アンケートか脳の直接観察~憎悪の科学

これまで、社会科学を中心に、人間の行動に関し、アンケートという手法を使って、色々な事実を分析、解明してきた。この前提は、①アンケートに答える方と答えなない方に差異がない、②アンケート回答者が本人である、③アンケートの聞き方が適切であり、「正直」に答えている、④アンケートの回答数nが一定以上で、適切な統計分析が成されている、⑤その他、色々なバイアスを補正できる等であろう。

このうち、特に、①は問題であり、声なき声をどう聞き出すかは重要であるし、②は社長アンケート等の場合、大半がウソであり、社長室や企画室の若者が適当に答えたりしている(経験もある)。長年、上記の③~⑤は工夫され、改善されているが、①や②が解決されない以上、限界があるだろう。さらに、人間の行動は合理的でなく、単純な因果関係で決まらず、複雑系であり、その時の気分や体調もある。これは自然科学でも複雑系はそうであり、再現性が高くない現象も多い。それゆえ、nを多く取るには難しいし、信頼関係と適切な聞き方を前提だが、適切なインタビューや議論を、1-2時間、何度も繰り返し行う方が真実を解明するには適切ではないかと思っている。

 

さて、他方、f-MRIなど、脳の活動を可視化する科学と脳科学の進展で、アンケートでなく、いわば、脳を直接観察して、心理状態が分かるようになってきた。ヘイトクライムの世界的権威であるマシュー・ウィリアムズ(白人男性でゲイだという)による「憎悪の科学: 偏見が暴力に変わるとき」(2023年河出書房)は、世界を揺るがすヘイトクライム(憎悪犯罪)はなぜ起きるのかについて、神経科学やデータサイエンスなどを駆使、先史時代からAI時代にいたるまでの「憎悪」の構造を解明している。著者の脳のカラー画像もあり、興味深い。憎悪の科学: 偏見が暴力に変わるとき | マシュー・ウィリアムズ, 中里 京子 | | 通販 | Amazon