分野は、本を読み、話を聞くだけではダメで、自ら手を動かし、実習することだろう。プログラミングをし、問題を解く中で、理解が進む。習うより慣れよ、だろう。理系で、演習や実験、製図などが、多いことや、運動や芸術も同様だし、論語の素読などもそうだろう。

第二は、AIDXの本質は、人間や経営であり、ITだけでない。DXで経営改革をするためには、経営の全体像を俯瞰し、サプライチェーンやバリューチェーン、財務の仕組み、組織論が不可欠である。AIでも、心理学や脳科学が必要だろう。最近、IT系の社会人がMOTに来るのはこうした背景もあるようだ。

研修というと、どうしても、教室で座学をイメージするが、特に、AIDXでは、知識だけでは、すぐ忘れてしまうし、実習、演習、しかも、経営全般について体得しないといけない。

オンライン工場見学の取り組みも出てきた。キューピーやキリンが、VRを活用し、食品の製造工程を見学できるそうだ。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66236420U0A111C2MM0000/

子供が、モノづくりに興味を持つことは素晴らしい。しかし、あくまで、全体の一部を非同期かつ片方向で見るだけであり、「工場見学」と言われると違和感がある。

工場見学の重要な点は、綺麗なラインを見るのではなく、むしろ、全体を俯瞰して、汚いところや問題点まで含めた現実を見せることでないか。見学用のラインの片隅に、積まれた在庫や、不良の張り紙、壊れた機械、そんな面も見て、脇道にそれた質問もして、工場という存在を全身で理解するべきだと思う。

昨年末に東芝加賀工場を見学したが、実際のクリーンルームに入るのではなく、ラインの一部をVR見学しただけだった。いやVR見学というより、VRによるラインのCG見学であった。それでも建屋や後工程のラインを目視で身、匂いを嗅いだのは大きい経験だった。

大学でも、コロナ収束でVRによる実習や実験が導入されており、それは予備学習としてはいいが、実際の現場で、薬液がこぼれたり、爆発したり、あるいは、血が出たり、という現場のカオスの状況で場慣れしたり、うまく対処する経験にはならないだろう。

 

DX学習やVR工場見学でも、いきなり、そちらに行くのではなく、デジタルツインのように、まず、ありのままをデジタル化して、その上で、取捨選択して、教育効果を考えるべきだろう。