東芝が3月24日に開催する臨時株主総会を前に、グループ2分割案に対する投資ファンドの反対表明が広がっているようだ。日経報道によると、筆頭株主のエフィッシモ(10%保有)、3Dインベストメント(7%)、ファラロン(5%)など、アクテビティトが反対を表明した。これは、残念ではあるが、想定範囲だ。
やや驚いたのは、議決権行使助言会社であるISSの分割案に、非公開化が検討されなくなることを理由に、反対を推奨したことだ。そして、最も驚き違和感があるのが、社外取締役・指名委員会委員長にして、分割案を策定した戦略委員会のメンバーでもあったレイモンド・ゼイジ氏の、分割案に対する反対かつ非公開化検討の株主提案に賛成表明である。氏は説明会でも、会社側の分割案の中で島田新社長を選出していた。氏はアクテビティトの招きで社外取締役になったとは言え、社外取締役の資格があるのだろうか。最低でも、島田氏を選出後、辞任などするのが筋でないか。
情勢から判断すると、アクテビティトは、非公開化により、「マグロの解体ショー」をし、関係者らと一儲けしたいからであろう。世界でM&Aが進む中で、これほどの美味しく大規模なディールは数少なく、生き残りに必死なのはわかる。
以前から主張しているように、非公開化に反対なのは、そもそも、これまでデメリットが多い非上場化を阻止しようと、支えたステークホルダの努力が何であったのか、ということだ。これは、最初に車谷氏から案が出た場合の永山氏の意見と同様である。
第一に、「マグロの解体ショー」によって、東芝の将来の潜在価値が棄損するからだ。平成時代のような、エネルギー、インフラ、流通、といった、縦分割による選択と集中のポートフォリオ改革では、これから必要な横串・データ連携が可能なプラットフォーマ戦略が困難になり、時代の新しい流れに逆行する。
また、ばら売り先は、国家安全保障の上で問題がある場合もあるだろう。もちろん、経産省などは、新外為法でストップをかけるだろうが、相手もさるもの直接的に中国などということはなく、まず、ファンドや第三者を経由するだろう。
逆に、一部、報道もあり、以前、一時検討もされていたように、原子力は、外出し、日立や三菱重工、東電も含め、国策会社とするのは、あり得る。カーボンニュートラルやロシアウクライナ情勢から、原子力は、民間企業がカバーする範囲ではない。経営重心論からも、なお、原子力はジャパンストライクゾーンから外れ、インフラCoの領域であるジャパンストライクゾーンの左下のあたりとも遠いのである。
第二は、非公開化によって、かならずしもガバナンスが強化されるわけではなく、むしろ、アクテビティトファンドが中心になれば、コミュニケーションコストが増大、一般社会への透明性や開示も後退する可能性がある。特に懸念するのは、時間軸、経営重心での固有周期が全く異なるなどの価値観の差である。インフラや先端技術は、5年やそこらでは芽がでず、10年以上の長期視点で育成し、戦略を練る必要があるが、金融系は5年でも長期である。非製造業非ハイテク系は、リストラ等により2-3年で成果が出る場合もあるが、それは難しい。その結果、ファンドは長期のR&D戦略を理解せず、ばら売りに走る。かつての東芝セラミックスがコバレントマテリアルになった時も、まさにそこが問題であった。
第三は、最も重要だが、従業員のモラルである。日本においては、上場企業であることの価値が大きい。これまでは、非上場化=経営破綻も多く、そうした誤解がある。家のローンを抱えたりする場合に、不利になる場合もある。そして、東芝の技術者などなら、今、引く手あまたであり、ヘッドハンティングが相次ぎ、草刈り場になるだろう。その場合は、大きな価値棄損である。残っても、時間軸の短いファンドや、そういう役員体制では、心理的安全性もなく、R&D推進にマイナスであろう。
非上場化への反対は以上であるが、逆に、上記の懸念が無くなれば、絶対上場維持ありきではない。もし非上場化を想定するのであれば、下記の条件がANDで必要だろう。
第一に、ばら売りはせず、横串によるデータ連携のビジネスの潜在性を理解する。
第二に、2年後の再上場戦略を約束し、従業員に十分な説明をする。
第三に、経産省などエネルギーやITなど政府の責任ある関与とサポートである。あるいは、アクテビティトファンドのガバナンス明確化や、社外取締役の責任の厳格化であろう。今は、時代も変わり、金融資本主義の限界、水平分業は時代遅れであり、かつ平時ではないことを明確化すべきだ。
このままでは、昨今のマレリの破綻(旧カルソニックカンセイがKKR参加)のようになることを恐れる。なお、以上に関しては、24日の翌日のBS-TV、日経モーニングプラスFTで朝7時過ぎから、ゲストで登場して、コメントする予定である。